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2022.12.14

人気洋菓子カフェが老舗飲食店チームとつくる、街の新名物スイーツ。 【つなぎふと TEAM A】日本橋三四四会×Hiromi&Co. 開発プロセスリポート

人気洋菓子カフェが老舗飲食店チームとつくる、街の新名物スイーツ。 【つなぎふと TEAM A】日本橋三四四会×Hiromi&Co. 開発プロセスリポート

日本橋内外の事業者たちのコラボレーションによって、日本橋の新しい食みやげを開発するプロジェクト「つなぎふと」。今年も3組のチームによる商品開発がスタートしており、Bridgineはその制作プロセスをさまざまな形で発信していきます。今回ご紹介するのは「日本橋三四四会」と「Hiromi&Co.」がタッグを組むTEAM A。このプロジェクトにかける思いや、アイデアが形になっていく過程をお伝えします。

三四四会のラブコールから生まれたチーム

このチームが誕生したのは、日本橋料理飲食業組合の青年部「三四四会」と、その代表である寳井英晴さんの参加立候補がきっかけでした。もともと「日本橋を代表するおみやげを作りたい」という考えがあったという寳井さんは、昨年のつなぎふとプロジェクトの様子を見て「これだ!」と思ったそう。街がコラボレーションによって新たな名物を作っていくことの重要性を感じ、キックオフイベント(※)でもその思いを語られたうえで、今回プレイヤーとして参加することになりました。

※キックオフイベントの様子はこちら 「つなぎふと」2ndステージ始動。新たな仲間と出会うキックオフイベントリポート

そしてそのコラボ相手として三四四会からリクエストがあったのは、「三四四会を今までにない視点で表現してくれる新しいプレイヤー」ということでした。50店舗あまりが所属する三四四会には老舗も多く、日本橋の豊かな食文化を象徴するような存在。そこに新しい風を吹き込み、これからの三四四会と日本橋を体現していくようなおみやげを作れたらーーー。そんな思いを受け、コラボ相手としてご縁が繋がったのが「Hiromi&Co.」だったのです。

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洗練された明るいHiromi&Co.のお店は、日本橋イーストエリアの新たな人気スポット(公式Instagramより)

「チャネルが違うからこそ、街の未来に貢献できる」

「Hiromi&Co.」は、2021年に日本橋大伝馬町にオープンしたスイーツカフェ。ケーキ、シュークリーム、焼き菓子を中心に、季節の素材を取り入れた手作りのスイーツが並びます。同店の営業日は毎週木曜日から土曜日の3日間のみ。残りの日はパティシエの小山弘美さんが一人で工房に立ち、一つ一つ丁寧にお菓子を作っています。パートナーでありお店のロゴやパッケージも手がける浅井俊介さんと二人三脚で営んでおり、どことなく日本橋の家族経営の老舗店を思わせる温かい雰囲気が漂うお店です。

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パリで料理と菓子作りの修行を重ね、帰国後にお店を開店した小山弘美さん。本格的でクオリティの高いスイーツは「手作りの美味しさを伝えたいから」と全て店内工房での製造にこだわる。

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お店の内装も監修したというデザイナーの浅井俊介さん(写真奥)

つなぎふとについて事務局から打診すると、「日本橋の街に関わる取り組みをしてみたかった。」とすぐに参加を表明。オープンから1年ほどにも関わらず、すでに街の住人の方々や三四四会のメンバーと面識があったり、昨年のつなぎふとの売り場にも足を運んでいたりと、今回のコラボにぴったりなプレイヤーであることがわかりました。

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日本橋で続くお祭り「べったら市」に合わせて、人気のシュークリームをお祭りバージョンで限定販売。「積極的に街に入っていきたい」と浅井さん(公式Instagramより)

そして迎えた10月25日の両者の初顔合わせ。三四四会からは会長であり寿司店「蛇の市」の寳井さん、副会長で鰻店「高嶋家」の鴛尾明さん・和佳子さんご夫妻、Hiromi&Co.の浅井さん、小山さんが集まりました。すぐに意気投合し、さまざまな話題が飛び交う中で、それぞれの商いに向き合う姿勢が垣間見える場面も。

小山「実家が旅館だったんですが、親はその大変さを知っているから私にはホワイトカラーの仕事をさせたかったみたいで、料理の道に進むことは反対されていました。でも私にはどうしても白衣の背中がカッコよく見えてしまい・・・諦めきれなくて。こっそり料理学校に通ったあと(笑)、渡仏してさまざまなジャンルの料理を学び、お菓子の方向に進みました。食べること=生きることだと思うので、少しでも良いものを作ることで、人々の毎日に貢献できたら良いですね。手作りにこだわって、人のあたたかさを感じるようなもの作りをしたいです。」

寳井「僕らも何代にもわたって人の温もりで繋いできた店。“老舗はずっと同じことをやってきている”と勘違いされやすいんですが、実は真逆で。100年なら100年、その時のベストを選んで変え続け、チャレンジを繰り返しているお店が老舗になるんです。蛇の市もしかりで、塩も酢も変えてきたし、私の代でシャリを変えました。三四四会の仲間は皆そういう努力をしていますよ。」

鴛尾「歴史がある分、自分のカラーを出していきたいという思いもありますね。僕も自分の代でタレ以外全部を変えました。お店のロゴも新しく作りましたし。新しいものは積極的に取り入れつつ、守るものは守るという姿勢が、三四四会に共通することかもしれません。」

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初回の顔合わせの様子。Hiromi&Co.は鴛尾和佳子さん(写真手前)もイチ推しのお店だった

さらには、今回のつなぎふとに関しては両者共通した可能性を感じていました。

浅井「老舗の皆さんと組むことで、街の発展に貢献できることはとても嬉しいです。Hiromi&Co.のお客さんと三四四会のお客さんはかなり違うと思いますが、その異なるチャネルが組み合わさってこそ、可能性が大きく広がると思うんです。たとえばHiromi&Co.の若いお客さんが老舗の暖簾をくぐるのは緊張するかもしれないけど、つなぎふとのような商品がきっかけになれば老舗がぐっと身近になるでしょうし。日本橋ならではの新旧コラボに期待しています。」

寳井「まったく同感です。Hiromi&Co.さんが同じ思いでいることがわかって、ますます楽しみになりました。特に若い世代に向けて、これからの日本橋に注目してもらうきっかけにできたら良いですよね。そして街につなぎふとから生まれた名物がどんどん増えていって、100年後(!)まで繋いでいけたら最高です。」

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(左から)三四四会の寳井英晴さん、鴛尾明さん

“三四四会を表現する”ということの難しさ

早々に意気投合した両者ですが、このチームにはひとつ特殊な点がありました。それは、“団体と個店”のコラボであるということ。これはつなぎふとにおいても初めての事例で、個店同士のコラボに比べ、団体=三四四会の特徴をどのように商品に反映させていくのかが難しく、パティシエ・小山さんの頭を悩ませることになりました。
Hiromi&Co.の焼き菓子に三四四会の要素を組み込んだ商品にするという方向になったものの、その表現手法を決めるのは簡単ではありませんでした。

「コラボだから何かそれらしい素材を入れました、というだけの商品にはしたくないんです。入れる必然のあるものを入れて、三四四会とHiromi&Co.らしい意味やストーリーがあるものを作りたい。」
そう真剣に語る小山さんの職人としてのこだわりは、三四四会側にとっても“三四四会らしさって何だろう?”ということを改めて考えるきっかけになりました。

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(編集部撮影)

悩む小山さんにヒントを提供しようと、寳井さん・鴛尾さんは何度も話し合う場を設けました。三四四会についての情報提供をしたり、その特徴を言語化したり、さまざまなアプローチで議論する中で出てきたのは、
「三四四会=“人”が魅力。美味しさを提供するだけでなく、人間味溢れる店主たちがいてこその団体である」
ということ。三四四会のほかの代表メンバーも招いた会も開かれ、小山さんは実際に“人”に触れ、その理解を深めていきます。そして、三四四会の“人”の要素をしっかり伝え、街に点在するお店の横のつながりを表現するデザインやコミュニケーションを作っていくことに決まりました。

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個性豊かな店主たちが集まる三四四会(画像提供:三四四会)

また、おみやげの中身については、店頭に並んだ際のわかりやすさ・伝わりやすさも考慮し、三四四会の中でも代表的な料理ジャンルであるうなぎ、すき焼き、そばの3つの料理の要素を取り入れた商品にしていくことに。そのベースとなる洋菓子は“サブレ”。フランス仕込みのサブレに和の素材が組み合わせられる、というだけでも十分美味しそうですが、小山さんはさらにこう語りました。
「三四四会のお店さんには歴史があるでしょう?歴史があるということは、何度も種をまき、芽を出し、実っていく流れを繰り返してきたということ。そのストーリーを表現するためにも、それぞれのフレーバーにはアーモンド(木の実)のような“実り”に関係する素材も入れて、味に深みを出そうと思っています。」
細部までこだわる小山さんの言葉に、三四四会のメンバーも深く共感。
こうして、意味やストーリーがたっぷり込められた新しいサブレの開発が進んでいったのです。

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三四四会メンバーとの打ち合わせは、大盛り上がりで意見が飛び交う

素材の組み合わせを探る試食会

このチームの試食会では、まるで実験のようにさまざまな素材の検討がされてきました。
初回は「パルミエ」というフランスのパイ菓子にうなぎパウダーを入れたものでイメージを共有し、2回目はベースとなるサブレの薄さや素材を複数パターン食べ比べ。そして3回目では老舗すき焼き店・伊勢重の牛佃煮を粉末にしたものをサブレに乗せて食べる、という試みがなされました。口の中で甘辛い牛佃煮と香ばしいサブレが合わさる感覚に、三四四会のメンバーからは口々に「これは美味しい!」という声があがりました。
試作と試食はまだまだ続きそうです。

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(撮影:Adit)

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密なコミュニケーションにより、少しずつコラボの形が見えてきたTEAM Aの食みやげ。
次はデザインやネーミングの段階に入っていきますが、このチームにはHiromi&Co.にデザイナーの浅井さんがいることも心強いポイントです。つなぎふとプロジェクト全体のアートディレクションと浅井さんの感性が組み合わさった時、どんな化学反応が生まれるのでしょうか?

Bridgineではのおみやげ開発のプロセスを引き続き発信していきますので、つなぎふと初の“老舗団体×新店”タッグの今後の展開にご注目ください。

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構成・文:丑田美奈子(Konel) 撮影:岡村大輔

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