ジャズがステージから街へひらかれる日本橋。第5回目となるNIHONBASHI PUBLIC JAZZ 2025 -PARADE-をレポート
ジャズがステージから街へひらかれる日本橋。第5回目となるNIHONBASHI PUBLIC JAZZ 2025 -PARADE-をレポート

2023年11月に初開催されたNIHONBASHI PUBLIC JAZZ。「音楽が楽しめる街づくり」という主題を掲げ、誰もが気楽に立ち寄れるジャズ・イベントをこれまで4回実施してきました。第5回目となる今回は、10月31日(金)〜11月2日(日)の3日間、日本橋のカルチャー発信基地である『THE A.I.R. BUILDING』の梁 剛三 (りょう こうぞう) 氏を中心としたオーガナイズで国内外の凄腕プレイヤーたちが室町エリアに集結。今回のイベントのサブタイトル「PARADE」にふさわしい、賑やかなイベントとなりました。本記事ではイベント2日目(11月1日・土曜日)の様子をレポートします。
●Ryozo Band

7人編成のリッチなサウンドで心地よいグルーヴを響かせたRyozo Band
前日の荒天からうってかわって、すっきりと晴れた2日目。コレド室町一階・大屋根広場に設置されたJAZZ STAGEのトップバッターを飾ったのはRyozo Bandです。SANABAGUN.のメンバーとしても知られるベーシストの大林亮三率いる7人編成のジャズ/ファンク・バンドで、この日は久々にフルメンバーでパフォーマンスとのこと。2024年リリースのシングル「Pleasure」他、オリジナル曲を披露しました。
15時台ということで家族連れの観客も多く、ステージ向かって左手に作られたキッズエリアではリズムに合わせて楽しそうに踊るちびっ子や、赤ちゃんをゆらゆらとあやしながら楽しむ保護者の姿も。バンド自身も「こんな時間から日本橋のど真ん中でやらせてもらうのは、めちゃくちゃ気持ちいいです」と述べた通り、ゆったりと気持ちのいい時間が流れていました。
なお、Ryozo Bandは翌日出演したLEO from ALIのバックバンドとしても出演。パーカッションの津田悠佑はAfro Begueのメンバーとしても登場しました。
●FiJA

ミディアム〜スロウ・ナンバーで特に声の良さが光っていたFiJA
続いて登場したのはシンガーソングライター・FiJA(フィージャ)。ソウル/R&Bを下敷きに幅広いジャンルを歌いこなす実力派で、ジャズ・トランペッター黒田卓也のアルバムにも参加しており、今年発表した初のフル・アルバム「Fragile Thing」も黒田卓也が主宰するレーベル aTak Recordsからのリリースです。
バック・バンドのベーシストは彼女のアルバムのプロデュースを担当したYuki “Lin” Hayashi、キーボードは昨年の「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ 2024 SUMMER」にソロ名義で出演したエディ・ブラウンで、2人はLOUD AS FUNKのメンバーとしても活躍しています。そんな凄腕が脇を固めるステージは、品のあるジャジーなサウンドに彼女の爪弾くアコースティック・ギターと艶やかな歌声が乗り、甘くしっとりとJAZZ STAGEを包み込んでいました。
●Afro Begue

熱いアフロビートで観客を沸かせたAfro Begueのステージ
すっかり日も傾いた頃に登場したのはAfro Begue(アフロ・ベゲ)。セネガル出身の音楽家、オマール・ゲンデファル率いる4人組ネオ・アフリカン・ミクスチャーバンドです。
思わず身体が揺れるアッパーなアフロビートで、日本橋に西アフリカの風を呼び込んでくれました。 リーダーのオマール・ゲンデファルが叩き出す稲妻のようなジャンベ・サウンドは、JAZZ STAGE周辺の空気をビリビリと震わせるほどの鋭さ。かと思えば「超簡単です、セネガルの早口言葉です」とウォロフ語(セネガル等で話されている言語)でコールアンドレスポンスという観客への無茶振り交じりの茶目っ気も見せながら会場を巻き込んでいました。パーカッション、ドラム、ギター、キーボードというミニマルな編成ながら驚くほどエネルギッシュな演奏には、観客からも一際熱い歓声が飛んでいました。
●吾妻光良 & The Swinging Jivers

日本語詞の巧みさで大きな笑いを誘った吾妻光良 & The Swinging Jivers
続いて登場したのは吾妻光良 & The Swinging Jivers。総勢12名から成る吾妻光良&The Swinging Boppersから、ボーカル&ギター、ベース、キーボード、サックスの4人による別ユニットです。
日本の名ブルース・ギタリストとしてフジロック他数々の有名音楽フェスティバルに出演してきた吾妻光良とその仲間たちによる演奏は、肩の力が抜けたゆるい雰囲気が魅力。ドラムレスの編成ながら、ギターやベースが刻む歯切れの良いリズムに、会場には自然と手拍子が広がっていきます。「広い意味で古いリズム&ブルースをやっております」の言葉通り、古典とも言えるポップスやブルースの名曲を前半は英詞で、後半はユーモアたっぷりの日本語詞で時に時事ネタを取り入れつつも披露し、大屋根広場は笑いと喝采に包まれました。
●Tribe Sampler Collective by HYDEOUT PRODUCTIONS

Nujabesサウンドを現在に継承するTribe Sampler Collective
没後15年が経っても今なお国内外から高い評価と支持を集め続けるプロデューサー、Nujabes。そのNujabesが設立したHYDEOUT PRODUCTIONSから、彼の遺したレガシーを継ぐバンドとして登場したのがTribe Sampler Collectiveです。
ベーシストのシンサカイノを中心に結成された彼らのライヴは、10月のイベント出演に続きこの日が2回目。Nujabesも自身の楽曲で引用した「Feelin’ Blue」(Earth, Wind & Fire)をプレイした後に続いた「Nujabesが愛したジャズの曲を広げていこうということでこのバンドをやっています」というリーダーの言葉通り、彼の代名詞的な美しいローファイ・ヒップホップサウンドをライヴ・ジャズ・バンドならではのアレンジでたっぷりと聞かせてくれました。
途中、シンサカイノが「友達が日本に来ているので誘いました」と紹介してステージに上がったのは、トランペッターのエリック・ベニー・ブルーム! グラミー賞にもノミネート経験のある人気ファンク・バンドLETTUCEの来日公演のため滞在していたようで、嬉しい飛び入り参加の実現でした。「ジャジー・ヒップホップ」とも呼ばれたNujabesのサウンドスケープが、海外でも愛され続けているのを実感できた一幕でした。
●LOUD AS FUNK

LAからこの日の出番のために来日したLOUD AS FUNK
この日最後のステージに登場したのは、LAを拠点に活動する5人組多国籍バンドのLOUD AS FUNK。ファンク、ソウル、ジャズ、ロックといったジャンルを縦断しながら、アッパーなナンバーの数々でトリにふさわしい貫禄を見せつけてくれました。
バンドの先頭に立つのは女性シンガーのマイラ・ワシントン。序盤のマイクトラブルを跳ね除ける気迫で「Coolest Mutha Funka’s on the Planet」「Friyay」といったオリジナル曲を披露していきました。
「次はロックンロールの時間だよ」と宣言して始まったのは、ビートルズの名曲をマイケル・ジャクソンが再解釈したバージョンの「Come Together」のカバー。タイトな黒の衣装とシルバーのロングブーツをスタイリッシュに着こなす彼女がソウルフルなシャウトを繰り出せば、会場のボルテージも最高潮に。手練れのプレイヤーたちによるギラギラの演奏で、この日のJAZZ STAGEは幕を下ろしました。
●PUBLIC STAGE / PARADE
福徳の森に設置されたPUBLIC STAGEでは、3日間を通してDJタイムやアーティストによるミニライヴを開催。緑に囲まれた空間でお酒やコーヒーを片手に音楽を楽しむ空間が生まれました。

福徳の森にシタールの幻想的な音色を響かせたJarvis Earnshaw
2日目のPUBLIC STAGEにはシタール奏者のJarvis Earnshawが登場。その場でサンプリングした自らの歌声をループさせ、それにシタール演奏を重ねるという手法で幻想的なサウンドを作り出していました。
またこの日最後のDJタイムには日本を代表する音楽プロデューサー/作曲家のSHINICHI OSAWAが登場。これには偶然通りかかったクラブカルチャーに親しみのある人たちも、「大沢伸一? え、これ無料で聴いてっていいんですか!?」と驚き、次々にDJブース前に人が集まっていきます。自身の代表曲も織り交ぜた巧みなDJプレイで、ライトアップされた夜の福徳の森を熱く盛り上げていました。

Cocochi-kitがジャズの生演奏を披露しながら日本橋のメインストリートをパレード
今年初の試みとなったのはJAZZ STAGE間とPUBLIC STAGE間のパレードです。5人組アンサンブルのCocochi-kitが、土日の2日間、合計6回にわたってジャズやポップスのスタンダードを生演奏しながら日本橋のストリートをパレードしました。
吾妻光良 & The Swinging Jiversのステージ終了後に出発した回では、ニューオーリンズ・ジャズの大定番「聖者の行進」でパレードがスタート。ウキウキするようなメロディとビートに、沿道に居合わせた人たちからも大きな歓声と拍手が送られていました。

2023年のイベント開始から通算5回目となった今回のNIHONBASHI PUBLIC JAZZ 2025 -PARADE-。筆者も第1回から参加していますが、これまでは偶然通りかかったのでちょっと足を止めて観ていくという人も多かったのに対し、今回はイベントそのものを目当てに来場しじっくりと鑑賞していく人がかなり増えたのが印象的でした。もちろん毎年恒例、音楽だけではない飲食の楽しみも欠かせません。各会場ではお酒やドリンク、絶品グルメが提供されており、音響の良い音楽と、飲食を、歴史ある都市の中心で楽しめる環境は格別で、そんな上質な体験が長時間楽しめるスパイスとなっていることも感じられます。
こうした変化をアーティスト側も感じているのか、過去の開催と比べ「もっとお客さんに一緒に歌ってほしい」というアプローチを取るバンドも増えてきたように感じます。NIHONBASHI PUBLIC JAZZが、大屋根広場前のスペースでは手狭になるくらいの人気イベントに成長する日もそう遠くないかもしれません。
NIHONBASHI PUBLIC JAZZ公式Instagramでは今回の出演アーティストの楽曲をまとめたプレイリストも配信中。イベントの復習や気になったアーティストの試聴にぜひチェックしてみてください。
取材・文:中嶋友理 撮影:岡村大輔
