Interview
2024.09.02

持続可能な地域の形を見つけたい。NEWLOCALがつくる“地域のハッピーシナリオ”とは?

持続可能な地域の形を見つけたい。NEWLOCALがつくる“地域のハッピーシナリオ”とは?

日本の地域が抱える深刻な人口減少問題。そんな課題に、「新しい地元民」となって地域と二人三脚で挑もうとするスタートアップ企業があります。日本橋・小舟町にオフィスを構える株式会社NEWLOCALは、「地域からハッピーシナリオを共に」をミッションとして、長野や秋田、京都で地域の魅力向上や雇用の創出に取り組むプロジェクトを展開中。その中核を担うのは、様々なバックグラウンドを持つ個性的なメンバーたちです。五街道の起点である日本橋から、地域をどう盛り上げるのか? メンバー5人にお話をうかがいました。

それぞれの視点から描く、地域の未来

―まずはNEWLOCALとはどんなことをしている会社なのか、自己紹介をお願いします。

石田遼さん(以下石田):代表の石田遼です。NEWLOCALはまちづくりスタートアップとして、人口減少などの問題に直面する地域で、その地域の未来を担うパートナーと連携し、持続できる仕組みを作る取り組みをしています。具体的には空き家や遊休施設など「うまく使えていないところを使う」べく、リノベーションして飲食施設など運営したり、移住者向けの住宅なども手がけています。そのほかにもお土産の開発をしたり、今後は人材育成もやっていく予定です。

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2022年にNEWLOCALを創業した代表の石田さん

―取り組みの中で感じる、人口減少地域が抱えている一番の課題とはどんなことですか?

石田:“希望がないこと”かもしれません。この地域はいずれなくなるだろうとか、自分の世代よりも子供世代の方が大変な思いをするとか、そういう思いをみんな根底に持っている。そんな中に、少ないながらも「こうすればどうにかできるはずだ」という希望を思っている人がいる。僕らはそういう人たちと一緒に、人口が減っても幸せな未来は描ける、というのを実践しようとしています。NEWLOCALのミッションは「地域からハッピーシナリオを共に」ですが、その地域に合わせたハッピーシナリオをうまく作れたら、未来はだいぶ違うんじゃないかと。

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(画像:NEWLOCAL ウェブサイトより)

―メンバーの皆さんは、それぞれどんな経緯でこのお仕事に携わることになったのでしょうか?

石田:僕は東京生まれ東京育ちで、祖父母の家も東京近郊なので、昔から「帰る田舎」がないのがコンプレックスというか、寂しく感じていました。なので地域と関わることは自分にとっての“地元探し”という意味合いがあります。それと、前職はグローバルな仕事だったんですが、「日本人として自分にできることはなんだろう」と考えた時に、世界中が人口減少に向かっていく中で、その課題を早くから抱えている日本から豊かに暮らす方法を示すことには意味があると考えました。

久野遼さん(以下久野):僕がいわゆる地方創生に関心を持つようになったのは、大学の課題がきっかけでした。僕は石田と同じ東大の建築系の出身なんですけれど、在学中の課題で、新潟県の上越市という地域で、約1ヶ月現地に滞在し、地域の方と一緒に設計の提案をやりました。その時、単に建築をデザインをするのではなく、地域の方と一緒に公共物について提案する面白さに惹かれました。

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石田さんと共に創業1年目から奮闘してきた久野さん

松尾玲奈さん(以下松尾):私の場合は地方創生に興味があってNEWLOCALにジョインした訳ではないんです。幼い頃から長く海外に住んで、社会人になってからも6年ほどアメリカで仕事をしていたんですけど、日本という国の魅力が海外にちゃんと伝わっていないなという感覚がずっとありました。それに日本人ですらこの国の魅力的な場所や物を発掘できていないのだから、海外の人に気付いてもらうことはもっと難しい。なので、それを発掘して発信することを仕事にできたらすごくおもしろいなと思っていたところ石田に会い、NEWLOCALでならそれができるのではと思ってジョインしました。

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海外生活が長かったという松尾さん NEWLOCALでは野沢温泉村や男鹿市のプロジェクトを担当

原健太さん(以下原):僕は生まれてから38年間ずっと埼玉暮らしで、就職してからは東京へ通勤という生活を続けていたのですが、その生活をもうやめようと思い、昨年長野県佐久市に移住しました。自分が移住者になってみて感じたのは、東京と長野での時間の流れ方の違いです。長野で生活してみると、東京では感じられないものがたくさんあり、この生活を仕事に繋げられたらいいなと考えていたところに縁があり、NEWLOCALに入りました。

僕は今、主に野沢温泉村に関わっているんですが、近年では村に惹かれて移住してくる方が結構多いんです。そうした移住者=新しい地元民が、長くその土地に住んでいる人と交わると、やはり衝突することもあります。でもそんなカオスな状態からみんなが一つ一つ壁を乗り越えて街を作っていく時は、すごく幸せを感じますね。人間と人間がぶつかり合って感情を分かち合うことで生まれる絆の強さを、僕は長野に来て初めて実感した気がします。

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東京で働いていた時にはなかった体験が長野ではできていると語る原さん

野沢温泉ロッヂ

野沢温泉のロッヂ 多くの人と関わりながら地域に伴走する(画像提供:NEWLOCAL)

篠田善典さん(以下篠田):僕は高知出身で、大学から県外に出て就職しました。その後高知にUターンして起業し、7年前に高知でゲストハウスを立ち上げて、現在は高知と香川で4棟の宿泊施設を運営しています。なので原とは逆で、もともと自分自身が地域のプレイヤーであり、まちづくりに関心がありました。NEWLOCALに参画したのは、宿泊施設の経営者として新型コロナの約3年間で停滞を感じていたと同時に、高知は将来的にこうなっていくんじゃないだろうかというヴィジョンが見えてきたことがきっかけでした。そこでNEWLOCALに参加し、地域のプレイヤーと地域外からのアイディアを組み合わせることによっていろいろな良いインパクトを起し、ゆくゆくはNEWLOCALで得たものを高知に還元できるんじゃないかと考えました。

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高知出身の篠田さんは地域からの視点で地方創生を考える

NEWLOCALが地域と歩むために大切にする3つのキーワード

―現在、地方創生を掲げるスタートアップ企業はたくさんありますが、NEWLOCALが特に力を入れていること、NEWLOCALならではの特色とはなんでしょう?

久野:NEWLOCALでは「共創・ファイナンスハック・横連携」の3つを大切にしています。まず1つ目の「共創」ですが、私たちがどこかの地域で事業を始める時、地域の中でもその地域の未来を背負うような覚悟でやってらっしゃる事業者さん・パートナーさんを見つけ、お互いリスクを負う形でともに事業を作るというのが一つ大きな特徴です。地方創生ってすごくハードルの高い課題で、地域内部だけの力だけではなかなか超えられない壁がありつつ、一方で地域の外からやってくるような事業者がやると地域に馴染めずなかなかうまくいかない、というケースが多い。それらを乗り越えるためにこの「共創」という考え方を大切にしています。

2つ目の「ファイナンスハック」は、NEWLOCALはシードラウンド段階のスタートアップ企業として昨年8,000万円の資金調達を達成しており、これはまちづくり関連の会社としては結構な額だと思います。かつ出資いただいている株主の方々にまちづくり業界をリードする著名な方が多く、こういうところも強みだと思っています。そうして調達できた資金をスピーディーに地域に投下していくことでブレークスルーを起こすべく、この言葉を掲げています。

そして3つ目の「横連携」については、同時に複数の地域で事業を行なうというのが特徴です。通常は特定の地域に特化して1拠点でやっているまちづくり会社が多いのですが、NEWLOCALでは同時に複数地域に携わることで、エリアを超えた協力が生まれています。僕自身、担当してきた野沢温泉村の事業で培ったノウハウや人間関係をベースに、新たに始まる丹後での事業を行なうことができていますし、会社としてもエリアを越えてノウハウを共有できるというメリットがあります。各エリアで出会った人たちのさまざまな強みをお借りできるのが、「横連携」の面白いところですね。

―現在NEWLOCALが携わっている4つの街は、どのような経緯で協業することになったのでしょうか?

石田:ほぼ全てが人との縁ですね。僕は月に2、3ヶ所ぐらい、地域の面白い人に会いに行って話を聞くのですが、そうすると年間30ヶ所くらいを訪れることになるので、そこからリサーチを始めます。野沢温泉は株主であり日本橋にオフィスがある自然電力株式会社の代表から「すごくいい場所だよ」と紹介してもらったのがきっかけでした。御代田も実は彼からのおすすめがあって実現しました。秋田県男鹿市は僕の妻から面白い経営者がいると紹介されて意気投合して現地に訪れてさらに惚れ込み……という経緯。丹後は、現地でクラフトビールを作っているローカルフラッグという会社と一緒にやっているんですが、これも紹介がきっかけでした。そんな感じで、紹介から現地の人と繋がって、実際に現地を見に行って意気投合して始まる、そんな感じで始まりました。

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(画像:NEWLOCAL ウェブサイトより)

―2024年8月には新たに「株式会社京都丹後企画」を設立し、京都・丹後エリアのまちづくりに取り組むことが発表されました。丹後エリアの抱えている課題や、それを解決するために着目している強みとはなんでしょうか?

篠田:京都というと多くの人は京都市街をイメージすると思うんですが、丹後エリアは日本海側にあって、京都市街よりは注目されていないと考えています。天橋立や伊根の舟屋あたりは有名ですけれども、魅力的なコンテンツは他にもたくさんあって、まだまだ眠っているものがあるんです。例えば地元の一大産業であった丹後ちりめんの生産地とその歴史地区であるちりめん街道や、京丹後市には日本海の絶景が広がるロケーションもあるんですが、そのビューを楽しむための施設があまりない。人を惹きつけるものはあるのに、もったいないなと思っていました。

なので既存のコンテンツはちゃんと取り上げながらも、自分たちが新しい不動産開発を手がけることによって、京丹後全体の知名度を上げていけたらいいと思います。それを、すでに地域の魅力発信に取り組んでいるローカルの人々と組むことで、より効果的に実現できるのではと考えています。まずは天橋立のある宮津で、お土産屋さんをリノベーションしたセレクトショップ兼飲食店が今年の秋オープン予定です。天橋立のロープウェイのたもとという好立地なので、ここを皮切りに盛り上げていけたらいいですね。

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ジオパークにも指定されている京丹後の海岸線 その美しい青は「丹後ブルー」とも呼ばれる(画像:NEWLOCAL ウェブサイトより)

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京都丹後でパートナーのローカルフラッグが運営する「TANGOYA BREWERY & PUBLIC HOUSE」の様子(画像提供:NEWLOCAL)

日本橋兜町のK5はまちづくりにおけるお手本的存在

―日本橋のNEWLOCALの関係についてもお伺いさせてください。小舟町にオフィスを構えることになった経緯は?

石田:Stapleの岡雄大(参考記事:https://www.bridgine.com/2024/04/10/soil_2/)と長年の友達なので、そのつながりが一番のきっかけです。また出張がかなり多い仕事なので、東京駅からのアクセスがいいというのも大きいですね。空港も新幹線駅も近いですし。打ち合わせをする際も皆さん地域から来るので、結果的に日本橋を選んでよかったです。

―まちづくりを手がける仕事の人から見て、日本橋という街から受ける刺激はありますか?

松尾:Stapleが元銀行だった場所をリノベーションして日本橋・兜町にK5という複合施設を作った時、「なんてカッコいいホテルができたんだろう!」と思った反面、正直「どうしてここに作ったんだろう?」とも当時は思ったんですね。でも気付けば近くにケーキ屋さん、本屋さん、ちょっとした飲み屋さんと、周りがどんどんどんどん活発になっていいお店が増えていって。それを見て、ただ古い建物を再利用するのではなく、ほかの事業者とも協力しながら地域の特性や建物の個性をうまく活かした拠点づくりをしていることがわかって、まちづくりのお手本みたいな展開だと思いました。私もK5ができてから日本橋でご飯を食べたり飲みに行きたいと思うようになったし、日本に限らず世界各国のまちづくりに関わる人が日本橋に注目している感覚があります。

―今後日本橋を舞台にやってみたいことはありますか?

石田:拠点となる地域が今よりも増えたら、NEWLOCALが活動している地域の特産品などを集めたアンテナショップ的なものをやりたいです。1階がお店で、2階以上がオフィスになっていて、各地域のプレイヤーたちが交流できるような場所が持てたら良いですね。それに加えて日本橋と地域を行き来するプレイヤーが気軽に泊まれる宿泊施設があるといいな、ということも考えています。

―最後に、NEWLOCALとしての今後の活動予定についてお聞かせください。

石田:5年で10拠点を目標に事業を展開していて、今後は毎年2〜3カ所ずつ増やしていく予定です。今ちょうどNEWLOCALがスタートして丸2年経ったんですが、1年前までは僕とインターンしかいなかったんですよ。それが今は8人になりました。来年の春には各地で改修した施設がオープン予定なので、忙しくなりそうで今から戦々恐々としています(笑)。手がける地域が増えれば仲間も必要ということで、NEWLOCALでの仕事に興味がある人を求めています。地域でチャレンジしてみたい、僕の右腕になってくれる人も募集中です。

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取材・文:中嶋友理 撮影:岡村大輔

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