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2024.09.26

音楽と熱気が地下道を満たした夜。NIHONBASHI PUB & JAZZ 2024 SUMMER開催レポート

音楽と熱気が地下道を満たした夜。NIHONBASHI PUB & JAZZ 2024 SUMMER開催レポート

「音楽が楽しめる街づくり」というテーマのもとに、2023年11月に初開催されたNIHONBASHI PUBLIC JAZZ(【日本橋の街角で足を止めてジャズに浸る。初開催のNIHONBASHI PUBLIC JAZZをレポート】)はその名の通り、日本橋の公共空間で、誰もが無料で気軽にジャズを楽しめるイベントです。

2024年8月30日(金)〜9月1日(日)の3日間にわたって開催されたNIHONBASHI PUB & JAZZ 2024 SUMMERは、NIHONBASHI PUBLIC JAZZのスピンオフ的イベントとして開催。台風10号による悪天候の影響で当初予定されていた屋外会場から急遽屋内へと移動、一部内容を変更しての実施となりましたが、代替会場となったJR新日本橋駅〜東京メトロ三越前駅の地下通路では各アーティストによる熱演が繰り広げられました。この記事では初日にあたる8月30日のイベントの模様をレポートします。

HIGHBALL BAR

イベント開始時刻の午後5時から日本橋三井タワー1階のアトリウムでは、HIGHBALL BARがオープン。本来は福徳の森で開催予定でしたが、荒天が予想されることから場所を移しての開催となりました。

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バーカウンターの両側にはヴィンテージのスピーカーが設置され、ジャズを肴にアフター5の一杯を楽しむ人たちが集まった。

バーではアイリッシュウィスキーのジェムソンや、米ケンタッキー州産ウィスキーのブレット バーボンを使ったハイボールなどを提供。また浅草橋のカフェ「葉もれ日」がこのイベントのために開発したバターチキンカレーや、日本橋室町の洋食店・レストラン桂のカツサンドといった軽食も数量限定で用意されていました。

DISCO É CULTURAとMr.Disco Kid

そんな空間を音楽で彩るのは、 DISCO É CULTURAとMr.Disco Kidの2名。今回は会場にヴィンテージ・スピーカー/プリアンプ/パワーアンプが導入され、本格ジャズ・バーさながらの良質なサウンドシステムが構築されていました。レコードへの審美眼で海外からもオファーされるDJ陣が鳴らす音の味わいは、デジタルとは違ったアナログならではの贅沢なまろやかさで包み込む。会場であるアトリウムの吹き抜け部に程よく反響し、心地よい上品な空間を演出していました。

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南米音楽を得意ジャンルとするDISCO É CULTURA。この日もブラジルのクラリネット/サックス奏者、パウロ・モーラなどの曲をセレクトしていた。

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Mr. Disco Kid :2018年Stockholm Soul Weekenderへ初の日本人ゲストDJとして出演。2022年小袋成彬とMelodies InternationalのツアーでDJプレイを行うなど国内外で活躍している。

BEER GARDEN STAGE

コレド室町テラス大屋根広場にて開催予定だったBEER GARDEN STAGEはJR新日本橋駅〜東京メトロ三越前駅間の地下通路へ移動。急遽セッティングされたイベントスペースで、まずは昨年のNIHONBASHI PUBLIC JAZZにも出演した中村道生のDJが会場を温めます。

MICHIO NAKAMURA(DJ)

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オープニングとセットチェンジ中のDJを担当した中村道生は、日本橋兜町のB by BrooklynBreweryでレジデントDJも務める。

ステージ後方には音楽やアートのヴィンテージアパレルを扱うブランド「anytee」のブースも展開。NIHONBASHI PUBLIC JAZZとのコラボTシャツも数量限定で販売されました。ロックTシャツが幅広い世代に愛される王道ファッションアイテムの中、ジャズTシャツで他の人と差をつける選択肢も粋ですね。

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anyteeのブースにはジャズ・レジェンドの写真をデザインしたヴィンテージTシャツが多数並んだ。

Eddie Brown

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有名曲も多く盛り込み、通りがかりの人のハートもガッチリと掴んだエディ・ブラウン。

午後6時、この日の一番手として登場したのはロサンゼルスを拠点に活動するエディ・ブラウン。スティービー・ワンダーやビヨンセといったビッグアーティストのレコーディングにも参加したキーボーディストです。電子ピアノとローズピアノを使い分けながら自らヴォーカルも取り、弾き語りスタイルでのパフォーマンスを披露しました。

グローヴァー・ワシントン・ジュニアの「Just the Two of Us(邦題:クリスタルの恋人たち)」でジャズ/フュージョンの名曲をしっとりと歌い上げる場面もあれば、アース・ウィンド・アンド・ファイアの「セプテンバー」やマルーン5の「ディス・ラヴ」といった、ここ日本でもお馴染みのポップスをジャズ・アレンジでカヴァー。さらにピアノ・ソロの合間にディズニーの名曲「ホール・ニュー・ワールド」や「アンダー・ザ・シー」を差し込んだりと、子供でも「知ってる!」と思えるようなメロディを織り込んだサービス精神満点の構成で聴かせます。

会場のすぐ横は駅の利用客が行き交う通路になっていましたが、ちょうど仕事終わりの人たちが帰宅の途に着く時間帯。多くの人が聴き覚えのあるフレーズに「ちょっと見ていこう」と足を止め、彼の演奏に聴き入っていました。 なお、エディ・ブラウンは翌31日に出演したYuki “Lin” Hayashi and friendsのステージにも登場したとのことです。

MAO SONE TRIO

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MAO SONE TRIOの各メンバーの白熱したソロでは大きな拍手が巻き起こった。

2組目に登場したのはMAO SONE TRIO。ピアノ/トランペットの二刀流プレイヤーとして知られる曽根麻央、宮地遼(ベース)と鈴木宏紀(ドラム)の3人から成るトリオです。2024年10月からは曽根の最新組曲『Eight Little Pieces』をこの3人でプレイする全国ツアーも決定しており、なんと今回のNIHONBASHI PUB & JAZZは彼らのパフォーマンスをいち早く(しかも無料で!)聴ける機会となりました。

演奏場所は人通りの多い地下道、限られたスペースに機材を設置しなければならず、ステージと観客の間に段差もなし、そして前後左右に観客……とイレギュラーな環境ではありましたが、そこはさすが国内ジャズ・シーンを牽引する辣腕プレイヤーから成るトリオ。通行人のさざめきさえも忘れさせるソリッドなアンサンブルで、観客をぐいぐいと自らの世界観に引き込んでいきます。

各々のテクニックを惜しみなく披露するソロの応酬は「これぞジャズ!」な快感。こんな演奏が地下鉄駅の通路で聞けてしまうなんて、ここはニューヨーク? それともロンドン?と錯覚してしまいそうになります。有名ジャズ・クラブで演奏することも多いプレイヤーたちの音色を間近で楽しめるという、なんとも贅沢な時間でした。

Kohei Ando Tropical Sessions

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日本橋の地下道をダンスフロアへと変えたKohei Ando Tropical Sessions。

初日のトリを飾ったのはKohei Ando Tropical Sessions。石若駿や米津玄師との共演、そしてMillennium Paradeのメンバーとしても知られるマルチインストゥルメンタリストのMELRAWこと安藤康平による、この日1日限りのグループです。Hiromu(キーボード)、熊代崇人(ベース)、荒川"B"琢哉(パーカッション)、岡本健太(ドラム)の4名が脇を固めます。

グループ名の通り、今回のイベントでは「夏らしさを意識しラテン・ミュージックの要素を取り入れた」というKohei Ando Tropical Sessions。サウンドチェックの段階からすでにノリノリで、「もう始めちゃっていい?」とバンドも前のめり。そして「立って踊って!」と着席しているオーディエンスに促し、総立ち状態でライヴがスタートしました。

リーダーであるMELRAWはサックスやボーカルを担当し、時には客席へサックスを吹きながら練り歩くというエンターテイナーぶりを発揮。歌うかのようにメロディアスで饒舌なサックスの音は、やはり彼が日本のポップス/ジャズの最前線にいるプレイヤーであることを感じさせます。

リズム隊にはラテンジャズ・ビッグバンドの熱帯JAZZ楽団のメンバーもいるとあって、熱いラテンのリズムが地下道に響き一帯はもうお祭り騒ぎ! 偶然通りかかった人が多くいる状況で、あれほど大きな歓声がこだましたのは、夏という季節とラテン・ジャズの陽気なパワーのなせる技だったのではないでしょうか。

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アンコールではステージ前がダンスフロアになるほどの盛り上がりに!

ライヴはMELRAWと交流のあるLAGHEADSの「だきしめたいよ」のカヴァーで終了と思いきや、興奮冷めやらぬ会場からはアンコールを求める拍手が鳴り止みません。それに応えてのもう1曲が始まると、観客の中からステージ前に出て踊り出すペアも出現。辺りを見回せばステージを中心にほぼ360度オーディエンスがぎっしりと詰めかけ、思い思いに手を叩いたり踊ったりと、盛り上がりは最高潮に達していきます。

パフォーマンスが大団円を迎える頃には演者も観客も熱気が溢れかえる! しかし誰もが笑顔で会場を後にする、そんな魔法のようなひと時と共にNIHONBASHI PUB & JAZZの初日は幕を下ろしました。

今回は惜しくも天候の関係で3日間とも屋内開催となってしまいましたが、2024年11月には第2回目のNIHONBASHI PUBLIC JAZZ開催が予定されています。しかも昨年よりも規模を拡大予定とのことで、次はどんなアーティスト/名場面に出会えるのか、期待が高まります。

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