Interview
2020.06.24

経済社会と文化に接点を。 馬喰町から世に問うアート×ビジネスの新しい試み。

経済社会と文化に接点を。 馬喰町から世に問うアート×ビジネスの新しい試み。

近年、個性的なギャラリーが多数進出し、アートの街として知られるようになった日本橋東エリア。「Art Technologies株式会社」が昨年新たなギャラリースペース「BAF STUDIO TOKYO」をオープンさせたのもまた、日本橋・馬喰横山でした。アート販売だけでなく、オフィスのコーディネイトやAR技術を利用したECサービスの開発といったサービスを展開している同社のミッションは、ずばり経済と文化芸術の接点を増やすこと。「アートの相対的価値をもっと高めたい」と語る代表取締役社長の居松篤彦さんと、アンダーグラウンドなアート界隈で名を馳せてきたキュレーターの細野晃太朗さんに、アートとビジネスの関係性、コロナ時代におけるアートの役割などを語っていただきました。

大切なのは、自分たちが信じるアートを紹介すること。

ーはじめに、会社を立ち上げてお二人が出会うまでの経緯を教えてください。

居松篤彦さん(以下、居松):もともと親も画廊をやっていたので、大学卒業後からそこに勤務していました。25歳で独立して、2015年に名古屋でギャラリーを立ち上げたのですが、その3年後に入居するビル自体が取り壊しになったので、そこから東京に出てきてアートテクノロジーズを設立しました。

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アートテクノロジーズの居松篤彦社長

ー親御さんのお仕事もあって、アートの仕事を選んだのは自然な流れだったのでしょうか?

居松:そうですね。子供の頃から絵の仕事には魅力を感じていました。ただ当時は、社会的には少し低く見られがちだったんですよね、“画商は怪しい商売”みたいな。そんなふうに言われることにとても複雑な思いがありました。今の会社を立ち上げたのは、広く社会に向けてアートの価値を知らしめることへの挑戦でもあるんです。

細野晃太朗さん(以下、細野):僕は2013年、27歳のとき半蔵門にANAGRAというオルタナティブスペースを作ったことが現在に繋がっています。そこではアートのエキシビジョンだけでなく、ときには音楽家やパフォーマーを呼んだりして、ギャラリーとしての機能にとどまらず、総合的に楽しめて、皆がやりたいことができる場所を目指して運営していました。僕は当時オーナー兼キュレーターとして、1〜2週間に1回というなかなかのハイペースで展覧会を企画していました。

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キュレーターの細野晃太郎さん

細野:その後、設立から3年でオーナーを退き、ANAGRAは当時遊びに来ていたお客さんが継いでくれて。そうして再出発してからしばらくして、居松さんにアートテクノロジーズを立ち上げるから協力してほしいと声をかけてもらいました。最初に話したとき、アートの専門的な知識にも驚かされたんですが、その根底にあるアートに対する愛情にもシンパシーを感じましたね。

居松:お互い前職で3年間ギャラリーをやってきたわけですけど、細野さんが若くて無名のアーティストを紹介し続けたのに対し、僕のほうは吉増剛造、加納典明、四谷シモンなど尖った大御所の展示ばかりやってきたんです。対極のように見えて、どちらも売るのが難しい(笑)。

細野:居松さん、80代の作家さんにお友達がたくさんいたりするんですよね(笑)。

ーお二人とも少しニッチな作品を扱ってきたというわけですね。

居松:そうなんですよ。僕らはすでに評価が定まった美術でビジネスするというよりは、これから価値が上がることが予想される良い作品を「今買っておくべきもの」として扱ってきました。ただお金儲けがしたいだけなら既に評価されているものを扱えば良いという考え方もあるけど、そうではないやり方をあえてやってきたところがあります。

細野:自分たちが責任を持って「本当にいいものだから」と断言できなければ、誰かに売ろうにも話ができないですからね。信じるものを紹介するというのは、シンプルだけど大事なことだと思います。

アナログとデジタルを行き来する、独自のコミュニケーション術。

ー改めてアートテクノロジーズの事業内容を教えてください。

居松:会社の基本理念として、アートが日々の暮らしにおける「コミュニケーションのツール」になってほしいというのが第一にあります。会話のきっかけを生んだり、新たな人間関係を開いたり、知的好奇心の扉を開いたり。そのために、アートとの付き合い方や作品を手にするきっかけづくりを、様々なアプローチから提案していく会社です。

具体的には、ECを活用したアート販売や、レンタルサービス。現代アートシーンから新しい才能を発掘する、ギャラリー運営やイベントの開催。壁画制作などで、ビジネス空間をクリエイティブに彩るオフィスコーディネート、アート収集や売却のアドバイスをする個人向けコンサルティングの4つが主な事業となっています。

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注目すべきアーティストを発掘し、世界へ挑戦することの支援も行う(画像提供:アートテクノロジーズ)

ー社名にもあるテクノロジーの要素は、各々の事業に組み込まれているのでしょうか?

居松:そうですね。テクノロジーと言っても、最新技術でアートのあり方そのものを変えるというより、お客さんによりスムーズに精度高く作品を届けるために、デジタルツールを補助的に活用しているというイメージです。たとえば6月にローンチしたばかりのサイト「ART TECHNOLOGIES ONLINE」では、アートの売買だけでなく作家の制作風景やインタビューを紹介するため、YouTubeやVimeoを使った動画配信にも力を入れています。

細野:デジタルの要素を組み込むことで、作品をリアルの場で見るだけでは伝わらない、作家自身の魅力にフォーカスして広く届けることができます。制作背景を知れば作品の見方も変わってくるし、そうやって情報をアーカイヴすることで、オンラインのカタログ、あるいはアートのウェブマガジンとしても機能して、国内外に向けて発信することもできる。絵の売買だけに特化したサイトにしても、熱心なアートファンしか楽しめませんよね。新しい層を開拓するためにも、いろいろなコンテンツを用意しようと考えています。

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ウェブサイト「ART TECHNOLOGIES ONLINE」では、注目の作家の作品が購入できるほか、作家のインタビューや動画・展覧会の告知などが掲載される。(画像提供:アートテクノロジーズ)

居松:ほかにも、昨年9月に開催したアートコンペティション「ART START UP 100」の特設サイトではWeb AR(Webサイト上で拡張現実を体験できる技術)を搭載し、作品を自宅に飾ったときのイメージをバーチャル体験できるようにしました。また同様の考え方で、ECサイトの方でも作品を飾る部屋や背景色のバリエーションをシミュレートすることができます。デジタルツールをうまく取り入れながら、これまでとは違うアートの売り方に挑戦していこうと考えています。

細野:でもデジタルに頼りすぎるのではなく、現実と仮想空間の両方をうまく使い分けるのが大事だと思います。居松さんは商談の際には今だに作品を風呂敷にくるんで持っていくし、お客さんや作家に直接話を聞く、会うということを大事にしている。そういうアナログのコミュニケーションがまず先にあって、物理的な制約などで難しい場合はデジタルを使えばいいんです。

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「ART START UP 100」では、アーティストから募集した100点の作品を一律10万円で販売。その対価は全てアーティストに還元された。また、会場に行かずに遠隔からARで鑑賞できる仕組みを取り入れた。(画像提供:アートテクノロジーズ)

ーそのアナログなコミュニケーションの場のひとつが、今年新たにオープンしたBAF STUDIOなのでしょうか?

居松:はい。ここは作家やアートを愛好する人たちと直接コミュニケーションするための場所です。デジタルツールを補助的に使いつつも、やはり本物を見ていただくことは大切です。僕らが本当に好きなアートだけを展示していて、細野さんが全面的にキュレーションしています。

細野:やっぱり展示を作るのは楽しいですね。ただ作品を飾るだけではなく、色んな見せ方ができるよう、作家とも話し合いながら作り上げるようにしています。実際に売れるかどうかより、まずは作品がより良く見えるようなディレクションにすることが僕なりのこだわりです。

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BAF STUDIO初の企画展「NEWEN(ニューン)」では山崎由紀子、wimp、添田奈那が参加。着想から作品になるまでの消費の過程を可視化するため、制作のプロセスで出た廃材や、アーティストの⽣活中に発⽣したゴミも展⽰された。(画像提供:アートテクノロジーズ)

ーアートテクノロジーズのオフィスは赤坂にあるんですよね。馬喰横山にBAF STUDIOを構えたのは、どういった背景があるのでしょう?

居松:倉庫が近くにあるのと、僕らのギャラリーは遠方のお客さんが多いこともあり、東京駅からタクシーに乗って数分で来れることが大きな決め手でしたね。それに原宿でギャラリーを構えるとなったら家賃もかなり違うはずで。そうなると扱う作品や値段も変わってしまうから。

ー何かこの街の魅力は感じますか?

細野:多様性のある独特な空気感が気に入っています。こういう街って都内でもあんまりないじゃないですか?長い歴史があって、この周辺は問屋街で経営者はご高齢の方も多い。その一方で、ホステル「CITAN」やアートギャラリー「PARCEL」のように、僕らと親和性のある新しいスペースも生まれている。“衣”は問屋街があるし、“住”はホステルで整いつつある、“食”に関しても名店が多いのがこの街の特徴で、僕らが“アート”を担えば新しい街が生まれるかもしれない。そんな可能性も感じています。

「熱心な5%」ではない層にどう訴えかけるか。

ーBAF STUDIOに来られるのは、どういった方が多いんですか?

居松:コアなアートファンやアーティスト、経営者の方々がよくいらっしゃいますね。まだオープンして日が浅いこともあり、お知り合いの方が多いです。

細野:オフィスコーディネイトや企業向けサブスクなどのビジネスも展開しているということが、そうした層の方々が足を運んでくださるきっかけを作っていますね。あとは、その2つのどちらにもあてはまらない、中間層にいる人たちがもっと興味を持ってくれるようになれば、いろいろ変わりそうな気がします。

居松:アートの購入に関心があるのは、どんなに多く見積もっても(世の中全体の)5%くらいだと思うんですよ。どうやっても狭い土俵にはなってしまう。そういう現実とも向き合ったうえで、残りの95%にどうやって訴えかけるのか。そこは僕らも強く意識していて、だからこその「ART TECHNOLOGIES ONLINE」スタートだったり、ARの導入だったりする部分もあります。

―95%の人々にアートの魅力を訴えるための取り組みや考え方について、もう少し詳しく教えてください。

居松:最初にも少しお話したように、僕はこの事業を通じて社会におけるアートの地位を向上させたい。自分には縁のないもの・手の届かないものと思わず、たとえば服を買うのと同じような感覚で、アートを消費の対象として見てほしいんですよ。

でもきっとアートに縁がなかった95%の人は、その良し悪しを見極める自信がないのかもしれない。そこで僕が大事にしたいのは、お客さんがそのアートを見てどんな反応をしたのか、アートを手にすることで何が得たいのかなどをしっかり聞くことです。“誰もが好きそうなものを売る”ということではないんです。むしろ今は好きじゃなくてもいい、まずは飾ってみてほしい。アートをご提案するときは、そういう視点に立つようにしています。

細野:コーディネートするって、そういうことですからね。

居松:たとえばオフィスに飾るのであれば、雰囲気をよくしたい、成績を上げたい、新しい出会いを生みたい、会社のステータスに……など、目的はさまざまあるはず。お客さんにも、そういう視点で飾るアートを選んでみるのもありだと知ってほしいですね。

壁画

オフィスの壁をアートにする“壁画”サービスも手がける。(画像提供:アートテクノロジーズ)

ー実際にそのスタンスでお客さんにご提案してきて、どんな反応がありましたか?

居松:「それまで絵を飾るなんて考えもしなかったけど、飾ってみたら社員から評判が良くて、求人応募も増えた。」そんなふうに言ってもらうことがありましたね。

ーそれは嬉しい反応ですね。それにその方にしてみれば、アートの力を知る大きな発見だったことと思います。

居松:そのように実感していただくためにも、好きそうなアートを探し続けるより、とりあえず飾ってみてほしいです。3日で飽きることもあれば、5年経って魅力に気づくこともある。一緒に過ごしてみないとわからないので。

衣食住とともに、アートは世の中に絶対必要。

ー今のアート業界にはどのような課題があると思いますか?

居松:大きな話をすると、日本ではアートがツールと考えられていないですよね。お金を払ってアートを消費することをネガティブに捉えすぎている。アートはそこまで崇高なものじゃない。まずはその思い込みを解除した方がいいと思います。不当に誤解されることもありますが、家が一軒買えるような絵が存在するのは、そこに取引される理由があって、歴史があって、未来があるからで、ただお金持ちが遊んでいるわけではない。アートにお金を出すことの意味を理解しないと、本当の意味でのコレクターも出てこない。

ー日本ではアートと清貧思想がセットになりがちですし、その話はよくわかる気がします。

居松:経済活動をして、基本的な生活の基盤があるうえで、良い服を着たり、良いものを食べたり、良い音楽を聞いたり……そういったことの価値の発見が全て循環したとき、初めて文化と経済が交わったと言えると思います。さらにそのとき、アートの優先順位は食やファッションより下になるのではなく、みんな横並びになるのが理想です。

細野:「衣食住とともにアートがある」って状況を作らないと、文化もアートも向上していかないですからね。

居松:コロナ以降に(芸術分野への補償を巡って)色んな問題が浮き彫りになりましたよね。たしかにすごく無駄なんだけど、絶対必要なのがアートなんです。世の中を保ち、人間らしく生きるうえでの最後の1ピースと言えると思います。だからこそ誰かが支えていかないと。それは絵でも音楽でも全て一緒だと思います。

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取材中のBAF STUDIOに展示されていたのは「82歳の新人」こと森眞吾の作品。(画像提供:アートテクノロジーズ)

展示はこれからも続く。

ーコロナウイルス感染拡大を契機に、アートの役割が改めて問われていますよね。そのなかで、今後どのような取り組みを考えていますか?

居松:展示をやっていきます。これからもずっと。

細野:緊急事態宣言が出ている間も意図的に止めなかったんです。これからも共存していくしかないわけで、せっかく場所があるんだから今のうちにトライアルしておこうと。

居松:実はギャラリーって作品を売るためと、もう一つ、この時期にこの作品をどのくらいの値段で売っていたのか記録するために展示しているという役割もあって。ここで行われたことを会社の業務に活かすためにも、粛々と展示を続けていきます。もちろんオンラインでも配信したり少しずつ変化しているんですけど、この場所はいつ来ても何かが飾ってあるという感じ。

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ー今後はどんな展示を予定されていますか?

細野:先ほど紹介したオンラインのアートプラットフォーム「ART TECHNOLOGIES ONLINE」のリリースに合わせて、作家25名の作品を一堂に展示するグループ展「ATO」を6月28日(日)まで行っています。7月はネイティブ・アメリカンを祖先に持つアーティスト、リーバイ・パタの展示を行う予定です。

居松:6月のグループ展は、僕らにとっても一つの転換期になりそうですね。こういうタイミングでたくさんの作品をバーっと見せることで、前向きな気持ちに切り替えられたらと思っています。

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BAF STUDIOのグループ展「ATO」は6月12日(金)〜28日(日)まで開催。日・月は休廊。(画像提供:アートテクノロジーズ)

取材・文:小熊俊哉 撮影:岡村大輔

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