Interview
2020.09.04

テクノロジーでおやつ時間が進化する。 安心おやつをサブスクで届けるsnaq.meの挑戦。

テクノロジーでおやつ時間が進化する。 安心おやつをサブスクで届けるsnaq.meの挑戦。

良質なご褒美おやつが定期便で届くサブスクリプション・サービスの「snaq.me(スナックミー )」。そのオフィスは、日本橋箱崎町にあります。ユーザーから集めた評価・感想などのデータを活用し、届ける商品の最適化をはかるほか、新商品の開発やフードロス対策にも発展させる取り組みは、おやつ業界の新しい潮流として注目を集めています。“テクノロジーで新しいおやつ体験を提供する”仕組みや今後の活動について、同社CEOの服部慎太郎さんにお話をうかがいました。

安心なおやつを求めて、異業種から食品業界へ飛び込む

―まずはsnaq.meというサービスがどんなものなのか、教えてください。

僕らはsnaq.meを「おやつ体験BOX」と呼んでいます。いわゆるサブスクリプションの形で、ユーザーごとに内容をカスタマイズし、約100種類の中から8種類を選んで定期配送するというサービスです。初回の発送前にWEB上でQ&A方式の「おやつ診断」をやっていただいて、その方の大体の好みを把握してお送りします。商品が届くと、会員ページから自分が受け取ったおやつの好き嫌いや「もう一度食べたい」「こんな商品がほしい」といったリクエストを入力でき、それを繰り返していただくことで次にお届けするおやつがよりパーソナライズドされていくという仕組みです。

開封

専用のボックスにおやつが8種類入って届く(画像提供:snaq.me)

―どうしてこの事業をスタートしようと考えたのですか?

自分自身が欲しかった、というのが一番の理由です。僕は以前から間食をする習慣があって、独身の頃はあまり気にしていなかったんですが、子供が生まれてからはスーパーで食品を買う時にパッケージを裏返し、材料をチェックするようになったんです。そうすると、よくわからない名前の添加物がいっぱい入っていることが気になり始めて。一方で、週末にマルシェなどに出かけてみると、材料が三つだけなのにすごくおいしい、というような良いものがたくさんある。でもマルシェだと買いに行ける機会は限られてしまいますよね。そこで、自分が持っているインターネット・ビジネスのバックグラウンドを活かして、そういうものを身近に、手軽に買えるようになったらいいなと考えたのがsnaq.meを始めたきっかけです。

―snaq.meにはお菓子会社には珍しく、創業の頃からCTO(最高技術責任者)がいらっしゃいます。テクノロジーでお菓子をパーソナライズするというアイディアは、どこから生まれたのでしょうか?

お菓子ってものすごくたくさん種類があるので、その中から自分が好きなものを見つけるのも結構大変じゃないですか。なので、アンケート結果やフィードバックからユーザーが好きなものを選ぶ作業をデジタル化できるんじゃないか、と考えていました。最初の頃は、ユーザーのアンケートデータを紙に出力して自分たちで読んで、机の上に20個くらいお菓子を並べながら「この人にはこれを入れよう」ということをやっていたんですよ。それを半年くらい続けた頃、だいぶデータが溜まってきたのでシステムに切り替えることにしました。そのシステムも自分たちで全て作っています。

―snaq.meのテクノロジーとサブスクリプション形式は、フードロスの削減にも繋がっているそうですね。

卸を通してコンビニや小売店で販売されるお菓子は、賞味期限が迫ってくるとメーカーに返品されたり、廃棄されたりしてフードロスとなってしまいます。一方snaq.meのサービスでは、ユーザーが入力したおやつの評価やリクエストのデータから、確実に消費される量だけをメーカーから買い取る形です。そのため既存の流通よりはフードロスが少ない仕組みになっているといえると思います。

―服部さんはインターネット・ビジネスご出身とのことですが、snaq.meを立ち上げる前はどのようなお仕事をされていたのですか?

僕自身はDeNAにいて、いわゆるスタートアップとかベンチャー企業への投資業務をやっていました。一緒に事業を立ち上げた他の2名もそれぞれ異業種の出身です。取締役(COO)の三田村はもともと旅行会社のJTBで法人営業をずっとやっていました。その後にアプリ業界でプロダクトマネージャーをやり、起業したという経歴です。CTOとしてシステム・技術開発周りを担当している三好もともと建築系の仕事をしていました。

―異業種での経験や学びがsnaq.meに活かされていることがあれば教えてください。

直接的にはあまりないかもしれないですね(笑)。でもベンチャーに関わったことで培われた「新しいものを作り出す」というマインドは今も生きている気がします。一方で、食品業界を全く知らなかった、という点は大きかったように感じます。食品業界での経験がないからこそ、業界の既存のルールに囚われず、ゼロベースからユーザー視点に立ったサービスを作れると思っています。

ユーザーのリアクションに基づく、スピード感ある商品開発

―snaq.meで扱う商品は自社で開発されているのでしょうか?

自社プロデュースしたものをメーカーさんに作っていただく形の商品が中心ですが、一部仕入れ商材もあります。
今でこそ自社プロデュース商品がメインになっていますが、当初は仕入れ商品のパーソナライズだけを想定していたんですよね。週末にマルシェなどに出かけて商品を買い付けて…それを詰め合わせてお届けしていました。

ですが、詰め合わせのお届けを続けていくうちに「もっとこういうお菓子がほしい」というお客様のリアルな声が集まるようになってきて。その声に応えようと試行錯誤するうちに、自然と自社プロデュース商品を製造する流れになっていきました。お菓子作りに詳しいパティシエも採用し、ユーザーのニーズに的確に対応する体制を整えてきました。

ラインナップ

ドライフルーツやあられ、焼き菓子など約100種類のお菓子をラインナップ(画像提供:snaq.me)

―snaq.meが自社プロデュースされる場合の商品化の流れを詳しく教えてください。

当社にはバイヤーとパティシエがいて、彼らが中心となって商品企画を行いますが、snaq.meはまだ20人ほどの会社なので、アイディア出しは社員みんなでやっていますね。出かけた先で良質な新商品があれば「こんな商品を見つけたよ!」と発信し合い、カジュアルに情報をシェアしながらアイディアを広げています。
そうしたアイディアをもとに、バイヤーとパティシエがスピーディーに試作品を作り、商品企画を進めていくのですが、僕らは製造ラインは持っていないんです。なので、オリジナル商品を実際に生産するには全国のお菓子メーカーさんと組むことが必要になります。良質なお菓子を製造されているメーカーさんにお電話をかけて、アポイントをいただき、「こんなお菓子をつくりたいんです」という協議をさせていただく…そんなやり方で協業パートナーさんを広げていっています。アナログなやり方かもしれませんが、一緒に商品を作り上げるパートナーであるメーカーさんとのこうしたコミュニケーションはとても重要だと感じていますね。

―社員のアイディアが商品になるまでのスピードや、フットワークの軽さが感じられますね。

そうですね。企画から商品化までの時間は短いと思います。そもそも新商品について社員や役員が集まって話し合うことすらほとんどなくて。先ほどもお話したとおり、アイディアがある人が思いついたものをSlackに上げていくようなカジュアルなスタイルなんです。会議のような場を設けるとかしこまってしまうし、何か提出せよというノルマはプレッシャーになりますよね。そうすると「無理やり絞り出した」ようなものが集まってしまいがちです。本当にいいものだけを集めたいのだったら、Slackという共有の場があれば十分だと思っています。
試食会もたまにやりますが、それで何かが決まることはあまりないです。自分たちで試食して評価するより、ユーザーのみなさんの反応を見る方が正解だと思っているので。「迷うくらいだったら両方作って、ユーザーの評価が良い方を残せばいい。」くらいの感じでやっています。現在snaq.meでは約100種類のおやつを取り扱っていて、そのうち毎月2〜3割が変わるので、結構な数なんですよ。その意味でも商品化までのプロセスはできるだけシンプルに、スピード優先で進めています。

02

CEOの服部さんの背後には、発送を待つお菓子がずらりと並ぶ。娘さんもsnaq.meのおやつが大好きだとか。

ユーザーのリアルな反応をマーケティングデータとして使える強み

―メーカーさんとの関係性も大切にされていますよね。「協業」による商品開発を進めるうえで大変なことはありますか?

今は信頼関係が築けているところが多いですが、サービスの内容が浸透する前は「作るのはいいけど、これ本当に売れるんですか?」とおっしゃる方が多かったですね。これまでになかったサービスでしたから、なかなか理解を得られないこともありました。「安心なお菓子」というコンセプトも大切にするうえで、原料に関する交渉などもさせていただきましたが、なかなかうまくいかない状況でしたね。

―そうした状況の中で、どのようにメーカーさんとの関係性を深めていかれたのでしょうか?

snaq.meに参加することで得られるメリットをご理解いただけるようになったのが大きいのではないかと思います。そのメリットというのは大きくは2つありまして、一番喜んでいただいているのは、ユーザーからのフィードバックです。我々はユーザーからの評価を売り上げではなく点数やコメントで把握できるので、「実際に食べたユーザーからこんな声があります」というお客様目線でのマーケティング情報をお渡しできます。従来、メーカーと消費者の間には流通が入るのでメーカー側がお客様の生の声や評価を得るのはなかなか難しいのですが、snaq.meではそれがダイレクトにわかります。

もう一つのメリットは、そのデータを利用して比較的ニッチな商品も作れることです。
通常の流通に乗るお菓子は、なるべくたくさんの人に買ってもらうために、あまり味の冒険はできません。でも我々は「この商品はマスには受けないけど、snaq.meのユーザーだったらこのくらいは好きな人がいる」という情報を、メーカーさんに提供することができます。実際に、新商品が作りたくてもマスの壁が超えられず、開発着手が実現できていなかったあられ屋さんと「明太マヨ味を添加物なしで作ってみましょう。珍しい味を作ってもこれくらいはニーズがあるので買い取れます」という話をして、新商品が生まれたこともありました。

パッケージ過去

初期のパッケージ。デザインはユーザー動向に合わせて何度も改良されている(画像提供:snaq.me)

―これまでユーザーから寄せられた声で印象的だったものはありますか?

高校生の娘さんがいる、あるお母さんとのやりとりはとても心に残っています。その娘さんというのが食へのこだわりが並外れて強く、何か食べたいとコンビニに行っても数十分かけて選んだ末に何も買わずに帰ってくるほどのこだわりようだったそうで…お母さんも日々の食事に非常に悩まれていたようなんです。

そんな中で snaq.meを知って、利用を始めてくださって…お母さんとは娘さんの好みに合うよう何度も入れるお菓子の組み合わせについてやり取りし、娘さんの食のこだわりに寄り添うための試行錯誤を繰り返しました。そんなある日「コンビニで売ってるようなお菓子は食べられなかったけど、snaq.meのものなら娘も喜んで食べています」という手紙がそのお母さんから届いたんです。嬉しかったですね。それから半年後くらいにもう一度手紙が届いて、今度は「snaq.meのお菓子を食べながら受験勉強をがんばって○○大に合格しました!」と書いてあって。あの時は「ああ、やっててよかったな」と実感しました。

snaq.meのおやつを実店舗で体験するチャンスを作りたい

―現在snaq.meは日本橋箱崎町にオフィスを構えていますが、日本橋にはどんなイメージがありますか?

日本橋に来る前のオフィスが門前仲町にあったこと、住まいが台東区なこともあって、東東京の落ち着いた雰囲気は好きですね。日本橋は昔から老舗の企業・お店が多いのと、お祭りが盛んなイメージです。

―日本橋も様々な食関連のメーカーがありますよね?地元のメーカーさんとのお付き合いはあるのでしょうか。

近場だと江東区の会社と取引がありますが、僕らは商品ベースでメーカーを探すので、地元を意識することはあまりないですね。最近ではリモートで開発のやりとりもできるので、そういう意味でも地理が関係ないことも多くて。でも、今言われてみると、このあたりにも良い取引先がたくさんありますね。オフィスの近所には人形焼のお店などもあります。こうした近所のお店に営業に行ってみようということを今まで考えたことがなかったのですが、トライしてみてもいいのかもしれません。

―今後挑戦してみたいことがあれば教えていただけますか?

一つ考えているのは、いずれsnaq.meのお菓子を販売する店舗兼カフェをやってみたいということです。食べ物のサブスクって最初のハードルが高くて、どんなものか食べてみないとわからない。なのでsnaq.meの商品を実際に体験できる場があったらいいなと思います。snaq.meのお菓子を1種類から購入することができて、かつカフェで商品をお茶菓子としても楽しめる場にしたいですね。個人的にもコーヒーが好きなので、おいしいコーヒーとおいしいおやつがあるティータイムという時間的な価値を提供できたら楽しそうです。オフィスと店舗が併設できるのが理想なのですが、現在のオフィスでそれは難しいので、近場の日本橋界隈にお店を構えるというのも良いなと思っています。

オツマミー

コロナ渦での宅飲みニーズに合わせた「オツマミー」(画像提供:snaq.me)

あとはおつまみ分野にもっと力を入れたいです。過去におつまみ系BOXの「オツマミー」という商品を、数量限定で展開していたことがあったんです。最初はビールに合うもの、次にワイン、さらにその次はビールの中でもクラフトビールに合うものというコンセプトで展開していたのですが、コロナ禍の家飲みニーズもあり、大変好評でした。今後はもっとドリンクに合わせたセレクションにも力を入れていきたいですし、ドリンク自体にも参入してみたい思いがあります。

それから、朝食分野への進出も検討してみたいですね。snaq.meではグラノーラ商品を取り扱っているので、朝食との親和性は高いんです。アメリカだとホットドッグもおやつ感覚で食べられているように、栄養を摂るものとしておやつを広義に捉え、朝食をはじめとした軽食分野全般をマーケットと考えていきたいです。snaq.me自体を根幹のサービスとしてしっかり成長させつつ、派生する他の可能性も広げていきたいですね。

取材・文:中嶋友理 撮影:岡村大輔

Facebookでシェア Twitterでシェア

TAGS

Related
Collaboration Magazine Bridgine