Interview
2020.08.26

ブロックチェーンで日本を変える。 日本橋から「王道」を歩む、LayerXの挑戦。

ブロックチェーンで日本を変える。 日本橋から「王道」を歩む、LayerXの挑戦。

「すべての経済活動を、デジタル化する。」をミッションに掲げ、数年来注目を集めているブロックチェーン技術を軸とした事業を展開しているLayerXは、日本橋の下町エリア・東日本橋に拠点を置く企業です。多くの銀行や証券会社が集まる金融センターとしての顔も持つ日本橋にオフィスを構え、創業からわずか2年にもかかわらず、すでに数々の一流企業とのコラボレーションを実現させているスタートアップ企業には、各方面から大きな期待が寄せられています。いまだに日本では仮想通貨のイメージとともに語られることが多いブロックチェーンですが、LayerXはこの技術を使ってどのように日本社会を変えようとしているのでしょうか? 同社の執行役員で、人事・広報部門を管轄する石黒卓弥さんに、同社が現在取り組んでいる事業やブロックチェーン技術の可能性、日本橋にオフィスを構える理由などについて伺いました。

日本企業のデジタル化を推進する 

―まずは、石黒さんがLayerXに入られた経緯からお聞かせください。

私は新卒でNTTドコモに入り、その後メルカリで人事部門の立上げなどを務めた後、2020年5月にLayerXに入社しました。テクノロジーが世の中を変えていくことに興味を持って仕事をしてきたのですが、振り返ってみると2010年代はメルカリなどのスマホアプリをはじめ、「toC」のサービスが成長した時代でした。一方、企業のデジタル化、つまりいまで言うデジタルトランスフォーメーション(以下DX)が進みにくい日本において、「toB」のエンタープライズビジネスがこれからの成長領域になると感じていました。そうした中で以前から面識があった代表の福島良典と話を進める中で、LayerXに入ることになりました。

―LayerXの事業の核になっているブロックチェーンにも興味はあったのですか?

そうですね。中国やアメリカなどではすでにブロックチェーン技術がさまざまなシーンで活用されています。一方の日本ではいまだに仮想通貨のイメージが強く、社会の生活シーンにおいては浸透しているとは言えません。しかしこれからの時代に必要な技術だと感じていました。これをエンタープライズビジネスに活用し、社会をより良い方向に向かわせていくというLayerXのミッションは、非常にチャレンジングなものだと思っています。

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インタビューに応じてくれたLayerX執行役員の石黒卓弥さん

―LayerXでは、「すべての経済活動を、デジタル化する。」をミッションに掲げていますね。

はい。もともとLayerXは、福島が立ち上げたグノシーの新規事業開発室から生まれました。グノシーは機械学習という技術を用いたニュース配信をすることでメディアの領域を変革していきました。同じようにこれからの新しい技術を探索している中でブロックチェーンに注目するようになったと聞いています。2019年には福島が代表となりMBO し、現在は30名規模の組織になっています。ブロックチェーン技術の活用だけを目的にするのではなく、適切な選択肢やソリューションを提供しながら、経済活動のデジタル化を推進していくことをミッションとしています。

―具体的な取り組みについてもお聞かせください。

LayerXの柱となっているのは、ブロックチェーン事業とDX事業です。前者ではブロックチェーン技術の社会実装をテーマに掲げ、大学との共同研究、行政や企業との実証実験などを行っており、後者に関してはコンサルや受託開発、ジョイントベンチャーの立ち上げなどを通して、段階的に企業のDXを推進しています。

ブロックチェーンとはどんな技術か?

―まだまだ日本では、ブロックチェーンという技術の理解が浸透していないように感じます。

ブロックチェーン技術を説明することは「インターネットとは何か?」ということを技術的な観点から解説するのと同様に難しく、どこまでそれを理解する必要があるのかということがまずあります。一例ですが、多くの人が使っているLINEなどにしても、背景にどんな技術が用いられているかということは意識しません。ブロックチェーンも同様に、技術的に何が行われているのかということを意識することなく、自然と使われる状況がいずれ訪れると思っています。

―すでに中国やアメリカなどではそうなっているのでしょうか?

特に中国に関しては近い状況になっています。中国では中央銀行が発行を目指している デジタル通貨にブロックチェーン技術が活用されることになるでしょうし、証券や保険などの領域でも使われています。ブロックチェーンの本質は、「価値の移転」が証明できることで、中国に限らず、金融領域での活用事例が非常に多くなっています。

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LayerXでは、ブロックチェーン領域における国内外の主要ニュースを紹介するニュースレター「LayerX Newsletter」を毎週配信している(画像提供:LayerX)

―「価値の移転が証明できる」とは、どういうことですか?

ブロックチェーン技術は文字通り、ある取引の記録が書き込まれたブロックがチェーン上に保存されていくという性質を持った分散型台帳です。これによって過去の取引などが効率良く管理でき、履歴も追跡できるので改ざんされにくくなります。小学校の図書館の本を思い出してもらえると良いのですが、それぞれの本にはカードが差し込まれていて、そこに過去に借りた人の名前が書き込まれていましたよね。それを見ればその本を借りた人の名前や人数などがわかるわけですが、書き換えれば履歴は改ざんできてしまいます。一方でブロックチェーンは仕組み上改ざんが容易ではないので、貸し出し履歴に間違いがないことが証明され、さらに暗号化の技術と組み合わせることで情報の秘匿性も担保される ことが特徴です。ブロックチェーン技術は、所有権がどのように移転してきたのかという履歴の追跡にも使えるため、土地や中古車の売買や契約管理に導入されることもありますし、食品のトレーサビリティなど物流領域での活用事例もあります。

―ブロックチェーンは、新しい信用の形をつくっているところがあるのですね。

まさにLayerXでは、この技術によって信用や評価のあり方を変えていきたいと考えています。例えば、企業における業務の多くは、「信頼」と「人手による運用」によって成り立ってきたわけですが、関係性が複雑な業界や業務ほど多くの利害関係者が関わるため、時に「監視」が必要になってくる。ブロックチェーン技術を活用してこうしたプロセスをデジタル化し、価値の移転を保証していくことで、記録に関する管理や監視のコストを下げることができるんです。

レガシー企業の「信用」を獲得するために

―こうしたブロックチェーンの技術を用いて、企業のDXを促すことが、LayerXの目指すところなんですね。

はい。ただ、ブロックチェーンを活用する前に考えることもたくさんあります。 我々は企業のデジタル化を4つのフェーズでとらえ、段階的にDXを支援しています。まずLevel1が「ツールのデジタル化」で、紙やハンコの廃止、クラウド化などです。Level2は「業務のデジタル化」で、API連携などによってデータ管理を一元化していくこと。Level3の「業務の高度化」は、高度な機械学習などを用いた自動受発注や自動決済の推進。そして、Level4の「コラボレーション」で初めてブロックチェーンが登場し、 企業間の受発注共有やサプライチェーンマネジメント、ファイナンスプロセスの拡張・自動化などが行えるようになるという流れでとらえています。

事業の表

画像提供:LayerX

―図らずもコロナ禍において、多くの日本企業が未だ「Level1」にあることが浮き彫りになりました。それこそ「信頼」に基づいた「人手による運用」を大切にしてきたこれらの企業に対して、新しい信用や評価のあり方を提案するブロックチェーンというテクノロジーを導入していく上では、精神面も含めた高いハードルがありそうです。

とはいえ、大前提として「変わっていかないといけない」というマインドを持った経営者層は多いと感じます。文字通り「信用」を積み上げていくという点においては、私も関わっている広報活動を含め、発信が大切になるはずです。例えば、LayerXでは、ブロックチェーン技術の活用事例や技術基盤の比較レポートをニュースレターなどで発信していますが、これらによって企業の技術に対するリテラシーを高めたり、技術選択の意思決定コストを下げていきたいと考えています。

―まさに企業としての「信用」獲得のための活動を大切にされているのですね。

その通りです。創業からわずか2年ほどのLayerXが、三井物産やMUFGなどとプロジェクトをご一緒できていること自体恵まれていると感じていますが、こうした企業が50年、100年かけて積み上げてきた資産は、我々が一朝一夕でアクセスするのは難しいものです。これらを活用できるコラボレーションをしていくことで初めて自分たちの存在意義が出てきます。そのためにも自らの強みを適切に理解し、先にも話したレポートなどを通して技術の活用方法やコラボレーションの可能性を示していくことが大切だと考えています。

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日本橋にオフィスを構える理由   

―それこそ歴史ある企業も少なくない日本橋エリアにオフィスを構えている理由もお聞かせください。

仮にスタートアップが多く集まる六本木や渋谷にオフィスを構えるとなると、投資家などから預かった外部資本のうち少なくないお金がオフィス代に費やされてしまうことになると思います。いま投資すべきはオフィスではなく、人や事業であるという代表の福島の方針のもと、先に挙げたようなエリアよりも賃料が比較的安価な東日本橋にオフィスを構えることになりました。加えて、日本橋エリアはブロックチェーンという技術と相性が良い金融関係の企業が多く、アクセスも非常に良い。我々のようなスタートアップは、伝統的な企業や大きな産業と連携することで経済活動を変えていくべきだと考えています。 その意味で、この場所にオフィスを置くことには大きな意味があると思っていますし、勝手ながら今後はスタートアップが集積した「下町バレー」のようなものができてくるような気がしています。

―実際に働いてみて、街の特徴についてはどう感じていますか?

飲食店がたくさんあり、バリエーションも多いのでランチ事情は非常に充実しています(笑)。あと、個人的な話になりますが、日本橋界隈のお店はキャッシュレスに対応していないところも少なからずあり、お弁当を買いに行ってから現金がないことに気づいた時があったのですが、お店の方が「明日でいいよ」と言ってくれたことがありました。こうした人の温かみはなかなか得難いものですよね。私たち自身はテクノロジーを使って生産性や合理性を追求していくような仕事をしているわけですが、こうした人間味はどんな時も温かい心持ちになります。むしろ本来の人間らしい活動に時間を割けるようにするためにも、業務の効率化を進めていきたいと改めて感じた出来事でした。

オフィス内観

2019年11月、東日本橋に移転したLayerXのオフィス(画像提供:LayerX)

―日本橋は、古くからオーセンティックな価値を発信してきた街でもあります。そうした場所から、LayerXがブロックチェーンという新しい技術のスタンダードを社会に広めていくということにもぜひ期待したいです。

これから10~20年をかけてブロックチェーンを軸に産業のデジタル化を図っていき たいと代表の福島は話しています。そして、長い道のりを進んでいくにあたっては、王道を歩むことが大切です。インターネット×エンタープライズ、ソフトウエア×リアル産業といったテーマに正面から向き合い、王道を築いていくことがLayerXの目指すところなんです。

ブロックチェーンが変える社会

―先日立ち上げられたLayerX Labsにおける本年度の注力テーマのひとつになっていた「デジタル通貨・決済」についてもお聞かせください。

今後中央銀行がデジタル通貨の採用を検討することになれば、セキュリティ面からも高度な技術などが必要になってくるはずです。そういう点からもブロックチェーン技術が使われる意義はありますし、ここにはLayerXとしても関わっていきたいと考えています。

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画像提供:LayerX

―同じくLayerX Labsが注力テーマに掲げている「スマートシティ」についてはいかがですか?

スマートシティと聞くと、自動運転や顔認証による買物などを思い浮かべる方も多いと思いますが、我々がここで掲げているのは、組織やサービスをまたぐデジタル化です。LayerX Labs所長の中村龍矢がよく「システムが乗るシステム」という言い方をしているのですが、例えば、確定申告とふるさと納税はどちらも税金に関わるものなので、本来は手続きが一元化されていたほうが便利ですよね。ブロックチェーンを用いた「システムが乗るシステム」実現の検討など、研究・学術機関との共同研究を通して、社会をよりなめらかにしていくためのポイントを掘り下げていくことが、LayerX Labsのミッションになっています。

―ブロックチェーン技術が空気のように社会や街に溶け込み、人々がそれらを意識せず、より便利でなめらかな社会を生きている状態というのがLayerXの考えるスマートシティの姿であり、日本社会の未来だということですね。

はい。いま話したスマートシティやデジタル通貨から、企業のDXまでブロックチェーンを活用したデジタル化にはさまざまな切り口があります。我々の強みは課題に合わせた解決法をしっかり提示し、エグゼキューションまでご一緒できることだと思っています。今後もブロックチェーンなどの技術を押し売りするのではなく、みなさんが日頃から非効率的だと感じられていることをテクノロジーによって改善し、日本全体の生産性を高めていきたいですね。

集合写真

画像提供:LayerX

取材・文:原田優輝(Qonversations) 撮影:岡村大輔

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