Interview
2020.09.09

環境が大きく変化する今、必要とされるオンラインカウンセリング。 cotreeが目指す「やさしさでつながる社会」とは?

環境が大きく変化する今、必要とされるオンラインカウンセリング。 cotreeが目指す「やさしさでつながる社会」とは?

「カウンセリングをもっと身近なものに」と、時間と場所を選ばずに受けられるオンラインカウンセリングを提供する株式会社cotree(コトリー)。「やさしさでつながる社会をつくる」という理念のもと、カウンセリングで不調を抱えた人を支え、問題解決のサポートをしています。cotreeが目指す理想の社会とは? コミュニティとメンタルヘルスの関係は? コロナ禍で環境が大きく変わる中、私たちはどのように生きていけばよいのか、cotree代表取締役の櫻本真理さんに話を聞きました。

困った人を支えるカウンセリングを、オンラインで受けやすく。

―まず、cotreeの事業内容について教えてください。

個人向けのオンラインカウンセリングを提供しています。いつでも、どこでも、好きな方法(電話、ビデオ、メッセージ)でカウンセリングを受けていただけます。また、お客様の特性を客観的に理解しながら、具体的な目標設定・行動計画へとつなげていく個人向けコーチングサービス「cotree assessment coaching」や、学生向けオンラインカウンセリングサービス「cotree for Student」も 提供しています。

―cotree設立の経緯をお聞かせいただけますでしょうか。

私は以前、証券会社で働いていたのですが、働き過ぎと、リーマンショックで会社の雰囲気が悪くなったことなどから、睡眠障害になってしまいました。そこでメンタルクリニックに行ったのですが、たった2、3分の診療で薬を出されただけ……。その対応にショックを受けました。薬で睡眠障害という症状は解決されるかもしれませんが、私が抱えていた根本的な問題は解決されません。問題の根本にアプローチして解決するのがカウンセリングですが、日本では当時まだカウンセリングが一般的ではなく、どこに行ったらよいかわかりませんでした。もっと気軽にカウンセリングが受けられるようになれば、より多くの人が自分の人生と向き合うことができる。そう考え、好きなときにどこからでも受けられるオンラインカウンセリングを提供するため、cotreeを立ち上げました。

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自身の体験からカウンセリングの重要性を実感し、cotreeを設立した櫻本さん

―「cotree」という社名の意味、込められた想いは何でしょうか。

「cotree」というのは電気回路の用語で「complement tree(補木)」のことです。回路に電気が通るための最後の1本の線がcotreeなので、その人の力を生かし可能性を輝かせるのに必要な支えに、という想いを込めています 。もともと社名には、「一緒に」という意味の「co」という言葉を使いたいと思っていたのです。counselor(カウンセラー)やcoach(コーチ)の頭文字でもありますし。 そこでcoとtreeを合わせて「心をともに育てる木」という意味を込めて 、「コトリー」という響きもかわいかったので、社名に決めました。

―オンラインに特化されたサービスをされていますが、カウンセリングをオンラインで行うメリットはどんなところにあるのでしょうか?

オンラインカウンセリングには、地理的・時間的な制約がない、低コスト、気軽に色々なカウンセラーを試すことができる、といったメリットがあります。カウンセリングは続けていくなかで思考や行動が変容するので、継続することが大切です。その意味で、オンラインカウンセリングは気軽に始めることができて、希望する場合には継続もしやすいため、大きな利点になっていますね。

―オンラインカウンセリング業界におけるcotreeの特色と、成長の秘訣を教えてください。

オンラインカウンセリング自体は2001年頃からあったサービスです。2014年にcotreeを立ち上げたときにも5、6社はあったと思います。しかし、一般の人に広くリーチするのが難しく、マーケティングがしづらい領域なので、収益が上がらずに、オンラインカウンセリングの会社はできてはつぶれていくのが実情でした。そんななかでcotreeは6年間続けてきて、ビジネスとして成り立たせてきたことには自負があります。初期はとにかく「やさしさでつながる社会をつくる」という理念を大事にして、儲からなくても続けてきました。

成長できた理由として大きいのは、社会の変化のタイミングもありますが、より直接的にはSNS の活用だと考えています。より多くの人にリーチすべく、ソーシャルメディアでの発信に力を入れていましたが、大きな転機となったのはFacebookからTwitterやnoteに重点を移したことでしょうか。話題がメンタルヘルスに関わるデリケートなものになりますので、本名ではシェアしづらいのです 。そのため匿名でのシェアがしやすいTwitterは相性が良かったのだと思います。また、情報を発信する上で意識しているのが「社員の顔の見える化」です。弊社ウェブサイトに社員の顔写真を掲載したり、社員が個人名で発信をしたりと、オープンな空気感を醸成するようにしています。こうした細かな積み重ねによって、お客様に安心して利用していただけるようになってきましたし、実名でシェアしてくださる方もかなり増えてきました 。不調を抱えることはだれにでもあり、恥ずかしいことではない。困ったら支えるサービスがある。それを広く知ってもらうため、これからも積極的に発信を行っていきます。

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電話やビデオ通話のほか、カウンセラーと1日1回程度のメッセージのやり取りを通じたカウンセリングも提供している(画像提供:cotree)

―コロナ禍でオンラインカウンセリングの利用に変化は見られましたか?

利用者が増え、売り上げも伸びています。コロナ禍でメンタルの不調を訴える人が多くなったこともありますが、人々がオンラインでの対話に慣れてきたのも利用増の要因だと思います。これまでは、カウンセリングでは対面での空気感や非言語情報が重要なので、「オンラインでカウンセリングはできない」と言う専門家の方もいらっしゃいました。でも、オンラインにせざるを得ない状況になり、やってみたらオンラインでも感情がきちんと伝わり、大丈夫だということが今まで懐疑的だったみなさんにも伝わったのではないかと思います。今までちょっと肩身の狭い思いをしてきましたが(笑)、コロナ禍でオンラインカウンセリングの地位が確立されてきたと言えるかもしれませんね。

カウンセリングとコーチングの両輪で問題解決を。

―2020年1月にグループ会社として株式会社コーチェットを設立されましたが、こちらではどのような事業を行っているのでしょうか。

チームを育てるリーダーになるためのコーチングプログラム「CoachEd(コーチェット)」と、経営者向けエグゼクティブコーチング「escort(エスコート)」を提供しています。オンラインカウンセリングを6年間やってきたなかで、人の苦しみと喜びのほとんどは、周りの人との関係性の中で生まれている ということがわかってきました。不調を抱える人を生まないようにするには、やさしく丁寧に関わる、良い影響を与える人を増やしていくことが必要だと考え、人を育てる力を身につけるためのコーチングを、リーダーや経営者向けに展開することにしたのです。

―経営者・リーダーに特化したコーチングを提供する理由・背景を、もう少し詳しくお聞かせください。

コーチングの提供に際し、経営者や起業家の方々の利用データを分析してみると、見えてきたことがありました。それは、他の利用者と比べて利用期間が長く、単価が高いということだったんです。つまり、経営者や起業家は“継続して伴走してくれる第三者のサポート”を必要としているということを示していました。立場上なかなか人に相談できないのでしょうね。悩みの内容が専門的で、一般のコーチングでは対応できないところもあるため、経営者・リーダーに特化したコーチングの必要性を感じました。部下がすこやかに働けるかどうかはリーダーのあり方次第です。でも、部下への想いはあってもやり方がわからない、自分をコントロールできないというリーダーが多い。その「わからない」「できない」が結果として不調につながり、リーダーの不調が部下の不調を生むので、リーダーに適切なコミュニケーションやマネジメントを学んでもらい、根本的な問題解決につなげていければと思っています。

―cotreeのカウンセリング/コーチングとCoachEdのリーダー育成 、その両輪で問題解決を図ろうとされているのですね。

そうですね。cotreeでは必要な時に自分に合ったカウンセラーやコーチとマッチングすること。CoachEdでは、カウンセリングやコーチング的な関わりができるリーダー、つまり影響力を持った人を増やすことで、より多くの人が個性を生かし、希望を持って生きていくことができる社会を目指しています。 cotreeとCoachEdでアプローチは違いますが、すべての人がつながりに支えられて困難を乗り越えていくことができる社会を目指す、という点においては同じです。ひとつの山をふたつのルートで登っていくようなイメージです。

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“ともに育つ木” “補木”とcotreeの「c」をデザインしたロゴマーク(画像提供:cotree)

顔が見えるコミュニティは“第三の居場所”になる。

―cotreeが日本橋にオフィスを構えた理由を教えてください。

もともとは田町にオフィスがあり、移転する際、渋谷などのメジャーな場所である必要はないけれど、できれば馴染みのあるところがよいなと思っていました。実は私、東野圭吾さんの『新参者』の大ファンで(笑)、小説の舞台である人形町・日本橋エリアが大好きなんです。それに日本橋は、古いものと新しいものが混ざり合っていて、にぎやかだけど人がゴチャゴチャしておらず、アクセスもいい。ちょうどいい物件が見つかったこともあり、日本橋に決めました。

―櫻本さんにとって、日本橋という街・コミュニティはどのようなものでしょうか。

とても親しみやすい雰囲気がありますね。よく行くお店では、きちんと人の顔を覚えてくれます。日々通うからこそ、ゆるいつながりが生まれていると思います。まちに知っている顔が増え、人の顔が見えてくると、愛着がわいてきますね。また、オフィスが入っているのは小さなビルなので、すれ違う人と挨拶や会話ができるのもうれしいです。都心の高層ビルだとそうはいかないと思いますので……。

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cotreeのオフィス近くの風景。都心でありながらも、街にはどこかゆったりとした空気が流れる

―街やコミュニティの雰囲気もメンタルヘルスに影響するのでしょうか。

そう思います。メンタルヘルスを整えるうえで重要なのが、「顔が見える」ということ。メンタルが不調のときは人の顔が見えなくなり、周りを見る解像度が下がって、「みんなが」「だれもが」といった抽象的な見方になります。顔が見えていたり、具体的なエピソードとつながっていたりするほうが、健全に情報を処理できているということなのです。顔が見えるつながりは安心感をもたらし、つながりによって相手からエネルギーをもらうことができます。つまり、顔の見えるコミュニティは人のメンタルによい影響をもたらすのです。そのようなコミュニティはいわば「サードプレイス(第三の居場所)」としての役割を果たします。

―そのような地域コミュニティが失われつつある現代社会において、cotreeが果たす役割とはどのようなものでしょうか。

かつてコミュニティは土地に紐づいていましたが、今は地理的制約がなくなり、コミュニティがどんどんオンライン化しています。そのように社会が大きく変化するなかで、新しい環境にうまく適応できないときにメンタル不調が起こりがちです。まさに今のコロナ渦も大きな環境の変化にあたりますよね。その変化に適応できず不調に陥った人を支えるのがcotreeの役目。カウンセリングで色々な視座・視点を提供し、問題を立体的に見せて、意思決定をサポートします。利害関係のない第三者だからこそ、しっかりと頼ることができる面もあると思いますね。

とはいえ、地域に根差した顔の見えるコミュニティも今後なくなるものではありませんし、オンラインのコミュニティと行ったり来たりしながら、それぞれのよさを享受すべきなのではないかと思います。自分の中でそれぞれのコミュニティの位置づけがはっきりしたり、自分にとっての最適なバランスが見つかって使い分けられるようになったりすると、不調も改善しやすくなるのではないでしょうか。

「やさしさでつながる社会をつくる」ために。

―cotreeのビジョンである「やさしさでつながる社会をつくる」には、どのような想いが込められているのでしょうか。

「やさしさでつながる社会」とは、苦しいときや困ったときに支えてくれる人がいる、前に進む手助けをしてくれる人がいる、だれも孤立しない社会のことです。このような社会をつくることが、世界の幸福量がもっとも早く効率的に増えると考えています。「やさしさ」とは、お金や時間のように有限のリソースではなく、無限に生み出せるもの。人の個性を生かし育てたり、人をより豊かにしたりすることができますし、やさしくするほうもうれしい。やさしい人を増やすのがコーチェットであり、やさしいつながりを増やすのがcotreeなのです。

―「やさしさでつながる社会をつくる」ために、今後の抱負や目標をお聞かせください。

収益を最大化することよりも、社会的なインパクトを最大化することが目標です。そのために、これまで手が差し伸べられていないところにどうやって届けていくかを、地道に考えていきます。たとえば、医療従事者や企業・個人にカウンセリングを無償で提供する「新型コロナ メンタルサポートプログラム」のように、これまでカウンセリングを利用できなかった人が使えるようになるしくみを広げていきたいですね。これは企業・個人の支援によるものですが、支援される側だけでなく、支援する側も困っている人を助ける貢献ができることを喜んでくださります。そのように支え合う関係性を生みだしていきたい。cotreeそのものが、やさしさでつながる社会の縮図でありたいですね。ビジョンに共感してくれる人や企業と一緒に、「やさしさでつながる社会」をつくっていきたいと思います。

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「新型コロナ メンタルサポートプログラム」は、企業・個人とcotreeが共同で支援する形で、自社従業員や自社サービスの顧客、医療従事者を含む必要な人々に向けて無償でオンラインカウンセリング(電話、ビデオ、メッセージ)を届けるしくみ(画像提供:cotree)

―最後に、「Bridgine」読者へのメッセージをお願いします。

今のような変化の多い時期は苦しくて当たり前です。そのなかでも、新しい環境がどうなっていくのかをイメージしながら、自分はどうしたいのかを選び取っていくことが大切。いろいろな前提条件が変わる中で、今までのやり方が正しいとは限りません。あらためて自分自身と向き合い、自分が本当は何を求めているのか、何を願っているのか、新しい社会で自分がどう生きていくのかを考えていく。苦しい中でも、小さなことでよいので何か新しいチャレンジをしてみましょう。そうすることできっと少しずつ前向きな気持ちになれるはずですよ。

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「変化の大きなときだからこそ、これまでの価値観にとらわれずに新しいことをやってみては」と呼びかける櫻本さん

取材・文:小島まき子 撮影:岡村大輔

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