Interview
2024.09.13

眠れないほどマンガに夢中になるホテル「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」。海外ゲストから学生まで幅広く惹きつける“漫泊”とは

眠れないほどマンガに夢中になるホテル「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」。海外ゲストから学生まで幅広く惹きつける“漫泊”とは

一晩中マンガの世界に浸る。そんな“漫泊(まんぱく)”という極上の体験ができるホテル「MANGA ART HOTEL」。今年4月には日本橋・馬喰町に3店舗となる「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」がオープンし、国内外のマンガ好きたちから熱い注目を集めている。

仕掛け人は、「新しいホテルの在り方を創造する」をミッションに掲げ、コンセプトホテルの企画・運営を行う株式会社dot。「MANGA ART HOTEL」が誕生した経緯、そして3店舗目を日本橋・馬喰町に構えた理由と今後の展望とは。幼い頃からマンガが好きで、現在では「MANGA ART HOTEL」の運営全般に携わる広報の秋葉さんにインタビュー。今回、ジャンル問わず毎月 100 冊以上マンガを読む漫画ライターのちゃんめいさんと共にお話を伺いました。

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ちゃんめい マンガライター。2019年より、マンガ情報サービス「アル」にて、マンガを専門に執筆・取材を行うマンガライターとして活動をスタートさせる。現在では、マンガを中心に書評・コラムの執筆のほか、作家への取材を行う。トークイベント、女性誌のマンガ特集にも出演。ジャンル問わず毎月100冊以上マンガを読む。文化放送 超!A&G+「ラジラブ!」第4期パーソナリティ。

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「漫画喫茶ではない」マンガに集中できる唯一無二の空間

―dotにジョインするきっかけはなんだったのでしょうか?

偶然「少年ジャンプ+」を読んでいたら「MANGA ART ROOM, JIMBOCHO」のルポマンガと出会ったことがきっかけです。「すすめ!ジャンプへっぽこ探検隊!」というタイトルのコミックエッセイで、「MANGA ART ROOM, JIMBOCHO」と『ダンダダン』のコラボルームを紹介する回だったんです。僕自身もともとマンガが大好きだったので、こんなホテルあるんだ! と。それがとても印象的で、半年後に応募して転職しました。

―秋葉さんが担当されている業務を教えてください。

現在はホテル業務やマンガの選書、清掃管理など「MANGA ART HOTEL」全般の業務を担当しています。一応肩書は広報ですが、弊社が少人数ということもあり事業に関わることはなんでもやりますね。

―私もマンガが大好きなので秋葉さんが「MANGA ART HOTEL」に心惹かれた理由にすごく共感しますが、そもそもどのような経緯でこの事業がスタートしたのか教えていただけますか?

まず、弊社の共同代表2人が、2020年の東京オリンピックに向けて何かできないか? と考え始めて。そこで日本が誇るカルチャーであるマンガに着目し、主軸をマンガにしたコンセプトホテルを作ろうという話になった。それが「MANGA ART HOTEL」の始まりだと聞いています。

そして、ただマンガが置いてあるホテルというわけではなく、“ホテルに泊まることを目的にして欲しい”というコンセプトがあります。例えば、東京のホテルに泊まっても、一般的にホテルはあくまで観光地までの中継地点なんですよね。ですが、弊社としてはマンガという日本文化に触れるためにずっとホテルにいる。この体験を目的に「MANGA ART HOTEL」を利用してくれたらという思いで事業をスタートさせました。

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話題のアニメ化作品から、長編作品、不朽の名作、面白さが凝縮された1巻完結の作品までバリエーション豊かなマンガが並ぶ。

―それで2019年に1店舗目となる「MANGA ART HOTEL, TOKYO」が神田にオープンしたと。

「MANGA ART HOTEL, TOKYO」はドミトリーなのですが、これは宿泊されたお客様同士でぜひ交流を深めてもらいたいという狙いがありました。マンガの話はもちろん、おすすめの日本の観光地、日本の好きなところを紹介しあう。みんなで日本をもっと大好きになって旅行を楽しんでもらえたらなと。

2022年にオープンした「MANGA ART ROOM, JIMBOCHO」、そしてここ「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」の共用スペースでは、色々な国から来られたお客様たちが交流を深めているのをよく見かけます。話している内容は、お互いの国の話や好きなマンガの話、秋葉原で購入したフィギュアの自慢大会など(笑)。私もホテルに駐在していると結構話しかけられるのですが、当初願っていた異文化交流が着実と実現できていて嬉しいです。

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MANGA ART HOTEL, TOKYO(※写真提供:dot inc.)

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MANGA ART ROOM, JIMBOCHO(※写真提供:dot inc.)

―「MANGA ART HOTEL」でマンガの世界に一晩中浸る体験のことを“漫泊(まんぱく)”と唄っているところも言い得て妙ですが、そういったある種の新たなカルチャーを構築、浸透させていく上で課題もあったのではないでしょうか?

立ち上げた頃は、漫画喫茶と誤解されてしまうことがあったようです。確かに漫画喫茶にも個室がありますし宿泊もできますが、「MANGA ART HOTEL」は旅館業を取得しているので漫画喫茶ではなくホテルなんです。

また、“漫泊(まんぱく)”というブランドメッセージを掲げているように、「MANGA ART HOTEL」に宿泊した際はもうマンガだけに集中して欲しいんですよね。それこそ、1店舗目の「MANGA ART HOTEL, TOKYO」では布団のなかに入ったらマンガと自分しかいない状態になるよう、真っ白な部屋にしたほど。視覚から入るマンガ以外の情報をほぼなくして、一晩中マンガだけに集中してほしいんです。

―各部屋には見渡す限りマンガが広がっていますが、どのような基準で選書されているのでしょうか?

スタッフが心の底から面白い! と思う作品を並べています。新しいマンガとの出会いを大切にしたいので、既に大人気の作品よりも隠れた名作を優先したい気持ちもありますが、例えすでに有名な作品だったとしても、本当にその作品をおすすめしたいのならば選んで良いとスタッフに伝えています。自分が情熱を持ってすすめられるかどうか? が選書の一番のポイントです。

あと、「MANGA ART HOTEL」には「ART」が入っているんですよね。そういった「ART」の観点からもマンガを楽しんで欲しくて、紙のマンガならではの手触り感や装丁の面白さで作品を選んだり、時には画集を置くこともあります。

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普段はなかなか目にする機会がない英語版コミックスも揃う。

―実際にあった利用者の印象的なエピソードがありましたら教えてください。

これは海外ゲストの方から聞いた話なのですが、海外で日本のマンガを買おうとするとかなり高額だし、品揃えの問題もあって全巻揃えるのは大変なのだと。デジタルで読むことはできるけれど、こうして紙のマンガを収集することはできないから「MANGA ART HOTEL」みたいにずらっとマンガが並んでいるだけで嬉しいみたいです。マンガと一緒に写真を撮ったりされていて、これは日本にはあまりない感覚ですよね。

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オノマトペがどのように訳されているのか、英語版と日本語版を比較しながら読んでみると面白いかも?!

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怖いものが苦手なゲストに配慮して、ホラー作品はあえて本棚の隙間にソッと配置しているそう。

「アートの町」馬喰町。「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」の展望

―今年4月に3店舗目となるここ「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」がオープンしましたが、なぜ日本橋という地を選んだのでしょうか?

「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」は、JR東日本都市開発さんとリノべるさんとの協業で誕生しました。実はもともとこの場所には、JR東日本都市開発さんが所有する「Train Hostel 北斗星」がありまして。寝台列車「北斗星」で使われていた備品を活用したホテルなのですが、閉館してからはずっと空きの状態だったみたいです。それで、何かできないか? ということで色々とリサーチしたところ「「MANGA ART HOTEL」を見つけてくださってこうしてお声がけいただきました。

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MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO(※写真提供:dot inc.) 寝台列車「北斗星」のコンセプトを感じさせるゲストルームも用意。

―ベットや洗面所の雰囲気から旅を感じるのは、そういった経緯があったからなんですね。各店舗ごとのコンセプトはどのようにして決められているのでしょうか。

眠れないほどマンガに夢中になるというコンセプトは全店舗に共通していて。それ以外だと、町やゲストの需要に合わせて設計しています。「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」では、大人数で泊まることを想定して作りました。

外国人観光客の方って3世代で旅行されるケースが多いんですよね。特にアジア圏の方は祖父母からお孫さんまで一緒に宿泊を希望されることが多くて、その場合「MANGA ART ROOM, JIMBOCHO」だと1部屋最大4名までだから2部屋に分かれてしまう……。だから、最大で12名泊まれる部屋(TypeAは最大10名、TypeBは最大12名)を用意しています。

―オープンしてもうすぐ半年経ちますが、他の2店舗とは違う「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」ならではの特徴がありましたら教えてください。

先ほど、外国人観光客の方に向けて大人数で宿泊できる部屋を作ったと言いましたが、意外と日本の大学生が団体で泊まりに来てくれるんですよ。他の2店舗でも学生が利用されることはありましたが、大人数で宿泊されるのはあまりなかった。これまでとは違う客層を取り込むことができたという意味でも、「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」をオープンして良かったなと思います。

―秋葉さんご自身は「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」を通して馬喰町、そして日本橋にどんな魅力を感じていますか?

まず、馬喰町ってアートギャラリーが増えていて、最近では「アートの町」と言われているんですよね。我々も「MANGA HOTEL」ではなく、「MANGA ART HOTEL」と謳っているのでこの町と合っているのかなと感じています。あと、馬喰町って日中はサラリーマンしか見かけないのですが、夕方以降になると外国人観光客の方がたくさんいらっしゃって、昼と夜で町を歩く人がガラッと変わるんですよ。

そして、日本橋についてですが、僕が好きな “古いものと新しいものが共存している”というのを見事に体現している町だと感じます。例えば、重要文化財に指定されている高島屋日本橋店を眺めながら少し歩くと、東京スカイツリーという新興の観光スポットが見えてくる。そういった古いものと新しいものがまぜこぜになっているのがすごく面白いなと思います。馬喰町も日本橋も二面性のある町ですよね。

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―今後、この地でどんなコラボレーションをしていきたいですか?

冒頭でお話しした「MANGA ART ROOM, JIMBOCHO」×『ダンダダン』以外にも、「BOOK HOTEL 神保町」では神保町という町をジャックして『百木田家の古書暮らし』とのコラボルームを実施しました。作品とのコラボレーションは過去に実績があるので、「MANGA HOTEL」でもコラボルームをぜひ実施してみたいです。あとはせっかく馬喰町が「アートの町」ですので、マンガをフックにこの町のギャラリーをジャックしてみたり。馬喰町を全体を巻き込んで、新しい取り組みができたら良いなと思います。

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一部のビジネス書はコミックス版も取り揃えている。難しいビジネス書もマンガなら楽しく学べるはず!

―最後に「MANGA ART HOTEL」の“中の人”だから知っている、おすすめの過ごし方を教えてください。

3店舗それぞれ部屋のタイプが違うのですが、共通しているのは時計を置いていないという点。ぜひ時間忘れてマンガに集中してもらいたいです。

「MANGA ART HOTEL, TOKYO」に宿泊するならやっぱり異文化交流を楽しんで欲しいです。英語が話せないと躊躇ってしまうかもしれませんが、海外ゲストの方はとにかく日本のことを知りたいんです。例えば海外ではまだ知られていないおすすめのマンガを教えてあげるとか、ぜひ翻訳アプリなどを使ってコミュニケーションを取ってみてほしいです。あとこの店舗はベッドが全部コアラマットレスなんです。眠れないほどマンガに夢中になってほしい、と言っておきながら寝心地が最高という(笑)。ですので、一晩中マンガを読みたいけどマットレスが心地良い! そんなせめぎ合いを感じていただけたらなと。

「MANGA ART ROOM, JIMBOCHO」は、プライベートサウナ付の個室型ホテルになっているので、サウナで整って頭と心を空っぽにしてからマンガを読んでいただけたら、至福のマンガ体験ができると思います。そして、ここ「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」には実はプロジェクターがあるんですよ。マンガを読みながらアニメを流す機会ってあまりないと思うのですが、ぜひアニメ化しているマンガを読みながら、アニメとの違いを楽しんでほしいです。

“まちの編集部員”の参加も

また今回、BridgineのLINEオープンチャットに参加いただいている「Bridgine まちの編集部員」から募集し、実際に現場での取材体験を実験的に行いました。日本橋で働かれている視点での質問などが生まれ、インタビューは一味違ったものに。LINEオープンチャットでは、今後も取材体験や日本橋のプチ情報などが発信されていくので、興味のある方はぜひ下記QRコードからチェックしてみてください。

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取材時の様子(編集部撮影)

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取材・文:ちゃんめい 撮影:柴崎まどか

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「漫画家さん・編集者さん」

「MANGA ART HOTEL, BAKUROCHO」は海外ゲストが多いので、漫画家さんや編集者の方にお越しいただいてレクチャーを受けながら実際にマンガを描いてみるなど、マンガ関連のワークショップを開催してみたいです。

7階がシェアオフィスになっていて、イベントを開催するには十分なスペースなので、今後プッシュしていきたい新人漫画家さんのギャラリーを開催するのも良いですし、その流れでぜひ宿泊いただくのも大歓迎です。

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