Interview
2019.08.28

「日本橋をオトナ起業家の聖地に」。スタートアップを支援し続けるプロトスター。

「日本橋をオトナ起業家の聖地に」。スタートアップを支援し続けるプロトスター。

これまでにないほどの盛り上がりを見せている日本のスタートアップビジネス。国内の資金調達総額は、2018年までの過去6年で約6倍となり、日本政府や自治体も起業支援プログラムを次々と打ち出し、スタートアップ企業と協業に乗り出す大企業も増えています。スタートアップと言うと、渋谷など東京の西のエリアに多いイメージがありますが、昨今日本橋にも多くの起業家が集まっていることをご存知でしょうか?今回は日本橋で起業家コミュニティや、起業家と投資家をつなぐ情報検索サービスを運営しているプロトスター株式会社の代表・栗島祐介さんに、なぜ日本橋でスタートアップを取り巻く環境が盛り上がっているのか、そして今後どのような展望があるのかを伺ってみました。

スタートアップ支援の醍醐味は「人類を少し前に進めている感覚」

—まずは、プロトスターの創業のストーリーを聞かせてください。

私はプロトスターを創業する前に、アジアやヨーロッパで教育領域に特化したシード投資を行うVillingという会社にいました。そこで働いていたときに感じたのは、日本は教育をはじめ、宇宙関連、農林水産などの課題が複雑な領域になると、投資としての支援が行き届いておらず、このままだと国の成長が頭打ちになってしまうということ。その課題を解決すべく、特に産業構造的にブレイクスルーを必要としている困難な(Hardな)領域をテクノロジー(ハードテック)で変革しようとする起業家の支援コミュニティをプロトスターの前身として立ち上げました。

—現在は、どのような活動をされているのでしょうか。

企業家向けの情報を提供する「起業LOG」というメディアや、国内最大級の起業家・投資家の情報検索サービス「STARTUP LIST」、ハードテック領域に特化した起業家コミュニティ「Star Burst」の運営をしています。「Star Burst」というコミュニティ名は、短期間に大量の星が形成される現象を指す天文用語なのですが、「輝かしい星となる起業家がたくさん生まれるように」という想いを込めて名付けました。起業家を取り巻く環境として今僕自身が課題だと感じているのが、起業するときに必要な情報が等しく行き届いていないということ。情報を適切に取得できていない起業家が実は多く存在していて、一部に情報が集まるような状況になっているんです。

なので、起業したい人が誰でも適切な情報にリーチできて、自分の成し遂げたいことに思いっきりチャレンジできる環境を生み出すために、今の活動をはじめました。

具体的に一部お話しますと、「STARTUP LIST」は起業家と支援者をマッチングすることを主な目的としたサービスで、現在約1700社以上が参画しています。投資家をどう見つけていいかわからないという起業家向けに、投資家をつなげるサービスを提供しており、約5,000件弱のマッチングが生まれています。

—様々な活動をされていますが、栗島さんはスタートアップ支援のどんなところに魅力を感じているのでしょうか。

プロジェクトを立ち上げた人の熱量に動かされて人が集まり、そこからまったく新しい価値が生み出されていく、というところです。従来型の事業会社を支援するコンサルとはそこが違っていて、人類を少し前に進めて加速させている感じが楽しいんでしょうね(笑)

—昔からそのような感覚をお持ちだったんですか。

「WHILL」という、新型の車椅子を生み出すスタートアップが生まれる前のプロジェクトを近くで見ていたのが、僕の価値観に大きく影響していると思います。「WHILL」の創業メンバーとは、私が運営に関わっていたとあるビジネスコンテストで出会ったのですが、彼らは社会人として有名企業で働きながら夜な夜なガレージのようなところに集まって色々な面白いものを作っていて、その中にその新型の車椅子のプロダクトがあったんです。(https://whill.jp/

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「暮らしを楽しくする新しいクルマ」というコンセプトの電動車椅子(WHILLサイトより引用)

彼らは、車椅子のもつ課題に目を向けました。その課題というのは、ちょっとした段差で100メートル先のコンビニに行くことを諦めてしまうような機能性の悪さと、乗っているとみんなが目を背けてしまうような「障碍者の象徴になってしまう」というデザイン性の欠如です。彼らはこれらの課題を解消しようと取り組み始めて、やがて健常者も乗りたくなるような車椅子、パーソナルモビリティを作ってしまった。障害者が障害者ではなく、「かっこいい乗り物に乗っているかっこいい人」に変わるというイノベーションが起きたんです。

熱量を持って趣味でプロジェクトに取り組んでいた人のところに、面白い人たちが集まってきて、イノベーティブなプロダクトが出来上がる。アウトプットができたことで資金も集まり、さらに参加したい人が集まるようになり、少しずつ拡大してアメリカにも進出。このプロジェクトではこのように、コミュニティを起点として世の中を動かしていくダイナミックな流れが生み出されていたんです。

僕もその様子を端から見ていて、これをより大きな規模で出来たら面白いんじゃないかと思い始めました。

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連続してイノベーションが起こる「街」を作っていきたい

—栗島さんがコミュニティ、街を舞台に実現されようとしているのはどのような世界観でしょうか。

私が過去にみてきた経験では、プロダクトが一つ出来上がるとコミュニティの熱量がプロダクトに奪われて行ってしまい、結果としてコミュニティが停滞や解散してしまうケースがとても多くありました。でも、シリコンバレーでは絶え間なく新しいプロダクトやサービスが生まれ続けている。それは街全体が一つの大きなコミュニティとして機能しているからです。できるだけ大きい規模で熱量が集まる場所を作っていって、参加の機会がたくさんある状態にできると、1つのプロダクトで全ての熱量が消費されることがなくなり、シリコンバレーのように連続的にイノベーションが起こるような街が作れると考えています。

—スタートアップという視点で、シリコンバレーと比べて、日本の街に今足りないのはどんなものでしょうか?

一言で述べるなら「情報発信」です。情報は発信する人のところに集まります。シリコンバレーの強みは、世界中の何十カ国という国の人たちが集まってきて、成功モデルを探し、それをそれぞれが自国に持ち帰って広めるところにあります。トレンドが生まれる気配のある場所には、トレンドを起こしたい人が集まる。この流れが日本にはまだ不足していますよね。日本には色々な素材や面白いものがたくさんあるのに、それをトレンドとして世界に発信できていない。当たり前のように海外も市場にすればいいのに、日常的にそういう人たちと接点がないから視野に入らないのかもしれないですね。ビザのとりにくさや、外国人が不動産を借りにくいという、日本の根本的な課題も影響していると思うのですが、最近は外国人向けの賃貸物件なども出てきており、そういう環境が増えるのは良い傾向です。

最近、フランスのフレンチテックが存在感を高め始めていますが、フランスは日本と比較してGDPが高いわけでも、技術的に尖っているわけでも、規模が大きいわけでもない。だけどブランディングや発信の仕方が上手なんですよ。アメリカや中国との比較では、国の規模や人口に大差があるから仕方がない、と言い訳もできましたが、フランスの事例が出来たことで言い訳が利かない状態になってきました。日本はこの部分でもっと努力をしなくてはならないと思いますね。

—世界的に見るとまだ伸びしろがたくさんありそうな日本のスタートアップ企業ですが、栗島さんが今まで支援してきた中で印象的だったのはどんな企業なのでしょうか?

せっかくだから、日本橋近くの企業と、渋谷方面とで一つずつ挙げてみましょうか。

まず日本橋近辺だと、理系人材のダイレクトリクルーティングと、大学と事業会社の共同研究のプラットフォームを提供している「POL」という企業です。東大の学生起業家が立ち上げたのですが、学生という立場のメリットを活かして研究室に出向いて直接教授に会いにいき、研究内容などをヒアリングし、それをデータベース化しています。そのデータを元に、事業会社が学生を直接リクルーティングできる仕組みを作り、さらには、研究室と事業会社を繋げるR&Dのプラットファームも立ち上げました。研究室という閉じた世界を学生という立場をうまく使って開拓しながら、1,2年くらいで100人規模の会社に成長しています。(https://pol.co.jp

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「LabBase」という採用プラットフォームを運営しています((株)POL サイトより引用)

渋谷近辺だと、三軒茶屋にある日本酒のスタートアップ企業「WAKAZE」が印象的です。自分たちで酒蔵を持ち、酒造業界にイノベーションを起こすことを目標に立ち上がった企業です。日本酒が大好きなコンサル出身の方と、約130年続いている酒蔵の息子さんとが共同創業した会社なのですが、日本酒業界では、新しい酒蔵を持つことが難しいため、最初は同業界の関係者たちにかなり叩かれていました。しかし彼らは「第三の日本酒」という新しいジャンルのものを作り、三軒茶屋に酒蔵を持つことに成功したんです。100ロットからオリジナルの日本酒を作れるというオリジナリティを打ち出し、1億円くらいの調達に成功し、今では日本酒業界の黒船的な存在として、活躍しています。(https://wakaze.jp

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4.5坪の「WAKAZE三軒茶屋醸造所」でSAKEの新しい可能性を探り続けています(WAKAZE サイトより引用)

スタートアップにとって魅力と可能性だらけ。日本橋は「オトナベンチャー」にふさわしい街

—プロトスターの活動拠点を日本橋に構えていらっしゃる理由を教えていただけますか?

東東京には西東京に比べて約6倍の東証一部上場企業が存在しています。一方スタートアップ企業の数は、千代田区・中央区を合わせた数が渋谷区よりやや多いくらいのレベル。東東京にはこれだけの大企業が集まっているので、お客様との距離も近いですし、挑めばもっとチャンスが出てくるはずだと考えました。特に、BtoBや研究開発領域のスタートアップを考えているのであれば、東東京は好立地と言えます。

また、初めて起業する場合、20代より40代の方が成功確率が約14倍も高いというデータやもあって、「オトナベンチャー」が集まる場所を選びたかったというのもあります。日本橋近辺は、老舗店舗や大企業が集まっており、街全体が渋谷近辺に比べると落ち着いた雰囲気ですよね。この雰囲気も「オトナベンチャー」を立ち上げるのにふさわしいと思いました。ここできちんと起業できる文化ができれば、この国からたくさんの成功事例が出る可能性があります。この国のGDPを支えている製造、物流、不動産、建築、各分野の主力企業が多く存在することを考えると、この辺りは確実に起業に有利です。

—日本橋界隈に大きな魅力を感じていらっしゃるんですね。

そうですね。日本橋界隈は平地なので自転車・車・バイクも含めて移動がしやすく、職住近接が簡単にできるというのも魅力の一つだと思います。さらに西側に比べて静かなので、エンジニアやデザイナーなどの技術者にとってはこちらの方が向いているかもしれませんね。街の雰囲気としては、渋谷近辺は「Enjoy」、日本橋近辺は「Fun」と言ったら、わかりやすいでしょうか。「Enjoy」は一時的な興奮を意味していて、「Fun」は日常的な楽しさを意味しています。渋谷方面は出かけていく、遊びにいくところではあるけれど、僕にとっては働く場所、住む場所かと言うとちょっと違うかな、と。日本橋界隈は、日常を過ごしたくなる場所という意味で魅力がありますね。

—その日本橋のこれからの可能性についてもう少し聞かせていただけますか?

日本橋でオトナ起業家が継続的に生まれるような文化を作っていくために「E.A.S.T.構想」というプロジェクトを立ち上げました。東京の東側エリアを国内最大のベンチャー集積地とし、グローバルトレンドが継続的に発信される地域にしていきたいというビジョンを持ち、動いています。そのために、チャレンジする人たちをここに集めていきたい。身近な人の1/4が何か新しいことをすると、感化されるというデータがあるのですが、それを背景に考えると、周りのオトナたちが当たり前にサイドプロジェクトや新しい取り組みにチャレンジするのが常識になれば、私もやってみような?となる可能性が高いんです。そうして感化されるのが当たり前になることが理想で、こちらできちんと旗振り役を担うことさえできれば、熱量の高い挑戦者が集まる街・日本橋を作れると思っています。

ウォークマンを開発した大曽根幸三氏の言葉で「やりたいことは上司に隠れてやれ」というのがありますが、まさしくその通りで、社会人がどんどんサイドプロジェクトを回しまくるようなコミュニティを作りたいな、と。なにかにチャレンジしたい人がやりたいことに挑戦できる、ガレージプロジェクトのような場があったらわくわくしませんか?感じている課題を解決できるような、事業やサービスを考えて、それを社内に持ち帰ってもいいし、スピンアウトして会社を作ってもいい。「E.A.S.T.構想」プロジェクトの中では、そのような実践的インプット・アプトプットの場として、天文用語で衛星の軌道を調整する技術を意味する「Swing By」と名付けたコミュニティも作る予定です。(2019年8月末発表予定)

—「コミュニティ」ということを非常に意識されていらっしゃいますが、「コミュニティ」に対する栗島さんのお考えをお聞かせいただけますか?

これは感覚的なイメージですが、コミュニティは鉄を熱する炉かな、と。鉄を熱する強度の高い囲いがあって、そこにいかに同じような熱量のものを突っ込んで火をあげるか。この「炉」の性質次第で、例えばクリエイターが生まれたり、スタートアップが生まれたり、アウトプットは変わると思っています。言うなれば、化学反応なんですよね。色々なものを掛け合わせて、反応が起きていく過程こそがコミュニティだと思います。

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「街」は層の重なり合い。「オトナ起業家の聖地」から始まる街づくり。

—街を舞台にそんなコミュニティが生まれたら、と考えるとわくわくしますね。今後、日本橋界隈で活躍が期待されるスタートアップ企業はありますか?

ファームシップという、世界最高規模の人工型植物工場の会社でしょうか。来年あたり、この企業が浜町近辺に1階にカフェが入った植物工場の施設を作る予定なのですが、これからの食糧問題に影響を与えていくような存在で注目しています。植物工場の野菜ってスーパーに比べて高いイメージがあるので、赤字になりがちなのですが、ここはハード面を外部と連携しつつ、物流と販売先を整えていることで、成功しているんです。植物工場の野菜のメリットは無菌であるということと、安定供給ができるところにあります。つまり洗わないでサンドウィッチなどに加工できるので、大手のパン屋さんやリゾート施設などに安定供給ができる。マーケティングを元に、この仕組みが先に作られているので、あとはクライアントごとに単価を見合うように調整し、受託をできています。日本橋で作られた野菜が日本橋で食べられる、という日もくるかもしれません。

—なんだかますます日本橋界隈の近い未来が楽しみになってきました。最後の質問ですが、ズバリ、日本橋は「スタートアップの聖地」になれますか?

「オトナ起業家の聖地」になると思います!でもそれだけだとまだ街の一層でしかないので、今後起業家以外にも、食、ライフサイエンス、子育てなど、たくさんの層を重ね合わせながら「街づくり」をしていきたいですね。

取材・文:古田啓(Konel) 撮影:岡村大輔

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