Interview
2020.12.02

今こそ「食」を捉えなおす。現場最前線の二人が語る、これからの飲食店の形。

今こそ「食」を捉えなおす。現場最前線の二人が語る、これからの飲食店の形。

コロナ渦において多くの業種が難しい舵取りを迫られている今、日本橋の飲食店もさまざまな工夫を凝らしながら、新たな時代に向けた挑戦を続けています。すき焼き店「肉鮮問屋佐々木」の5代目である佐々木隆治さんもまたその一人。地域からの期待を集める若手ホープでもあり、お店・街を進化させるべく奔走する日々です。今回は佐々木さんのリクエストにより中央区保健所長・山本光昭さんをゲストに迎え、“食”のこれからについて幅広い話題でご対談いただきました。(※写真撮影時に限りマスクを外しております)

100周年を前に家業に入り、飲食業界を学ぶ日々

―まずは佐々木さんのご経歴を教えてください。

佐々木隆治さん(以下、佐々木):私は大正8年創業の「肉鮮問屋佐々木」の5代目にあたり、現在29才です。もともとは大学卒業後に商社で営業をしていまして、ここで働くようになってからは3年になります。家業に入るように決められていたわけではなかったんですが、お店がもうすぐ100周年を迎えるという時に、 “継ぐ”ということを真剣に考えるようになりまして。以前から家業に興味もありましたし、何よりお肉が大好きな自分がこの店の未来を支えていくべきだと思い、運営に関わるようになりました。それに商社で営業マンとしてお金・人・物の流れを、牛の卸問屋で食肉に関する知識をひと通り叩き込まれた頃だったので、今なら家業に入っても “後継ぎのバカ息子”とは呼ばれないだろうと思ったのもきっかけですね(笑)。

―「肉鮮問屋佐々木」は肉問屋としての特徴を活かした飲食店なんですよね?

佐々木:はい。飲食店としては、すき焼きやしゃぶしゃぶ等の肉料理を中心にお出ししています。名物のすき焼きは、お客様の長寿と健康を願って“寿喜焼”という文字を代々使っていまして、アットホームに楽しく食事ができる店づくりを大切にしています。また食肉の業務卸問屋でもあるので、上質なお肉をリーズナブルに提供できるのも強みです。

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肉鮮問屋佐々木5代目の佐々木隆治さん。同店は昨年100周年を迎えた

―今回のインタビューにあたり、ぜひ山本所長と対談されたいと希望をいただきました。そのきっかけはどんなことだったのですか?

佐々木:山本所長と交流を持つようになったのは実は最近のことで、食肉組合の研修会で講演を聞いたのがきっかけでした。参加者が皆どのようにこの変化の時に対峙していくべきか悩む中で、「恐れることなかれ、されど侮ることなかれ。」というwithコロナ社会に向けた前向きなメッセージと、具体性のある講演内容がとても印象的でした。とはいえ立派なキャリアもある方ですし、最初はお堅い方なのかなと思っていたのですが…、お話してみると唎酒師やワインエキスパート等の資格をお持ちの上、食にも詳しいとっても楽しい方で。食品衛生のプロとして、また食通のお客様としての両方の視点をお持ちだと思い、ぜひ対談させていただきたいとオファーしました。

山本光昭さん(以下、山本):そのようにおっしゃっていただき光栄です。保健所の所長というと堅物のイメージもあるかもしれませんが、私は保健所の名刺のほかにもう一枚「飲み会幹事」という名刺も持っていまして(笑)。日々食べ歩きながら、飲食に関する勉強をするのも趣味なのです。日本橋も仕事でよく行きますが、老舗・名店からカジュアルなお店まで、飲食店のレベルがとても高いですよね。先日、通りがかりで入った人形町の立ち食いのきしめん屋さんも美味しくてびっくりしました。

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中央区保健所長で医師・医学博士の山本光昭さん

かつてない状況でそれぞれが向き合ってきたこと

―コロナ渦と呼ばれるようになってから半年以上になりますが、この間お店を取り巻く状況はどのようなものだったのでしょうか?

佐々木:本当にいろいろなことが起きた“濃い”年でした。5月に2週間休業し売上が大きく減少したのに加え、食材の価格の変動が大きくて、その対応も大変でしたね。外食ニーズが落ち込み国産牛が余って価格が下がったかと思えば、その後は海外の感染拡大に伴って外国産牛肉が入ってこなくなり、価格が高騰。お店で出すメニューにも影響することなので、翻弄されました。

―そんな中で、佐々木さんは次々と策を講じられてきましたよね。

佐々木:そうですね。もう、できることは何でもやる!というつもりで模策してきました。大きい取り組みとしては、これまでやっていた業務用の食肉卸に加え、一般の方向けに小売も始めました。毎月企画を考えて、肉問屋ならではのセットメニューを作っています。中央区・千代田区には自転車で直接配達もしているので、良い運動になってますよ(笑)。また広域での小売拡大のためにネット通販も始めようと考え、shopifyを使って自分でネットショップも立ち上げました。

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10月に開設されたネットショップには、美味しそうな商品が並ぶ。ギフト対応もしている(肉鮮問屋佐々木ネットショップより)

―SNSではレシピも紹介されていて、情報発信も強化されています。

佐々木: Instagramで飲食店・小売・個人の3アカウントを運用していて、それぞれの役割を考えながら発信しています。たとえばレシピを紹介しているのは小売のアカウントなんですが、お肉を買ったらやっぱりそれをいかに美味しく食べるかが一番気になるじゃないですか。だから、お店では伝えきれない“食べ方”の情報を補完・発信することを意識して投稿していますね。

―一方で、感染症対策の最前線にいらっしゃる山本所長も、大変な日々を過ごされているかと思います。

山本:保健所ではこれまで感染対策の指導・相談、検査関連業務、届出関連、関係各所との連携対応など、さまざまな業務を担ってきましたが、第1波と第2波以降ではだいぶ状況が違う、というのが我々の印象です。

当初は我々も医療現場も知識・経験が足りない上、各所からの問い合わせの数もすごくて、まさに混乱の中での対応でした。しかし8月の第2波の頃には、重症化パターンや感染者の治療方法もだいぶ見えてきていたので、保健所はクラスター対策に集中することができるようになってきました。もっとも、軽症者・無症状の感染者に調査協力をなかなか得られないなど、別の苦労はありましたが…、病気の正体が見えてきたことは大きな進展ですね。

―山本所長は先の講演で「恐れることなかれ、されど侮ることなかれ。」というメッセージを発せられたとのことですが、これにはどんな思いが込められているのでしょうか?

山本:よく「正しく恐れよう」ということが言われますが、私はこの表現は結局“恐れて”いてネガティブな姿勢を感じるため違和感を持っています。そうではなく、恐れることと前向きに対応することのバランスが必要だと思うのです。

「恐れることなかれ」の意味では、まず実態をよく知ることが大事です。たとえばワクチンが全てのように言われがちですが、臨床現場ではステロイド剤(デキサメタゾン)が良く効くことがわかり、適切な対応がされれば重症化はかなり減らせるようになってきています。まして日本の医療体制は世界屈指の高水準であり、地域の診療所でも高度な検査と迅速な処置ができる。これは諸外国ではまずないことなのですよ。感染を恐れるあまり家に閉じこもって別の疾患を抱えてしまったり、何かと懸念も多いPCR検査を過信する傾向も、“恐れ”すぎた弊害ではないかと思います。

―確かに、少々過敏になりすぎている面もあるかもしれませんね。では「侮ることなかれ」という部分には、どんなお考えがあるのでしょう。

山本:疫学調査で見えてきた最も感染しやすい状況は、“飛沫が生じる中での会話”なのですが、これを甘くみると容易に感染してしまいます。だからここに集中的に対策していきましょう、ということを皆さんに伝えたいですね。周囲を見ると、感染するはずのない街中でマスクをして、逆に会食やカラオケなど肝心な時にマスクなしではしゃいでしまっている(笑)という方がまだまだ多いなぁとという印象です。

会食がダメだというのではなく、食べている最中は会話しない、会話の時にはマスクするという対応をした上で、それが緩みがちな長時間・大人数の会食は避けるというのがベストなのです。実際にはなかなか徹底するのは難しいのかもしれませんが、最近では「マスク会食」などというものが推奨されるようにもなってきて、新しい会食のスタイルを考える局面に来ています。

―マスク会食の習慣化に向けて、何かアイディアはありますでしょうか?

山本:飲食店としては、会食の対策をお客様だけに任せるのではなく、たとえば飲食店側が食事中だけ使う“おしゃべり専用”の使い捨てマスクを用意する、なんていうのも良いですよね。お客様からも「この店は感染対策をしっかりしているんだな」と、信頼を得るきっかけになるかもしれません。

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日本橋の街の結束が、他にない取り組みを生んだ

―つづいて、日本橋の街に特徴的な傾向があれば教えてください。

山本:日本橋のある中央区は接待で使われるような高級店が多いので、酒席が敬遠されがちなコロナ渦での影響は比較的大きい傾向にあります。また住民17万人に対し昼間人口が60万人という地域でもあるので、テレワークの普及でワーカーが街に来なくなると、昼間のお客様もかなり減ってしまうという側面もあります。都心部ゆえの難しさですね。

佐々木:おっしゃる通りですね。あと、マナーが良い人が多い街でもあるので、世の中に自粛の雰囲気があると、皆さんそれを真面目に守って街に来なくなってしまうんですよね。上品な街の文化が、このような形で影響するのだなぁと実感しています。

―日本橋ならではの取り組みなどはあるのでしょうか?

山本:一つ私が素晴らしいと思ったのは、日本橋料理飲食業組合さんが作られた、感染対策のピクトグラムです。これはそのお店がどんな対策をしているのかが一目でわかる掲示物ですが、ただ漠然と「対策しています!」と表示するのではなく、多くの対策手法の中で「うちの店はこれとこれをやっています」と具体的に伝わるのが良い。またピクトグラムで対策が可視化されることで、スタッフの意識向上や自主チェックシートのような役割を果たしているのも優れた点です。

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各店の状況に合わせてピクトグラムを選び、カスタマイズできるフォーマットになっている(画像提供:肉鮮問屋佐々木)

佐々木:たしかにお客様・お店の双方にとってメリットのある取り組みかもしれませんね。これは組合のメンバーが何度も話し合いながら完成したもの。この街の横の結束の強さが表れた事例だと思います。

それと、日本橋の飲食店が作ったお弁当を介護福祉施設に届ける「日本橋 お弁当で応援プロジェクト」というクラウドファンディングも行いました。先の日本橋料理飲食業組合の青年部である「三四四会」というチームも日頃から交流が盛んなのですが、三井不動産さんをはじめとする地域の企業の皆様の協力も頂きながら、議論を繰り返して実現した取り組みです。福祉施設の方から感謝のお手紙を頂いた時は、すごく嬉しかったですね。

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お弁当
ホームの方

三四四会に加盟する多くの飲食店から、中央区の福祉施設に美味しいお弁当が届けられた(画像:クラウドファンディングREADY FORウェブサイト/一般社団法人日本橋室町エリアマネジメントより)

これからの飲食店は、業界を飛び出すべき

―今後、飲食店のあり方自体が変わっていくとも言われています。長期的な視点で佐々木さんが考えていることはありますか?

佐々木:誤解を恐れずに言えば、コロナ渦になって良かった面も少しあるなと思っていまして…。なぜならこの状況に背中を押されて、今までやってこなかったことをやるきっかけになったから。こんなに飲食店や食の未来を真剣に考えたことはありませんでしたね。いろいろと勉強する中で思ったのは、食べ物や飲み物を提供する以外にも、飲食店としてやれることはまだたくさんあるということ。たとえば食育。食に関する啓蒙やワークショップは大手メーカーや教育関係の方がやるイメージがあると思いますが、僕らのような飲食店の立場で手がけても良いと思っていて。現場の視点で、さらに飲食業界以外の人たちも巻き込みながら発信する方法を考えているところです。

それと、フードロスの観点にも着眼しています。牛肉には皮や油などあまり食用には使われない部分があるのですが、そこに何か付加価値をつけて再活用できたら面白いんじゃないかなと思っています。たとえば昔は豚の油がポマードのように使われていたので、化粧品会社とコラボして現代版整髪料にアップデートできないか?とか。お肉を食べ物として見るだけでなく、異業種とのマッチングを考えていくのは重要ですよね。

―いずれも、飲食の枠を超えた活動がポイントになっていくということですね。

佐々木:はい。業界内での交流はもちろん大切ですが、これからはそれに加えて外の業界ともっとつながりたい。広い視点で食を捉え直すことが重要だと思うんです。だからまずは異業種の友達作りから頑張っています(笑)。

―何か日本橋を舞台にできそうな異業種コラボレーションはありますでしょうか?

佐々木:ホテルと飲食店の協業は相性が良いのではないかと思っています。ホテルの部屋に日本橋の飲食店リストを置いて、ルームサービスのような形でできたてのお料理を近隣から届けるんです。デリバリーなので感染リスクも少ないですし、名店からお料理が届いたらちょっとVIPな気分になりそうじゃないですか?

食は人々の幸せのためにある

―山本所長から読者の皆さんへメッセージをいただけますか?

山本:繰り返しになりますが、お店で飲食すること自体が危険なのではなく、マスクなしでの会話が良くないので、そのことを改めて認識して頂き、お店での対策や日々の生活に反映させてほしいですね。

その上で、心豊かに日々を楽しく過ごすことが結果的には感染予防につながるということも、ぜひ意識して頂きたいポイント。“笑いがガンに効く”などという説もありますが、幸せを感じることでフィジカルな意味でも強くなり、免疫力が増すのが人間です。だから、ぜひ積極的に外に出て体を動かし、時には外食して美味しいものを食べることをおすすめします。食は本来人々の幸せのためにあるものですから。

―美味しいものを食べて幸せになるのは、いつの時代も変わりませんよね。佐々木さん、飲食店としてその幸せを提供するために考えていることを教えてください。

佐々木:二つありまして、一つは先ほども申し上げた長期的な視点での異業種とのコラボレーション。それともう一つは、お客様との関係性の再構築です。飲食店はこれまで食事を提供する場でしたが、コロナ渦で家での食の楽しみ方の幅が広がり、食事をするだけなら外食しなくても良くなってしまった。だから、これからの飲食店は“その場所に行かなければ体験できない価値”を提供しないと。料理の内容・店づくり・付加価値のある体験・会いたくなるスタッフなど、そのお店だから「また行きたい」とリピートしたくなる、お客様との強い関係性を作っていきたいと思います。

その足がかりとして、まずは12月と1月にメニュー改定を行う予定です。肉鮮問屋佐々木だからこその魅力をじっくり堪能いただけるような内容を考えているので、ぜひ遊びに来てくださいね!

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肉鮮問屋佐々木の新メニューの一例。これまで多かった日本橋のワーカーに加え、近隣の方や観光客も意識した内容となっている(画像提供:肉鮮問屋佐々木)

取材・文:丑田美奈子(Konel) 撮影:岡村大輔

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