Interview
2024.04.10

日本橋に新拠点を続々オープン。Stapleがこの街とより深く関わる決意をした理由とは?

日本橋に新拠点を続々オープン。Stapleがこの街とより深く関わる決意をした理由とは?

日本橋兜町にあるマイクロ複合施設「K5」や、日本橋小舟町の堀留児童公園に隣接する「SOIL Nihonbashi」などを手がけてきたStapleが日本橋での活動をますます拡げています。2023年11月に、日本橋大伝馬町にワインと檸檬焼売のお店「timsum」とコーポラティブオフィスから成る「SOIL Nihonbashi 2nd」を開業し、さらに今春には自然電力グループの日本橋オフィスと連携する形で「SOIL Nihonbashi 3rd」をオープンさせました。「SOIL」のもうひとつの拠点である広島・瀬戸田で培ってきた経験を活かし、日本橋においても徒歩圏内の「ご近所」を舞台にした場づくり、街づくりを加速させている同社代表の岡雄大さん、SOIL Setodaに立ち上げ時から関わり、日本橋に移住してきたばかりの鈴木慎一郎さん、Soil workのマネージャー・島津恵里奈さん、timsumのマネージャー・安間淳さんの4名にお話を伺いました。

日本橋に生まれた2つ目の拠点 

ーまずは皆さんの自己紹介からお願いします。

岡:Staple代表の岡です。Stapleでは徒歩20分圏内の「ご近所」を地域づくりの舞台ととらえ、地域の衣食住を体現するホテルと、交流を生むための施設「SOIL」を2軸で展開しています。地域により多くの人が関われるきっかけをつくりながら、自分たちも生活者として同じ地域に長いスパンで関わり続け、共に成長をしていくことを目指しています。

安間:SOIL Nihonbashi 2ndの1Fにあるワインと焼売のお店「timsum」のマネージャーをしている安間です。昨年9月にStapleに入社するまでは、飲食の世界でソムリエの仕事などをしていました。

島津:Stapleのワーキング部門「Soil work」でマネージャーをしている島津です。現在Soil workは日本橋にある3つの拠点のほか、神奈川県の秋谷や千葉県の一宮などにも施設を展開しています。

鈴木:今年3月に広島県の瀬戸田から日本橋に移住してきた鈴木です。責任者を務めていたSOIL Setodaには立ち上げ時から関わってきました。日本橋では当面「timsum」に立つことが多くなると思います。

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左から、鈴木慎一郎さん(前SOIL Setodaマネージャー)、安間淳さん(timsumマネージャー)、岡雄大さん(Staple代表)、島津恵里奈さん(Soil workマネージャー)

ー昨年開業した「SOIL Nihonbashi 2nd」が生まれた経緯や施設の概要について教えて下さい。

岡:SOIL Nihonbashi(以下、1st)の不動産所有者である三井不動産のご担当の方にお声がけ頂いたことがきっかけです。空きビルの状態だった時に物件を見たのですが、COMMISSARYやBnA_WALL、ANDONなどが集まっている街角にポテンシャルを感じ、どうやってこのビルを料理しようかと考え始めました。当初は、オフィスや住宅、ホテルなどフロアごとに用途を変えることでさまざまな人がミックスされるような風景を思い描いていたのですが、限られたスペースでそれを実現することは難しく、最終的には1Fが店舗、2~5Fがオフィスという形になりました。

安間:1Fのtimsumは、厳選したナチュラルワインの販売を中心に、高級ブランドとして知られる瀬戸田のレモンと横島のうつみ潮風豚を使った檸檬焼売などの中華蒸し料理とワインのペアリングを店内でお楽しみ頂ける角打ちスタイルのお店です。街の人に角打ちをカジュアルにご利用いただくことはもちろん、21時までオープンしているため、近隣のワーカーの方たちにも仕事帰りに贈答用などのワインを買って頂けるような場所にもなりたいと考えています。

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timsumは、ソムリエの安間さんが厳選したワインやビールを、檸檬焼売や中華蒸し料理などといただける角打ちスタイルで営業している。(画像:timsum公式instagramより)

鈴木:timsumは、Stapleという会社がどんな活動をしてきたのか、地域の中で何をしていきたいのかということを直接語れる場にもなると思っています。私自身瀬戸田に長くいた経験があるので、皆さんと楽しい時間を過ごしながら、ローカルのことやまちづくりのことをカジュアルに語れるようなこともできたらと考えています。

島津:現在2~4Fには企業のオフィスが入り、5Fは私たちのオフィスになっています。1stにはコワーキングスペースやキッチンがありましたが、2ndではフロアごとにお貸しする形を取っていて、ほかにミーティングなどに使える共用スペースもあります。また、屋上にコミュニティガーデンをつくっている最中で、入居者の方たちにもワークショップ的に庭造りにご参加頂いています。

瀬戸田での経験を日本橋に活かす 

ー新しい拠点ができたことで、日本橋との関わりはより深まっていきそうですね。

岡:1stをつくった当初は、日本橋には瀬戸田などの地域に目を向けてもらうためのアンテナショップ的な役割が大きいと考えていました。都会だからという理由で、瀬戸田などとはコミュニケーションの取り方を変えていたところがあったのですが、今年初めて町内会の新年会に参加させてもらったんですね。そこで、街の人たちが自分たちの活動に気を留めてくださっていたり、関わりを持とうとしてくださっていることがわかり、もっと地域に入り込んで色々な接点をつくっていくべきなんじゃないかと考えるようになったんです。そんな折に(鈴木)慎一郎が来たこともあり、瀬戸田での経験を活かしてどんどん街に入っていきたいと考えているところです。

鈴木:僕が瀬戸田にいる時に意識していたことは、とにかくみんなと仲良く楽しく地域で仕事や生活をすることだったんですね。日本橋ではまず地域のことをよく知るというところから始めたいと思っていますが、瀬戸田と同様に地域のことを愛している人たちとしっかりコミュニケーションが取れるような働き方や雰囲気づくりをしていきたいですね。

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しまなみ海道の中心に位置する生口島・瀬戸田町にはSOILの施設が点在し、移住者や観光客と地元住民との交流が日々なされている。(画像提供:SOIL Setoda)

安間:日本橋のことはこれまであまり良く知らなかったのですが、timsumで働くようになってこの街の人たちは粋だなと感じます。例えば、ある会社の社長さんが「ビールをつくりたいんだけど、自分たちは素人だから君を巻き込んで何かできないか」と言ってくださったりするのですが、言動がカッコ良い人が多いんですよね。

岡:瀬戸田では、SOILをつくったことによって街の人たちが反応をしてくれて、毎朝ご飯をを食べに来てくれるおばあちゃんがいたり、週に3,4回も利用される常連さんもたくさんいらっしゃいました。地域の人たちがSOILという場を通して観光客とも楽しく団らんしているような美しい風景が生まれ、この街に住みたい、関わりたいという人がスタッフになったり、移住してくるようになりました。継続的に街に関わり続ける意思を示したことによって街の人たちとの対話が始まり、僕たちの施設も段階的に拡張していったのですが、今後は日本橋でもこうした展開をしていきたいと考えています。

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客室、レストラン、ラウンジ、カフェ、食のセレクトショップなどで構成されている「SOIL Setoda」(写真:Taro Masuda)

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SOIL Setodaから徒歩3分、しおまち商店街の中にあるSoil workは、ホテルの宿泊客らが利用できるワーキングスペース。(画像提供:SOIL)

地域と関わりながら働くということ 

ー先日、日本橋本町にできた自然電力グループ東京拠点の1階にもSoil workをオープンされたそうですね。

岡:自然電力の代表とは以前から親交があったのですが、彼らが日本橋に拠点を構えるにあたってご相談を受けたんです。自然電力グループは「青い地球を未来につなぐ」ことを目指して再生可能エネルギー拡大や脱炭素ソリューション提供を行っているチームで、その目標を叶えるためには、意思のある人を増やしていくことが必要です。東京オフィスの一部を地域やコミュニティに開くことで、パーパスや志を共有する仲間を増やしていけるのではないかというお話をして、自然電力グループで働くクルーとSoil workのコミュニティがミックスされる場をつくることになりました。

島津:これによってSoil workの日本橋における拠点が3つになったのですが、ある会員の方から、自由に出入りして働けたり、誰かと話ができたり、コーヒーを飲んで一息つける場所が街に増えることは豊かなことだと仰って頂きました。

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ー地域と関わりながら働いていくことについてどのように考えていますか?

岡:僕たちの考えは、Soil workが掲げている「down to earth community」という言葉に集約されています。Soil workは、経済的な成長を追求するだけではなく、文化や環境的な価値を高めていくことにも目を向けて仕事をしている人たちが集まるコミュニティをつくることを目指しています。そうした人が集う場として1stを開業して以来、地に足をつけて働く人たちのコミュニティのあり方を発信してきました。

島津:Soil workのコミュニティと地域をつなげるきっかけづくりとして、町内会の方たちと一緒にマルシェイベントを立ち上げ、1stに隣接する堀留児童公園で開催したりもしています。

岡:マルシェには、1stと同じ建物内にある染色体験スペースのsomenovaさんにもご参加頂いたのですが、染料の老舗企業が、街の新しい世代の発想によって事業を新しい方向に進めていけるのではないかと期待されていることがわかり、とてもうれしかったですね。日本橋の魅力は老舗と新しい事業者が共存しているところにもありますし、世代を超えて関わり合えることは素晴らしいですよね。

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2022年11月に開催された「堀留公園マルシェ FROM EAST」の様子。町内会などと連携しながら、近隣のさまざまな店舗が参加するイベントをつくっている。(画像提供:SOIL Nihonbashi)

ーSoil workは瀬戸田をはじめ各地に拠点がありますが、地域間の交流なども生まれているのですか?

岡:先日、Soil workの会員さん数名を瀬戸田にお連れしたのですが、中にはまた必ず瀬戸田に行き、関わり続けてくれるであろう方もいらっしゃいました。こうした人の行き来を促し、地域に関わるきっかけをつくっていけることがSoil workの強みだと考えています。地方から都心に移住して地域の活動に参加することと、東京から地方に行って地域に関わることを比べると、後者の方が与えられるインパクトは大きいと思うんですね。都市部に人口が集中している中、逆の流れをつくることによって都心にいた時にはわからなかった自分の価値や役割を見出せる人を増やすことができたら、それは社会にとっても良いことだと思いますし、そうした世界をつくりたくて事業をしているところがありますね。

関わり続けたくなる“ご近所”とは?  

ー地域に長く関わり続けることを大切にしているStapleですが、関わりたいと思う地域にはどんな特徴がありますか?

岡:大きく2つの要素があり、ひとつは国内外の人たちが「この場所に行きたい!」という衝動を持てる可能性を秘めていることです。Stapleの事業はホテルの宿泊客やSoilの施設、店舗の利用者に支えられているので、外の人たちの目に魅力的に映る地域であることを大切にしています。もうひとつは、地域の受容性です。地元に強い思い入れがある人や地域に小さな火を起こし始めている移住者など、地域にムーブメントを起こす意思がある人たちが歩いていけるエリアの中にどれくらいいるのか、そして彼らが僕らのことを受け入れてくれるのか、利害関係なく友達になれそうかどうかというのを見ていますね。

鈴木:僕は外の人間として瀬戸田に入り、地域に根ざして活動してきたのですが、島を出る時には地域の皆さんに気持ち良く送り出して頂きました。いつでも帰れる故郷のような場所ができたことをとてもうれしく思っていることもあり、人の顔が見える地域と関わり続けたいという思いが強いですね。瀬戸田には素敵な景色もたくさんありますが、やっぱり思い浮かぶのは人の顔だし、自分が好きだと思える地域にはだいたい会いたい人がいますね。

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鈴木さんが瀬戸田を離れる際に撮影したという地域の人たちとの集合写真 (写真:Akira Sakuma)

島津:私も会いたい人や行きたいお店がある地域には関わり続けたいと思いますね。以前に瀬戸田の方が日本橋にいらっしゃった時にご挨拶をさせて頂き、その後すぐに仲良くなれたのですが、好きが好きを呼ぶようなとても気持ちの良い体験でした。

安間:僕は文化が感じられる土地に魅力を感じます。文化と一口に言っても、歴史や食、産業、人などさまざまな要素がありますが、そうしたものがひとつでも感じられるところが自分にとっての魅力的な地域ですね。

ー関わり続ける地域としての日本橋の魅力についても聞かせてください。

岡:やはり受容性があることですよね。五街道の起点である日本橋は、常に外に開かれていた場所です。その中でいまの日本橋には伝統を受け継いできた人たちと、新しいことに挑戦している人たちが共存していて、お互いを当たり前のものとして受容していることが魅力ですよね。先ほどもお話ししたように、一歩踏み出したことによって街の人たちの顔がよく見えるようになり、世代を超えた交流が生まれ始めているので、これからますますこの街を好きになれそうだと感じています。

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日本橋が地域をつなぐハブに

ーここまで関わり続けてきた日本橋や瀬戸田の未来については、どのように見ていますか?

岡:瀬戸田では、2025年までに店舗と宿泊施設が一体になったショップハウスを商店街に10棟つくるという目標を立てていて、すでに5棟目まで計画が進んでいます。こうした取り組みを通じて、瀬戸田では30代の人口が10%増え、関係人口はその数倍にまでなっているのですが、30年先を見据えると、自然環境の保全や教育面の充実、リタイア世代が挑戦できる機会の創出など、いま地域にいる人たちが関わり続けられる理由をもっとつくっていく必要性を感じています。かたや日本橋では新たに小さなホテルの建設を進めていたり、商業的な開発を一生懸命やっている段階ですが、30年先を考えると、瀬戸田とはまったく異なる課題が見えてくるのだろうと思っています。

鈴木:瀬戸田は人口8000人程度の島なのですが、ほとんどの人の顔がわかっていたこともあり、これは瀬戸田の人たちにとって良いことだと信じて動ける部分がありました。その点、日本橋では自分たちの取り組みがどれだけ地域のためになっているのか見えにくいところもあると思うし、同じ軸で考えていくことはなかなか難しいですよね。

岡:日本橋の30年先を考えることは瀬戸田以上に難しそうですが、地域ごとに異なる答えを導き出していけることが自分たちの強みだと思っています。

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日本橋本町にあるSOIL Nihonbashi 3rd には、瀬戸田に焙煎所がある「Overview Coffee」の東京初となる支店も入っている。(写真:Akira Sakuma)

ー今後新たに予定されていることをお聞かせください。

岡:現在、山口県の長門湯本と北海道の函館に関わり始めています。長門湯本では2025年春にSOIL Nagatoyumotoの開業を予定しているのですが、瀬戸田にいたメンバーが長門湯本に引っ越すことになったり、SOILの拠点間での人の動きも生まれています。この場所を育てたいという愛のようなものが地域を超えて広がっていくことで新しい関係性が生まれてくるような気がしています。

鈴木:そうした点においても日本橋には大きなポテンシャルがあると思っています。日本橋がハブのような存在となって、瀬戸田と長門湯本をつなぐようなこともできるはずですし、日本橋があるおかげで色々な地域がその人にとっての「ご近所」になるといったことが起こるといいですよね。

岡:僕たちが目指しているのは、都市や地方など関係なく、ある地域のご近所と別の地域のご近所がつながり、人やアイデアが行き来しているような状態です。良いアイデアや知恵、労働力が都心に集約される世界はつまらないですし、その土地に行かなければ触れられない、食べられない、体験できないものを、より多くの人たちに届けるためにさまざまな地域の人たちのアイデアやスキルが駆け巡っている世界を実現していきたいですね。

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2025年春開業予定の「SOIL Nagatoyumoto」の外観イメージ。温泉郷の中心を流れる音信川のほとりにあった老舗旅館「六角堂」をリニューアルし、ホテルにカフェ・レストラン、サウナなどが併設した複合施設になる予定だ。(画像提供:SOIL Nihonbashi)

取材・文:原田優輝(Qonversations)  撮影:岡村大輔

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