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2024.04.01

好奇心から関係を紡ぐ。+NARU NIHONBASHIが体現する、街のオープンスペース像とは?

好奇心から関係を紡ぐ。+NARU NIHONBASHIが体現する、街のオープンスペース像とは?

2023年7月に開業し、“好奇心で動き出す、日本橋のオープンスペース”をテーマに、連日多くの人々が利用する話題のスポットとなっている「+NARU NIHONBASHI(以下、+NARU)」。日々さまざまなイベントが開かれ人々の交流の場となっている同施設は、そのユニークな運営スタイルによって街のコミュニティ形成の新たな起点となっています。前編では、三井不動産株式会社・日本橋街づくり推進部の北村聡さん、株式会社 Goldilocks代表の川路武さん、+NARUスタッフのダバンテス・ジャンウィルさんに、立ち上げまでの経緯と、この場所に込めたそれぞれの思いを聞きました。

※今回は「まちの編集部員」メンバーをインタビュアーに迎え、Bridgine編集部チームとして複数名で取材を実施。新たなインタビューのスタイルに挑戦しました。

目指すのは、働く人も巻き込んだ「街のリビングラボ」

ーはじめに皆さんの自己紹介と、+NARUでの役割を教えてください。

川路:+NARUの“館長”と呼ばれている川路です。もともとは三井不動産の社員で、2022年に「半径100mの人と人をつなぐ」をミッションに関係工学という独自の手法でコミュニティをデザインする株式会社Goldilocksを立ち上げまして、+NARUの運営を担当しています。私は運営計画を立てたり、皆が動きやすくスムーズに動けるように全体を見る立場です。

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+NARUの「館長」こと川路さん(写真左)

北村:三井不動産で+NARUの構想、工事、運営と携わってきました。もともとはトヨタ自動車でサブスクや電気自動車など新規事業をしていて、日本橋のオフィスに通っていたのですが、街に関わる事業がやりたいという思いが強くなり、現職に移りました。+NARUのオーナーにあたるのが私たち三井不動産です。

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+NARUへの思いを熱く語る北村さん

ダバンテス:+NARUのコミュニティマネージャーをやっています。横浜でシェアハウスの運営をやりながらいろいろなイベントに出ていたのですが、+NARUの立ち上げ前のイベントに参加した時にお二人に出会いました。その後+NARUの運営メンバーとして参画し、日々さまざまなイベントを企画・開催しています。

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+NARU愛たっぷりのダバンテスさん(通称ダバちゃん)

ー “好奇心で動き出す、日本橋のオープンスペース”として昨年スタートした+NARUですが、ここはどんなことができる場所なのでしょうか?

ダバンテス:+NARUは大きく4つの利用の仕方があります。LINEの会員登録をしていただければすぐに利用が可能です。

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1|活動する場所として利用する
作業や仕事、趣味の時間としての利用。コーヒースタンドもあり、カフェのように過ごすことができる。

2|イベントに参加する
日々開催される多様なイベントに参加できる。

3|イベントを企画する、手伝う
イベントを自ら企画したり、サポートしたりすることができる。

4|イベントスペースとして借りる
会議の場所として使ったり、イベントの開催場所として利用できる。
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+NARUという名前には、人が何かに「成る」・街で何かが「成る」という意味が込められている。オープンから半年で会員数(=LINE登録した利用者の実数)が2000人を超えた(画像提供:+NARU)

ー立ち上げまでにはどのような経緯があったのでしょうか?

北村:日本橋は交通アクセスも治安も良い、そして働いている人や来街者にとっても飲食店等が多く不便のない、整っている街だといわれます。さらには五街道の起点という歴史的背景やコミュニティの基盤がしっかりしているという特長もある。だから街に関わる人たちにヒアリングすると 、大きな課題や不満はなかなか聞こえてきません。そういういわば成熟した街で、僕らは今後何をすべきか?ということをずっと考えてきました。

その過程で、目指すべき街のヒントを得ようと、ヨーロッパの20都市ほどに街づくりの視点や取り組みについてインタビューしました。結果、やはりセレンディピティや心のレジリエンスなど、コミュニティが重要だということを改めて実感したのです。たとえば、ヨーロッパには広場が多く、さまざまな人が集まって“みんな違ってみんな良い”という雰囲気もある。特にデンマークやフィンランドで強く思ったのですが、誰しも街に受け入れていこうという考え方に、都市の豊かさを感じました。

ーなるほど。+NARUはヨーロッパの都市におけるコミュニティにヒントを得ているんですね。

北村:そうした街の要所となっていたのが「リビングラボ」と言われる施設だったのです。リビングラボはいわゆる公民館のような存在ですが、“市民のつながりからイノベーションを起こす”と掲げ、さまざまな人が趣味と仕事の間のような活動をする場になっていました。それを見て以来「リビングラボのような場所を日本橋にも作りたい」と強く思うようになりました。

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ヨーロッパ視察時の様子(画像提供:+NARU)

ーリビング“ラボ”と聞くと、何か新しい取り組みの実験をする場のようなイメージもありますね。企業が関わることもあるのでしょうか?

北村:はい。+NARUのキーワードは「ウェルビーイング」と「市民共創による街づくり」の二つですが、日本橋はオフィスも多くビジネス街でもあるので、日本橋で働いている人が仕事帰りに+NARUに遊びに来てくれて、さらにその人たちのコミュニティが日本橋の企業の実証実験に喜んで協力してくれる土壌ができつつあります。

好奇心を軸にコミュニティを作っていく

ー立ち上げにあたって苦労したことはありますか?

北村:オープンスペースにするということで検討を始めたのですが、民間かつ都心でこんな風に開放している事例はほとんどなくて。多くはコワーキング機能を付けたり、飲食店を併設したり...同じコミュニティをやるにしても、普通はもうちょっと儲かるアプローチをするのですよ(笑)。でもいろいろな人が思いのままに行動するにはやっぱりオープンスペースが一番良いだろうということで、あえてこの形を取っています。

またハード面でも思い切ったことをしました。ここの空間を物理的にも街に開きたかったので、室内の仕切り壁を取っ払い、むろまち小路側にはフルオープンにできるガラス扉の入り口を新設しました。

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ガラス張りの開放的な空間(画像提供:+NARU)

ー以前とかなり印象が変わったので最初に来た時は驚きました。日当たりも良くて明るい気持ちになりますよね。ほかのお二人は何か印象に残っていることはありますか?

川路:北村さんも言うように、他の施設にはないアプローチだったため「いったいここで何をしていくか?」という議論にすごく時間を使いました。

ダバンテス:僕がコミュニティマネージャーとして入った時点では本当に何も決まってなくて「よし、これから決めよう!」という状況だったのでびっくりしました(笑)。でも皆で平等に意見を出し合って議論しながら、施設のオープンに向けてさまざまなことを取り決めていくのはすごく楽しかったです。

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+NARUにはコミュニティマネージャーが8人、ディレクター3名が在籍。「皆“面白がり力”があるうえにそれぞれの得意領域を持っているので、会員さんのやりたいことを必ず誰かが叶えることができるんです」とダバンテスさん(ウェブサイトより)

ー “好奇心”というキーワードはどのように出てきたのでしょうか?

北村:多くの街に視察にいく中で、二拠点生活や移住をしてまで自ら活動を生み出している人からよく出てきた言葉です。僕たちがやりたいのは好奇心からスタートする街の人たちの共創を後押しすることだと。

川路:好奇心を軸にしようと決めるに至ったのは、僕らのコミュニティというものの捉え方にも関係しています。コミュニティという言葉の定義は1900年代初頭に社会学者のマッキーバーが触れているのですが、コミュニティとは、そこに住む人や働く人が、共同体験を通じた規範などで統合された包括的な共同生活のこと。だから実は本来の意味での地域性を伴うコミュニティは今どんどん劣化していると感じています。

人々が農村に住んでいた頃は強固だった居住コミュニティは、やがて都市に働きに行くようになり職場コミュニティに移りました。職場コミュニティも当初とても強固なものでしたが、それも今は壊れてきていて、飲み会すらも人が集まらなかったりする。多様性が認められてきたことで「同じ職場で働いているから飲みに行こう」「同じビルにいるから草取りをしよう」という半強制的な共同体験が嫌がられるようになった。でも、自分の興味関心に合う、好きなことだったら人は行きたくなるんです。だから好きなこと=好奇心でつな繋がったコミュニティは今後新しい形の一つになるのでは?という仮説から、+NARUのテーマに好奇心を置きました。

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Bridgine編集部の原田さん(株式会社カンバセーションズ)

ー会員にはどんな方が多いのでしょうか?

北村:北村:利用者は日本橋で働いている人が約4割、続いて来街者、住民、日本橋と特につながりのない人の順で、20〜30代がもっとも多いです。さまざまな属性の人たちが混ざり合っているのは、私たちが思い描いていた通りの理想的な状況ですね。実際の利用のされ方を見ても、Vtuberの方が公開収録する日もあれば、老舗店の方がワークショップをする日もあって、なかなか多様性の高い施設です。

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Bridgine編集部の丑田(株式会社コネル)

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それぞれの街やコミュニティへの思いを乗せてスタートした+NARU。インタビューの後編では、多くの人々を惹きつけているイベントの裏側や、+NARUが描く日本橋の未来について迫ります。

取材:Bridgine編集部  文:丑田美奈子  撮影:岡村大輔

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