Interview
2024.06.27

進化する国際金融都市。平和不動産が見据える兜町・茅場町のこれまで、今、これから。

進化する国際金融都市。平和不動産が見据える兜町・茅場町のこれまで、今、これから。

日本を代表する金融都市・日本橋兜町。明治初期、近代日本経済の父といわれる渋沢栄一が日本初の銀行「第一国立銀行」や東京証券取引所を設立したことなどから、“コト始めの街”、“証券や投資の街”として知られてきました。一時は、株式の電子化を背景として、この町の活気が失われることがありましたが、近年はホテルを中心とした複合施設「K5」や、兜町の新たなランドマーク「KABUTO ONE」の開業等を機に、国内外の感度の高い人々からの注目を浴びる場所に。これらの再開発の立役者は、兜町に本店を構える総合不動産企業・平和不動産株式会社です。今回は、同社・地域共創部課長の中島由圭里さんに、街づくりへの想いやプロジェクトの狙いについてお話を伺いました。

「どの街をとっても、同じ街はない」、唯一無二の街づくりを。

ーはじめに、平和不動産と中島さんが所属される地域共創部について教えてください。

平和不動産は1947年、証券取引所の建物を保有・賃貸する会社として設立され、現在も東京証券取引所をはじめ、大阪、名古屋、福岡の4つの証券取引所の建物を保有しながら、全国的にビル賃貸事業を展開しています。とくに金融や証券業界の方々にとっては、“金融のインフラ”を支える会社として親しみを感じていただいているかもしれません。2011年からは、本社を構えるこのエリアで、地域特性を活かした街づくりを推進する「日本橋兜町・茅場町再活性化プロジェクト」に取り組んできました。

再活性化プロジェクトにおいて、「地域共創部」は賑わいを創出していくことで地域に貢献することを目的に2020年に新設された部署です。具体的には、自社で運営する商業施設「KABUTO ONE」において、「生産者を応援する食堂」をコンセプトにしたレストランであるKABEATをはじめ、コミュニティカフェ、ブックラウンジ、会議室などの管理運営をしています。そして、兜町・茅場町地域のリレーション構築や、より広域のエリアや官庁との連携活動なども行っており、私は主に後者でソフト面の施策を担当しています。

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ー平和不動産ならではの街づくりの魅力や、中島さんが街づくりにおいて大切にされていることを教えていただけますか?

もともと生まれ育った街の近くで行われていた再開発を目にし、デベロッパーに憧れるようになりました。大学では建築学を学び、新卒で平和不動産に入社しました。その後、ビルの立て替えに関わる部署を経て10年ほど再活性プロジェクトに携わるなか、川上から川下まで一気通貫して街づくりに関わることができるところに、大きな魅力を感じています。おそらく他のデベロッパーと比べて人数が少ないため、1パートではなく、全体感を把握しながら街づくりにも取り組める環境も当社の特徴かと思います。

個人的には、「どの街一つとっても、同じ街はない」という意識を強く持って街づくりに携わっています。街特有の歴史や、現在の街を形づくっている方々の想いを尊重しながら、企業として地域に価値提供できることを大切にしたいですね。部署名にも入っていますが、私たちが目指すのはまさに“共創”で、地域に関わる方々と共に、唯一無二の街をつくりたいと考えています。

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「魅力的な人やコト」を目的に、国内外から人が集まる街へ。

ーそもそも、どのような経緯で日本橋兜町・茅場町再活性化プロジェクトが始動したのでしょうか?

1999年、株式のオンライン化によって東京証券取引所の立会場が閉鎖されて以来、兜町・茅場町に“金融の街”として集っていた企業や人が離れ、以前の賑わいが失われていました。そして2010年ごろから、現場の若手社員を中心に、「自分たちが働く街を何とかしたい」との声があがったことがきっかけとなり、全社的な動きに拡大していきました。

その動きが大きく進展したのは、ホテルと飲食店が入った小規模複合施設「K5」が開業した2020年です。当時、以前は銀行として使われていた築97年の「兜町第5平和ビル」を耐震改修する必要に迫られていました。そのとき、金融やオフィスという枠にとらわれず、小規模であっても世界中から人々を惹きつけるハブになるようなテナントを誘致したことが転換点になったと思います。

K5の開発はまず、東日本橋・馬喰横山でホステル「CITAN」を運営するBackpackers’ Japanの代表・本間貴裕さんとお会いし、私たちの考えをお話して賛同いただいたことから始まっています。そこから、本間さんの感性を共有する仲間たちが丁寧にキュレーションしたK5が完成し、以来K5が起爆剤となって、兜町・茅場町に個性的なショップや飲食店の出店が続いています。

参考記事はこちら:「兜町に強い“点”を打つ。 マイクロ・コンプレックス施設「K5」完成。」

ーこの数年、兜町・茅場町に進出した店舗を見ていると、どれも尖った個性がありながら、洗練された雰囲気のトーンが揃っていると感じました。それは、この再開発が“人”を軸にスタートしているからかもしれません。

そうですね。現在は、魅力的な人がいて魅力的なコトをしている場所に、さらに「人やコト」が集まる一つの流れがあると考えます。その流れに乗って、休日も多様な人々が街を訪れるようになりました。ふだんは渋谷や原宿にいらっしゃるようなファッションの方も目立つようになりましたし、スウェーデンのデザイナーが手がけたホテルK5の予約の半数は海外、特に欧州からのお客様だと聞いていますね。

本間さんたちが、この街に見出した可能性として、重厚感がある建物が立ち並ぶ“歴史の堆積”と同時に、“自分たちでつくり上げる面白み”があったと伺っています。新しいタイプの来街者の方たちは、そうした、この街固有のインデペンデントな気運の高まり方に興味をもたれているのではないでしょうか。かつては平日だけオフィスワーカーで賑わうオフィス街だった姿から、新たな賑わいとともに様変わりしてきています。

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K5)引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000044029.html

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2階から4階にはホテルが入る「K5」。1階は飲食フロアになっており、目黒で人気の「KABI」の新店舗となるレストラン「CAVEMAN」や、目黒と代々木八幡で話題のコーヒーショップ「SWITCH COFFEE TOKYO」、田中開氏と野村空人氏がプロデュースするバー「Ao」。地下1階には、ニューヨークのクラフトビールブランド「ブルックリン・ブルワリー」の世界初となるフラッグシップ店「B」が構える。 引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000087339.html

街を一つのメディアに、海外にも発信。

ー兜町・茅場町では、街を横断して大小さまざまなイベントが行われていますが、どのように企画が生まれ広がっているのでしょうか?

イベントに関して、あえて一貫性を持たせていないんです。今この街で中心となっているプレイヤーは主体的にイベントを開催・発信することが多くて、それぞれの企画を皮切りに、さらに新しい企画や外部とのコラボレーションが生まれています。

たとえば今日は、この街にある「Keshiki」というマイクロ複合施設発のイベントとして、ある海外家具ブランドの顧客向けのクローズドの展示会を実施しています。ただの展示会ではなく、街中に家具を設置してジャックするというユニークな催しです。これもKeshikiが、この街の佇まいを含めて発信できたからこそ実現したイベントであり、兜町・茅場町が一つのメディアのように機能した企画になります。

また、平和不動産からお声がけしたイベントの一例として、街歩きイベント「兜町夜市」をこれまでに2回実施してきました。この街にオープンした新しい店舗は、それぞれ唯一無二のかっこよさがあるのですが、その分少し敷居の高い印象をもたれてしまう可能性がありました。そのため、兜町近隣の飲食店舗にて提供される限定メニューと交換できるチケットを販売して、飲食を楽しみながら街を回遊していただけるようなイベントを企画したんです。

その結果、多くの来街者を呼び込むことができただけでなく、近隣住民の方から「今まで気になっていた店舗を、今回初めて利用した」との声をいただけたことが、とても嬉しかったです。

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引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000069.000024148.html

ーウェブメディア『Kontext』も運営されていますが、街とメディアの関係性について教えてください。

2021年にスタートした『Kontext』は、兜町の新たな彩りを構成する、人の営みとそのつながり(文脈)に焦点をあてたウェブメディアです。一人ひとりのあまり知られることのないストーリーを深く掘り下げることで、これからの街の魅力、キャラクターを浮き上がらせていくのが目的です。

2017年から、日本橋兜町・茅場町の地域イベントを集約・発信するポータルサイト「兜LIVE!」も運営していますが、こちらは町内の方を含め、広く街のことを知ってもらうメディアとして位置付けています。一方、『Kontext』はこれから街にやってくるプレイヤーを読者に想定して、より解像度の高い内容を発信しています。

また『Kontext』は、メディアの方々への訴求も意識しています。英語版もあるのですが、海外の雑誌メディアから兜町を特集したいとのお問い合わせを受けることもありますね。日本の枠を超えて、感度の高い人々に届いた実感があり、励みになりましたね。

“島”と呼ばれていた兜町・茅場町を、独自の歴史背景を生かして魅せていく。

ー多様な人々が集まる彩りのある街へと変化するなか、あらためて日本橋における兜町の役割や、これからありたい姿について教えてください。

兜町・茅場町はその昔、“島”と呼ばれていたそうで、今でも川と首都高で日本橋エリアとはゆるやかに分断されているんです。また、日本橋全体でみると、江戸時代から続く「伝統と革新の街」のイメージがありますが、兜町は明治時代に渋沢栄一によって興された経緯があり、歴史背景が少し異なると捉えています。ですから、日本橋に追随するのではなく、この距離感をむしろ生かして、独自の街づくりをしたい想いがあります。

再活性プロジェクトの起点には、「日本橋兜町を、国際金融都市として世界に発信する」というコンセプトがあります。2021年に開業した地上15階の「KABUTO ONE」の1階には、実際の株式市場の動向と連動してダイナミックに色が変わるlEDディスプレイ「The HEART」も、この地域が“日本経済の心臓”であることの体現です。

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引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000024148.html

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The HEART:経済の動き(脈動・うねり)や市況を心臓の鼓動・血液循環をモチーフにしたアート表現に変換。株価や経済指標を直感的に伝える。

2017年からは、“コト始めの街”として、これからの金融を担う独立系資産運用会社、フィンテック、金融系スタートアップの起業・成長を支援するFinGATE事業をスタートしました。現在、兜町・茅場町に6つあるFinGATE施設では90社以上の国内外スタートアップやプレイヤーにご入居いただいています。

日々変化に富んだ世界と触れているスタートアップ業界の方たちは、遊び心のあるもの、チャレンジングなものを好む傾向があると感じています。他にない魅力がある街だから、ここで働いて、街を楽しみたいという方々も増え、今では国際金融都市としてのコンセプトが現在の兜町・茅場町の街づくりとマッチしてきた手応えを持っています。今後は魅力的な街をつくり続けることで、魅力的な人が集まり続ける好循環をつくっていきたいですね。

ー最後に、中島さんおすすめの、“最新の兜町”を楽しむコースも教えていただけますか?

茅場町駅を出て、まず東京証券会館に入っている「CAFE SALVADOR BUSINESS SALON」でコーヒータイム。それから、2024年は山王祭が催行された日枝神社に立ち寄った後は、新たなランドマークである「KABUTO ONE」の内部をのぞいてみる。そこを出たらすぐの食の複合ショップ「BANK」では、ベーカリー、レストラン、カフェが楽しめます。

「BANK」のほど近くに創作フレンチ「Neki 」がありますが、予約で埋まってなければランチを楽しみます。更に少し先に行くとパティスリー「ease」があり、ケーキ、フィナンシェ、クッキーなどが売られているので、気分でテイクアウト。そこから少し歩くと見える「K5」でお茶をして、この平和不動産がある日証館の1階のチョコレートとアイスクリームのお店「teal」でデザートタイムを。平日であれば、東京証券取引所も見学できますし、駅の方へ戻る途中でも「平和どぶろく兜町醸造所」で昼過ぎから一杯楽しむこともできます。最後に、「Human Nature」でナチュラルワインを角打ちで味見してから、お気に入りを持ち帰るのはいかがでしょうか?

これらすべて歩いて回れる距離感になります。ぜひ実際に足をお運びいただけたら嬉しいです。

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「パーマカルチャー」のプレイヤー

茅場町に生まれた屋上庭園「Edible KAYABAEN」の運営も担当しています。ガーデンにいると私自身、会社員としての顔を忘れるくらい、童心にかえるような気持ちになります。この感覚を、兜町・茅場町エリアのオフィスワーカーや近隣にお住まいの方々と、もっとシェアしていきたいと思っているんです。KAYABAENで実践している「パーマカルチャー」といわれる、人と自然が共存する社会をつくるためのデザイン手法を、都市で実践する方と情報交換や協働作業を通じて発展させていきたいです。

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Fruits Bistro SABLIER

1952年、日本橋茅場町の果物店「いまの」に始まる同店。旬のフルーツとフレンチを融合した「フルーツビストロ」としてリニューアルして、日本橋室町に進出しています。自分へのご褒美に伺っています。
https://fruits-bistro-sablier.com/about/

取材・文:皆本類 撮影:岡村大輔

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