日本橋の街角で足を止めてジャズに浸る。初開催のNIHONBASHI PUBLIC JAZZをレポート
日本橋の街角で足を止めてジャズに浸る。初開催のNIHONBASHI PUBLIC JAZZをレポート
2023年7月より、「音楽が楽しめる街づくり」というテーマを掲げて誰でも気軽に楽しめる音楽イベント「日本橋まちなかJAZZプロジェクト」を開催してきた日本橋。月2回の開催日(毎月第1・第3金曜日)にはジャズ・アーティストたちが街角でライブを行ない、日本橋に新たな彩りを添えています。 そして今回、三井不動産株式会社と一般社団法人日本橋室町エリアマネジメント、アート・音楽・食などを通じてカルチャーを発信している『THE A.I.R BUILDING』を運営するTRAVELING ELEPHANT株式会社が共同で初開催したのが「NIHONBASHI PUBLIC JAZZ」です。2023年11月22日(水)~24日(金)の3日間、日本橋室町エリアに設置された特設ステージでは、国内外で活躍するジャズ・アーティストのステージから、日本橋で働く人や住む人などの一般の方も参加できるのど自慢まで、様々な催しが開かれました。本記事ではイベント初日の様子をレポートします。
●大和田慧 with梅井美咲&熊代崇人(JAZZステージ)
JAZZステージに登場した大和田慧 with梅井美咲&熊代崇人
COREDO室町テラス・大屋根広場に設置されたJAZZステージにトップバッターとして登場したのは大和田慧 with梅井美咲&熊代崇人。
NHK みんなのうた「カヌーのうえでひとやすみ」もお馴染みのシンガーソングライター、大和田慧がキーボード&ギターと共に、トリオ編成でしっとりとまろやかな歌声を聞かせてくれました。
ソウルやジャズからの影響を多大に受けた彼女らしく、1曲目はエラ・フィッツジェラルドの「Someone Like You」をセレクト。イベントのカラーに合わせて、自作曲も「名前のない月」などのジャズ色が強いものを集めた構成になっていました。
イベントのトップバッターとしてステージを盛り上げた大和田慧
日没後の大屋根広場にはイルミネーションが点灯し、ステージの足元はたくさんのキャンドルが輝きます。
NIHONBASHI PUBLIC JAZZの各ステージは入場無料で、ライブは誰でも観覧可能。ステージ横にはドリンクやフード、クリスマスデコレーションの屋台も展開され、仕事帰りの人々が思い思いのドリンクを片手に大和田慧の優しい歌声に耳を傾けていました。
●THOMAS MARQUARDT(PUBLICステージ)
福徳神社横の広場「福徳の森」に作られたPUBLICステージは、日中はDJ中村道生がプレイ。キッチンカーや屋台も開店し、食事やお酒を楽しみながらゆったりと過ごせる空間が用意されていました。
福徳の森PUBLICステージに登場したTHOMAS MARQUARDT
日没後には2022年にファースト・アルバムをリリースした気鋭のユニット、THOMAS MARQUARDTがライブ・セットを披露。
ギター&ヴォーカルとドラマーから成るミニマルなサウンドと哀愁漂う歌詞は、ビルの谷間に作られた憩いの場所によく似合い、仕事帰りのオフィスワーカーたちも足を止めて聞き入ることしばし。中でも都会を行き交う人々に思いを馳せた「東京駅」は、東京駅からほど近い室町エリアで聴くと格別の響きがありました。
オリジナルの提灯で飾られた福徳の森PUBLICステージ
●NIHONBASHI PUBLICのど自慢!(PUBLICステージ)
日本橋で働く社会人1年目のお二人は息のあったハーモニーでKinki Kidsの名曲を披露
NIHONBASHI PUBLIC JAZZは一般の方の参加も可能!
公式サイトでは事前に「のど自慢」の参加者が募集されており、当日は日本橋で働く人や日本橋が好きな人など、この街に縁のある総勢10名がPUBLICステージで自慢の歌声を披露しました。
進行を担当するのは日本橋の音楽スペース、THE A.I.R BUILDINGの梁(りょう)剛三氏。
アコースティック・バンドによる生演奏でリクエスト曲を歌えるとあって、挑戦者たちも気合いが入った様子です。洋楽のスタンダードからJポップまで、それぞれのフェイバリット・ソングを気持ちよく歌い上げていました。
●DAG FORCE &NAGAN SERVER(JAZZステージ)
続いてJAZZステージに登場したのはDAG FORCE &NAGAN SERVER。
ジャズ×ヒップホップのグルーヴで観客の身体を揺らします。
時にウッドベースを弾きながらラップするNAGAN SERVER
まず前半はウッドベースを操りながらラップもこなすという独特なスタイルを持つラッパー、NAGAN SERVERとバンドによるセッションです。
最初は「ジャズ・イベントなのにラップ?」と少し不思議に感じたオーディエンスもいたようですが、「2023年はヒップホップ誕生50周年であり、ヒップホップのトラックはジャズ・レコードからのサンプリングなくして語れない」とはNAGAN SERVERの言葉。
ジャズとヒップホップ、両方の架け橋となりたいという彼の思いを体現したパフォーマンスでした。
JAZZステージは屋外のため、演奏中に緊急車両のサイレンが鳴り響いてしまうというアクシデントが発生することも。しかしその時ソロを吹いていたトランペッターが機転を利かせ、サイレンの音にキーを合わせて演奏することで違和感を中和するという離れ業を披露。
ジャズの即興性にはこんな使い方も!と驚かされた一幕でした。
歌心溢れるパフォーマンスで熱く盛り上げたDAG FORCE
後半はフロントマンがDAG FORCEに交代。
時にブルージーに、ソウルフルに繰り出される日本語詞はラップのようでもあり歌のようでもあり、巧者揃いのバンド・サウンドと共に胸に迫ります。前半のNAGAN SERVERがクール&スタイリッシュと形容するなら、後半のDAG FORCEはハート&ソウル。情熱溢れるパフォーマンスに、大屋根広場の気温も上がったように感じられるほどでした。
「本当はあと2曲くらいセッションやりたかったんだけど、そろそろ終わらなくてはいけないので」というDAG FORCEの名残惜しげな言葉と共にステージは終了。会場は大きな拍手に包まれました。
●馬場智章 Gathering(JAZZステージ)
初日のトリを飾る馬場智章 Gatheringには多くの観客が集まった
イベント初日のJAZZステージ、最後に登場したのは馬場智章 Gathering。
日本のジャズ・シーンの第一線で活躍するテナーサックス奏者、馬場智章率いる4人編成のセットです。顔ぶれは馬場智章のアルバム『Gathering』に参加した西口明宏(テナーサックス)、中林薫平(ベース)、小田桐和寛(ドラム)と、いずれも国内外からの評価も高いで辣腕プレイヤーたち。同アルバムから「part VI:Four Arrows」「part II:T.Fest」「part IV:Lights in Black」「part I:Pieces」の4曲を披露しました。
11月下旬、夜の屋外でも汗の滴る熱演を披露した馬場智章
ジャズをテーマにした人気漫画のアニメ映画化『BLUE GIANT』(2023年2月公開)では、主人公のテナーサックスの演奏を担当した馬場智章。彼のプレイを目当てに来場した人はもちろん、偶然通りかかった人も多くが足を止めて国内トップクラスのプレイヤーが集うステージに見入っていました。
2本のテナーサックスのユニゾンが隙なく重なるメインフレーズから、各々の伸びやかなソロ・パートまで、端正なジャズ・サウンドに彩られた約40分間。暖冬とはいえ冬の野外でも汗光るほどの熱演に、思わず「こんなすごいライブが無料で観られていいの!?」と思わずにはいられませんでした。
今回、3日間にわたって初開催されたNIHONBASHI PUBLIC JAZZ。日本橋で働く人、暮らす人、観光やショッピングで訪れた人、様々な人々が偶然に音楽と出会い、足を止めて聞き入っている様子は、まさにこのイベントの目指すところだったのではないでしょうか。
「ジャズのライブに行く」となると少し敷居が高いと思ってしまう方もいるかもしれませんが、本イベントの魅力は誰でも気軽に立ち寄れて、極上の音楽に触れられること。来年以降の開催も検討されているそうなので、ぜひ続報に期待したいところです。
また、月2回開催の「日本橋まちなかJAZZプロジェクト」も引き続き開催されています。
音楽のある街・日本橋、ジャズの街・日本橋という新たな顔が確立される日もそう遠くないかもしれません。
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