Interview
2019.03.04

“ヘンな家電屋 Shiftall”のシゴト徹底解剖[後編] 〜最先端プロダクトを生む“ヘンな制作環境”を公開〜

“ヘンな家電屋 Shiftall”のシゴト徹底解剖[後編] 〜最先端プロダクトを生む“ヘンな制作環境”を公開〜

1月にアメリカで開催された家電テクノロジーの祭典「CES 2019」でクラフトビールの自動補充サービス「DrinkShift」を発表したShiftall(シフトール)。日本橋・馬喰町に構えるそのオフィスには、最先端プロダクトを生み出す組織をつくる、様々な工夫があると聞き取材をしてきました。 インタビュー前編では、常に最先端を生み出すShiftallの哲学についてのお話。今回の後編ではDIYでつくったオフィスへのこだわりやコミュニケーションづくりのポイントなどについてCEOの岩佐琢磨さんと執行役員の甲斐祐樹さんに伺ってきました。
(前編はこちら)

ゴミ捨て当番のくじ引きまで最先端?!
遊び心と効率が詰まった自作デバイス。

—そういえば今日このオフィスに入った時に、あまり見かけない不思議なシステムが色々あってすごく興味深かったんですが。

甲斐:来客される方、みなさん気にしてくれます(笑)。それではちょっと紹介しますね。まずはこの木製の出退勤ボードから。出勤・退社した時に自分の名前の札をひっくり返すという極めて原始的な操作の出退勤ボードです。一見アナログに見えますが、実はこの木の札とチャットサービスが連動していまして、勤怠情報のすべてがチャット上に残る仕組みになっているんです。社員が考えて自分たちで作りました。

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甲斐:社員にチャットでできる出退勤システムを作ってほしいと頼んだら、なぜか昔ながらの木の札の企画が出てきたんです。

岩佐:いまどき木の札かいっ!とツッコミましたけどね(笑)。でもすごく盛り上がり、面白いからやろうよとなってプロジェクトになりました。出退勤ボードに限らず、他のシステムもだいたい社員が勝手につくってきたものばかりです。

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—みなさんが自発的につくられるんですね。それではあちらの白熱電球みたいなものは何ですか?

甲斐:これはお客さんが来社したことを知らせるデバイスです。お客さんが玄関の外にあるタブレットで社員を呼び出すと、室内のスピーカーが来客を知らせる仕組みです。やってみますね。

機械音声:お客様がいらっしゃいました。

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甲斐:これも音声で知らせると同時に、チャットツールに通知が来て、外で打ち合わせしていてもスマホを見ればお客さんが来たことがわかる仕組みになっています。ちょっとランチで遅くなったりとか、お客さんが10分前に来たりした時、社内にいる人がお客さんの来社をいちいち連絡しなきゃいけないじゃないですか。だったらスマホに直接通知したほうが早いなと。

岩佐:これが意外と便利で、例えば会議室で打ち合わせしている時に次のお客さんが来てしまったというよくあるシチュエーションでも、手元のスマホに来客の通知が来るので、「やばい!終わらせなきゃ」と切り上げることができるんです。

—打ち合わせでの、あるあるですよね。他にも何かありますか?

甲斐:次はごみ捨てスイッチを紹介しますね。会社のゴミ捨てって、ゴミがいっぱいになっているのを見つけた人がゴミを捨てなきゃいけない空気がありませんか?でもゴミがたまっていることに気づく人ってだいたい同じ人で、そういう気の利く人が毎回ゴミ捨てをすることになる。それは不公平だよねという話から生まれたシステムです。ゴミに気づいた人が、ポチっとこのスイッチを押す。そうすると…。

機械音声:ゴミ捨て当番は甲斐さんです。

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甲斐:あぁ、自分が当たった(笑)。これは先ほどの出退勤ボードと連動していて、出勤している人の中からゴミを捨てる人をランダムに選ぶ仕組みになっています。ちゃんとゴミを捨てたら「ゴミを捨ててくれたのね。ありがとう」とねぎらいの音声をかけてもらえるのもミソですね。このゴミ捨てスイッチはエンジニアではなく、どちらかというと事務寄りのプロダクトマネージャーが担当してつくりました。

表はローテク、裏でハイテク。 
それがIoTの普及に必要な条件。

—高度なテクノロジーが、見えないところに使われているんですね。

岩佐:先ほどの出退勤ボードが一番分かりやすいですが、昔ながらの木の名札というUX(User Experience/ユーザー体験)はそのままに、裏側でハイテクなシステムが動いています。わざわざオフィスに電話して誰々さんいる?と聞くのは無駄ですよね。電話代も無駄だし、電話に出る人の労力も無駄。とはいえ、いちいちチャットに一人ひとりが出勤しましたと書き込むのも効率的でない。そこでチャットに情報を直接集約できるようにしたんです。

甲斐:テクノロジーに近寄りがたいイメージを持っている人もいらっしゃるかもしれませんが、そういった身近な無駄を削減するというのもテクノロジーの得意分野なんです。

—見た目にテクノロジーを感じさせないというのは、常に意識されているんですか?

岩佐:そうですね。IoTが世の中に普及する鍵はそこにあると思っています。例えば田舎のおばあちゃんがいて、昔から毎日同じことをしていたとします。おばあちゃんは最近何となく便利になったと感じているけど、それが家電の裏側にあるシステムのおかげだとは気づいていない。そういった知らない間に便利になるという感じでないと世の中に浸透しないと思いますね。実際に中国の杭州ではIoTがすごく発達していて、信号機などは今、アリババのスマートシステムのおかげでものすごく高度なフルオンライン自動制御がなされているんです。裏でものすごいAIが動いているけれども、街の人はテクノロジーを意識しないで、最近渋滞しなくなったねと感じているだけという世界になっています。

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—テクノロジーは気づかれないほうがいいんですね。

岩佐:はい、そう思っています。ハイテクっていうと得体が知れないもののように思われて、怖がられたり嫌がられたりすることもありますが、表面上ローテクのように見えるものや、見た目が昔からあるものだと受け入れてもらいやすくなります。

甲斐:だからこそ手に触れられるものをつくりたいと社員はみんな言っています。テクノロジーで肌触りのあるものを作る、それが私たちのようなハードウェアビジネスの面白いところです。

古き良きオープンな時代のコミュニケーションを
テクノロジーで取り戻す。

—すべての情報をチャットに集約するメリットは何ですか?

岩佐:チャットの一番のメリットは、コミュニケーションが開かれたものになることだと思います。メールは基本1対1のやりとりです。CCを入れられますが、能動的に入れないと他の人はやりとりを見られない。それに対してチャットのコミュニケーションは基本全部オープンなんです。オフィスのコミュニケーションって、原始的には結構オープンなものでした。固定電話の時代は、隣の人の話す電話の内容がほとんど聞こえていたんです。隣で上司が納期の遅れを取引先に怒っていたとしたら、それを聞いた上で、自分はこれをしておこうと行動できたんです。しかしメールが普及するとそれができなくなってしまった。納期の遅れをメールでやりとりしていても隣の人には見えない。でもチャットはメールよりオープンなものになっています。別のフロアで働いている同僚が、納期の遅れの話をチャットで知ることができますからね。

—メールの時代よりコミュニケーションが円滑になりますね。

岩佐:はい、誰が何をやっているのかがちゃんと見えますからね。さらにチャットは自分に関連のあるものだけを見る、興味のないチャンネルからは抜ける、関係のあるチャンネルに入る、といったことを能動的に取捨選択ができます。メールに比べて圧倒的にコミュニケーションが効率よくなりますね。実はテクノロジーって、あたたかみのあった古き良き時代のコミュニケーションに戻るために必要なものなんです。

自分たちの環境は、自分たちでつくる。
DIYが、チームワークを育む。

—ハードウェアを実際に形にする工作スペースも自分たちでつくったんですか?

岩佐:はい、そうですね。Shiftallの開発チームの職種は大きく分けて電気、メカデザイン、組み込みソフト、フロントエンド&バックエンドの4つに分かれていて、メンバー比率はだいたい同じです。そのうちの主に電気とメカデザインのメンバーが、この工作スペースで切り貼りやハンダづけ、顕微鏡での確認などの作業をしています。ここは使いやすさを最重要視しています。

—ここまでDIYにこだわっているのはどうしてですか?

岩佐:一番はみんなで作ったものだと愛着が湧くということですね。オフィスの内装をDIYで作ると、みんなで作った場所という感覚を共有できて、チームワークが生まれると考えているんです。

—DIYでメンバーのつながりを作っていくということですね。

甲斐:そうですね。開発の仕事を長くやってきてみて、自分たちで空間をしっかり作ってチームワークを強めていくことは結構大事だなと感じるようになり、このようにしました。

—この大きな長いテーブルもDIYしたんですか?

岩佐:はい。社員同士が立ってミーティングできる大きなテーブルが欲しかったので、長い角材を組み合わせて作りました。ミーティングを立ってすることで、長々と会議をしなくなりますし、インフォーマルなので会話が促進されます。

甲斐:夜は、立ち飲みのスペースです(笑)。昨日も何人かのメンバーで飲んでいました。

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岩佐:このテーブルはデザイナーのアイディアで工作スペースの入り口付近にレイアウトしました。これにも意味がありまして、工作をする開発者は作業に入りこむと黙々と一人作業をしがちになります。しかしミーティングテーブルが工作スペースの入り口にあることで会話が生まれるようになるんです。

社内に駄菓子屋?
コミュニケーションが活発になる環境づくり。

—ミーティングテーブルの上や、社内の色々なところにあるお菓子やおつまみは何ですか?

岩佐:これは社員が勝手に始めた個人商店ですね。もともとは僕がよくラーメンを食べるので、社員がまとめて買ってきてくれたのですが、タダでもらうのも気が引けたんで1つ130円で買ったことがきっかけです。今では「チョコレートを食べたかったので箱買いしました」「食べたい人は気持ちをオンライン送金してください」と言った感じ(笑)。

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—電子基板とみそ汁が隣り合っている様子が面白いですね。

甲斐:駄菓子と電子決済のQRコードの組み合わせも絶妙ですよね。中国語しか読めない人って社内にいないんですけど、WeChat Payで払えることが中国語で書かれている(笑)。

—オフィスグリコを導入している会社は聞きますけれど、個人が自発的に商店をしているのは初めてです。すごく互助的というか、小さな街のようですね。

岩佐:働く場所って本来そうあるべきなのかもしれませんね。江戸時代の個人商店で仕事している若い衆は、商店の2階に店主と一緒に住んで、店のおかみさんが作るまかないを食べる“宿・飯・風呂つき”の働き方をしていた。ある種それは1つのコミュニティ。それに近いのかもしれないですね。コミュニケーションを意識した環境が、この自発的なコミュニティを生んだのかもしれないです。

—コミュニケーションが生まれるオフィス環境というのがどういうものか、よくわかりました。

岩佐:私たちが開発しているのはハードウェアなので、どうしても1人ではできないんです。電気、メカ、デザイン、組み込みソフトといったように、どんなに規模が小さくても4職種が工程を組まないとできあがりません。そうなると、例えば壁で仕切られた部屋で会議や作業をしていると関係者以外は他人事になってしまう。私たちの業種に限らず、オープンなオフィスづくりは相当重要だと私は思いますね。

Shiftallインタビュー前編では、常に最先端を生み出すShiftallの哲学について伺っています。今回の記事とあわせてご覧ください。
https://www.bridgine.com/2019/02/27/shiftall1/

取材・文:安井一郎(Konel) 撮影:佐藤達哉(Konel)

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