Interview
2021.01.22

時代の流れに合わせて、“誰かがすごく欲しいもの”を作る。
ユニークな商品を生み出すキングジムが貫く開発者精神。

時代の流れに合わせて、“誰かがすごく欲しいもの”を作る。
ユニークな商品を生み出すキングジムが貫く開発者精神。

創業90年を超える株式会社キングジム。多くの人が一度は目にしたことであるであろう「キングファイル 」などのオフィス用品から、手軽にラベルシールが印刷できる「テプラ」といったデジタル商材まで、オリジナリティあふれる商品を開発し世に送り出してきた会社です。最近は公式Twitterもフォロワー40万人を超える人気を誇り、その情報発信のユニークさでも注目されています。独創的な商品が生まれ続ける背景や、SNS運営の裏舞台など、開発本部長兼広報室担当の亀田登信さんに幅広くうかがいました。

時代を見据え、文具の世界にもデジタルの要素を付加。

―まずは会社の発祥から教えてください。

キングジムの創業の地はここ東神田ですが、創業者の宮本英太郎氏は和歌山の材木商の出身でした。材木商として働いていた頃からいろいろなアイディアを持っている人で、人に役立つものを作るのが好きな“街の発明家”でした。当時彼が発明した「人名簿」(注:今でいう住所録のようなもの)の評判が良く、こうした商品を世の中に出して多くの人に喜んでもらいたいと1948年に設立したのが、株式会社名鑑堂でした。現在の弊社の経営理念は「独創的な商品で社会に貢献する」なのですが、そのルーツはこの宮本英太郎の創業時の思いにあるんですよ。

本社1(名鑑堂)

下町らしい佇まいの初代の社屋(画像提供:キングジム)

―設立から70年以上この地で営業されているのですね。

はい。まだこの辺りには高い建物がなく、社屋から日本橋三越が見えたのだとか。ビル街になっている今からじゃ想像もできませんよね。

―1961年に社名が「キングジム」になってからは、代表的商品の一つでもある「キングファイル」を発売され、現在まで続くロングセラーとなっていますよね。その後も1980年代までのキングジムは、ファイルやルーズリーフといったアナログ事務用品の専業メーカーでした。そんな状況から、電子機器の要素が強い「テプラ」などのデジタル文具の分野に進出していった理由は何かあるのでしょうか?

デジタル文具に進出したのは1988年の「テプラ」(専用の機器に文字を打ち込み、シールに印刷できるプリンター)が一番最初です。ただ、「テプラ」を発売した当時も決してアナログ文具が不調だったわけではなく、むしろファイル類の売り上げはすごく良かったんですよ。しかしその一方で、将来は少子化が進むだろうとか、ペーパーレスの時代がやってくるだろうということが、1980年代半ば頃から言われるようになってきた。そこで時代に合わせた商品を作ろうということで、デジタル文具をやろうということになったのです。 

―それまでアナログ専業であったキングジムさんにとって、デジタル文具を作るというのは大きな挑戦だったと思います。開発はどのように行なってきたのですか?

三十数年前、「テプラ」の開発を始める時、開発メンバーには私を含め電子機器の知識を持った者は誰もいませんでした。私も法学部法律学科の出身ですからね(笑)。そのため、キングジムが商品の企画と販売を担当し、電子機器の設計・製造は協業していただける社外のメーカーさんにご協力をいただいています。現在では国内の電機・電子機器メーカーの元エンジニアを中途採用し開発チームに加わってもらったり、電子・電気系の学部出身者も新卒採用しており、ある程度、デジタル文具の開発スキルもついてきました。

商品開発の精神は「とにかくやってみて、ダメだったらやめればいい」

―キングジムは前出の「テプラ」や、キーボードでの文字入力に特化したデバイス「ポメラ」など、これまでにはなかった独創的な商品を次々と発売されています。こういったものが生まれる背景についてお聞かせください。

キングジムは「市場があるかはわからないけど、とにかくやってみてダメならやめればいい」という、“開発ありき”の会社です。社長の宮本はよく“ファースト・ペンギン”という言葉を使いますが、あれは「とにかく最初に市場に飛び込もう」という意味(注:ペンギンは最初の一羽が餌を採るために海に飛び込むと、群れがそのあとに続く習性がある)。最初にやって、もしもうまくいけば利は大きい。ただ、そこにはニーズも市場もないかもしれない。その時はやめればいい、という考え方なのです。宮本があちこちでこの言葉を発言しているせいか、この考え方は社内にも浸透していますし、商品開発をする上でも徹底されています。キングジムのDNAと言っていいかもしれません。

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開発本部長の亀田さん。背後にはキングジムの主力商品の一つである「キングファイル」が並ぶ

―商品化の最終決定はどのように行なわれているのですか?

まずステーショナリーとデジタル文具にそれぞれ開発チームがあり、チーム内でアイディアを選定します。そこで残ったものが私のところに上がってきて、そこで絞られたものが、最終的に役員が出席する開発会議に上がる、という流れですね。開発会議の場では、商品案を落とすというよりも「これ、本当に欲しい人はいるだろうか?」というスタンスで検討します。その商品がいいか悪いかについては、多数決をしたところであまり意味がないと思っています。皆がそこそこ欲しいと思うものを作るのもひとつの考え方ですが、10人の会議で1人でもその商品をすごく欲しいと思っている人がいれば、1割の強いニーズがあるとも考えられる。それを無視してはいけないと思うのです。先日も、ちょっと変わった商品の提案があった際に役員の1人が「私はこれ欲しいです、買います」と言ったので、「なるほど、じゃあ商品化してみようか」という結論になりました。

―それは開発しがいのある決定プロセスですね。とはいえ新商品が期待していたように売れないこともあると思います。そんな時は会社として、どのように考えていますか?

もし発売した商品が売れなくても、発案者や開発者に責任を取らせることはしません。但し、商品が期待されていた性能を出せていなくて売れないのであれば、それは開発部門の問題です。しかし思い通りの商品を出したけれども市場がなかった場合については、開発部門の責任はない。もしも開発担当者が売れなかった商品の責任をすべて負わなくてはいけなくなったら、きっと誰も挑戦できなくなってしまいますよね。そのため市場がなくて商品が不発に終わったとしたら、それは商品化にGoサインを出した開発会議の責任ですし、社長自身も議長である自分の責任だと言っています。

―アイディアの種から実際に商品化に至るまで、どれくらいの数にしぼられているのでしょうか?

キングジムは色違いやデザイン違いなどのバリエーションを除けば、1年間でだいたい30アイテムほどの商品を出しています。開発メンバーが持ち寄るアイディアの種は年間で300以上ありますから、実際の商品化までこぎつける確率は10分の1よりも厳しいですね。それでも、テプラやポメラ級の特大ホームランはめったに出るものではなく、10年に一度あるかないかくらいです。作り手としては毎回当たると思って全打席全力で振っているんですけれども(笑)。

―年間で約30点もの新商品にチャレンジできる会社としての体力を維持する仕組みはどうなっているのですか?

メディアで取り上げられることも多いのでキングジムの売り上げの大部分は新製品が占めていると思う方も多いようですが、キングファイルや「テプラ」のようなロングセラー商品の売り上げこそが会社を支えています。また、新商品を扱っていただける流通網も会社の大事な資産です。この土台があるから新商品にチャレンジできるし、チャレンジした新商品の中からまた会社のベースとなるロングセラーが生まれる、という循環になっています。

SNSはユーザーの生の声が集まる場 

―キングジムさんといえば、公式Twitterアカウントも大変人気です。2010年に開設したアカウントのフォロワーは現在40万人を超えています。

おかげさまでTwitterは本当に人気です。エンゲージメントも非常に高く、今やキングジムの魅力の一つです。担当者いわく、投稿内容はあまり奇をてらいすぎてもいけないし、商品宣伝に寄りすぎてもいけないとのこと。『雑談とPRの割合はこれくらい』と決めて、計算しながら運用しているそうです。そんな風に感じさせないところがすごいなと思います。この会社の人間で一番有名なのは、たぶん社長じゃなくTwitterの中の人じゃないでしょうか(笑)。

キングジム公式Twitterより。中の人宛にはファンから年賀状が届く

―Twitterから届く生の声が商品開発に影響することもありますか?

あります。キングジムは代理店を通して販売するので、エンドユーザーさんと直接やり取りする機会があまりありません。だからこそユーザーの生の声を聞ける場として、SNSはとても貴重です。Twitterの担当者に「ちょっと日常ツイートにまぎれこませてこんなこと聞いてみて」とこっそり頼むことも実はあります(笑)。それで返ってきたリアクションを見て、「ああ、そういう反応か~」と参考にすることもあるんですよ。

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デジタル文具ながら紙のような質感にこだわったデジタルノート「フリーノ」(画像提供:キングジム)

―ユーザーの声を聞くと言えば、2020年夏に発売した新商品の「フリーノ(Freno)」は、発売に先駆けてクラウドファンディングで購入者希望者を募っていましたよね。

キングジムはこれまでも商品を購入してくださった方からアンケートは取ってきたのですが、それで得られるのは‘‘買った人‘‘の意見ですよね。一方で、クラウドファンディングは「こんな商品があったらどうでしょう」という提案に対し、欲しいと手を挙げてくれる人の数と、欲しいと思ってくれる方がどういう仕様を必要としているのかが事前に、ダイレクトにわかります。「ここがこうだったらいいな」という希望をヒアリングし、発売前の商品をどんどん改良していけるのです。その情報収集ツールとして、必要に応じクラウドファンディングを活用しています。

2021年はフットワークを軽く、コロナ時代の需要に応えたい

―2020年は新型コロナの流行により、新しい生活様式が提唱されました。そんな中でキングジムさんは「テッテ」(本体に触れることなく消毒液が出せるアルコールディスペンサー)をヒットさせましたが、こちらはニーズを受けて開発されたのですか?

テッテは今一番街中で見かけるキングジムの商品と言っていいかもしれません。でも実は、テッテは新型コロナの状況を受けて開発した商品ではなく、流行が始まる約1年前(2019年2月)に発売したものです。それが結果として、ニーズに先行することになりました。発売当時は冬のインフルエンザ対策にということで売り出していましたが、期待通りには売れていませんでした。テッテがヒット商品になれたのは、タイミングが良かったからですね。

ただ、目先のニーズだけじゃなく、ちゃんと価値のあるものを作って商品ラインナップに入れておけば、いつかこんな風に役に立つこともあるということは実感しました。日本人の衛生観念からいっても、テッテは間違いなく今後も残っていく商品になるでしょうね。

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アルコールディスペンサー「テッテ(tette)」。手を差し出すと適量の消毒用アルコールを自動で噴霧してくれる

―テッテのようなヒット商品が出る一方で、リモートワークや学校の休校によりオフィス用品のニーズ低下は避けられない1年でもありました。

そうですね。それに加えて、最近はハンコ廃止の流れも話題です。ハンコといえば書類、書類といえばファイルでしょう。ペーパーレスが加速して、ファイルが必要なくなってしまうことへの懸念はあります。

ただ一方で、物の整理をする時間がたっぷりとれたので、それにラベルをつけるための「テプラ」の需要が伸びる、ということもありました。全体には追い風とは決して言えない状況ですが、PP製のファイルを抗菌仕様にした新商品を発売するなど、改良も試みながら、できる対応を重ねています。

新型コロナで世の中が変わって感じたのは、自分たちの「この先はこうなるだろう」という考えはあまりあてにならないということです。これだけ急激にテレワーク化が進んだことも、ハンコ廃止の流れが1年でこんなに加速したことも、全く予想外でしたから。「テプラ」についても、2020年の東京オリンピックに備え、外国語の入った大きな表示ラベルが作れる新製品を作りました。しかし、コロナとオリンピックの延期で、インバウンド客は来ない。そこで緊急事態宣言中に急遽提案したのが、「手洗い・うがいなど感染予防を促すラベルデザインのテンプレートを作ろう!」ということでした。このデザインはホームページ上でダウンロードできるのですが、5月頃に公開してからアクセス数も伸びています。このように、新型コロナの影響で業績がへこんだ部分を、既存の商品の可能性をアイディアで広げることで補っていく1年でもありましたね。

感染症対策ラベル

「新しい生活様式」のデザインはテプラのホームページからダウンロード可能(画像提供:キングジム)

―最後に、2021年はどんな1年にしたいかをお聞かせください。

キングジムはオフィス文具が根幹にある会社ではありますが、新型コロナで働き方が変わりオフィス用品の需要が減ったからといって、その流れに負けたくはありません。2020年は、新しい生活様式にあわせてなるべく早く世間の需要に応えるものを出すことが大事なんだと実感した年でした。2021年は、起きた現象により素早く対応できる姿勢でいたいです。もっとフットワークも軽く、お客様の暮らしの助けになるものを作っていきたいですね。

取材・文:中嶋友理 撮影:岡村大輔

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