Interview
2019.07.24

VJという共通軸でコンテンツをデザインする。 クリエイティブスタジオflapper3の考える都市の表現とは。

VJという共通軸でコンテンツをデザインする。 クリエイティブスタジオflapper3の考える都市の表現とは。

モーショングラフィックを軸に、GUI、インタラクションなど表現媒体を問わず幅広い分野のデザインを手掛ける、クリエイティブスタジオ「flapper3」。高校時代に同級生3人で始めたVJ(ビジュアルジョッキー)や映像制作の活動を発展させ、2009年に法人化したクリエイター集団です。創業者の1人で取締役の矢向直大さんは、Instagramでフォトグラファーとしても活躍、7万人以上のフォロワーを集め世界各国のファンを魅了しています。そして、2018年に日本橋に拠点を移した同社。今年は日本橋の夏を代表するイベント「ECO EDO 日本橋(※1)」のクリエイティブ演出を手掛けます。プロジェクトを通し、新たな目線で日本橋の魅力を表現したflapper3のメンバーにお話を伺いました。

(※1)ECO EDO 日本橋の紹介記事はこちらから

すべての始まりは、高校時代のVJ活動

─まず初めに、flapper3が手掛けられているプロジェクトについて教えてください。

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flapper3代表取締役の中村圭一さん(写真右)。高校の同級生である矢向さんらと共に会社を設立した

中村圭一(以下、中村) : 映像制作が全体の8割以上を占めるメイン事業ですが、それ以外にもウェブやグラフィック、インタラクティブなど幅広い分野でデザイン制作をしてきました。代表的な事例でいうと、映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」、ゲーム「ACE COMBAT INFINITY」のモニターグラフィックスデザイン、初音ミク「マジカルミライ」、Mr.Childrenさんら様々なアーティストのコンサート映像などを手がけています。 安室奈美恵さんのライブには、引退されるまでの約5年間携わらせていただきました。

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Live-初音ミク「マジカルミライ」Hatsune Miku,Magical Mirai(©Crypton Future Media,INC.,)

矢向直大さん(以下、矢向) : 特に、映画、ゲーム、音楽といったエンターテインメント領域における映像演出を得意としています。高校時代、同級生だった僕と中村ともう1人鈴木というメンバーで作った、映像制作やVJを中心に活動していたチームが原型なので、その影響が今も残っていますね。「flapper3」という会社名も、もともとはそのとき使っていたチーム名なんです。『ガリバー旅行記』に出てくる「記憶の番人」的存在のキャラクターの名前にちなんで、「人の記憶に残るものを作っていきたい」という思いを込めています。

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取締役・クリエイティブディレクターの矢向直大さん。17歳よりVJとして活動し、2010年からはオンラインレーベル"Bunkai-Kei records"も主宰

─おふたりは10代の頃からの仲なんですね。

中村 : はい、鈴木が所属していた美術部に私と矢向も参加して、コンクールに出品する映像を作ったり、VJをやったりする高校時代でした。それがだんだんと仕事に発展していき、2009年会社の設立に至りました。現在も社員の大半がVJを通して知り合った仲間ですし、今回ECO EDO 日本橋のクリエイティブを担当した山本も現役のVJです。

山本太陽さん(以下、山本) : 僕は途中で弊社に合流したのですが、社員同士もともとの出自が似ていて共通言語を持てるので、クリエイティブにおけるコミュニケーションが取りやすい組織だと感じています。特に、VJらしい“音に対しての映像”という考え方が根っこにある人が多いですよね。

矢向 :弊社の制作物で最初に業界で話題になったのは映像作品やVJではなく、映像をインタラクティブに組み込んだWebなんです。でもこの事例も根本のところでは、リアルタイムで音に反応して映像を切り替えていくという、VJの特性が生かされたものでした。当時は、Webサイトでの映像使用がまだ一般的でなかったので話題になりましたね。

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ディレクターの山本太陽さん。今回、ECO EDO 日本橋のキービジュアルと仲通りのライトアップ演出の制作をメインで担当した

矢向:うちは様々なプロジェクトをアートではなく、デザインの考え方で推進していると思っていて。例えばライブコンサートだったらアーティストが主役。自分たちは空間演出を通して、いかに彼らを引き立てるかということに徹します。コンテンツ制作においても、自分たちのスタイルを表現するということではなく、クライアントや鑑賞者の求めている根本的な思考をしっかりと捉えたうえで、それに対する解として適切な提案を行うためのデザインをしています。そのうえで、自分たちなりの“プラスα”を施して、それが結果的に、アート的に評価されることがあってもいいのかなというスタンスです。 こういったアートではなくデザイン、という考え方も、音楽に対する映像を考えるVJのバックグラウンドの影響が出ているのかもしれません。

“身近”なシティスケープをカメラで“非日常”に表現する

─矢向さんは、2016年からはInstagramをメインにフォトグラファーとしての活動も行われています。この活動のきっかけはなんだったのでしょうか?

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東京や大阪、世界各国の都市の姿を鮮やかに、近未来的に切り取る矢向さんの写真。Instagramアカウント(@yako_flpr3)より引用

矢向:今ってネットで検索すれば綺麗な画像がたくさん出てくるじゃないですか。そんな時代なので、もともとは、自分で写真を撮ることにあまり意味を感じていなかったんです。検索すれば画像が見れるし、記録という意味ではそれで十分じゃないか、と。でも2年半前にカメラを購入し旅行先で写真を撮り始めてみたら、写真を通した「非現実的な表現」の魅力に気付いて。アプリを使って写真に編集、加工も行うことで、自分独自の表現ができるということを実感したんですね。それから一気に写真が楽しくなりました。

―確かに、少し近未来的な…そんな印象を受ける写真ですよね。

矢向:そうですね。僕の写真はアニメやVJのグラフィック的な要素の影響が強く、異端だと言われることもよくあるんです。一般的な写真の定義からははみ出しているかもしれませんが、見慣れたはずの風景が日常から乖離するという感覚を楽しんでもらえるかなと。

―シティスケープのお写真が多いことに何か理由はありますか?

矢向:僕自身、日常と非日常の乖離を写真で表現することに魅力を感じているので、いかに日常からのギャップを出せるか、という目線で撮影対象を見ているんですね。その意味で、日常とのギャップを演出しやすいのが、ふだん僕たちがいる場所、つまり都市だと思っていて。だから、シティスケープが面白いんです。

それに、カメラ自体もとても身近なものですよね。スマホも含めれば今やほとんどの人がカメラを常に持ち歩いている時代で、言わば“日常そのもの”のメディア。そんな日常的な表現形態であるカメラで、慣れ親しんでいる都市を切り取る。だけどアウトプットとしては日常とギャップのある表現が可能であることに表現としての面白さを感じています。

ECOEDO日本橋のクリエイティブ。人の活気にあふれる街を水の流れで表現。

─今年、flapper3はECO EDO 日本橋のキービジュアルの制作や仲通りのライトアップ演出も手掛けられました。この制作過程についてお聞かせいただけますか?

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山本さんがデザインしたキービジュアル

山本: 「夏の涼」と「浴衣を着て持ち歩きたくなる」ことをお題にいただき、日本橋に関する書籍を読んだり、江戸東京博物館に行ったりしながら、まずはこの街の文脈を自分なりに紐解いていくことにしました。様々な資料をあたる中で、かつて水運が栄えたという歴史や日本橋の“橋”から連想して、「川の流れ」を表現することにしました。キービジュアルには、日本的な表現手法である浮世絵から着想したグラデーション的色づかいや、藍色をベースに金色をアクセントにした表現を試みています。また、flapper3らしさを出す意味でも、モーショングラフィックスを表現手法として取り入れました。

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ECO EDO 日本橋のクリエイティブ制作のために、flapper3が参考にした資料。キービジュアルの表現トーンにおいては、特に浮世絵のから大きなインスピレーションを得たという

─涼しげな表現なのに、どこかダイナミックな勢いも感じます。

中村 : 今回様々な文献をあたって印象的だったのが、日本橋が「人」の街であるという点。日本橋を描いた浮世絵の多くが、橋を象徴的に描きながらも、同時にその周辺で商売をする人々の活気あふれる様子を一緒に描いていて、これこそが日本橋を支えた重要な要素だったのだろうなと感じたんです。この街が栄えてきたのは、パワフルで魅力的な人が多く集まったからだったんだろうなと。なので、今回テーマとした「川の流れ」にも、人々が生み出す活気や勢いを表現したいなと思ったんです。

―仲通りのライティング演出「Summer Scroll」もとても涼しげですね。

山本 : こちらも浴衣を着た方が写真をとりたくなるような空間演出を意識し、キービジュアルと同様のコンセプトで制作しました。プロジェクターの映像で道路面に川の流れを表現し、音や映し出すモチーフで日本の夏を表現しました。また、ECO EDO 日本橋は3か月もの長期にわたる夏のイベントなので、演出の中でも夏の移ろいを感じられるような仕掛けを組み込みました。お盆を過ぎると、鈴虫の音色が聞こえたりと、夏の終わりや秋の訪れを感じるような演出を加えています。仲通りを歩きながら、季節感を感じてもらえたらいいなと思いますね。

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音と映像、ライティングによって日本の夏を描く「Summer Scroll」

―道路上への演出というのはなかなか珍しいと思います。表現上苦労されたこと等はありますか?

山本 : 「川の流れ」という液体の表現が難しかったですね。画面とにらめっこして何度も試行錯誤を繰り返し、気に入らないところを地道に潰していくという作業を経て、デザインを理想に近づけていきました。

中村 : 仲通りを通り過ぎられる方にも気付いてもらえるように、プロジェクタ投影の動画の中のモチーフの数や配置にこだわったことはもちろん、空間全体の演出を左右するライトの色味や表現も細かく調整をしています。例えば花火のモチーフが映像として流れる時には、遠くで花火が上がったかのような明るさを演出できるよう、ライトの色味や照射のタイミングをコントロールしています。仲通りの空間で夏らしい体験を楽しんでもらえたらうれしいですね。

―今回、矢向さんはECO EDO 日本橋の企画で「浴衣をめぐる日本橋」をテーマに、全15か所で写真を撮り下ろしされました。日本橋の街を撮影してみて気付かれたことはありますか?

矢向 : ふだん都市の写真を撮るときは、東京だったら東京タワーやスカイツリーなど、被写体として中心に据えるものを探すことが多いんです。日本橋ではその構図をつくるのが難しかったのですが、建物や街並み自体に昔ながらの情緒がありつつも、そこに現代的なものが重なっている感じに面白さを感じました。例えば福徳神社に続く仲通り。あそこは石畳の通りに提灯が並び、左右には高層ビルが建っているという、江戸時代の雰囲気がそのまま未来化したようなあり方ですよね。他の街にはなかなかない風景で、被写体として魅力的だと思います。そのように伝統を積み重ねながら、現代にアップデートさせているような日本橋の都市風景と、時代に合わせながら継承され続けてきた伝統的衣服である“浴衣”には文脈的な共通点を感じましたね。その2つを、一緒に撮影するというのも特別感がありました。

撮影していて特に新鮮だったのは馬喰町の辺りですね。雑多な感じもするんですが、活力も感じられて。混沌とした中に日本らしさも感じられてとても面白かった。あと、今回撮影してみて、日本橋はそのうち国際的にも人気に火がつくのではないかという予感がしました。外国人の方が想像する昔ながらの日本らしさと、近未来的な日本らしさが同居しているので。

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矢向さんが撮影した「浴衣をめぐる日本橋」の作品。中央が、馬喰町の街並みを撮影したもの

魅力を再発見するきっかけづくりに挑戦したい。

─日本橋に拠点を移されて1年が過ぎましたが、今この街にどのような魅力を感じられていますか?

中村 : 東京駅に近くて交通アクセスが良いのはありがたいです。それに、コレドなどの商業施設や映画館があって、オフの時間も充実して過ごせるのも嬉しいですね。でも何より、日本橋といって分からない人はいないので、そういう意味でこの街にオフィスがあるのは、“キャッチーさ”という観点においてアドバンテージだと感じています。

矢向 : これは感覚的な話ですが、「オフィスどこ?」って聞かれたときの「日本橋」という返しのリズムが好きですね。あと、日本橋は渋谷や青山等と街の雰囲気も全く違う。落ち着いていて過ごしやすい雰囲気を持っているのも魅力です。それに、やっぱり「人が面白い街」という感じはありますね。日本橋はお祭りが多いのも僕のようなイベント好きとしては嬉しいところで、個人的には「べったら市」が気に入っています。お漬物を口実にして、みんなで街の中でお酒を飲む企画なんて、非常に人間味があって尖ったイベントですよね(笑)。

山本 : 尖っているといえば、日本橋周辺のエリアにはエッジの利いたお店が集中しているように思います。僕の行きつけの古着屋さんが京橋にあるんですけど、エレベーターが手動の、古いビルの屋上に設置された小屋で営業されています。その中で、100年以上も前の貴重なヨーロッパの衣服を販売しているんです。あのあたりは古美術店やギャラリーも多くて、各エリアで意外とガラッと雰囲気が変わるのもこの地域の魅力ですよね。

─flapper3の皆さんの目線で語られる日本橋の姿は、独特の視点があって興味深いです。最後に、今後この街で取り組んでいきたいチャレンジを教えてください。

矢向 : 昨年、鹿児島や福島で明治維新150周年を記念するクリエイティブ制作を行いました。その制作期間中、鹿児島で撮影した写真をInstagramにアップしたところ大きく拡散されたという経験をしたんです。地元の方たちとは違う目線で新たな魅力を切り取って伝えたことが反響を呼んだということなのですが、こういったことにもっとトライできたらいいなと思いましたね。その地に長くいると気付けないような魅力を、外からの目線で新しく掘り起こし、表現する。そのことで、地元の方が新しい魅力を知って喜んでくれる。そういう仕事がいろいろな場所でできたらいいなと思いました。日本橋も歴史があってイメージも強い分、掘り起こせていない風景がありそうですよね。

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矢向さんの撮影した鹿児島の風景。(@yako_flpr3)より引用

中村 : 弊社はこれまで受託事業が中心でしたが、もっと自発的に、新たな付加価値を生む活動にも取り組んでいきたいと思います。昨年近辺にあるクリエイティブ企業と共同でイベントを行ったのですが、そういった、自分たちでコンテンツをつくって発表するだけではない、色んな人と共に作っていく機会をもっと増やしていきたいですね。

また、今回ECO EDO 日本橋を通じて街との取り組みの魅力も感じました。人の街だと思うので、もっと街の方とも関わりを持ちながら、街のクリエイティブにも参加できたらと思いましたね。日本橋については学ばなければいけないことが多いですが、矢向も言ったように、地元の方も気づかないようなこの街の魅力を発信していけたらと思います。

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取材・文:皆本類 取材分撮影:岡村大輔

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