Interview
2020.01.08

まちのリビング「HAMA HOUSE」から発信する、これからの時代のコミュニティの在り方。

まちのリビング「HAMA HOUSE」から発信する、これからの時代のコミュニティの在り方。

多くの街のコミュニティ作りを手がけ、人々の交流を生み街の魅力を再構築してきたgood mornings。その活動の拠点は、日本橋・浜町の「HAMA HOUSE」にあります。彼らが浜町に関わるようになって約3年。街はどのように変わり、これからどんな発展を遂げていくのでしょうか?good mornings代表の水代優さんの語る街づくりとコミュニティのお話の中には、未来に向けた素敵なヒントがたくさん詰まっていました。

good morningsは、街をエディトリアルする“編集者”。

―good morningsでは、カフェの運営から地域の活性化事業、メディア作りまで幅広い活動をされていますね。

good morningsの仕事は、一言で表すと“場づくり”です。街をより良くするための場を作り、雑誌のエディターのように、その場所を編集するのが我々の役割だと思っています。幅広く活動しているとよく言われますが、すべては場づくりの一環としてやっているので、たとえば街の面白さを表現するために必要になれば、WEBも作ればフリーペーパーも作る。だから結果として領域が広がっているイメージですね。

―場づくりのための編集とは、具体的に日々どんなことをされているのでしょうか?

場を編集するということは、言い換えると“コネクトする力”を発揮するということです。良い編集者って、世の中の流れを見つつ、異質なものを組み合わせて新しい切り口を見つけるのが上手でしょう?それに「こんなこと言ったらデザイナーがやる気をなくすだろう」とか「著者の言いたいことと宣伝の方向性が違うから、ここを調整しよう」みたいなことをわかっていて、うまく先回りして関係者をコネクトしながら皆を導いていく。それに近いことをしていますね。

なので、日々さまざまな要素をつなげるために動いていますが、人に会って話をしたり、そのためにどこかを訪れたりすることが多いので、一つ一つ細かくお伝えすると遊んでいるだけじゃないかと思われそうです…(笑)

―いえいえ、楽しそうに見えるのは良いことです(笑)、きめ細かいコミュニケーションが必要そうな役割ですね。

どんなプロジェクトでも、最初はつなげる質より量が必要になってくるので、できるだけ多くの人に会って話をして、情報を伝えたりアイディアを出し合ったりしています。

この浜町での活動もそうです。ここはさまざまな属性の住人や地元企業の方、町内会やその青年部など、多種多様な人たちがいる街ですが、はじめは皆接点が少なくバラバラに感じることが多かったので、とにかくそれぞれの立場の人たちと会ってつなげるということをしてきました。また街に関わる人の浜町に対するイメージもさまざまで、近年移住してきた若い家族は教育環境の良さや自然の多さに魅力に感じていたり、ビジネス関係の人はアクセスの良さを気に入っていたりと、それぞれが感じる良さがある街なんです。だから、その多様な人と多様な魅力をどうやってつなげて関係性を作っていくかを、いつも考えていますね。

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good morningsの拠点、HAMA HOUSE。ブックカフェ、イベントスペース、オフィスなどさまざまな顔がある

―浜町を活動の拠点にされたのも、その多様性に惹かれる部分があってのことでしょうか?

そうですね。ここにHAMAHOUSE を作る前から浜町には関わっていますが、街にいろいろな顔があって実に面白い場所です。それと、このあたりのディベロッパーである安田不動産さんの考え方や姿勢にも共感してこの場所を選んだという側面もあります。街づくりや場づくりは長い時間をかける話ですから、物件の良し悪し以上に街に対するスタンスに共鳴できる相手と一緒にやりたいと思いました。 “手仕事と緑の見える街”という彼らの考える浜町のコンセプトも気に入ってます。

コミュニティは、“納品する”ことによって大きく進化する。

―街を活性化させるためにはコミュニティというキーワードが重要になると思いますが、そもそも水代さんの考えるコミュニティの定義とは何でしょうか?

コミュニティは家族や友人の“縁(ふち)”にあるものだと思っています。家族・友人が花の中心だとしたらその周りに広がる花びらのようなイメージ。近しい人の“外”ではなく“縁”にあって、数が多いほど人生に潤いをもたらすのがコミュニティではないでしょうか。

―では、良いコミュニティとはどんなコミュニティだとお考えですか?

良いコミュニティには①先輩後輩の上下関係がないこと②出入りが自由であること、という2つの条件があると思います。僕たちは地元の青年部からカルチャーで結びつく仲間まで、いろいろなコミュニティを見てきましたが、これはどんなコミュニティにも共通して言えることですね。

カウンターバーなどで想像してもらうとわかりやすいです。常連さんもいるけれど、勇気を出して入ってきた新しいお客さんにも優しいお店は居心地が良いですよね?それに、皆が好きな時に行って「今日は誰がいるかな?」と気軽にお店に出入りしている。そういう良いお店ではマスターがお客さんを上手につなげている場合が多いですが、コミュニティにおいてもフラットで自由な環境を作る、ハブになる人のスキルが重要ですね。

―ほど良いゆるさがあることが大切なんですね。その一方で水代さんが関わるコミュニティは、ゆるさの中にも多くのアウトプットを生み出している印象があります。

コミュニティが活性化するきっかけは、皆で何か成果物を“納品する“ことだと思うんです。異なるバックグラウンドを持つ人たちで一緒に何かを作って納品すると、劇的に人間関係が変化して、コミュニティが進化していきます。

たとえば、浜町には野菜ジュース等で有名な「カゴメ」の本社があるのですが、地元住民の方はいつも街中で見ているビルがカゴメだということを、意外と知らなかったんですよね。一方でカゴメは地元に開いていきたいという思いのある企業だったので、彼らをもっと地元につないでいったら面白くなりそうだと思いました。それで僕らはさまざまな人を巻き込みながら、HAMA HOUSEでカゴメのトマトのサラダバーをやったり、屋上でトマトの植樹会をしたり、とにかく皆で多くのイベントを“納品”することを繰り返しました。イベントは特に地元のママ層に好評で、それまで馴染みのなかったカゴメという企業に親しみを感じ、応援してくれるようになりました。そして逆にママさん達からの声かけで、学校のイベントでのトマトジュースの協賛に発展するなど、どんどん交流が深くなっていきましたね。

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トマトの植樹会で植えたさまざまな品種の苗。苗のポットは同じく浜町に拠点のあるインテリア雑貨の「KEYUCA」とコラボした(写真提供:good mornings)

―とにかく形にするということでコミュニティが発展していくんですね。

コミュニティ活動と納品活動を一緒に進めていくと、すごく面白い街になると思います。納品と言っても、プロダクトを作るだけじゃなく、マルシェでお店を出すとかイベントをやるとか、形は何でも良いんです。納品するということは、小さな産業が創出されているということ。ポコポコとプロジェクトが生まれて動いている街は、活気があるし魅力的ですよね。

―実際に何かを作ろうとなった時には、コミュニティのメンバーが手を動かしてすべて作るのでしょうか?

場合によりますね。デザインが必要になるものなどは、プロのクリエイターに依頼するケースもあります。それにクリエイターにコミュニティと納品活動のハブになってもらえたら良いなという思いもあって、HAMAHOUSE の3階はクリエイターのスモールオフィスにしています。

クリエイターも巻き込む、HAMA HOUSEのイベントの多様な切り口。

―なるほど。何かをやろうと思ったときにすぐにクリエイターの協力を得られる環境にあるということですね。

そうですね。実際にここにオフィスが構えるクリエイターが、地元団体のロゴや施設のネーミングを作る事例も生まれています。地元に面白いプロジェクトがたくさんある街だと認識されれば、クリエイターもここに集まってくるんじゃないかなとも思って。だから意識的に彼らをコミュニティとつなげるようにしています。

―クリエイターがコミュニティにおいて果たす役割は何でしょうか?

僕らはコミュニティが生み出すものを通じて“人の心を動かしたい”と思っているのですが、クリエイターもそこが似ていて、彼らはデザインやコミュニケーションで人の心を動かすことを常に考えています。だから単純におしゃれなものを作りたいから彼らに頼むのではなく、クリエイティブで人の心をつかむという役割を彼らに期待しているんです。

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―HAMA HOUSE では、クリエイターの感性を刺激しそうなイベントも多く開催されていますよね。

さまざまな属性の人をつなげて街を活性化することが我々の役割ですから、ここでやるイベントも多様な人たちの関心を集めるように工夫しています。

たとえば過去には、NIKEの創業者であるフィル・ナイトの自伝「SHOE DOG」という人気書籍の発売イベントをやったのですが、これなどはクリエイターにも興味深いものだったのではないでしょうか。「SHOE DOGカフェ」と称して、期間中はHAMA HOUSE の壁の本棚を全てこの本で埋め尽くし、発売日のイベントを皮切りに、さまざまな関連企画を催しました。この本が好きな若手起業家を集めてトークバトルをやったり、NIKEのクリエイティブ担当者を呼んで話を聞いたり、女子大生支援チームを巻き込んだトークイベントなんていうのもありました。それと、主人公のフィル・ナイトが何度ピンチに直面しても戦い続ける男だったということから着想し、“震災の被害を受けても負けない人々”という文脈で、熊本や三陸の生産者とコラボレーションもしましたね。そうすると、バックグラウンドがさまざまでも、本という共通のテーマから派生したイベントをきっかけに、そこに集まった人同士で仲良くなったりするんですよ。

SHOE DOG トリミング

「SHOE DOG」という一冊の本をテーマし、さまざまなイベントが展開された(写真提供:good mornings)

―それだけ多様な切り口があると、さまざまな人が集まりそうですね。そうした企画のアイディアはどのように生まれるのでしょうか?

いろんなイベントをやるので、企画やアイディアが豊富なんだろうと誤解されるんですが…。僕はそういうことを考えるのは、実はそんなに得意ではないんです。ただ何かをやろうとしたときに、それを“着地”させるスキルが人よりあるのは事実だと思います。これまでの経験から、この企画は地元の町内会が協力するだろうとか、消防と保健所の許可は取れるけど警察はダメって言うだろうとか、だいたい予測がつきます。それに誰を説得すればうまくいくとか、ここの人たちに言う順番を間違えたらいけないとか(笑)、街で何かをやろうとすると必ずそういうことが大事になってきます。そこも含めて我々の仕事だと思っていますしね。

―イベントをやる上で重視していることは何ですか?

企画した本人が一番楽しむということですね。たとえ企画がすべってしまっても、本人やその大切な人がすごく楽しんで満足していたらそればそれで良いと思っています。失敗による損失もあるかもしれないけれど、それはダメージと捉えず、むしろ失敗したらそこにはノウハウが生まれると考えます。それが蓄積していけば、良いコミュニティ・良い街になっていくと思いますね。

生産性や効率性はいらない。コミュニティ活動で得られる価値。

―積極的に街の人々をつなげる活動をされていますが、そうした活動はわかりやすい成果が出るまでに時間がかかるものだと思います。短期的・具体的な結果としては見えづらい街づくり活動の価値を、どのように多くの方に理解してもらうのでしょうか?

たしかに街づくりの活動には、時間をかけて活動を積み重ねてはじめて成果が出るものが多いですよね。コミュニティ作りなどはまさにそうですが、その価値は実際にそこに参加して体感してもらうことで理解いただけるものじゃないかと思っています。

一般的に、急いでいて重要なことは皆すぐやりますよね?でも今すぐやらなくても良いけど重要なことってなかなか手をつけられない。街づくり・コミュニティ作りとはまさにそういうもので、緊急性はないかもしれないけど人々の暮らしを豊かにする大切な取り組みです。そして毎日やっていないとダメで、途中でやめてしまうとうまくいかない。筋トレみたいなものですね。

―コミュニティ作りが筋トレに近いとは(笑)。コミュニティには緊急性や縛りがない分、会社組織などとは違う動き方をしそうですね。

コミュニティならではの独特な規範があったりしますね。たとえば生産性や効率性はビジネスではよく求められる要素ですが、コミュニティだとあまり好まれなくて、そこを追求しても誰も褒めてくれないんですよ。 僕たちは毎年お祭りでかき氷の店を出しているのですが、効率よくかき氷を作ろうとして手順を工夫していたら、そんなことして何の意味があるの?と笑われたこともあって(笑)。たとえ15分早く完売するように効率化しても、打ち上げの時間まで空いちゃうじゃないか、みたいな理論の世界なんですよね。ビジネスだと普通のことがコミュニティだと通じなかったりするのも、世の中のさまざまな価値観が垣間見えて面白いですよ。

盆踊り

浜町の夏の風物詩、中央区大江戸まつり盆踊り大会(写真提供:good mornings)

―一方で、これからコミュニティに参加する側から考えると、家と仕事以外のコミュニティの中に飛び込むにはそれなりに勇気がいると思います。興味はあるけどなかなか入っていけない、という人はどうすれば良いでしょうか?

行動しないと仲間は増えないので、小さな一歩でもとにかく踏み出すことが大切ですよね。自分が思っている以上に、他人は自分のやることに関心がないものですし、そんなに気負う必要はないんです。それと、コミュニティの中で頑張っている人にしかわからない共通言語が実はたくさんあって、戦う者同士でそれをわかち合う感覚はかけがえのないものです。行動をする人に対しては外部からネガティブな声が届くこともありますが、それはあくまで観客席からの声なのであまり気にしなくて良い。観客ではなくプレイヤーとして活動し続けた先に、家でも仕事でも得られない新しい価値が手に入ります。だからプレイヤーになる方がずっと楽しい人生になると思いますよ。

これからは、“○○できるコミュニティ”を増やしたい。

―浜町に関わられて約3年とのことですが、何か変わってきたと感じることはありますか?

これまでお伝えしたような取り組みで、地域に新しいつながりが生まれていることはもちろんですが、そのコミュニティの活動の形も徐々に変化してきたように感じます。

たとえば、年に4回開催している「浜町マルシェ」でも最近そのことを実感しました。このマルシェには多くのこだわりの食材が集まるのですが、来てくださるお客さんのことを考えた“品切れNG”という基本のスタンスがある一方で、悪天候などで店舗側に売れ残りが出てしまっても、そこはなかなか問題になってこなかった。でもそれっておかしいよね?という話が挙がり、ロスした食材を全部買って、近隣の企業の総務部に協力してもらい、その企業のリフレッシュスペースや会議室などで売り始めました。そうしたら趣旨に賛同して乗ってきてくれる人がたくさん出てきて、今では他の組織や企業も巻き込み、多角的な「福ごはんプロジェクト」に発展しています。

コミュニティ作りにおいて、異なる者同士をつなげるのが縦軸だとしたら、同業者や似た嗜好同士をつなげるのが横軸だと思うのですが、“フードロス”という共通のテーマを中心に置くと、その両軸のどちらとも違う“斜めの軸”みたいなものが生まれるということがわかりました。飲食店のライバル同士でも、ロス食材を使うという共通項での連帯感が生まれ、同時に異質な人たちもそこに入ってくる、という新しい形のコミュニティですね。

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浜町マルシェで売れ残った食材が、企業内で再販売された(写真提供:good mornings)

福ごはんPJ

地元の飲食店が食材を再利用して「福ごはん」として提供したメニューの例(写真提供:good mornings)

―それはすごく前向きな変化ですね。将来的にどんなコミュニティが理想になってくると思われますか?

これからは、“○○できるコミュニティ”というのが時代に合う形になってくるんじゃないかと思います。福ごはんプロジェクトもそうですが、何か課題解決ができるようなコミュニティは、参加者のやりがいも見出しやすい。もし発展すれば規模の大きいコミュニティになっていきますが、そうするとマーケットでの価値も高まります。たとえばヘルス系企業のマーケット調査があったとしたら、数十万人にサンプリングするよりも、数千人の健康分野に関心のあるコミュニティを巻き込んだ方がずっと効率よくリアルなフィードバックが提供されるはずです。同じ課題意識を持ったコミュニティは、さまざまな形の貢献もできるはずなんです。

―最後に、HAMA HOUSE を今後どんな場所にしていきたいか教えて下さい。

さまざまな人が交流するリビングのような場であることがHAMA HOUSEの役割だと思っていますが、これからも人がつながる機会をできるだけ多く作っていきたいですね。チャンスや種類が多ければ、「自分もこれだったら参加できるかも」と思っていただける方も増えると思いますし、それによってさらに参加者の多様性が増すことで、仕掛ける側が予想していなかったアウトプットを生み出すことにもなると思います。そしてゆくゆくは、僕たちがつなげなくても、自発的に面白いコミュニティが生まれるような街になったら良いなと思っています。

取材・文:丑田美奈子(Konel) 写真:岡村大輔

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