Interview
2020.11.25

「食」を通じて社会課題を解決する。カゴメが地域貢献に力を入れる理由とは?

「食」を通じて社会課題を解決する。カゴメが地域貢献に力を入れる理由とは?

農業を営んでいた蟹江一太郎氏がトマトの栽培に挑戦し、初めて発芽を見た日を企業の「はじまり」として以来、120年以上にわたってトマトをはじめ自然の恵みを活かした商品を通して、人々の健康に貢献してきたカゴメ。日本を代表する食品メーカーとして誰もが知る存在である同社は近年、食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業になることを掲げ、」「軸とした社会貢献、地域活性などの取り組みを加速させています。東京本社がある日本橋浜町界隈の活性化を目的に、今年4月に設立された「日本橋浜町エリアマネジメント」にも正会員として名を連ね、この街での活動にも本腰を入れ始めている同社 健康事業部・湯地高廣さんにお話を伺いました。

モノを売らない健康事業部とは?    

―まずは、湯地さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。

私は2004年にカゴメに入社し、営業職として大阪や九州で働いた後、商品企画部で新商品の立ち上げやマーケティング、生鮮食品を扱う部署で量販店やコンビニの広域営業などを経験し、現在は健康事業部に在籍しています。これまでにさまざまな仕事を経験させてもらっていて、社内でもかなり珍しいキャリアパスだと思います(笑)。

―さまざまな仕事を通じて一貫して大切にされてきたことはありますか?

正直、入社当初はここまで長く続くとは思っていなかったのですが、カゴメは働けば働くほど好きになる会社なんです。心から誰かに薦めたくなるような商品がたくさんあることがその理由のひとつなのですが、これらの「モノ」だけにとどまらないプラスアルファの価値を追求することが自分のテーマになっています。そして、いま私が在籍している健康事業部は、まさにモノ以外も扱うカゴメでは珍しい部署なんです。

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取材に応じてくれたカゴメ 健康事業部の湯地高廣さん

―健康事業部ではどんな取り組みをしているのですか?

現在カゴメは、長期ビジョンとして「『トマトの会社』から『野菜の会社』に」を掲げているのですが、我々が目指すところのひとつとして、生活者の野菜不足を解消し、健康寿命を伸ばしていきたいという思いがあります。それを実現していくために3年ほど前に新設されたのが健康事業部で、現在は食リテラシー向上や健康促進をサポートするセミナーの開催、野菜摂取の充足度を表示する「ベジチェック®」の開発、これらに商品を組み合わせた健康サポートプログラムの提案などを行っています。これまでもカゴメでは、さまざまな商品を通じて野菜の摂取、食生活の改善を訴求してきましたが、1日に必要とされる350gの野菜摂取はあらゆる世代において長年実現されていません。その中で健康事業部では、モノ以外の取り組みを通じて生活者の意識や行動を変え、健康的な食生活を実現することをゴールに据えています。

―コロナ禍において食生活を見直している人も多い中、健康事業部の取り組みに対するニーズはより高まっていきそうですね。

そうですね。コロナ禍によって自宅で食事をする機会が増えましたが、運動が十分にできずに「コロナ太り」などの問題も出てきており、今後健康被害が深刻化していくことが予想されます。その中で我々は在宅ワーカーの健康をサポートするために健康セミナーのライブ配信サービスなどもスタートしていますが、今後は色々な企業などとも連携しながら、取り組みを加速させていきたいと考えています。

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手のひらを数秒あてるだけで簡単に野菜摂取の充足度が測れる「ベジチェック®」。皮膚のカロテノイド量を測定することで、野菜摂取レベル、野菜摂取量を推定できるという。(画像提供:カゴメ)

地域との「共助」を大切にするDNA   

―健康事業部の取り組みにも直結することだと思いますが、カゴメは将来ありたい姿として「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業」を掲げていますね。

はい。1899年に創業者の蟹江一太郎が愛知県でトマトの栽培を始めて以来、農産物を扱い続けてきたカゴメには、自然の恵み、大地の恵みを大切にするというDNAが受け継がれてきました。我々は畑というものを第一の工場と考えており、地域農業の振興、環境の保全などを通して持続可能な社会を実現することが、企業として存続していくための前提になると考えています。また、カゴメが大切にしている行動規範に「共助」というものがあり、自助・公助だけでなく、生産者や販売店などのステークホルダーや地域社会との共助のしくみをつくり、社会課題を解決していきたいという思いがあります。

―そうした考えのもと、カゴメではさまざまな地域と連携した取り組みを行ってきたと思いますが、2019年に長野県にオープンした「カゴメ野菜生活ファーム富士見」についてもお話を聞かせてください。

「カゴメ野菜生活ファーム富士見」は、もともとトマト菜園や飲料の工場があり、八ヶ岳の大自然に囲まれた富士見町にオープンした、「農業・工業・観光」の3つの要素を揃える体験型のテーマパークです。野菜の収穫体験やそれらを使ったピザづくりなどの体験教室、ミュージアム型の工場見学などができ、レストランやカゴメ製品・地場産野菜などを売るアンテナショップなども併設されています。カゴメのファンづくりの拠点という側面に加えて、この施設においても「健康寿命の延伸」「農業の成長産業化」「地域の活性化」などの社会課題を解決する場という位置づけがなされているんです。

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2019年4月にオープンした「カゴメ野菜生活ファーム富士見」。体験教室、レストラン、ショップなどから成る「ファームハウス」、農業・収穫体験ができる「みらいファーム」、見学施設「ファクトリー&ミュージアム」などがある。(現在、工場見学と体験教室は休止中。画像提供:カゴメ)

―先日立ち上げたばかりの「カゴメみらいやさい財団」も地域における課題解決がテーマになっていますね。

「カゴメみらいやさい財団」は、子ども食堂をはじめ、地域で食育や子どもの貧困対策など食に関する社会貢献活動に取り組む団体への助成を行う財団です。カゴメでは以前から、未来を担う子どもたちの成長を支えることで地域社会の健全な発展に貢献したいと考え、食育などの活動に取り組んできたのですが、近年は貧困による食生活の悪化や孤食などによって地域とのつながりが希薄化しています。子どもたちの心身の成長を妨げる問題が顕在化している中で、こうした課題に対して共助の精神で取り組んでいくことが、この財団の理念になっています。

都市における地域貢献のあり方   

―近年のカゴメの事業は、「課題解決」という観点から生まれているものが多そうですね。

そうですね。4年ほど前から事業プランの社内公募制度が始まったのですが、現在カゴメが運営している保育園「ベジ・キッズ」もワーキングマザーである女性社員が、働くお母さんたちの支援、子どもの野菜嫌いの払拭という課題をもとに起案したものです。実は開園当初に私の子どもも通っていたのですが、野菜の苗植えや収穫体験ができたり、管理栄養士さんが調理している様子が間近で見られ、調理補助などもできるので、食育という点で非常に良かったと感じています。

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「野菜を好きになる保育園」を掲げ、カゴメが運営する保育園「ベジ・キッズ」。園内にはオープンキッチンなどもあり、日常から年中行事まであらゆるシーンで野菜に触れられる環境が用意されている。(画像提供:カゴメ)

―ベジ・キッズは東京本社を構える日本橋にありますが、この街との関わりについてはいかがですか?

先ほどご紹介した「カゴメ野菜生活ファーム富士見」にしても、「地産全消 笑顔をつなぐプロジェクト」として全国各地の果実を用いた「野菜生活100」のミックスジュースなどにしても、地域への貢献という目標が明確なので、やるべきこともわかりやすいんですね。一方で都市部における地域との関わり方はなかなか難しく、何をすればよいかわからないというところが会社としても少なからずあったはずです。でも、個人的には地域への貢献を謳う会社の本部にいる人間こそ、もっと自分たちが働いている地域を盛り上げるべきだという思いを持っていました。そんな折に「日本橋浜町エリアマネジメント」設立の話がありました。税金を収めることだけが都市部における地域貢献ではないですし、ここにいるおよそ400人もの社員たちは日本橋の街に支えられているわけですから、自分たちのノウハウをもっと地域に還元できたら良いなと考えています。

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日本の農家を応援し、地域の農業を盛り上げることをテーマに展開されている「地産全消 笑顔をつなぐプロジェクト」。「青森りんごミックス」「高知和柑橘ミックス」など全国の生産者が栽培した果実を用いた季節限定商品が開発されている。(画像提供:カゴメ)

―これまでに日本橋ではどんな取り組みをされてきたのですか?

正直まだそこまで活動ができているわけではないですが、街での取り組みのひとつとして、トルナーレ日本橋浜町で開催されている「浜町マルシェ」に参加し、「トマトすくい」やトマトの食べくらべ、植樹会などを行いました。特にトマトの苗を植えて半年後に収穫するという体験が親子連れのお客様などから好評で、ここにひとつのヒントがあると感じています。最近では、コロナ禍で苦しむ飲食店を支援する「人形町おひとりさまナイト」の協賛などもさせて頂きましたが、現時点ではそれぞれの取り組みが「点」のままの状態なので、これらを「面」にしていくことで、日本橋にいる方々との接点をつくっていくことが今後の課題ですね。

―こうした取り組みに対する社内の反応はいかがですか?

いまのところ、能動的にアクションを起こしている人はまだまだ少ないので、もっと社内の理解者を増やしていきたいですね。目の前の仕事に忙殺されている中で、地域の活動に目を向けてもらうことには難しさも感じていますが、だからこそエリアマネジメントの活動などを通じて街との関わりを強め、色々なヒントを頂きながら事例をつくっていくことが大切だと思っています。最近は、都市の緑化としてグリーンカーテンが人気ですが、先にお話ししたトマトの植樹を発展させる形で、街の中に田畑のあぜ道のような風景をつくりたいと個人的に考えているんです。「カゴメが本気を出せば街でこんなことができるんだ」ということを示して社内の理解者を増やし、ゆくゆくは各々が主体的に街に関わるようになり、色々なことが多発的に起こっている状況が生まれることが夢ですね。

KEYUCAより

年に4回、トルナーレ日本橋浜町で開催されているマーケットイベント「浜町マルシェ」で行われた「トマトの苗の植樹会」。参加者は後に開催された「収穫祭」にも招待された。(KEYUCAサイトより引用)

ワーカーと街の伝統をつなぐ 

―湯地さんご自身は、日本橋という街にどんなイメージを持っていますか?

地域での活動に関わる前は、正直あまり元気がない街という印象がありました。これはこの街で働くワーカー目線での印象なのですが、日々忙しく働いている企業の人たちは街のコミュニティやさまざまな活動にほとんど参加できていないと思うんですね。もちろんお祭りの時などは街全体が盛り上がるのですが、もっと日常的な賑わいがあっても良いのではないかと感じていました。日本橋のオフィスワーカーたちも機会があればもっと街の活動に参加したい、つながりたいと思っているはずですし、そのための機会をこの街にオフィスを置く企業などが知恵を出し合ってつくっていくべきだという思いがありました。

―ワーカーと街をつなぐ接点として、「食」というのは大きなツールになりますよね。

そう思います。日本橋には老舗の飲食店も多いですし、その魅力をもっと発信して、ワーカーと街の伝統をつないでいきたいんですよね。それによってこの街で働くことをもっと楽しめるようになるはずですし、家と会社の往復だけでなく、仕事の後などに街に立ち寄るようになると思うんです。また、日本橋には食品メーカーも多いので、そうした会社で働く人たちと老舗の飲食店がつながることで新しいメニューなんかも生まれるかもしれないですよね。以前に街での取り組みの一環で老舗の飲食店とコラボレーションした時、トマト製品をお味噌汁に入れられていたのですが、実はトマトには昆布に匹敵するグルタミン酸があるのでコクが出るし、減塩にもなるんですよね。老舗のお店から教えてもらえることはたくさんあると感じていますし、こうしたコラボレーションをきっかけにして、「健康な食」を軸にしたコミュニケーションが街に広がっていくといいなと思っています。

Hamahouseより

カゴメ東京本社からほど近い「Hama House」とのコラボレーション企画として、カゴメのトマトやベビーリーフなどを用いた期間限定メニューとなるスムージーやサンドイッチ、ランチプレートなどがカフェで提供された。(Hama Houseサイトより引用)

―日本橋の店舗とコラボレーションする機会は多いのですか?

会社がある浜町界隈だと、富士屋本店さんやHama Houseさん、KEYUCAさんなどとコラボレーションを行っていますし、徐々にネットワークが広がってきています。会社の事業として考えると、こうした取り組みはすぐに利益を生むものではありませんが、そもそも自分たちが取り組んでいる健康事業というのは、自社で商品をつくって販売する他部署の事業とは根本的に性質が異なるもので、いかに先行プレイヤーを含む他社と手を組み、事業をドライブさせていけるかがカギなんです。そうした協業の機会をつくることも私が街の活動に取り組んでいるひとつの理由ですし、会社の外のネットワークを広げ、足し算ではなく掛け算のコラボレーションを実現させていくことで、これまでになかったものを生み出していきたいという思いがあります。

日本橋をスマートウェルネスシティに  

―今後日本橋でコラボレーションしたい相手がいれば教えてください。

いまラブコールを送っているのは、製薬メーカーです。我々が取り組んでいる健康事業は日々の食事を通して健康になるという「未病」の領域で、医療とは土俵が違うと思われがちですが、例えば糖尿病患者などの治療などにしても 近年は投薬だけでなく、日々の食事も大切だという考えが強まっていて、両者がクロスしつつあるんです。そうした動きの中で我々としても製薬メーカーとのコラボレーションをしていきたいですし、「薬の町」としての顔を持ち、製薬会社が多い日本橋なら良い機会がつくれるのではないかと思っています。また、最近は寝具の日本橋西川さんとお話をする機会などもあるのですが、睡眠領域のコラボレーションにも興味がありますね。

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―「食」から「健康」へとテーマを広げることでコラボレーションの可能性はより大きくなりそうですね。

食、運動、睡眠が健康の3大要素ですが、各領域のプレイヤーがコラボレーションすることで、健康施策を通じてまちづくりに貢献できるのではないかと考えています。地域の健康・未病に関する施策としては街歩きマップの作成などが一般的ですが、他にもやれることはたくさんあると思っています。私が強く共感している概念に「スマートウェルネスシティ」というものがあって、要はその街で暮らすことが健康につながるという考え方です。ゆくゆくはこの考え方にもとづいて、地域創生などに関わっていくということが自分が思い描いている将来のヴィジョンのひとつなんです。

―そのモデルケースをつくる上で、東京本社があり、街に多様なプレイヤーがいる日本橋は最適な街なのかもしれません。

そう思います。日本橋では「健康オフィス」という観点でディベロッパーさんからお声がけ頂いていますし、まずはこの街で疲れ切っているオフィスワーカーなどに向けた取り組みができると良いなと思っています。発信力がある日本橋の街を舞台にこうした施策を先行して行うことによって、他の地域でできることも大きくなるはずです。これはカゴメ一社では到底できないことだと思っているので、さまざまな企業と協働しながら取り組みを進めていきたいですね。

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画像提供:カゴメ

取材・文:原田優輝(Qonversations)   撮影:岡村大輔

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