Interview
2020.07.22

お客様と触れ合って商品の魅力を伝えたい。 HARIOがカフェから提案する、コーヒーのある暮らし。

お客様と触れ合って商品の魅力を伝えたい。 HARIOがカフェから提案する、コーヒーのある暮らし。

来年創業100周年を迎える、老舗耐熱ガラスメーカーのHARIO株式会社。理化学品や家庭用のガラス製品などで有名な同社ですが、その名が世界的に知られるようになったのは、V60シリーズなどのコーヒー器具のヒットがきっかけでした。そしてコーヒーのある暮らしの魅力を伝えるべく、2018年に初の飲食業となるカフェ店舗としてオープンしたのが「HARIO CAFE」。昔ながらの職人技を大事にするマインドと、新しいアイディアを柔軟に取り入れる姿勢を両立する社風や、カフェでの取り組みについて、同社広報の辻本真理さん、HARIO lampwork factory広報の大川寧々さん、HARIO CAFE店長の高橋文哉さんにお話をうかがいました。

理化学品メーカーから家庭用品、そして世界のコーヒー器具ブランドへ。

―まずはHARIO社の歩みを教えてください。

辻本真理さん(以下、辻本):HARIO株式会社は1921年創業、来年で100周年を迎える企業です。HARIOという社名は、「玻璃(ガラスの別名)の王様」が由来となっています。ガラスにはいろんな種類があるのですが、HARIOが扱うのは耐熱ガラスで、電子レンジや直火、熱湯もOKですし、酸やアルカリにも強いという特性があります。HARIOは創業時、この特性を活かしたビーカーやフラスコといった理化学品を作る会社としてスタートしました。
その後、1948年に家庭用品の分野に進出し、最初に作ったのはコーヒーサイフォンでした。以降、家庭用品ではコーヒー器具、お茶の器具、キッチンウェア、ペットの食器などを幅広く手掛けていて、変わったところでは自動車のヘッドランプの一部なども作っています。そして2014年からは、新規事業としてガラスアクセサリーも始めました。

大川寧々さん(以下、大川):家庭用品の中でも特に人気なのがコーヒー用のV60ドリッパーです。今でこそ弊社を代表する主力商品ですが、実は2004年に発売した当初は全然売れませんでした。ところが2010年にマイケル・フィリップスさんという方がバリスタ世界大会で優勝した際に使用し、「初心者でもプロでも美味しくコーヒーが淹れられる、使いやすいドリッパー」と紹介してくださったことで、一気にHARIOの名前が売れたんです。今では海外ではHARIOといえばコーヒー器具、というくらいの浸透度になっています。

V60

一躍HARIOのヒット商品となったドリッパー「V60」

お客様と直接触れ合える場所がほしかった。

―カフェオープンのきっかけはどのようなことだったのでしょうか?

辻本:2000年に本社が日本橋に移転したのですが、その時にいろんな方から「素敵な建物なのだから一部をカフェにしたらいいのに」という声をいただいていました(HARIOの本社は昭和7年竣工の銀行をリノベーションした建物で、文化財に指定されている)。しかしその頃はまだ、うちは器具屋であって飲食は専門ではないという考えでしたね。
でも、ガラスアクセサリーのブランド「ランプワークファクトリー」のお店を日本橋の室町で出すことが決まった時に、せっかく実店舗を持つなら、そこにコーヒーの魅力を伝えるカフェを併設したらいいのではないかというアイディアが出てきて。そこで「じゃあやってみよう!」となってからは、あっという間に企画がまとまりました。

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HARIO本社の外観(画像提供:HARIO)

大川:HARIOはさまざまな商品を手がけてきていたものの、メーカーであるためエンドユーザーであるお客様と直接話す機会がないことが大きな課題でした。だからアンテナショップのような形で店舗を持ち、お客様と直接触れ合って、器具の特徴や使い方を直接伝えられる場を作りたかった、というのがHARIO CAFEをオープンした一番の理由です。

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ランプワークファクトリー広報の大川さん

辻本:そうですね。コーヒーを販売して利益を上げていくことももちろん必要なのですが、HARIOの器具を通してコーヒーの魅力を知ってもらうのがこのカフェの役割。バリスタが淹れた美味しいコーヒーを飲んでいただき、それを家でも楽しんでもらうための情報発信の場でもあると考えています。

―その美味しいコーヒーを淹れるバリスタとして、高橋さんが抜擢されたんですね。

高橋文哉さん(以下、高橋):私はもともと八丁堀にあるコーヒーのお店でバリスタとして働いており、お客さんにコーヒーを振る舞うほか、バリスタの大会に出たり、コーヒー関連の展示会に参加したりしていました。そのお店が器具をHARIOから仕入れていた関係で、HARIO CAFEの立ち上げ担当者との繋がりがあったんです。そうした縁もあり、その後HARIO CAFEの店長を務めることになり、今に至ります。

―HARIO CAFEでいただけるコーヒーについても教えてください。

高橋:HARIO CAFEで使用しているコーヒー豆は、グレードの高い、いわゆるスペシャルティコーヒーと呼ばれるものです。豆をお願いしているのは、千葉にあるPHILOCOFFEA(フィロコフィア)さん、日本橋のカフェカルモさんや用賀や渋谷に店舗があるWOODBERRY COFFEE ROASTERSさんです。ちなみにPHILOCOFFEAさんは2016年のワールド・ブリュワーズ・カップというコーヒーの世界大会でこれまたV60を使って優勝された、粕谷哲さんがオーナーをされている焙煎所なんですよ。

コーヒー

カフェで使用されているコーヒー豆は購入も可能

大川:コーヒーももちろんですが、店内の内装にもこだわりがあって、たとえば壁に埋め込まれているレンガのモチーフはガラスを高温でドロドロに溶かす窯をイメージしたものです。現在日本で唯一耐熱ガラスの自社工場を持っている会社というアイデンティティを表現しています。3Fにはコーヒー器具以外のさまざまな商品群が並んでいたり、まさにHARIOのアンテナショップとなるよう随所に工夫がされています。社内に一級建築士の資格を持った者がいて、社内の意見を反映させながら手がけました。

―想いのこもった本格的なカフェなんですね。

高橋:カフェのコンセプトは「お客様の一杯の美味しいコーヒーのために」です。このコンセプトに対して、できることは大きく3つあると考えています。1つ目は先ほど大川からもあったように、HARIOの器具を実際に見ていただいて、知ってもらうこと。2つ目はカフェとして当然ですが、上質なコーヒーを提供し美味しさを体験してもらうこと。3つ目は自宅でも美味しいコーヒーを楽しんでいただくために、ワークショップを開催することです。

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バリスタとして大会にも出場するHARIO CAFE店長の高橋さん

―お店で開催されているワークショップではどんなことを学べるのでしょうか?

高橋:基本的なところでは、全くコーヒーを淹れたことがない方のためのハンドドリップ入門クラスから、少し経験がある方のための初級クラスなど、レベルに合わせたドリップ講座のクラスがあります。
それから新製品に触っていただけるクラスや、器具の使い比べクラスというのは、私たちのカフェに特徴的かもしれません。HARIOにはV60の他にペーパーレスドリッパー、布フィルターのネルドリップなどもあるんですが、全部を自宅で試してみるのはなかなか難しいですよね。だからワークショップで使い比べ・飲み比べをすることで、自分の好みを知っていただく機会を用意して、自宅で飲む時の参考にしていただければと思っています。それから、お客様からの要望が多かったサイフォンの使い方クラスや、シーズンごとのアレンジコーヒーのクラスもあります。夏はアイスコーヒーの美味しい淹れ方、冬はカフェオレのラテアートもやっています。

―ワークショップにはどんな方が参加されていますか?

高橋:来てくださる方は、体感では女性が多くて、年齢は本当に幅広いですね。コーヒー好きの女性って今すごく多いように思います。 

大川:最近は雑貨店やアパレルショップにコーヒー器具が置かれていることも多いですしね、自分でコーヒーを淹れるということが、性別や年代を問わずライフスタイルに溶け込みはじめているのかもしれないですね。さらにコロナ渦で自宅時間を充実させようという方が増えているのもあって、ますますその傾向が強くなっているように感じます。

―最近ネットショップを始められたのも、コロナ渦での自宅ニーズの増加を受けたものだったのでしょうか?

大川:4月1日からオンラインショップを始めたのですが、これは新型コロナは関係なく、もともと予定していたものでした。また同時期にInstagramでワークショップを配信するようにしたため、結果的には店舗が休業を余儀なくされている間も、お客様と動画を通してコミュニケーションが取れたり、そこで紹介したものをネットショップで購入いただいたりと、良い流れを作ることができました。

Instagramのほか、YOUTUBEチャンネルでもコーヒーの楽しみ方を提案している (動画提供:HARIO)

高橋:はじめはコーヒー豆がよく売れていたのですが、動画配信を続けるうちに、ドリップの入門セットや動画内で私が使っていたものなどが売れるようになっていって、リアルの場がなくてもお客様とつながることができるという発見がありました。動画のコメント欄で質問されたことにその場で回答する場面もあり、そうしたやり取りを楽しんでいましたね。

「とにかくなんでもやってみよう」の精神で新しいアイディアが実現できる。

―お話を伺っていると、HARIOは老舗企業でありながら新しい分野への進出が続いているうえ、その中でも日々さまざまな挑戦が繰り返されているように感じます。そういった社風の背景についてお聞かせください。

大川:経営陣が「なんでもまずやってみよう、挑戦してみよう」という姿勢なので、それが社内や関係会社にも浸透しているのかもしれません。耐熱ガラスの自社工場を持っているのが最大の強みであり、ガラスは理化学品から食器、アクセサリーと応用の幅も広い。その強みを生かしてなんでも展開していこうという考え方がまず根底にあるように思います。

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1階では職人の手仕事によるガラスアクセサリーを展示・販売する

辻本:たとえばHARIO CAFEの1階にある「ランプワークファクトリー」のガラスアクセサリーは、2011年の東日本大震災をきっかけに、弊社のトップの発案から生まれました。HARIOの工場では電力エネルギーでガラスを溶かしているのですが、3.11という想定外の事態で電気が来なくなり、2つある窯のうち1つを停止せざるをえなかったのです。その窯の中に残ったガラスを何か活用できないかということで、現会長のアクセサリーを作ってみようというアイディアからです。世の中に閉塞感のあった時期でしたが、家庭用品でも理化学品でもない、私たちだからできる何か夢のあるものを作ってみようということで、今のブランドにつながりました。

またガラスのアクセサリーは、会社としての原点に立ち返って手加工の技術を生かしたものを作ろうという意味もありました。今は工場で機械が大量生産していますが、あえて原点であるガラス加工の職人技術、手加工の意義をもう一度見直して復活させてみようという取り組みです。

職人

職人の手作業で作られるガラスのアクセサリー(画像提供:HARIO)

―社員のアイディア登用にも積極的だそうですね。

辻本:ものづくりに関しても、外部委託するのではなく社員のアイディアで進めるのが基本です。「こういうものを作りたい」というアイディアを、全社員が提出する場が年に1回あります。集まったアイディアから経営陣らが良いものを選んでいって、最終的には会社の判断で製品化されます。実際に、たとえばガラス蓋つきの炊飯土鍋はこの企画から生まれました。普通は見えない土鍋の中が見えると、ご飯が炊ける過程もきっと楽しいよねって。ガラス屋なのでなんでも透明にしたくなるんです(笑)。

ご飯釜

社内公募のアイディアから生まれた土鍋(画像提供:HARIO)

日本橋のコミュニティを大切にしながら、世界とつながる。

―本社は富沢町、カフェは室町、そしてランプワークファクトリーは大伝馬町と、全て日本橋界隈に集まっています。日本橋という街への愛着を感じますね。

辻本:本社は昭和7年に建てられた元銀行の建物を使用しています。前のオーナーがこの建物をそのまま使ってくれる人に譲りたいと考えているという話を聞き、HARIOとしても「古いものを活かす」という精神に共感し、2000年にこちらに移転しました。

高橋:カフェの場所を室町にしたのは、世界に発信したいという思惑もあったと思います。特にV60というドリッパーに関しては先に海外で人気に火がつき、逆輸入的に日本で注目されたもので、とにかく海外のファンが多い。世界に発信するという意味では、外国人観光客が多く利用する東京駅やマンダリンオリエンタルホテルに近いという立地も重要でした。実はHARIOカフェにいらっしゃるお客様の3分の1くらいは海外からのお客様なんです。HARIOのカフェが東京にあると知って立ち寄っていただいたり、スマホの画面を見せられて「これ売ってますか?」と聞かれたり。

―会社として地元コミュニティとの交流もあるそうですね。

辻本:最近は新型コロナの影響で開催できてないのですが、定期的に地元の清掃ボランティア活動も続けています。それとは別に町内会のお掃除会もあるので、そこにも参加しています。この地に100年お世話になってきた企業としては、やはり地元を大切にしていきたいですね。

―秋には日本橋から発展して、名古屋の新商業施設「ヒサヤオオドオリパーク」にHARIO CAFEの国内2号店がオープン予定だそうですね。日本橋店とはどんな違いのあるお店になりそうですか?

辻本:名古屋店は公園の中という立地を生かした店舗です。日本橋は街の中にあるお店ですが、名古屋店は自然を楽しみながらの違った雰囲気になります。他にもインドネシアなどで海外展開も広げており、今後も拡大予定です。世界をフィールドと捉え、広くHARIOの魅力を発信していきたいと思っています。

―最後に、HARIO CAFEとして今後チャレンジしたいことを教えてください。

大川:カフェのオリジナルグッズの商品開発や、そこでしか体験できないことはもっと強化していきたいです。たとえば現在もグラスや手ぬぐいなどを販売しているんですが、日本橋店でしか買えないメイドインジャパンのグッズは、海外のお客様の注目度も高いんですよね。あと、カフェで使用する新しいカップ&ソーサーも開発中です。カフェのオリジナルを作ろうということで陶芸家さんとお話をしているところで。こうしたオンリーワンの価値は、HARIOらしい自由な発想で増やしていけたらと思います。

取材・文:中嶋友理 撮影:岡村大輔

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