Interview
2020.12.23

「ムロホンエリア」に新たな風を。立ち飲みから生まれるユニークな交流とは。

「ムロホンエリア」に新たな風を。立ち飲みから生まれるユニークな交流とは。

日本橋室町と日本橋本町から成る「ムロホンエリア」は、老舗と新店が共存して独特の魅力を生みだしている注目のエリアです。その一角に、2019年3月「すこぶる 日本橋」がオープンしました。日本橋にはめずらしい立ち飲みのお店で、このエリアに新たな潮流を生んでいます。ユニークな出会いと交流を生んでいる「すこぶる 日本橋」。日本橋への出店の経緯やお店づくりの工夫、人と人のつながり・交流への想い、今後の抱負などについて、オーナーの小林正貴さんに話を聞きました。

三軒茶屋、そして日本橋で、つながりとにぎわいを生みだす「すこぶる」。

―「すこぶる」は三軒茶屋で1号店を開業されて、日本橋が2店舗目ですよね。小林さんのこれまでの歩みについてお聞かせいただけますか。

大学卒業後1年ほどサラリーマンをしていたのですが、昔から「人と人がつながる場をつくりたい」という想いがあり、それが叶いそうな飲食業界に転職しました。いつか独立することを目標に、飲食店チェーンに約9年間勤務し、いくつかの店舗で店長や統轄店長を務めました。その経験をベースに、2013年11月、三軒茶屋の茶沢通りに居酒屋「すこぶる」を開業しました。目指したのは、ひとりでも気軽に立ち寄ることができて、週に何度も来てもらえるようなお店です。カウンターメインのアットホームなお店なので、僕の思い描いた通りお客さん同士も仲良くなってくれて、賑やかなお店になりました。ちょうど「すこぶる」がオープンした頃から、周りに飲食店が増えて、今や茶沢通りは人気のグルメ&飲みスポットになっています。

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住まいにも近く愛着のあった三軒茶屋に居酒屋「すこぶる」をオープンした小林正貴さん。インタビュー当日は「天気が良くて気持ちよかったから」と、三軒茶屋から日本橋まで自転車で駆け付けてくれた

―「すこぶる」が茶沢通り活性化のきっかけになったわけですね。その「すこぶる」が、日本橋に出店することになった経緯を教えてください。

「すこぶる」の常連さんに三井不動産の方がいて、再開発中の日本橋「ムロホンエリア」への出店オファーをいただいたんです。茶沢通りを活性化したように、ムロホンエリアも盛り上げてほしいと。日本橋はあまり行ったことがなく、なじみのないエリアだったので、正直最初はピンと来ませんでしたね。当初は大きな商業施設への出店だろうとイメージしていたので、自分がやりたいこととは違うなと思っていましたし…。でも実際に日本橋に足を運んでみると、どこか“色っぽさ”のあるおもしろい街で、魅力を感じました。また物件も路面の小さなビルで、これなら「人と人をつなぐ」という「すこぶる」のコンセプトとも合うなと。何回か訪れるうちに段々と日本橋が気に入り、ここに新しい風を吹き込んでみよう!と出店を決めました。

―「すこぶる 日本橋」はどのようなお店なのでしょうか。特徴やお店づくりのこだわりなどをお聞かせいただけますか。

店舗部分は1・2階で、どちらも客席エリアは3.5坪とコンパクトなお店です。1階はオールスタンディングで、壁をタイル張りにしてポップな雰囲気にしました。2階は木を多用した“和”の空間で、ゆっくりしていただけるようにカウンターには椅子を設置しています。立ち飲みメインですが、長居もできるような雰囲気づくりを心掛けました。特徴的なのは1階と2階を吹き抜けにしたことですね。ひとりで来られるお客様もさみしくないようにと、1階と2階でにぎわいを共有して一体感を出すことにこだわりました。

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2019年3月16日、日本橋「ムロホンエリア」に「すこぶる 日本橋」がオープン。街に新しい風を吹き込み、にぎわいをもたらすことを期待されての出店だった(すこぶるインスタグラムより)

街の内と外がつながる場、新しい出会いと交流の拠点に。

―「人と人がつながる場をつくりたい」という小林さんの想いは、「すこぶる 日本橋」にも強く込められているのですね。交流を生む場をつくるためにどのような工夫をされていますか。

常連さんと新規のお客様のどちらにも居心地よく過ごしていただけるバランスを常に考えています。そもそもがカジュアルな立ち飲みなので、どんな方にも入りやすいとは思いますが、店づくりにおいて意識しているのは、お店にいる人たちの間に境界を設けないこと。たとえば1階のL字型のカウンターはお店の作業台と一体になっていて、お客様同士、お客様とスタッフの会話が自然と生まれます。またお店のファンを増やしていくため、最近はインスタグラムでの情報発信に力を入れています。「インスタのメニュー見て来たよ」とコミュニケーションのきっかけになることもありますね。老舗が多いイメージのある日本橋ですが、「すこぶる」のような新しいスタイルのお店ができることで、インスタグラムに反応する若者層など、新しいお客さんが日本橋に来てくれたらいいなと思っています。

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L字カウンターの奥は調理エリアとの境界がなく、スタッフとも自然に交流が生まれる(すこぶるインスタグラムより)

―「すこぶる 日本橋」で生まれた、日本橋ならではのユニークな交流はありますでしょうか。

周りにある老舗の方々がよく飲みに来てくださるのですが、たとえば老舗のお寿司屋さんの大将が飲みに来て、お店にいた若いお客様が興味を持ち、そのお客様が大将のお寿司を食べに行くということがありました。老舗は若い人にとって敷居が高く思われがちなそうですが、同じ空間でお酒を飲むことで親近感がわき、ハードルが下がったのでしょうね。お酒を飲んで酔っ払うと肩書きも年齢も関係なくなってみんな一緒ですから(笑)、あっという間に仲良くなっちゃうんです。

―小林さんが目指す、ムロホンエリアに新しい風を吹き込み、人と人をつなぐということが、実現できているわけですね。

当初思い描いていたような「人と人をつなぐ」ということは徐々にできてきているかなと思います。これも大将たちのおかげですね。新参者の「すこぶる 日本橋」は、この界隈にはなかったタイプの店ですが、老舗の大将たちにかわいがってもらい、応援していただいています。困ったことがあったら相談に乗っていただいたり、差し入れをいただいたり、うちのスタッフも大将たちに飲みに連れて行ってもらったり…。大将たちの包容力とこの街の温かさに感謝しています。

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「老舗の大将たちとの交流というのは日本橋ならではのもので、三軒茶屋にはなかったものですね」と小林さん

―ムロホンエリアにはほかにも素敵なお店がありそうですが、ハシゴ酒をするならどんなコースがおすすめでしょうか。

そうですね、まずおすすめしたいのは近所の老舗鮨店「繁乃鮨」さんでお寿司を楽しんでいただいた後に「すこぶる 日本橋」へ、というコースですね。ハシゴ酒なら、「すこぶる」で一杯やった後にイタリアン・バール「PASTAVOLA」さんでワインを楽しんでいただき、カジュアルな雰囲気のバー「ムロマチ」さんで締める、というのがおすすめです。ムロホンエリアにはおいしいお酒が飲めるお店が増えているので、ぜひ飲み歩きを楽しんでもらいたいですね。お客様の回遊が増えることで、また新しい動きやつながりが生まれると思います。

「すこぶる日本橋」のこれから。

―「すこぶる 日本橋」オープンから今までを振り返って、いかがでしょうか。新型コロナウイルス感染症による影響もあったかと思いますが…。

正直今年はいろいろと大変な1年でした。本来であれば、2020年はオリンピックもあり海外から多くの旅行者が来るはずだったので、海外の人たちに「ムロホンエリア」で飲食を楽しんでいただき、交流ができたらと考えていました。しかしそれが白紙になってしまったので、どうお店を盛り上げていくか、試行錯誤が続いています。

コロナ禍で、4月は1か月間休業しました。5~9月はお弁当のテイクアウトを行い、初めての試みだったので大変でしたが、勉強にもなりました。10月からようやく通常営業となり、だいぶ客足は戻りましたが、まだまだです。実は三軒茶屋のお店は去年よりも売り上げがアップしたのですが、日本橋のお客様は会社員の方が多いので、リモートワークが増えた影響であまり街にいらっしゃらなくなってしまい、なかなか厳しい状況ですね。でも、商人としてはこんな時こそ知恵の絞りどころ。ここからが勝負!なので、前向きに新たなチャレンジをしていきたいと思っています。

―これからのチャレンジの内容や、今後の抱負についてお聞かせください。

人は楽しいことにお金を使うので、“食”を切り口に楽しいことをやっていきたいですね。一言で言うと「食で遊びたい!」と思っています。その一環として、「すこぶる 日本橋」で出しているグリーンカレーの缶詰めをつくってみました。中身を鍋に入れて、缶一杯分の水を加えて煮込むだけで、本格的なグリーンカレーができるというものです。その缶詰めをアウトドアショップで販売して、キャンプなどで楽しんでもらえたらと。バーベキューで余った具材なんかを入れてもらってもいいですし。レトルトのカレーを温めるだけよりも、料理をしている感じがありませんか(笑)?そんなふうに、食と体験、食と遊びを結び付けていきたいですね。

また、僕は長野県出身なのですが、長野にはおいしい食材がたくさんあるので、それをもっと知ってもらえるようにしたいですね。農家の同級生もたくさんいるので。たとえば、長野ではあまり価値が見出されていない果物をブランディングして、東京に持ってきて売り出したり…。ちなみに「すこぶる 日本橋」でも、信州ポークや志賀高原ビールなど、長野の食材やお酒を出しているんですよ。

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食というフィールドで「楽しいことをしていきたい」と笑顔で話す小林さん。その遊び心やエンターテインメント精神が「すこぶる 日本橋」にも詰まっている

―最後に、これからの季節で特におすすめのメニューをご紹介ください。

これからの時期は何といっても「鴨だしおでん」がおすすめです。“コース”的にご紹介するとしたら、おでんを2、3品選んでもらい、定番の人気メニュー「ピーマンの肉詰め 焼かない」と旬の「白子の昆布焼き」、そして〆に「信州ポークのカツサンド」か「グリーンカレー」を召し上がっていただきたいですね。ドリンクだと、国産の柑橘類が旬を迎えるので、愛媛県岩城島の青いレモンを使った「青いレモンサワー」がイチオシです。この青いレモンは香りが強く、レモン独特の酸味の中にほんのりとした甘みがあり、時期によって味わいが変化するんです。ぜひ飲みに来てください!

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鴨でだしをとった「鴨だしおでん」は、大根、こんにゃく、たまご、がんも、鶏つみれ、春菊など10種類以上の種があり、目移りしてしまう

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ネーミングにも惹かれる「ピーマンの肉詰め 焼かない」(左)と、さわやかな味わいが楽しめる「青いレモンサワー」(右)(すこぶるインスタグラムより)

取材・文:小島まき子 撮影:岡村大輔

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