Interview
2020.11.04

日本橋から世界へ。広がり続ける『BENTO』の可能性。

日本橋から世界へ。広がり続ける『BENTO』の可能性。

日本、シンガポール、ニューヨークなどに拠点を置き、「農業と食のグローバルバリューチェーン展開」に挑戦しているアグリホールディングス株式会社。日本橋でシェアキッチンやシェアオフィスを運営しながら、いま同社がとりわけ力を入れているのが「お弁当」事業です。コロナ禍において、今一度価値を見直されているお弁当に以前から注目し、多角的な展開を視野に入れていたという事業ビジョンや、今後「BENTO」として世界に羽ばたいていく可能性を、代表取締役の竹田真博さんに伺いました。

世界で勝負できる、日本の食文化

−竹田さんのご経歴と、アグリホールディングスに参加した経緯を教えてください。

学生時代に初めて起業をし、海外で飲食店を経営していました。大学卒業後には一般企業に就職しましたが、将来的には、世界で「日本がNo.1」と誇れるものを自分の事業の核としたくて、働きながらずっとそれを探し続けていましたね。自動車、家電なども含めいろいろな分野を考えたのですが、これまでも世界から評価され続けていて、今後もビジネスとしても世界のトップレベルで戦っていける可能性があるのは「日本料理」なのではないかと感じ、最終的には日本の「食」や「農業」に携わる事業をやりたい、と思い至りました。その過程の中で、代表の前田と出会い、当初は個人的な株主として応援していたのですが、自分が描いていた将来的なビジョンと当社の事業内容がマッチしたこともあり、2年前に本格的に参加することになりました。ちょうど日本橋にAG&FOOD centerを作るタイミングでしたね。

−AG&FOOD centerでは、現在どんな取り組みをされているのでしょうか?

いまは、法人向けのお弁当販売やメニュー開発、飲食店へのワイン販売、シェアキッチン・シェアオフィスの運営などを手がけています。
中でも力を入れているお弁当販売は、これまでやってきた「さむらいす(SAMURICE)」というおにぎり店の運営がきっかけになっています。もともと弊社は創業時から、日本の農業問題の解決の一助となるべく、お米の生産補助、輸出、生産者と消費者のマッチングなど、幅広くサプライチェーンに携わってきました。そして、そのお米を海外に輸出した際に、お米と同時に日本の食文化を伝え興味を持ってもらうためのコンテンツを作り、興味を持ってくれる人を増やすことが必要だと考えたのです。その最初のコンテンツとなったのが、日本人のソウルフードであり、様々な和の素材が詰まった「おにぎり」だったというわけです。「さむらいす(SAMURICE)」は現在シンガポールで2店舗営業しています。

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サラリーマン時代も日本橋で過ごされていたため、日本橋の再開発もずっと見てきたとのこと。長期的な街づくりに期待されている

―そしておにぎりに続く“コンテンツ”として強化されているのが、お弁当なんですね。

そうですね。実はお弁当はフランスでは辞書に「BENTO」という言葉が掲載されているほどで、日本の食べ物としてポピュラーなものだったりするんです。日本の食文化として今後も海外に広く紹介したいという想いも込め、店舗の名前も含めて、僕たちはお弁当=「BENTO」と呼んでいます。
日本のBENTOって、食べる場所を選択できて、箱を開けたときの彩りを目で楽しめて、冷めてもおいしい。海外にもランチボックスはありますが、日本ほどのきめ細やかな工夫やこだわりは正直見受けられません。そう考えると、日本のお弁当ってなかなか真似ができないものですし、独自の文化だと思ったんです。このBENTOが世界で認知される機会はまだまだ作れるのではないか、と考え、AG&FOOD center内にBENTOに関する実験的な取り組みを行う「BENTO LABO」も作りました。

イノベーティブな発想を形にできる「BENTO」

−お弁当と言えば、コロナ禍によってだいぶ身近になり、バリエーションも増えています。

はい。飲食店のあり方を問われ続けている今、BENTOの形も見直されていると感じています。たとえば、「BENTO LABO」でもここ最近は、飲食店側で用意されたレシピを基に製造する、OEM受注が増えています。普段お店で提供しているメニューをお弁当にするというと簡単に感じるかもしれませんが、実際は飲食店を営業しながらお弁当も作るのは、スタッフの確保や食材のストック場所などの兼ね合いもあり大変なことなのです。だから委託するという選択が取られるようになってきたわけですが、お店の名前が入る大切なお弁当なので、どこにでも頼めるものではありません。その点我々の「BENTO LABO」は、お弁当に特化している安心感や、その美味しさを味わった方の口コミもあるようで、多くのご相談をいただいている状況です。

−お話を伺っているとBENTOは今後もますます関心を集めそうですね。

これまでは、この飲食店のBENTOだから買う、という買い方が一般的だったと思いますが、今後は売られているBENTOが広告宣伝ツールとなり、「これを出している飲食店はどこにあるんだろう?」と、逆にBENTO がきっかけで飲食店を知るきっかけになるケースも増えそうですね。
 また、今後BENTO作りは、食べる人や、時間、場所など細かいニーズを考えて、もっと工夫ができると思っています。例えば、食べる人の生活リズムにきめ細やかに合わせるBENTOのサブスクリプションなどの仕組みづくりや、出来立ての美味しさを自宅で簡単に再現できる冷凍弁当など、テクノロジーの力を取り入れるとBENTOの可能性はもっと広がるのではないでしょうか。そういった新たな工夫をBENTOという形でもっと表現していきたいですね。

グローバル化で進化する「食」への意識

−今、「BENTO LABO」で働かれているシェフはどのような方なのでしょうか?

現在「BENTO LABO」でシェフを務めている遠藤は、元々トンガやブラジルで公邸料理人を務めていました。各国から公務でいらっしゃるゲストへ料理を出していたので、国や宗教上の食のルールなどにも詳しく、「BENTO LABO」で作るBENTOは味はもちろん、開発力や対応力も優れていると思います。
 例えば、今力を入れているのはヴィーガンメニューです。日本は仏教が主流の国なので、肉魚類を避けるなど、食べられるものが限られる方は数パーセントですが、海外では食の制限やルールが当たり前のように存在しています。そのような外国人ワーカーが一定数いるにも関わらず、そのようなニーズに応えられるお店が少ないことや、今後日本でも健康のためにヴィーガン食を取り入れる人が増える可能性も見えてきているので、この分野でのメニュー開発も軸に考えているんです。

−実際ヴィーガンBENTOを注文されるのは、どんなお客様なのでしょうか。

今は一般のお客様向けの販売は休止しており、企業向けのお弁当販売のみ受け付けているのですが、TV局のロケ弁のオーダーでは、実はヴィーガン弁当が一番人気なんです。シェフ手作りの大豆ミートを使ったハンバーグをメインにしたBENTOはとても好評ですよ。

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目にも鮮やかなBENTO の一例。栄養バランスも考えられた健康的なメニューが揃う。(画像提供:アグリホールディングス)

また、最近ではヴィーガン食の投稿レシピサイト「ブイクック」さんと業務提携をしてレシピ本を作ったり、ヴィーガンの宅配弁当の開発なども手掛けています。今後はホテルのルームサービスなどでお使いいただけるヴィーガンメニューのレトルト商品や、冷凍食品の開発もしていきたいと検討中です。

−日本でもヴィーガンメニューへの需要が高まっていることに驚きました。

コロナ渦で状況が変わってきているとはいえ、外資系企業や外国法人の日本進出によって、近年食文化のグローバル化も進んでいます。外国の方々の食文化と触れ合うことで何か気づきを得て、生活習慣の見直しをする人も増えているのではないでしょうか。実は醤油や味噌などの調味料や出汁を使う和食と、ヴィーガンのメニューは相性も良いので、メニュー開発の余地はまだまだあると考えていますし、日本でも今後もっと需要が高まっていくのではないかと思います。外資系の企業が増えてきている日本橋でも、老舗のお店やホテルなどに、ヴィーガンメニューの提案をしていきたいですね。

食のコミュニティが生まれやすい場所、日本橋

−AG&FOOD centerを日本橋に構えた理由をお聞かせください。

2点理由があります。一つは、「食」を軸にして事業を進めていくにあたって、「食」の歴史がある場所で活動をしたかったということです。日本橋には老舗のお店がたくさんあり、すでに「食」の面では街として完成されているようにも感じます。でもそこに自分たちのような「食」関連のベンチャーが入ることによって、また新たな価値を作り、例えば老舗さんとコラボレーションをしながら新しいものを生み出していきたいという考えがあります。すでに人形町の日山さんという老舗のお肉屋さんとは輸出の部分で一緒に取り組みをさせていただており、お付き合いが始まっているのはとても喜ばしいことですね。今後はさらに地元の方々との交流を深め、学びを得たいと思っています。

もう一点は日本橋が「職住共存」の街だということ。若い起業家やインバウンド企業が増えると同時に、この辺りにはマンションなど住居も増えています。以前BENTOの店頭販売をしていたときは、オフィス勤めの人はもちろん、近所に住む人も買いにきてくれ、「お弁当屋さん」として親しんでくれていました。毎秋、近所でやっているべったら市に出店し、地域との交流も少しずつ生まれたり、お弁当の常連さんだった方がアルバイトに来てくれるようになるなど、「食」を中心にコミュニティが生まれやすい環境だと感じています。

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「BENTO LABO」の2Fはシェアオフィスになっており、ここに「AG&FOOD center」を構えている。食だけでなく、様々な事業主が集まり、ここからコラボレーションイベントなども生まれている。

−食がコミュニティのハブになっているんですね。具体的に日本橋のお店とコラボレーションされていることはありますか。

弊社では「日本食」に合うお米とブドウで作られた珍しいワイン「ル・グイシュ」を輸入し、日本橋界隈のお店にも置かせていただいています。このワインはフランス・ボルドーの歴史あるワイン農家が新しいチャレンジで作られているものなのですが、一口飲んで日本食と合わせるのに向いていると感じて、我々が日本での代理店として輸入させてもらうようになりました。海外の方もワインなら馴染みがあるでしょうし、日本の方はやはりお米に親しみがある。日本食を楽しむ際には、このワインもぜひ合わせて欲しいと思って、身近なところからじわじわと広めています。

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お米は南フランス・カマルグ産のもの、ブドウはコロンバールを使用。それぞれ別々に発酵させお米80%、ブドウ20%の割合でブレンドしている。(画像提供:アグリホールディングス)

いつかは日本橋で「BENTOオリンピック」を!

−アグリホールディングスとして、今後展開を考えていらっしゃることを教えてください。

コロナの影響もあり、BENTOのOEMの依頼が増えたことをきっかけに、「ある飲食店の味を違う場所でも作れる」ことは、BENTOの次なる可能性につながるのでは?と考え始めました。

例えば、個人で海外出店するには莫大なお金と時間がかかりますが、NYにある弊社の拠点で「BENTO LABO」の機能を持ち、そこで出店したいお店の味のBENTOを作って売ることができれば、お店の味をニューヨーカーに知ってもらえます。最初から店舗を海外に出すとなると非常に大掛かりですが、まずはBENTOとして売り出すことで、メニューや価格への反応を知ることができるので、テストマーケティングの場としても機能します。

すでに今後の展開を見込んで「BENTO LABO」の商標を17カ国でとっているので、ぜひこの仕組みで日本のBENTOを世界に広めていきたいですね。

−BENTOには世界展開の夢が詰まっているんですね。

お弁当づくり専用のキッチンシステムや、冷食やレトルト化に関わるテクノロジーを駆使してBENTOの美味しさを追究したり、エンターテイメント性のあるイベントと組み合わせることで、その可能性は無限に広がりそうです。いつか日本橋に、世界各地の「BENTO LABO」で人気のBENTOを集結させて、「BENTO オリンピック」を開催したいですね!

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取材・文:古田啓(Konel) 撮影:岡村大輔

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