Interview
2020.12.17

名店の食体験をデリバリーで。
「お弁当」というメディアで、街の魅力を届ける「日本橋宴づつみ」

名店の食体験をデリバリーで。
「お弁当」というメディアで、街の魅力を届ける「日本橋宴づつみ」

日本橋の名店が提供する上質な食体験を、テイクアウトやデリバリーで楽しめる「日本橋宴づつみ」が12月16日よりスタートしました。日本橋らしい体験である「宴席」の味と時間を、いまの時代にフィットする形で提供することをテーマに、8つの名店によるメニューが3段の重箱に丁寧に詰められ、さらにオリジナルの風呂敷や店舗や料理について書かれたリーフレットが豊かな食の時間を演出してくれます。このプロジェクトにメディアパートナーとして企画段階から携わる、女性向けライフスタイルメディア『Hanako』の編集長で、個人的にも日本橋に思い入れがあるという田島朗さんに、「日本橋宴づつみ」の企画背景や日本橋の魅力、これからの街との関わり方などについて語っていただきました。

女性の知的好奇心をくすぐるメディア   

―まずは、田島さんの編集者としてのキャリアについてお聞かせいただけますか?

1997年にマガジンハウスに入社し、『BRUTUS』の編集を18年ほど経験した後、2016年10月に『Hanako』の編集長になりました。それまで女性誌の経験はなく、しかもいきなり編集長だったのでそれなりに悩みもありましたが、『BRUTUS』時代から「街が好き」「食が好き」という2つの柱が自分の中にあり、それは現在に至るまで変わっていません。さらに遡ると、もともと私が編集者になった初期衝動は「旅」なんです。知らない場所に行き、そこに身を置くことの心地良さに惹かれるところがあるんです。

―現在編集長を務めている『Hanako』はどんな雑誌なのですか?

『Hanako』は、1988年に東京エリア限定の女性向け情報誌として創刊しました。当時は、男女雇用機会均等法が制定されてからまもなく、女性が社会進出を始めた時代。バブル真っ最中というのもあり、街に出て高級なレストランで食事したり、ブランド物のバッグを買ったり、年に数回海外旅行に行くといったライフスタイルを送る女性たちに寄り添う雑誌として始まりました。そこからいくつかのフェーズを経て、2016年に私が編集長を引き継ぐことになり、2018年には全国展開の月刊誌になりました。そして、2020年10月からは「『もっと知りたい!』 を叶える、知的ライフスタイルメディア」をキャッチコピーに掲げ、「食」「旅」「街」という人気コンテンツは引き継ぎながらも、「学び」や「SDGs」、「仕事」に「防災」といった企画を強化していくことで、働く女性たちの知的好奇心をくすぐり、ライフスタイル全般を提案する雑誌へとより進化しています。

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インタビューに応えてくれた『Hanako』の田島朗編集長

―アップデートの背景には、読者である女性たちのニーズの変化があったのでしょうか?

そうですね。これまでは男性は知識を、女性は新しい情報やエモーションを求めるなんてことも言われたりしましたが、最近はこれが必ずしも当てはまらなくなってきていると感じていました。近年の『Hanako』で、「学び」をテーマにした特集がよく売れていることからもわかるように、わざわざお金を払って買う雑誌に対して、ただ消費するための情報よりも、自分の日々の糧になる情報が求められるようになっています。今年9月に出した毎年恒例の「大銀座」特集においても知的好奇心をくすぐるコンテンツを意識し、新店オープンなどの情報だけを紹介するのではなく、「この氷なしのハイボールには、どれだけの技や知恵が詰まっているのか?」「このヴィーガンメニューを開発した裏にはどんな努力があったのか?」といった、大銀座エリアならではの本物の技や知恵を紹介することに重点を置きました。

さまざまな顔を持つ日本橋の奥深さ 

―『Hanako』的な街へのまなざしと、旅が初期衝動だという田島さん個人のそれは少し異なるのでしょうか?

私はもうおじさんなので(笑)、例えば時間の積み重なりが感じられる場所など「ブラタモリ」的な部分を楽しみながら街を歩くのが好きですね。都市や街にはレイヤーが幾層にも折り重なった圧倒的な濃度があり、歩いているだけで次々と予想が裏切られるような体験ができるところが魅力です。例えば、これは銀座や日本橋界隈の特徴だと思いますが、「橋」がつく交差点ってもともとはその下に川がありましたよね、数寄屋橋とか京橋とか呉服橋とか。その痕跡を感じながら歩いたりするのとか好きです(笑)。私はこれまでにおよそ120カ国に行った経験があり、数百もの都市を見てきているのですが、その一つひとつが異なっていて、それが面白いなと思うんです。

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『Hanako』2020年11月号は、年2回の恒例企画となっている「大銀座」特集。「大銀座」とは田島さんが名付けた銀座・日本橋・丸の内などを含む広域エリアの総称で、最新の特集では「プロフェッショナル=職人」たちのテクニックをクローズアップした。(画像提供:Hanako編集部)

―日本橋という街についてはどのように見ていますか?

マガジンハウスが銀座にあるので、日本橋はいわば隣町のようなものなのですが、マガジンハウスに入社した1997年当時、日本橋はいまよりも寂しい印象の街で、正直、刺激を求めに行くような場所ではありませんでした。でも、時代とともに街の様相がどんどん変わっていき、それを隣町から見ていて興味を掻き立てられるところがありました。そして、今の部署に異動した時に、Hanakoの定番だった銀座特集に日本橋を組み込んでいきたいと決意し、多くのお店の取材をするようになりました。それらを通して深いところまで知るようになるにつれて、ますます惹かれるようになっていきましたね。

―田島さんにとって、日本橋のどんな部分が魅力的なのですか?

多くの人が日本橋と聞いてイメージするのは、シンボルでもある橋のたもとや、そこから続く室町界隈だと思いますが、日本橋という名を冠する地名は全部で21もあるんですよね。日本橋全体に一貫する「品」のようなものがありながら、それぞれのエリアに個性があるのがこの街の面白さだと思います。例えば、馬喰町の古ビルを改装したおしゃれなカフェでお茶をしたり、茅場町で面白い飲み屋さんを見つけたり、人形町に行けばトラディショナルな愉しみもある。そういったさまざまな楽しみ方を徐々に知っていく中で、日本橋の奥深さを感じるようになりました。これだけ日本橋がつく地名が多く残っているのは、街の人たちの思い入れがあったからだと思いますし、実際、日本橋の人たちはこの街のことを本当に愛していて、日本橋の名を背負うことへの誇りも感じられます。

―個人的に好きなエリアや散歩コースなどがあれば教えてください。

橋のたもとから室町に続く中央通りをまず気持ちよく歩き、目抜き通りの華やかさを堪能しつつ、気まぐれに路地裏に入っていくのが好きですね。むろまち小路とか、あじさい通りとか。福徳神社も好きな場所で、この神社が再建されたことによって街の表情に柔らかさや暖かさが生まれ、界隈の魅力が高まったと感じています。最近では、古い建物を活かしながら若い人々が集まりつつある馬喰町や兜町も面白いなあと思っていて、よく訪れます。

多様な広がりを見せる日本橋の食

―日本橋の魅力のひとつに「食」があると思いますが、こちらについてはいかがですか?

日本橋には和食の老舗店のイメージが強いと思いますが、実は他にも面白い飲食店がたくさん集まってきていて、選択肢がどんどん増えているように感じます。先日、日本橋本町にできた「COMMISSARY(カミサリー)」に行ったのですが、おじさんは私くらいじゃないかというほど若い女性のお客さんばかりで驚きました。あの辺りは昔からのオフィス街で、駅からもあまり近い場所ではないのですが、そういうエリアに感度の高い女性たちがわざわざ足を運んでいるのを見て、また違う日本橋の側面に触れた気がしましたね。SNSなどの影響で、最近は大きなターミナル駅などがそばになくても、魅力ある料理やサービスが提供できれば集客できるようになっている。そうした中で、比較的広い物件がある日本橋の東側のようなエリアにお店を出す流れが強まっているのかなと感じます。

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―一方で、老舗のお店などでは日本橋ならではの食体験もできますよね。

そうですね。私は浦和出身なので鰻が好きで、いづもやさん、高嶋家さんなどによく足を運んだりもしますが、こういった老舗はどこも疑いようがない名店ですよね。特に若い人からすると、日本橋の老舗は敷居が高いのではと感じてしまうかもしれませんが、実は入ってみるとアットホームなお店が多く、それもこの街の特徴だと思います。

―今回、『Hanako』がメディアパートナーとして企画段階から関わっている「日本橋宴づつみ」は、こうした日本橋の名店の料理をテイクアウトで楽しめる企画になりますよね。

はい。日本橋の名店のお弁当がテイクアウトできる今回の企画は、日本橋の魅力やこの街ならではの食体験に触れてもらえる非常に良い機会だと思っています。最近の『Hanako』では、従来の雑誌に加え、ウェブやSNSはもちろん、読者コミュニティ運営やイベントの開催、商品開発など色々な取り組みをしているのですが、自分にとってはどれも、発信者である我々と消費者の皆様とをつなぐ〝メディア〟を編集している感覚なんです。どんなコンテンツを、どんなビークルに載せたらその魅力が存分に伝わるか、という。それと同様に今回の企画では、「お弁当」を、私自身も大好きな日本橋という街の魅力を発信する〝メディア〟にできないかという思いがありました。

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日本橋の名店ならではの食体験をデリバリーで楽しめる「日本橋宴づつみ」。3段のお重を通じて先付け、焼き物煮物、ごはんといった宴席の時間が表現されている。(画像提供:日本橋宴づつみ)

―コロナ禍では今回の企画同様、飲食店のテイクアウトのニーズが高まりましたが、田島さんご自身もこれらを利用することは多いのですか?

この機会に、色々な名店のテイクアウトを楽しませてもらいましたね。その中で感じることは色々あり、従来のテイクアウトやデリバリ―の限界も少し見えてきました。テイクアウトを多く利用するようになったことで、外食の魅力は美味しい食事がいただけることだけでなく、お店という空間に身を置いてシェフや料理人と話をしたり、美しい盛り付けを楽しむことなども含まれることがよくわかりましたね。

お弁当と雑誌の意外な共通点とは?

―「日本橋宴づつみ」の企画に携わるにあたって、どんなことを意識されましたか?

テイクアウトを利用する場合、お店で購入する時は一度気分が上がるのですが、その後、帰り道の間に体験が一度途切れてしまうんですよね。そして、自宅についてから小分けにされたプラスチックの容器を取り出し、ものによってはレンジで温めて食べるわけです。味はもちろん美味しいのですが、どうしても一度途切れた体験やテンションというのは戻りにくい。そのため「日本橋宴づつみ」では、食べる側のテンションをいかにキープできるかがポイントになったのですが、実はこれは雑誌をつくる行為に通じるところがあるんです。表紙でまず人の心を瞬時に掴み、表紙をめくってから巻頭の10数ページでワッと驚かせたり、「なるほど」と思ってもらいテンションを高め続けてもらうにはどうするか、ということをいつも必死に悩むんですよね。今回の企画も同じで、ある意味「表紙」であるオリジナルの風呂敷や、店舗や料理について書かれた読み応えのあるリーフレットなど、さまざまな仕掛けを通じて料理をいただく前の楽しみが演出できると面白いのではないかと考えました。

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Hanako編集部の皆さんが参加した試食会。それぞれのお弁当のリーフレットを読みながら、会話もはずむ。

―まさに、お弁当という“メディア”のフォーマットを考えていくようなプロセスだったのですね。

はい。本企画の最大の目的は、お弁当を通じて「日本橋の飲食店の魅力」を伝えていくことですが、そこで肝になるのは、三段重のお弁当という共通のパッケージに、各店の魅力が詰め込まれることだと思っています。例えば、『Hanako』という雑誌では、銀座、鎌倉、SDGsなど毎号異なるテーマの特集を組むわけですが、毎号決まったページ数の中で共通する『Hanako』ならではの視点や切り口、トーンがあり、それ自体も含めて興味を持ってくれる人たちが雑誌自体のファンになるわけですよね。それと同じで、「日本橋宴づつみ」というプロジェクト自体に価値が生まれ、今後、日本橋のお店が自ら参加してくれるようになったり、次に取り上げられるお店はどこだろう?と皆様が楽しみにしてもらえるような状況ができるといいなと思っています。

―「日本橋宴づつみ」という企画自体のファンやサポーターをいかに増やしていけるかということが、今後のポイントになりそうですね。

そうですね。ちなみに、風呂敷をあけてまず目に入るのが、シズル感のある写真が大きく印刷されたカードなんです。その下には、メニューについて語る店主やお店の歴史などが書かれたリーフレットが。これを言うと世代がバレますが(笑)、このアイデアソースは選手のカードがセットになった「プロ野球チップス」なんです。プロ野球の名選手たちのカードと同じように、日本橋のレジェンドたちがつくる逸品の写真やその言葉などが共通のフォーマットで美しく展開されていると、それ自体も集めたくなると思うんです。単にお腹を満たすだけではない新しい欲望も生まれてくると面白いですし、その点、お弁当というメディアフォーマットはまだまだ色々なことができそうだと感じています。

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お重に詰められた名店の宴席のメニューに、お店や料理の説明などが書かれたリーフレットなどが添えられ、オリジナルの風呂敷に包まれて提供される「日本橋宴づつみ」のお弁当。(画像提供:日本橋宴づつみ)

「街」と「人」の新たな関係を紡ぐ  

―コロナ禍によって、多くの飲食店が苦境に立たされています。その中で、雑誌やウェブを通じて飲食店の情報を発信するだけではなく、今回の企画のようにお弁当などの形で体験そのものを届けていくことも、メディアが果たせるひとつの役割なのかもしれません。

おっしゃる通りです。そういう意味でも今回は非常に貴重な機会をいただけたと感じていますし、街の魅力を届けるメディアとして、まさかお弁当というカタチがあったのか、というのは我々にとっても大きな気づきでした。日本橋の食の楽しみ方やライフスタイルの提案というものをお弁当というフォーマットの中に詰め込んでいくことは非常に面白い挑戦でしたし、パッケージから届け方までを一貫して考えていくことで、テイクアウトサービスとしても新しい形が示せたのではないかと思っています。

―移動の制限などによって、「ローカル」や「街」の存在感が高まっているように感じますが、これらの価値や魅力を伝えていく手段や切り口もますます多様化していきそうですね。

そうですね。『Hanako』では先日、「鎌倉の暮らしに学ぶ。」という特集を組んだんですね。その背景には、「鎌倉の人たちは何か楽しそう」とか、「穏やかな暮らしに憧れる」とシンパシーを感じる人が一定数いるはずだという思いがありました。そこで暮らしているわけでも、働いているわけでもないけれど、半日でも身を置くことで安らぎが得られたり、楽しい気持ちになれる街があるライフスタイルというのはとても素敵ですよね。私にとっての日本橋もそういう街で、どこか精神的なホームとも言える感覚があるのですが、そうした〝心の拠り所になるような街〟が多くの人にできると良いなと思っています。

以前『BRUTUS』にいた頃、「新しいふるさと」を見つけに行こうという旅の提案の特集を企画したことがありました。私は埼玉で生まれ、東京で暮らしているので、おばあちゃんがおはぎをつくってくれるような、水田にホタルを見にいくような、〝ふるさと〟への憧れがあるんですね。その「街」バージョンのようなものなのかもしれません。私は日本橋に足繁く通っていますが、例えば遠方に住んでいて日本橋には数回しか行ったことがないけど、精神的にこの街とつながっていて、心は日本橋住民だという人だっているかもしれない。そしてきっとそれは「関係人口」みたいな言葉より、もっとエモーショナルな距離感。そうした街と人の関係性がもっと生まれてくると良いですよね。

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緊急事態宣言中に取材が行われた『Hanako』恒例の鎌倉特集では、時代や価値観が大きく変わりつつある中で、自分の時間や人とのつながりを大切にする鎌倉の人たちの暮らしや働き方にフォーカスした。(画像提供:Hanako編集部)

―そうした街と人をつないでいくことも、これからの『Hanako』の仕事なのかもしれないですね。

まちづくりにこそ編集者が必要だ。私は常日頃からそう思っていました。街をひとつの雑誌になぞらえてお話しをすると、たとえ各ページ自体がバラバラに面白かったとしても、〝雑誌〟全体としてはどこか特徴のないものになってしまっているような街も少なくないと思うんです。そうならないためにも、その街の〝らしさ〟を踏まえた上で、さまざまな〝切り口〟を使って魅力を表現していきたい。そして、その〝切り口〟とは、今回のようなお弁当を含め、まだまだいろいろな可能性を見つけることができるのだろうと感じています。そういう意味では自分の夢が叶った企画でしたし、まだまだ私たち編集者が街に対してできることが色々あると考えています。

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取材・文:原田優輝(Qonversations) 撮影:岡村大輔

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