テクノロジーで人と医療をつなぎ、業界に新たな風を。 日本橋発・ヘルステックスタートアップのビジョンとは。
テクノロジーで人と医療をつなぎ、業界に新たな風を。 日本橋発・ヘルステックスタートアップのビジョンとは。
「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」というミッションを掲げるヘルステックスタートアップ、Ubie(ユビー)株式会社。創業時より日本橋を拠点とし、医療機関の業務効率化を支援する「AI問診ユビー」と、一般ユーザー向けの「AI受診相談ユビー」の2つのサービスを開発・提供しています。ICTを駆使しながら目指すのは、人と人をつなぐこと。だれもが自分に合った医療が受けられる世界を実現するため、成長を加速させています。Ubieが描く医療の未来、そして今後のビジョンとは。同社でパブリック・パートナーとして公共政策渉外/事業開発/PRなどを担当する重藤祐貴さんにお話を聞きました。
指から始まる「適切な医療へのアクセス」を実現したい
―まず、Ubie株式会社の事業内容について教えていただけますか。
大きく医療機関向けと生活者向けの2つのサービスを展開しています。前者は、紙の問診票をタブレットを使った問診に置き換える「AI問診ユビー」というツール。従来は、患者さんが記入した問診票と同じようなことを医師がもう一度聞いて、それを電子カルテに入力していたので、患者さんの顔をきちんと見ながらの対応が難しく、事務作業にも時間を取られていました。AI問診ユビーでは、患者さんが診察前にタブレットで詳しい症状を入力し、その問診内容が医学用語に変換されて電子カルテにコピーされるため、医師によるカルテ入力の時間を大きく削減することができます。これまでに全国350以上の医療機関で導入されており、問診時間が従来の3分の1に短縮されたという報告もあります。
患者ごとにAIが最適な質問を自動生成し、医師のカルテ記載業務の効率化を実現するオンライン問診システム「AI問診ユビー」。高齢者でも使いやすいように、カラオケの検索画面のようなデザインを意識している(画像提供:Ubie)
また、もう一方の生活者に向けたサービスが、2020年4月にリリースした「AI受診相談ユビー」です。気になる症状について、医師監修の質問に答えるだけで、適切な受診先や関連する病気を調べることができるサービスで、新型コロナウイルスの感染拡大を受け予定を前倒ししてリリースしました。ネット検索や口コミのほか、マスコミで取り上げてもらったことで利用者が増え、コロナ禍による受診不安を払拭することに一役買っています。
「AI受診相談ユビー」は、スマートフォンでの利用に最適化されたデザイン。無料・登録不要なので、気軽に使うことができる(画像提供:Ubie)
―画期的なサービスを展開されていますね。どのような経緯・思いで事業を立ち上げたのでしょうか。
創業者の1人、医師の阿部吉倫は、医療現場の過酷な労働環境や、膨大な事務作業により患者と向き合う時間がないことを問題視していました。さらに「コンビニ受診」と言われる、軽症でも頻繁に受診したり救急車を呼んでしまうケースや、その逆に不調があるのに受診をせず、結果症状が重症化してしまう「受診控え」というより深刻な課題もあります。医療現場で目の当たりにしたこれらの課題を解決し、だれもが適切な医療を受けられるようにしたいと思った阿部が、高校の同級生だったエンジニアの久保恒太を誘い、起業したのです。ちなみに「ユビー」という社名には、「指一本で医療にアクセスする」という意味が込められています。
―医師である阿部さんの思い・課題意識と、エンジニア・久保さんの技術が相まって、医療業界の課題解決につながったというわけですね。
その通りです。阿部が感じた医療現場の課題は実は以前からあり、改善の試みもなされていたのですが、テクノロジーが十分でないこともあって広がりませんでした。私たちのサービスに対して、「私も昔考えたことがあったんだよ!」と大先輩の医師の方に言っていただいたこともあります。ですから、この時代になって課題解決のための技術やITへの関心が高まったことは、導入の追い風になりました。また、数年前から医師の働き改革が本格的になったことも、大きかったと思います。早すぎても遅すぎてもだめだったと思いますね。いろいろな条件がそろった絶妙なタイミングだったからこそ、多くの医療機関に受け入れられたと考えています。
Ubie株式会社の共同代表取締役の2人、医師の阿部吉倫さん(右)とエンジニアの久保恒太さん(左)(画像提供:Ubie)
ICTによる効率化と連携により、医療の最適化を図る
―Ubieの取り組みについてもう少し詳しく聞かせてください。折しもコロナ渦で医療のデジタル化が急がれていますが、創業から今までで世の中にどのような変化を感じていますか。
おっしゃる通りコロナ禍で医療業界におけるICT化がぐっと加速したので、弊社サービスに対するニーズはますます高まってきていると実感しています。あわせて、医療関係の講演などで登壇させていただく機会も少しずつ増えてきました。ベンチャーやスタートアップにとって敷居の高い業界でしたが、うちのような若い会社にも積極的に声をかけていただけるようになり、業界全体の変化を感じています。
―AI問診ユビー、AI受診相談ユビーの利用者からは、どのような反応がありますか。
医療関係者からは、「AI問診ユビー」によって問診時間が短縮されカルテ入力の手間が軽減されたことで、より患者さんと向き合えるようになったという声をいただきます。“テクノロジー”というと無機質な印象があるかもしれませんが、弊社はテクノロジーを駆使して効率化をはかることで、むしろ人間らしいコミュニケーションを創出することを目指しています。人と人をつなぐのが医療に求められるテクノロジーなのです。ですから患者さんのための時間が増えたという声はうれしいかぎりです。また「AI受診相談ユビー」では、利用者から「気になる症状がきっかけで受診した結果、病気を早期発見でき、クリニックから専門病院につないでもらえた」と感謝の言葉をいただいたことがあります。早いタイミングで適切な医療機関を受診してもらうことも私たちが実現したかったことの一つなので、手応えを感じましたね。
カルテ入力のためパソコン画面を見つめるのではなく、医師がきちんと患者の顔を見られるようにする。そのためのツールが「AI問診ユビー」だ(画像提供:Ubie)
―次のサービスの構想はありますか?
各医療機関における事務作業も紙文化なのですが、加えて、診療所・クリニックと病院間のやり取りも紙ベースなので、情報共有がスムーズではありません。世の中はどんどんクラウドなどで情報共有がされるようになってきている中、医療分野においては「紹介状」のやりとりも現在はまだ紙です。医療機関同士が分断されているので、そこをICTでつなぎ、地域の基幹病院と診療所・クリニックが互いに連携しながら、より効率的・効果的な医療を提供する「病診連携」を促進していきたいと考えています。
“ライフサイエンスの街”日本橋で、歴史と伝統を大事にしながら協創を
―創業からずっと日本橋を拠点に活動されていらっしゃいますが、日本橋エリアに拠点を構えることにしたきっかけは何ですか?
日本橋は古くから製薬会社が多い“ライフサイエンスの街”なので、日本発のヘルステックスタートアップとしてやっていく意義があると、日本橋に拠点を構えることにしました。まず医療ベンチャーが入っているコワーキングスペースを間借りしたのですが、きっかけとなったのは、企業のイノベーション支援・アクセラレーションプログラムの提供を行う、株式会社インディージャパンの津田真吾さんにスタートアップのイベントで出会いご支援を頂く中で、LINK-J(関連記事はこちら)をご紹介いただいたことです。LINK-Jが日本橋ライフサイエンスビルで実施するZENTECH DOJOというアクセラレーションプログラムに参加する中で、改めて地域に産業が根ざしていることが素晴らしいなと感じました。その後オフィスを3回移転していますが、ずっと日本橋にこだわってきました。
Ubieのオフィスには卓球台もあり、カジュアルな雰囲気だ(画像提供:Ubie)
―この街の要素でUbieに合っていたのはどんなところだったのでしょう。
医療は人の命に関わる重要な領域です。そのような中、歴史と伝統のある日本橋は会社の信用につながり、ブランドイメージの向上に寄与してくれていると考えています。実際に、名刺を渡すと「お、日本橋なんだね」と好反応をいただくことが多く、日本橋という住所が信頼度を高めてくれることを実感することが多いです。また医療分野ではカンファレンスなどで全国から関係者が集まりますし、東京駅や羽田空港からのアクセスが良いのも日本橋の魅力です。
個人的にも日本橋は居心地が良くて、老舗が多く落ち着いた大人の街という印象がある一方で、再開発が進むなどモダンな要素が共存しているところがおもしろいです。
日本橋への思いを語る、Ubieパブリック・パートナーの重藤祐貴さん
―日本橋のほかの企業との交流などはありますでしょうか。
先日、日本橋のテック系スタートアップ2社と合同でエンジニア採用イベントを開催しました。その2社はもともと東京の西側にオフィスを構えていたのですが、最近日本橋に移転してきたのです。ベンチャーが日本橋へ、という流れがあるのでしょうかね。同業同士の横のつながりはまだ少ないので、これから増やしていきたいと思っています。同じようにつながりを求めている協創型のベンチャーが、さらに日本橋に入ってきてくれるとうれしいです。
分断や破壊ではなく、“つながる”ことで医療をアップデートする
―御社がこれからチャレンジしたいことはありますか?
いろいろと構想はあるのですが、先ほど少しご紹介した「病診連携」の促進や、「AI問診ユビー」と「AI受診相談ユビー」をつないだ、地域医療DXの支援はぜひとも力を入れたいところです。
また、シンガポールにも拠点を構えてサービス展開をしていますが、そこを足掛かりに東アジアからグローバル進出を目指す予定です。日本は医療DXはこれからですが、、医療の質そのものは大変優れています。ですから、その先進医療の国から医療システムを輸出することで、ゆくゆくは諸外国の医療全体の底上げにも貢献できればと考えています。
―最後に、今後コラボレーションしたい相手を教えてください。
これからのベンチャーは、昔のように破壊的な改革をしていくのではなく、周囲と協業しながら一丸となって業界の課題解決を目指す時代です。だからこそ僕自身もパブリック・アフェアーズとして、当社と医療機関・自治体・製薬会社などさまざまな方との接点を増やしていくような活動をしています。その意味では、コラボレーションはぜひともやっていきたいこと。日本橋でも、弊社のような医療系ITベンチャーと、歴史ある製薬会社などの大企業がつながって、コラボレーションが実現したらおもしろいと思います。まずはシンポジウムなどでご一緒したいですね。
「コロナが収束したら、同業他社さんとリアルでの交流を深めていきたい」と話す重藤さん
地元企業とのコラボレーション。
日本橋を拠点にされている、大手製薬会社さんやヘルスケアスタートアップ企業さんなどとのコラボレーションを実現したいです。
Nico
新日本橋駅近くの「Nico(※5/19現在臨時休業中)」というジビエと赤ワインのお店が気に入っています。もともと弊社代表・阿部が見つけてきて、会社のメンバーでよく使っています。最近ではテイクアウト利用でも重宝しています。日本橋エリアは、和食をはじめグルメが充実しているのが良いですね。
http://yumemania.jp/tenpo/nicoseries/nico/
取材・文:小島まき子 撮影:岡村大輔
Ubie株式会社
2017年5月、「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」というミッションを掲げて創業したヘルステックスタートアップ。医療現場における医師や看護師などの業務効率化を図る「AI問診ユビー」、生活者へ適切な医療情報を提供する「AI受診相談ユビー」を提供している。その2つのサービスを連携させることで、「だれもが自分にあった医療にアクセスできる社会づくり」を目指す。