Interview
2021.11.10

minä perhonenが「puukuu 食堂」から提案する、循環する食と暮らし。

minä perhonenが「puukuu 食堂」から提案する、循環する食と暮らし。

ファッション&ライフスタイル・ブランド「minä perhonen(ミナ ペルホネン)」が、2020年6月、馬喰町に「puukuu(プークー)食堂」をオープンしました。木の温かみを感じる店内で、有機野菜をふんだんに使った栄養たっぷりのメニューを提供しています。ファッションをはじめとした日本を代表するライフスタイル・ブランドであるミナ ペルホネンが、食堂を始めたのはなぜなのでしょうか。puukuu 食堂に込めた思いや、同店がどのような場を目指しているのかを、馬喰町との関わりも含めて、ミナ ペルホネンCEOの田中景子さんに伺いました。

店名は「木の月」。気軽に訪れてほっこりできる街の食堂。 

―まず、puukuu 食堂のコンセプトや特徴について教えていただけますか。 

「puu」はフィンランド語で「木」、「kuu」は「月」を意味し、「puukuu」は「木の月」をイメージした言葉です。響きもかわいいので、食堂名にしました。また、お店では自然派ワインも提供するので、「月が出る時間帯にお客さまに来ていただけたら」という思いも込めています。街の人々が気軽にいらしてほっこりしていただける場所を目指しているので、カフェではなくあえて「食堂」と名乗っています。

―まさにほっとしてくつろげるような、木調で温かみのある店内ですね。内装やデザインに関して、どのような点にこだわっているのでしょうか。

着想を得たのは、フィンランドの首都ヘルシンキにある小さなカフェです。すごく寒い日に伺ったのですが、とても狭い店内ながら居心地のよい空間で、窓の外の森を眺めながら温かい気持ちでくつろげたのが思い出に残っています。puukuu 食堂もそのような場所にしたかったので、森の中で食事をしているような雰囲気を感じてもらいたいと、ミナ ペルホネンの創業者であり、デザイナーの皆川明(みながわあきら)が窓ガラスに木の絵を描きました。

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ミナ ペルホネンCEOの田中景子さん。バックの窓ガラスに描かれた皆川さんの木の絵が素敵だ

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天井から調理器具をぶら下げるアイデアも、ヘルシンキのカフェを参考にしている

―ファッション&ライフスタイル・ブランドであるミナ ペルホネンが、なぜ食堂をオープンしたのでしょうか。

皆川も私も、もともと料理をしたりおもてなしをするのが好きで、前から食堂をやりたいなと思っていました。昔は、コレクション前に仕事が立て込んでいたときに、皆川がごはんを作ってくれて、アトリエでみんなで食べたりもしていたんですよ。その皆川のレシピが雑誌『Casa BRUTUS』に連載されて、それをまとめた書籍『今日のまかない』も出ています。また、衣食住すべてに関わるライフスタイル・ブランドとして、食堂をするのは自然な流れでもありました。puukuu 食堂でミナ ペルホネンが扱っている作家さんの器と料理のペアリングを提案しているのも、暮らし全体を表現していきたいからです。

「無駄のない循環」を大切に、ミナ ペルホネンの思いを体現。  

―puukuu 食堂ではどのようにメニューを考えているのでしょうか。

「良質な材料を無駄のない循環で」という考え方を大切に運営しています。puukuu 食堂では生産者の顔が見える形で食材を仕入れており、それをシェフの藤原がやさしい味の料理に仕上げています。また寒い時期には体を温める食材を意識して使うなど、季節に合わせてメニューを考えていますね。puukuu 食堂の看板メニューは「本日のスープ」と「本日のカレー」なのですが、スープやカレーは食材を無駄なく使用でき、フードロスを減らせます。また、「Banmae(ばんまえ)」という晩ごはんの前やちょっと小腹がすいたときに食べる軽食メニューも、食材を無駄なく使うことを考えて用意したメニューです。その日の食材の状況に合わせて作るので、中身は当日のお楽しみとなっています。

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puukuu 食堂で人気の「本日のスープ」990円。この日は「白い野菜の玄米スープ」。やさしい味わいで、体に染み渡るおいしさ

―食材を無駄なく使う工夫をいろいろとされているのですね。

ミナ ペルホネンの服づくりでは、端切れをうまく活用して別の商品を生み出すなど、「循環」を意識したものづくりをするようにしていますが、それと同じ考え方をpuukuu 食堂にも反映したいと思っています。モノをつくるうえでは、無駄を出さないように生産効率を考えることが大切です。前述したようなメニューの工夫に加え、野菜くずはベジブロスにしてカレーやスープの出汁にしたり、コンポストを使用するなど、puukuu 食堂でも「循環」をさまざまな形で見せていきたいと考えています。

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キッチンに立つ藤原シェフ。メニューは藤原シェフが考案し、皆川さんも交えて試食を行い、少しずつ内容を入れ替えている

―皆川さんがものづくりにおいて大切にしていることが、puukuu 食堂で体現されているということですね。

そうですね。1995年の創業時から、皆川は「100年続く」ブランドを目指していました。私は2021年7月に皆川に代わってCEOとなりましたが、「ものを大切にする」「愛着を持つ」といった昔から人々が持っていた精神性を再認識し、ブランドとしても継承していこうと思っています。そのために、一緒に働くスタッフたちとも、大切なものは何か、対話を継続していきたいなと。でも続けていくことって難しいんですよね。やめてしまうのはけっこう簡単で、現代において「続ける」ことの難しさをあらためて感じています。だからこそ、使命感をもって次にバトンをつないでいきたいです。

一方で、テキスタイルの世界では工場の廃業が続いていますし、私たちも後継者のいらっしゃらないご高齢の方々と一緒に仕事をさせていただくこともあり、このままではもう作ることができなくなるかもしれない……という危機感を持つことがあります。なくなってからその良さに気づいても取り返しがつかないので、多くの人の手によって成り立っている“ものづくりの生態系”を、何とか残してつないでいきたいと思っています。そのために、ミナ ペルホネンでは、大事にしたいと思っていただける、愛着を持っていただけるものを作る。そしてpuukuu 食堂では、また来たいと思っていただけるような料理を作る……。ものづくりでも、料理でも、作り手だったり生産者だったり、目の前にあるモノに関わる人々に思いを馳せることは大事だと思うのです。そのきっかけをpuukuu 食堂でもつくりたいです。

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puukuu 食堂では、その日食べたメニューを記入するための用紙を用意。食の記憶・思い出を記録することは、食を取り巻くさまざまなものに思いを馳せるきっかけとなるかもしれない

アガタ竹澤ビルで生まれるつながりのなかで、街に根付いていく。

―馬喰町に拠点を構えるようになったきっかけは何だったのでしょうか。馬喰町の魅力についても聞かせてください。

栃木県益子にあるカフェ&ギャラリー「starnet(スターネット)」の東京店が馬喰町にあったのですが、クローズすることになり、不動産屋さんの紹介で、そこにミナ ペルホネンのショップ「elävä(エラヴァ)Ⅰ」として入ることにしました。スターネットは、さまざまな作り手の作品を紹介する場として長くこの街で愛されてきたので、そういう場を引き継げるのはありがたいと思ったのです。2019年2月のオープン以来、私も馬喰町によく来るようになりました。馬喰町は、道行く人たちが自然体で働いたり暮らしたりしているところが魅力だと思います。生活感があってホッとします。

elava1-outside1 photo by Norio Kidera

photo by Norio Kidera

―「eläväⅠ」と同時に「elävä Ⅱ」がアガタ竹澤ビルでオープンしていますね。そしてpuukuu 食堂もまた同じビルに入りました。アガタ竹澤ビルを拠点にしてきた背景について教えていただけますか。

初めてアガタ竹澤ビルに来たのは15、16年前のことです。その頃から、「FOIL GALLERY」など、すでに魅力的なテナントが入っていました。ビルのレトロな雰囲気に惹かれてここを選んだのですが、姿が変わらないままなのは人々に愛されているからなのだなと思いました。puukuu 食堂の前に入っていたのはギャラリー兼カフェだったのですが、地域の情報誌を作るなどもされていて街に根付いた拠点だったようで、puukuu 食堂の「街の人々に寄り添いたい」という思いに近かったことも、出店を決めた理由のひとつです。 

―個性的で素敵なテナントが集まるアガタ竹澤ビルですが、ほかのテナントとのつながりや交流はありますでしょうか。

いろいろなご縁を感じています。たとえば1階の「D&DESIGN」は、運営会社である「D&DEPARTMENT」ディレクターのナガオカケンメイさんに皆川がアガタ竹澤ビルを紹介したことから、入られました。また、かつてアガタ竹澤ビルに入っていた「TARO NASU」ギャラリーでは、皆川が個展を行ったことがあります。同ギャラリーのあとに今は絨毯メーカー「山形緞通(やまがただんつう)」が入っているのですが、そのウィンドウには皆川がデザインした絨毯が飾られていたりと、コラボレーションも生まれています。日々の交流としては、アガタ竹澤ビルに入られている人たちがランチに来てくださったり、打ち合わせに使っていただいたりしています。puukuu食堂が交流の場になると良いなと思います。

birds in the forest photo by Masaki Ogawa

“birds in the forest” photo by Masaki Ogawa

―さまざまな交流やつながりを生み、街のみなさんに愛されているpuukuu 食堂ですが、馬喰町でどのような存在・場所でありたいと思っていますか。

落ち着いていて生活感のあるこの街になじむような、地域に根付いた場所にしたいと思っています。街の人から愛される場所、おしゃべりしに気軽にふらりと立ち寄ってもらえる場所、また行きたいと思ってもらえる場所でありたいですね。

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街の人たちに気軽に通ってもらいたいと、puukuu 食堂ではランチコーヒーチケットを用意している

―puukuu 食堂がこれからやってみたいことは何でしょうか。

コロナが落ち着いたら、音楽やトークのイベントを開催したいですね。食事を楽しんでいただくだけでなく、何か新しいものが生まれるようなコミュニティをつくり、広げていきたいと思っています。

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オープンから約1年半が経ち、すっかり馬喰町の街に溶け込んでいるpuukuu 食堂。ほっと一息つける居心地のよい場所だ

スクエア

コーヒー店やギャラリーなどの異業種のみなさん

「蕪木」というコーヒーとチョコレートのお店が蔵前にあって、puukuu 食堂でもコーヒーを出していたり、特別なチョコレートを作っていただいたりもしています。今後も良い関係を築き、イベントなどもご一緒できたら嬉しいです。浅草橋にあるギャラリー「白日」とも何かご一緒できたらと思っています。馬喰町から少し範囲を広げて、馬喰町~蔵前~浅草橋と、それぞれ特色のあるエリアを回遊して頂きたいです。

ともすけ

ともすけ

ご夫婦で営まれているイタリア食堂。何を食べてもシンプルにおいしいので、よく伺います。

取材・文:小島まき子 撮影:岡村大輔

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