Collaboration TalkInterview
2022.02.03

日本橋のマルシェイベント「FROM EAST」から考える、クリエイティブな公共空間の使い方。

日本橋のマルシェイベント「FROM EAST」から考える、クリエイティブな公共空間の使い方。

昨年11月、日本橋東エリアの店舗やブランドが参加するマルシェイベント「FROM EAST」が3日間にわたって開催されました。従来の日本橋のイメージとは異なる東エリアの魅力や新たな潮流を発信するこのイベントを企画したのは、日本橋・小伝馬町にある「おむすびスタンド ANDON」の共同オーナーであり、下北沢BONUS TRACKなどの運営にも携わる小野裕之さんです。今回の企画では、小野さんがかねてから親交を持ち、「公共R不動産」での活動を中心に公共空間の活用というテーマと向き合ってきた飯石 藍さんをお招きし、FROM EASTの取り組みを起点に日本橋の街の特性や公共空間の活用可能性などについて話し合って頂きました。

歴史的な資産と新たなカルチャーが混ざる街

ーまずは、おふたりの日本橋の街との関わりについてお聞かせください。

小野裕之さん(以下、小野):僕が共同オーナーになっている「おむすびスタンド ANDON」は、2017年に日本橋で開業したのですが、きっかけは小伝馬町の物件を知人に紹介されたことでした。CET(※1)やクリエイティブハブ131(※2)などに来ていた頃以来、久しぶりに訪れる街という印象だったのですが、以前から親交があった人たちもちょうど同時期に、「BETTARA STAND日本橋」や「CITAN」などこの界隈で新しいことを始めようとしていたんですよね。

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昨年11月に開催されたマルシェイベント「FROM EAST」の企画運営を担当した散歩社の代表を務める小野裕之さん

飯石藍さん(以下、飯石):私は2013年頃に「Clipニホンバシ」というコワーキングスペースの立ち上げに関わったのですが、その前後から「アサゲ・ニホンバシ」などのイベントに足を運んでいて、面白い動きがある街だなと感じていました。いまは私が関わっている「公共R不動産」のオフィスが浅草橋にあるので、街並みを楽しみながら個性的なお店に出会いたい時などは小伝馬町界隈をうろつくことも多いです。

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全国の公共空間の情報を集め、活用したい市民や企業とマッチングするウェブメディア「公共R不動産」に立ち上げから関わり、地元の豊島区では道路や公園などの公共空間を活用するプロジェクトにも参画している飯石 藍さん

ー国内のさまざまな街に関わられているおふたりは、日本橋の特徴をどのように捉えていますか?

小野:僕は東京だと下北沢や原宿などの街に馴染みがあるのですが、事業者目線で見た時にこれらの街にはない日本橋の特徴と言えるのが、物件の区画の大きさです。特に東エリアは倉庫なども多いので広い空間を必要としているメーカーやクリエイターには良い反面、飲食や小売など小さな区画で探している人たちには少し難しいところがある印象です。そこに通じる話ですが、つくり手との距離が近いというのもこの街の特徴ですよね。そのような人たちが関わる面白い場所も点在していますが、わかっている人と一緒に歩かないと街の面白さが見えにくいところがあり、そうした特徴がこの街の可能性であり、難しいところでもあると感じています。

飯石:数百年単位で続く老舗がいまも残っていること自体もこの街の大きな価値ですよね。一方でこの界隈は問屋街だったこともあり、街が訪れる人に向けてオープンに開いているわけではなく、そこに目をつけた人たちがCETなどの活動を始めたという経緯があったと聞いています。それ以来、東京のカルチャーをリードしてきた人たちが西側から移り住んでギャラリーを始めたり、最近ではANDONのような新しい飲食店なども入ってきている中で、昔からある街の資産と新しいカルチャーが混ざり、うねりがジワジワ大きくなっているような印象があります。さらにそこに三井不動産のようなデベロッパーも加わって、皆で街の価値を高めていこうとしている感じは、なかなか他にはないこの街の面白さですよね。

※1 Central East Tokyoの略称。日本橋・神田・浅草橋を中心とした東京の東側エリアを舞台に、2003年から7年間続いたアート・デザイン・建築の複合フェスティバル。
※2 2011年にできた日本橋大伝馬町のアート・クリエイティブ拠点。

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対談の前には、小野さんが共同オーナーを務める「おむすびスタンド ANDON」をはじめ、小津和紙やBnA_WALLなど「FROM EAST」にも出店した日本橋東エリアの店舗などを訪ねながら、界隈を散策した

事業者間のつながりをつくりたい

ーそうした特性を持つ日本橋を舞台に開催された「FROM EAST」では、どんなことを目指したのですか?

小野:日本橋には「べったら市」という年に一度のお祭りがありますが、界隈のオフィスワーカーたちが、これを接待の場にしている風景を見た時に人情味がある良い街だなと感じたんです。それがANDON出店のひとつのきっかけにもなったのですが、このようなまちぐるみのイベントが他にないこともだんだんわかってきて、地域の人たちが自分たちの暮らしを楽しめるような場をつくりたいと考えるようになりました。今回のFROM EASTでは、「日本橋」というキーワードを用いずに、現在のリアルな日本橋像を紹介することをひとつの目的に据えました。日本橋という名前は良くも悪くも大きなもので、「日本橋」と聞いただけで自分には関係がない街だと思う人が少なくないことも事実なんですよね。

飯石:先ほど、わかっている人がいないと魅力が伝わりにくいという話がありましたが、最近の街の動きを知らない人からすると、そこに行けば地域の面白い人たちにたくさん会える場というのは、それだけで足を運ぶ動機になりますよね。

小野:日本橋界隈への引っ越しや出店に興味を持っている人たちに、いまの街の魅力を感じてもらいたいというのはありましたね。そして、もうひとつの目的として、出店者側の横のつながりをつくりたいというのもありました。日本橋東エリアのお店は1ヶ所に集積しているわけではないですし、お店をやっている人たちは普段なかなか出歩くことができないですよね。これまでも僕が知っている飲食店のオーナーらを誘って飲み会を開催したりしていたのですが、それにも限界があって。一体感を持ってひとつのイベントをつくり、当日も長い時間を一緒に過ごすことで事業者間の距離を縮めたいという考えがありました。

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11月5日〜7日に福徳の森で開催された「FROM EAST」。コロナ禍の影響で開催までにさまざまなハードルがあったが、当日は多くの来場者で賑わった(画像提供:株式会社散歩社)

飯石:私は池袋にある公園と道路を会場にした「IKEBUKURO LIVING LOOP」という取り組みを5年ほど開催しているのですが、同じエリアで活動している人たちがゆるく繋がり合える機会をつくりたいという思いがあり、実際にイベントで隣り合った出店者同士がコラボレーションするようなこともよくあります。また、なんとなくダーティーなイメージを持たれがちな池袋の印象をひっくり返して、いまの街の面白さを伝えたいという思いもあり、FROM EASTと共通する点が多いなと思って聞いていました。

小野:FROM EASTは、コロナ禍で移動が制限され、足元を見つめる良い機会が訪れているいまだからこそ、新しい街のイメージや人のつながりをつくる草の根的な活動にしていきたいという思いがありました。イベントを終えた後、取り組みを次に繋げていくために、出店者の皆さんに集まってもらう機会をつくったんですね。そこで、いまお話したようなイベントの意義や狙いをお伝えして、事業者の皆さんからも街への思いやモチベーションをお聞きすることができました。今後もたまにはこうした話をする機会をセッティングしていきたいなと思いましたね。

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2017年から池袋のグリーン大通りや南池袋公園を会場に開催されてきた「IKEBUKURO LIVING LOOP」。現在は月1回のペースでマーケットが行われ、地元の作家や飲食店、生産者を中心にした多くの方が出店している(画像提供:株式会社nest)

同じ「風景」を共有するということ

ー今回のFROM EASTは福徳の森で行われましたが、イベントの開催場所についてはどのように考えていましたか?

小野:当初は道路を封鎖して、「カミサリー日本橋」がある旧日光街道沿いの交差点で開催したいと考えていました。あの辺は週末の交通量も多くないので実現できると思っていたのですが、実際にはハードルが高く、その後検討した公園での開催も叶わず、最終的に日本橋室町エリアマネジメントが管理する福徳の森で開催することになりました。道路や公園などは行政が管理していることがほとんどで、最初からそのハードルを超えるのは難しかったです。

飯石:私たちは、2016年に南池袋公園がオープンしたタイミングで、その前にあるグリーン大通りに賑わいを生み出してほしいという相談を区から受け、それ以来取り組みを続けていますが、行政とやり取りする難しさはありますよね。例えば、道路と公園は役所の管轄が別なのですが、エリアとしては同じなので分けて考える意味は市民の目線から見るとないんですよね。今回のFROM EASTに関しては、前例がないことを許可する難しさが行政側にもあったと思いますが、まずは最初の一歩として民間が管理する屋外空間で開催できたことには大きな意義があったと思います。

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当初は、界隈の公園もFROM EASTの開催候補地として検討されていた

小野:最終的には公園や道路でやりたいという考えはいまも持っています。地域で暮らす人の中には、街の蕎麦屋には気軽に入れても、オシャレなカフェには行きにくいという方たちが一定数いると思うんですね。そういう人たちにとっても生活の一部になっている公園などの公共空間で、街の動きに触れられる機会をつくりたいというのもありました。それもあってFROM EASTは、地元の人たちが来やすい午前中から開催することにこだわりました。昨今は、地域の生活者になったような感覚で楽しむ旅のスタイルが浸透しつつありますが、今回のイベントについても街の人たちが日常的に楽しんでいる風景の中に外の人たちが入ってくるような構図をつくり、お互いがその距離感を楽しめるような状況を育んでいきたいという思いがありました。

飯石:池袋のプロジェクトでは賑わいづくりがミッションでしたが、当初はその賑わいをつくり出す人たちが区民なのか来街者なのか行政の人たちも明確にイメージできていなかったんです。ところが、マルシェなどを通してどんな人たちが何に反応しているのかということが可視化されたことで、行政の側からも色々なアイデアが出るようになってきました。風景を作り・共有するというのはひとつのポイントで、FROM EASTにしてもイベントを通じてやりたかったことを行政の人などにも風景としてインプットしてもらえると、次につながるかもしれないですよね。行政に限らず、運営者、出店者、お客さんのみんながそこで起きていることを同じ風景として共有することが大切だと思っています。

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「FROM EAST」には100年以上続く老舗から街に新たな風を吹き込む事業者まで総勢10店舗が飲食や物販ブースを出し、さらにイベントなどの体験コンテンツも用意された(画像提供:株式会社散歩社)

公共空間は街の実験場

ー同じ風景を共有するという意味でも、やはり公共空間が果たす役割は大きいと思いますが、街における公共空間のあり方についてはどう考えていますか?

飯石:コロナ禍になって私たちが開催してきたマルシェも開催ができなくなり、その間はオンライン上のマーケットをつくったり、トークライブをするなどして細くつないでいたのですが、久しぶりにイベントを再開した時は過去最高の売上を記録したお店が多かったんですね。おそらく町の人たちがお店の人と会話をしてモノを買うということに飢えていたのだと思いますし、公共空間というオープンな場所で街と人が触れる接点をつくることの価値を改めて感じました。

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コロナ禍で開催が困難になった「IKEBUKURO LIVING MARKET」は、出店者の売上を少しでも補填するためにオンライン上のマーケットを開設した(画像提供:株式会社nest)

小野:商業的な空間に対して、道路や公園などの公共空間はみんなが負担し合ってつくっているものですよね。だからこそ、お金を借りて投資し、回収するといった経済の原理から離れ、もっと柔軟な使われ方がされていいと思うし、実験的なことが許される場だと思っています。公共空間を自由な表現の場と捉えると、ブログやSNSに近いものとも言えるんですよね。自分が表現をすることでコミュニケーションが生まれ、それが幸せやモチベーションにつながっていくというのは心健やかに生きていくために大切なことですし、例えば公共空間を使ったマルシェに出店することには、ブログやSNSで日記を試しに公開してみることに近い感覚があると思っています。

飯石:私たちの取り組みにも創業支援的な側面があって、普段から描いている絵や作っているお菓子を初めてマルシェで販売するような人も結構います。本来公共空間というのは、みんなのための器なんですよね。町の人たちの居場所であり、市民の活動や新しいチャレンジを支える場所でもあるはずで、私たちが取り組んでいることはそうした公共の意味を問い直す行為でもあるのだと考えています。

小野:行政が管理している場所以外にも公共空間と言える場所はあると思うんですね。例えば、既存のお店の軒先などを一時的に借りて何かを表現するようなこともできるだろうし、そこで金銭的には大きなリターンが得られなかったとしても、当の本人にとっては必ず次に繋がるんですよね。これは公共空間に限らない話ですが、商業的な目線だけで物事の価値を測ることがどんどん難しい時代になっていると思うんです。僕が運営に関わっている下北沢のBONUS TRACKという施設では、オーナーの小田急電鉄が支援型開発ということを明確に掲げているのですが、従来の場所を貸す側/借りる側の関係を越えて、自分たちらしいものを足元から育んでいくことが、まちづくりの観点でも重要になっていると感じます。

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小野さんが代表を務める散歩社が運営を担当する下北沢の商業施設「BONUS TRACK」には、飲食や物販、書店、コワーキングスペースなど個性あふれるテナントが集う。ANDONの2号店「お粥とお酒 ANDON」も出店している(画像提供:株式会社散歩社)

求められる街の編集・調整機能

ー街の価値を高めていくという観点からも、公共空間にはまだまだ可能性がありそうですね。

飯石:私は、公共空間に「居場所」としての機能がもっと増えるといいなと以前から考えていて、先日、池袋のグリーン大通りにストリートファーニチャーを暫定的に設置したんです。特に東京などの都市に、お金を払わずにいられる場所がほとんどなくなっている中で、ただ目的がなくても過ごせる公共空間があることは街の豊かさにつながると思っています。まずはこうした小さな実験を始めてみることで、公共空間の次の使い方が見えてくるんじゃないかなと。街中にベンチを設置するという話が持ち上がると、行政の人たちはホームレスが使うかもしれないということなどを危惧しますが、最初からコミュニケーションを諦めて何かを排除するのではなく、まずは試してみて課題が出てきた時に一緒に考えるという姿勢が大事だと思うんです。

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まちなかをリビングのようにくつろげる空間にすることをコンセプトに、期間限定で設置されているグリーン大通りのストリートファーニチャー。友人との会話を楽しむ人からPCを開いて作業する人まで、それぞれが思い思いの使い方をしている(画像提供:株式会社nest)

小野:それで言うと、行政の役割もだいぶ変わってきていると思うんですね。街中のさまざまなものが過密な状態で、順番待ちが続いていたような時代は過ぎ、いまはむしろ色々なものが余ったり、空いたりしているような時代です。だからこそ、行政の役割もネガティブチェックや許認可をするだけでなく、事業者のチャレンジを引き出したり、余白をつくって人を呼び込むような、ポジティブに後押しをしていくようなことが求められてくると思っています。

ー公共空間を街のプレイヤーたちが自ら使っていくことの可能性についてはいかがですか?

飯石:できないことはないと思いますが、まだ許認可などのハードルは高いと感じているので、いまのところは公共空間に対するフラットな目線を持ちながら全体をプロデュースできる人が、行政などとコミュニケーションをした方が物事が進みやすい気がします。ただ、以前にコペンハーゲンの公園で、キッチンバイクのようなものでエスプレッソを出している人がいて、オンライン上の地図から出店申請をしただけだと話していたんです。いつかは日本にも、このくらいカジュアルに公共空間を使えるようになる未来が来てほしいですね。

小野:公共空間を使う民間の人たちも、許可を出す行政の人たちも、明文化されていないにも関わらず、できないことにしてしまっていることがたくさんあると感じます。だからこそ、行政や市民の人たちがリスクだと考えていることを回避できるような枠組みを提案し、新しい運用の実績をつくっていくことが大切なのですが、それを一民間事業者がやるのはハードルが高いことも事実なんですよね。場所を使う側と貸す側だけではどうしてもぶつかってしまう局面も出てきますし、デベロッパーやプロデューサー、編集者のような職能を持つ人たちが両者の間に入り、街の編集・調整機能のような役割を担っていくことが必要だと思っています。

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小野さんスクエア

季節料理 小伝馬

昔ながらの大衆居酒屋といった雰囲気が好きで、コロナ禍前はよく行っていました。時間の積み上げによる年季の入った佇まいというのは決して演出できるものではないですし、こうしたお店こそ街の資産だと思います。 (小野さん)

飯石さんスクエア

分身ロボットカフェ DAWN ver.β

分身ロボット「OriHime」のことは以前から知っていましたが、先日初めてカフェに行って感動しました。さまざまな理由で働くことができなかった人たちに機会を提供していることが凄いですし、こうした取り組みが日本橋から広がっていったら素敵ですよね。(飯石さん)

取材・文:原田優輝(Qonversations) 撮影:岡村大輔

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