Collaboration TalkInterview
2022.04.13

ギャラリー連携によりアートの楽しみと街の魅力を伝える。「日本橋イースト アートプロジェクト」。

ギャラリー連携によりアートの楽しみと街の魅力を伝える。「日本橋イースト アートプロジェクト」。

2021年8月、日本橋の東側エリア「日本橋イースト」にある7つのギャラリーが合同で「サマーアートミーティング」というアートイベントを開催しました。このイベントは、会場の「Gallery TK2」に7つのギャラリーがブースを持ち作品を展示するほか、各ギャラリーを回遊して作品鑑賞や街歩きを楽しんでもらおうというもの。7ギャラリーがタッグを組んで立ち上げた「日本橋イースト アートプロジェクト」の一回目の企画です。「サマーアートミーティング」は街にどんな変化をもたらしたのか?また、地域におけるギャラリーの役割とは?「Gallery TK2」を運営する小林貴さんと、「REIJINSHA GALLERY」ゼネラルマネージャーの岡田恵さんに話を聞きました。

ギャラリー連携により、アートの街としてのエリア認知度アップを。

―まず、それぞれのギャラリーの紹介を含め、自己紹介をお願いします。

岡田恵さん(以下、岡田):「REIJINSHA GALLERY」の責任者を務めています。ギャラリーの母体は大阪を本社とする株式会社麗人社で、私は1993年の会社創立から関わりました。当初から若手支援のギャラリーをやりたいという夢があり、それがかなったのが2012年1月。大阪の人間からすると、ギャラリーといえばやはり銀座だろうというイメージもあり、東京ではまず銀座にギャラリーをオープンしました。2018年6月に日本橋へ移転しましたが、ジャンルを問わず若手支援をというREIJINSHA GALLERYの軸は変わっていません。

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会社創立から約10年働き、結婚を機に退職したが、東京進出時に前任のギャラリー責任者と交代で復職した岡田恵さん

小林貴さん(以下、小林):もともとはメーカーに勤めていましたが、新しいことにチャレンジしたいと思い、会社を辞めて2013年に「株式会社インターアート7」を設立しました。最初はギャラリーを持たずに作家と展示のプロデュースをすることから始めました。やがて、お客さんにとっても作家さんにとってもリアルな場であるギャラリーに作品があるということが大切だと考えるようになり、5年前、三越前に最初のギャラリーをオープン。メンバーである「KURUM‘ART contemporary」さんと交互に展示会を開催する形態でスタートし、2020年に東日本橋に移転しました。東日本橋エリアには個性的なギャラリーが集まっており、1日かけてエリア内のギャラリーを回ってくださるアートファンやコレクターの方々が多かったので、移転先はこの東日本橋エリアにこだわりました。「Gallery TK2」は展示スペースが4部屋あり、2週間交代で4人の作家さんを紹介しています。

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インターアート7代表取締役の小林貴さん。この日のインタビューは小林さんのGallery TK2で行われた

―「日本橋イースト アートプロジェクト」はお二人の発案から立ち上がったと聞きました。プロジェクトの概要と発足の経緯について教えていただけますか。

岡田:小伝馬町駅付近には、「みうらじろうギャラリー」や「JINEN GALLERY」といった、良い作品を発表されている企画ギャラリーがたくさんあります。小林さんとも「せっかくギャラリーが集まっているので、一緒に何かやれるといいですよね」と話していました。いくつかのギャラリーがタッグを組むことで、美術ファンの方々にも東日本橋エリアの存在をより知ってもらえますし。

小林:他にも三越前~人形町エリアにある「KURUM'ART contemporary」や「galerieH」など、ここ東日本橋がギャラリーの多いアートの街だということは、一般的にはまだまだ知られていなかったので、まずは認知度を上げたいと思っていました。個々のギャラリーはそれぞれの展示の告知などでがんばっていますが、連携することでさらなる話題づくりができるのではと考えたのです。コロナ禍で先が見えない中、手探りでも何か新しいことをやらねばという危機感もありました。

岡田:小林さんのGallery TK2には広いスペースがあるので、そこでミニアートフェアができないかと考えました。加えて各ギャラリーを回遊してもらえば、東日本橋エリアの活性化につながるのではないかと。エリアを「日本橋イースト」と名付け、小林さんと二人で企画書を作って、ほかのギャラリーを回って説明・提案しました。私たちのほかに5つのギャラリーが賛同してくれ、「日本橋イースト アートプロジェクト」が立ち上がったのです。最初のイベントとして企画したのが「サマーアートミーティング」です。

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日本橋イーストエリアの認知度を上げたい、ギャラリーがあるということを知ってほしいという思いから、プロジェクト立ち上げに奔走した二人

「サマーアートミーティング」が街とギャラリーにもたらした変化。

―「サマーアートミーティング」の概要や、特に力を入れた点について教えてください。

小林:ギャラリーとお客さんと作品が出会う場という意味で「ミーティング」と題し、2021年8月4日~8月8日の日程で開催しました。会場のGallery TK2内に7つのギャラリーがブースを設置し、それぞれが扱う作家の作品を展示・販売。また、会場から歩いて数分の場所に位置する各ギャラリーの展示も鑑賞できるという、回遊散歩型アートイベントです。

岡田:まずはイベントのことを知ってもらわなければと、告知・PRに力を入れました。麗人社が発行している美術雑誌『美術屋・百兵衛』で告知したほか、パンフレットを作成し、回遊してもらえるようにマップも用意しました。ほんとうは各ギャラリーをめぐるツアーも企画していたのですが、コロナ禍で残念ながら中止となってしまいました…。そこでイベント中は、日本橋イーストエリアが実は三越前や日本橋駅から近いということを知ってもらえるよう、お客さんにできるだけ“歩いて帰っていただく”ことを提案しました。そのことで、日本橋の中心部からちょっと歩いたらギャラリーが点在しているということを、体感してもらえたかなと思います。

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日本橋イーストエリアのギャラリーを紹介した「サマーアートミーティング」のマップ。もともと「JINEN GALLERY」が作ったものをベースに作成した(画像提供:インターアート7)

―「サマーアートミーティング」を開催して、どのような手ごたえがありましたか。

小林:会期中、会場のGallery TK2には、新しいお客さんも含めて1日100人くらいが訪れてくださったので、PRの効果を感じました。まずはこの地域を知ってもらうという目的は、ある程度達成されたと思います。イベント開催後も継続してお客さんに来ていただいているので、満足していただいたという手ごたえがあります。うちへいらした方で、他の参加ギャラリーのことを話題にされるお客さんも増えました。ギャラリーやアートが、微力ながら地域に来る人が増えたきっかけになったのではと思っています。

岡田:また、ギャラリー間の連携も深まったと感じています。もともとギャラリー間の交流はあり、お互いの展示は見ていたのですが、あまり内情を話すようなことはありませんでした。でもサマーアートミーティングを経てより親しくなり、展示会の苦労話なんかをぶっちゃけるようになりましたね。同じ地域でギャラリーを営む同志としての仲間意識が強まったように思います。

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「サマーアートミーティング」の会場の一例(画像提供:インターアート7)

アートに触れ、アートの楽しみを知る場。ギャラリーの役割と可能性とは。

―日本橋という街とアートの関係性についてのお考えをお聞かせください。

岡田:ギャラリーが日常に溶け込んでいて、地域との関わりがあるのが日本橋の特徴だと思います。家族連れなど、客層も銀座とは異なりますね。特にコロナ禍において、近所の人がブラブラしてくれるようになりました。買い物のついでに寄ってくださることも。江戸時代の日本橋でも、長屋の壁に美人画を貼ったりするなど、アートを気軽に楽しむ人が多かったと思います。

今は東京の西側のほうがにぎやかな印象ですが、アートで街を活性化して、かつてのように日本橋が発信地になれたらいいなぁと思っています。また、老舗が多く、美術+αを楽しめる街でもあるので、飲食店などにも協力してもらって、力を合わせて街を盛り上げていきたいですね。

―日本橋のギャラリーとして、街でどのような役割を果たしていきたいと思われますか。

小林:リアルな場を持っているギャラリーとして、コロナ禍にあっても絶えず展示をしていくことが大事だと考えています。それがお客さんの満足と期待につながり、信頼度アップにもつながります。また、せっかくギャラリーという場があるので、朝活・昼活・夜活として、アートに関わるトークイベントやワークショップなどを企画して、多くの方々が街に足を運ぶきっかけをつくりたいと思います。

岡田:ギャラリーはアートに気軽に触れられる場です。気軽に入っていただけるよう、できるだけ開放的にお客さんを迎えたいと思っています。最近うれしかったのが、小学生の女の子が3日続けて作品を見に来てくれて、親御さんが「そんなに気に入っているなら…」と根負けしてその作品を買ってくださったことです。そんなふうに、これまでアートに関わる機会が少なかった人に、アートに触れるきっかけを提供できたらと。

でも、それを自分のギャラリーでやるだけでは弱いと思っています。繰り返しになりますが、さまざまなギャラリーを回って作品を見てもらう、その習慣をこの街から生み出したいですね。そのためにも、サマーアートミーティングのようなアートイベントを行って街を盛り上げていきたいと思います。

小林:アートとは人の“心”を満たすものです。そういう作品を扱うギャラリーがこの地域にたくさんあることを知ってほしいですし、ギャラリーの楽しさを伝えたいですね。たくさん作品を見て自分に合うものを探し出すのがアートの楽しみなので、日本橋イーストのギャラリーを回って、多くの作品を見てもらえたらと思います。

ギャラリーの数も、もっと増えてほしいですね。ギャラリーにはそれぞれ特色・個性があります。ギャラリーが増えるとお客さんが増え、そうするとギャラリーを開きたいという人も増え、街が盛り上がるという、よいスパイラルが生まれます。

岡田:ギャラリーが増えても何も困ることはありませんから(笑)。日本人は美術館にはよく行きますが、作品を購入することに対するハードルはとても高いんですよね。でも、作品を購入する層が厚くならないと作家さんに続けてもらえないので…。ギャラリーは作家さんと一蓮托生なので、作品を見るだけでなく、買って手元に置くことの楽しみも伝えていきたいです。とは言え、気軽にギャラリーに来ていただきたいので、もちろん見るだけでもOKですよ(笑)。

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明るい雰囲気の「REIJINSHA GALLERY」。ビル1Fで通りに面しているので入りやすい

―「日本橋イースト アートプロジェクト」で予定している企画があれば教えてください。

小林:今年も各ギャラリーと連携してアートミーティングを開催したいと考えています。回遊してもらうには、気候的に夏よりも秋のほうがいいでしょうね。去年実現できなかったギャラリーツアーもやりたいと思っています。

岡田:アートミーティングのようなイベントは、回数を重ねることで浸透していくので、ギャラリー同士が協力し合って、まずは無理なく持続可能な形で続けていきたいと思います。

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昨年のサマーアートミーティングで会場となったGallery TK2

求むコラボ写真(小林さん)

繊維問屋さん

日本橋イーストは繊維問屋街としての顔もあるので、アート作品と繊維商品のコラボレーションができたらおもしろいですね!(小林さん)

求むコラボ写真(岡田さん)

老舗のみなさん

歴史がある街・日本橋には老舗が多いので、たとえば「日本橋弁松総本店」さんのお弁当をいろんな作家が描くとか、「にんべん」さんの鰹節をモチーフにしたアート作品をつくるとか、老舗と現代アーティストがコラボする日本橋ならではのイベントを企画してみたいです。(岡田)

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日本橋高島屋 S.C.と「げるぼあ」

買い物をして、隣にある古い喫茶店「げるぼあ」でゆっくりお茶を飲むのがお気に入りです。(岡田さん)
撮影:Bridgine編集部

HARIO

HARIO CAFE

去年「HARIO」の真っ赤なドリッパーを買って、「HARIO CAFE」で開催されているコーヒーの淹れ方ワークショップにも参加しました。また、日本橋エリアは道が碁盤の目なので、毎日違う道を通ると発見・変化があっておもしろいですね。(小林さん)
画像提供:HARIO CAFE

取材・文:小島まき子 撮影:岡村大輔

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