Interview
2023.02.08

「SF映画の発想」でビジネスの未来をつくる。日本の3Dプリンター開拓者の新たな挑戦。

「SF映画の発想」でビジネスの未来をつくる。日本の3Dプリンター開拓者の新たな挑戦。

2010年代にIT企業やエンジニア界隈でブームとなった3Dプリンター。その進化は進み、現在は人が実際に住むことができる家までをも作れるようになっています。そんな3Dプリンターをビジネスに活用しているのが、日本橋を拠点とするベンチャー企業「株式会社MagnaRecta」です。しかし、そのオフィスには素人目には何に使うのか分からない大小さまざまな機械や、道具、素材がところ狭しと並べられており、「一体何をしている会社なのか?」と疑問が次々と浮かんでくるばかり。そんな謎に包まれた同社のビジネスと、日本橋に感じる魅力について、CTOの加藤大直さんに伺いました。

SF映画の「コンセプトデザイン」をビジネスに落とし込む

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― MagnaRecta設立の経緯について教えていただけますか?

MagnaRectaの前身である株式会社Genkei設立に話は遡ります。10数年前、僕はアメリカの大学でデザインを学んでいたときに3Dプリンターと出会い、デジタルデータが現実に物理的に現れることにとても興味を惹かれました。その後、2011年末に就職しようと日本に戻ってきたところ、誰も3Dプリンターをやっている人がいなかったので、3Dプリンターの作り方のデータが無料公開されているオープンソースであるRepRapの日本版を作ったんです。その流れで3Dプリンターを作って販売することになり、必要に迫られてGenkeiという会社を作ることになったんです。

しかし、僕はもともとデザイン分野出身ということもあって、Genkeiのようなものづくりメーカーというよりは「コンセプトデザイン」をビジネスに落とし込む仕事をしたいと思いが積もり、そちらに舵を切るために新会社としてMagnaRectaを設立することになりました。

― 「コンセプトデザイン」とはどういった概念なのでしょうか?

SF映画でよく使われる概念で、作品の中の世界観を構築するデザインやアートのことを指します。架空の惑星や世界において、どのような歴史と文化があり、どんな生態系があるのかを細部に至るまで考え、緻密に描いていくわけですね。映画『ブレードランナー』を手がけたシド・ミードが非常にその分野では有名なデザイナーです。

MagnaRectaが開発する架空の惑星生成システム

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MagnaRectaが関わる、フードシンギュラリティを目指す「OPEN MEALS」もコンセプトデザインが活きる企画(公式サイトより)

https://www.open-meals.com/sushisingularity/

― そんなコンセプトデザインをビジネスに落とし込む仕事とは、どういった内容なのでしょうか?

MagnaRectaの事業では、そんなコンセプトデザインの考え方を架空の世界ではなくこの現実世界に当てはめています。そうして作られた未来予測に対して、お客様のビジネスが今後どのようにマネタイズさせていくべきかをコンサルテーションしたり、サービスの提案や、実際に求められるソリューションの提供までをお手伝いしたりしています。その中でもユニークなのは、この地球の未来をある種の“異世界”だと仮定することで、お客様の現在の業界の延長上ではなく、本来範囲外とされているビジネスを提案することも少なくありません。

3Dプリンターの経験を活かした、DXソリューション&新ビジネス

― どういう業界のクライアントが多いのでしょうか?

本当に幅広いですね。コミックアプリの販売会社さんから、折り紙の会社さん、建築の会社さん、広告代理店さんなど多岐にわたります。また我々が提供するものも幅広く、当初はアドバイスやコンサルから入るのですが、最終的にお客様のポートフォリオに載せられるような何かを残すことが多いです。ノウハウ提供やビジネスモデルだけを納める場合もありますが、アプリ開発、システム開発、ものづくりまで行うパターンなどゴールもまた幅広いです。

例えば、そこにあるマネキンはファッションブランドの「イッセイミヤケ」さんとのお仕事です。3Dプリンターで出力したマネキンなのですが、ブランドの店舗に置かれたり、フォトシューティングに使われたりしていて、今も継続中のお仕事です。

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画像提供:MagnaRecta

― 3Dプリンターを作って販売していたノウハウが、ソリューションにも活きているわけですね。

そうです。3Dプリンターにおいて一番すごいのは、実は3Dプリンターそのものではなく「3Dプリンターを触ることによって得られる知識やノウハウ、技術」だと思っています。というのも、機械工学、電子工学、化学、
物理学、熱力学、ファームウェア(制御用プログラミング)などを理解できないと3Dプリンターって作れないんですよ。だから、3Dプリンターを作れるようになるということはつまり、それ以外の大体のものが作れるようになるってことなんです。

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MagnaRectaの前身、株式会社Genkeiの代表的な製品(画像提供:MagnaRecta)

― MagnaRectaのサイトにはロボットアームについての記述がありますが……

ロボットアームも自前で作れます。

― おお! どのようなソリューションで使ったのか例を教えていただけますか?

「省人化」ですね。コロナ禍においてリモートワークが普及しましたが、それでも工場勤務や飲食店など現場に人がいなければならない仕事というものは存在します。そうした仕事をいかにミニマムにしてあげるかという取り組みが現在求められているんですよ。

例えば、営業終了後のレジ締め作業をするためだけに店長やオーナーが現場に行かなければいけないケースがあるのですが、その作業を遠隔でできるように、物理的にレジのボタンを押すロボットアームを製作して、それをカメラと連携して簡単に操作できるようにしました。大規模なシステムであればソフトウェア的に自動化できるようにするところですが、個人や数店舗しかない規模であれば、そのためにシステム開発するよりも単機能のロボットアームを作ってしまった方が遥かに早いし安く済むんですよ。

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MagnaRectaが手がけたロボットアームの例(画像提供:MagnaRecta)

― 「アナログだけど着実なDX(デジタル化)」という感じで面白いですね。2018年の会社設立から約5年が経ちましたが、これからMagnaRectaはどのような方向に向かって行こうとしているのでしょうか?

ここ数年は変化のスピードが速く、毎月のように求められているものが変化しているのを感じる日々でしたが、最近ようやく方向性が定まりつつあるように感じています。

前身のGenkeiから考えれば、メーカーから脱却してクライアントワーク中心になった流れがあり、その中でMagnaRectaに技術力やノウハウなどが蓄積したことで、本来自分たちがやろうとしていたSF的な「コンセプトデザイン」を現実に落とし込んだ上でマネタイズできる状態まで持っていくことができるようになったと感じています。そして実際に今そっちの方向に向かい始めています。

― 自社サービスの発信が進んでいくということですか?

そうです。もちろんお客様との関係が一番大切ですし、自分たちでやれることは限られていると思っているので、引き続きクライアントワークやコラボレーションは続けていきます。そこに加えるかたちで2つの自社サービス発信を考えています。

一つ目は、近年急速に発達しているAIを活用したサービスです。自然言語系のAIは最終的に人生をサポートしてくれるスーパーマンになると思うのですが、まず我々としてはそれを洋服や食事などを提案して訴求する便利ツールとして、超短期間で開発してリリースしていきたいと思っています。

二つ目が、「130(ワンサーティ)」という3Dプリントの技術を応用した事業です。これは「2次元を積み重ねて3Dを作る」という従来の3Dプリンタの発想と異なり、1次元の「棒」を重ねていくというアイディアで、それによって「超短期間で非常に大きなものを強い強度で作る」ことが可能となります。例えば建材利用もできますし、什器、椅子や机などの家具、イベント用の大きな入場ゲートなんかも素早く作ることができるんです。さらにペットボトルの素材であるPETでできているので、使わなくなったらバラバラにしてしまえば素材としての再利用も可能です。これはすぐに事業化の予定を立てているので、楽しみにしていて下さい。

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日本橋が持つ物件の自由度と、ベンチャーが集まる空気感が魅力的

― MagnaRectaは現在日本橋を拠点としてしますが、その理由について伺えますか?

もともと青山にオフィスを設けていたのですが、会社のメンバーに工学生が多く、その多くが千葉出身なんですよ。だから「青山は通いづらい」という声が多くて(笑)。

― アクセスの問題だったんですね(笑)。

現実的な話なんです(笑)。でも、日本橋エリアには新しくベンチャーが集まっているという話も聞いていて、実際に物件を探してみたら、青山では見つけられないような自由度の高い物件がたくさんありました。今のMagnaRectaオフィスも、最初は床も普通のOAタイルだったんですけど、コンクリートを流したんです。青山にはこういう使い方ができる物件が本当にないので、非常にありがたいですね。うちがアプリ開発だけをしている典型的なITベンチャーだったらまだ青山にいたかもしれませんが、ものづくりも行うベンチャーとしては日本橋の環境からは大きなメリットが得られています。

― 物件の自由度以外に、日本橋を拠点とするメリットはありますか?

秋葉原が近いということは大きいですね。我々の仕事は、なぜか鉄板みたいなものを買いに行かなきゃいけない時が多いんですけど、そういうものが秋葉原なら手に入りやすいんです。

― MagnaRectaならではですね(笑)。

あとは東京駅が近くて新幹線が使いやすいのも大きくて、とにかくいろんな駅へのアクセスがいいですよね。僕の知っているベンチャー企業も日本橋エリアにどんどん集まってきているのを感じます。ものづくりに関わるベンチャーにとっては、やっぱり先ほどの物件面での条件や、立地の影響が大きいんでしょうね。

こうやって同業他社が増えると、打ち合わせがすごくしやすいのもまたメリットになりますね。Zoomミーティングを設定するより「今から行きます」なんて歩いていったり自転車で行ったりした方が気軽なくらいです。

― 日本橋は歴史あるエリアですが、そこに対してテック企業としてアプローチしてみたいことなどはありますか?

特にこの辺は呉服問屋が多かったエリアなので、そうした分野に入っていきたいという思いがありますね。それも服作りに外の要素を取り入れるのではなく、逆に服のデザイン手法や、服の作り方を食に導入してみるなど、異分野と絡めながら。DXというよりは、ジャンルをトランスフォーメーションする感じですね。絶対に合わなさそうなジャンルを組み合わせることで、おもしろいものが生まれると思うんですよ。

他にも、この辺には歴史的にも薬屋さんが多いんですけど、「薬って何だろう」というアイディアを料理やコーヒーに落とし込んだら新しい業態が作れるんじゃないかとか考えますね。

― それは非常に面白そうですね。

日本橋って昔からあるものがたくさんある一方、今は新しいものが流入してきていますよね。それをコミュニティー作りや新規事業開発に活かせるんじゃないかと思ってます。グツグツ煮込んで「何ができるんだろう?」と思いながら、どんどん混ぜていくスタイルでやっていきたいですね。

― 最後に、今後日本橋の街でコラボしたい相手などがいれば教えてください。

それこそ全員とコラボできたらおもしろいんですけどね(笑)。少なくとも、うちに興味を持っていただける方がいらっしゃれば「やります!」って感じです。でも最近、自分の人生を最終的にどうしたいとかではなく、今現在の生き方そのものを選択する人たちが増えてきた印象があるんですよ。自分がそこにいたいと思えるコミュニティー内で生きていくために、やれることをやろうと考える人が増えてきたというか。だから、衣食住などを通してスモールコミュニティーを作りたい人や、ジャンルを掛け合わせたミクスチャーなライフスタイル提案を作ろうとしている人たちとは特にコラボしてみたいです。

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