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2023.01.20

日本橋の老舗の料理人が、最先端の宇宙の食に挑戦!「宇宙美食サミット」。 ―「HELLO SPACE WORK! NIHONBASHI 2022」レポート―

日本橋の老舗の料理人が、最先端の宇宙の食に挑戦!「宇宙美食サミット」。 ―「HELLO SPACE WORK! NIHONBASHI 2022」レポート―

2022年12月12日~23日、日本橋で、「宇宙の仕事」を身近に体験できるイベント「HELLO SPACE WORK! NIHONBASHI 2022」が開催されました。2回目となる今年は、「好奇心よ、宇宙へ向かえ。」をテーマに、「遊ぶ」「学ぶ」「味わう」を切り口とした宇宙のお仕事を身近に感じられるさまざまなコンテンツが登場。「味わう」体験では、宇宙に関する食材を、日本橋を代表する3人の料理人がアレンジする食イベント「宇宙美食サミット」が行われました。人工衛星の観測データを使って育てた「米」で、「繁乃鮨」店主・佐久間一郎さんが江戸前寿司を握るほか、「たいめいけん」店主・茂出木浩司さんが、「月面での地産地消」をテーマにした未来の月面での食事を実験的に提供したり、宇宙飛行士も食べている宇宙食を、「日本橋ゆかり」店主・野永喜三夫さんがアレンジしたりと、日本橋の老舗の若旦那による新たな食体験が繰り広げられました。匠の技や貴重なトーク、宇宙に関する食材について学びながら、料理の試食も楽しめる盛りだくさんなイベントの様子をお伝えします。

衛星データを活用した食材を学びながら食体験

「宇宙美食サミット」初日、12月17日のトップバッターは、江戸前寿司の名店「繁乃鮨(しげのずし)」店主の佐久間一郎(さくま・いちろう)さん。衛星データを活用してつくられたお米「宙(そら)と水」で、握り寿司を作りました。

「宙と水」は、地表面温度や日射量、降雨量などの衛星データを分析し、最適な栽培地を選んで、山形県鶴岡市で栽培された宇宙ビッグデータ米。「粒がしっかりしていて歯ごたえがあり、食味値も高く、自慢のお米ができました」と、株式会社天地人の代表取締役、桜庭康人(さくらば・やすひと)さんは話します。佐久間さんも「お米がしっかりしているのが一番の特徴ですね」とコメント。「お寿司のほかに、うなぎや卵かけごはん、丼ものにも合うと思います」と話しました。

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「いつものシャリと違いますし、新米なので、お米を炊くときの水加減を何度も調整して、今日はおいしく炊けました」と話しながら、手際よくお寿司を握っていく佐久間さん。

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ネタは、沖ノ島のマグロと淡路島のスミイカ。「おめでたい紅白にしてみました」と佐久間さん。みりんを加えた醤油を刷毛で塗って仕上げる。

お待ちかねの試食タイム。まずは子どもたちにさび抜きのお寿司が配られます。早速あちこちから「おいしい!」「うま!」といった歓声が。なかには、お米だけ食べてみたいという声も。桜庭さんも試食し、「お寿司になるとまた違いますね。新たな魅力を感じました」とコメントしました。

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イベントには親子での参加者も多数。佐久間さんがお寿司を握る様子を興味津々で眺めたり、完成したお寿司を夢中で食べたりする姿が微笑ましい。

佐久間さんからレシピのポイントやお店の紹介があり、その後は質問タイム。子どもたちからもさまざまな質問が出ました。「お米は新潟のほうがおいしいと思いますが、どうして山形のお米を使うのですか?」という女の子からの質問に、佐久間さんは「新潟のお米は有名ですが、それ以外にもおいしい産地がたくさんあります。また、時期によっておいしいところが違うので、そのときどきで産地を選ぶのもポイントですね」と答えました。

米という身近な食材と、宇宙とのつながりが感じられた、わくわくするセッションでした。

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「このイベントを通して、宇宙を身近に感じることができ、私もいろいろと勉強になりました。宇宙データを活用して、お米以外にも、最適な場所でいちばんよいものを作ることができたらおもしろいですよね」と笑顔で話す佐久間さん。

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「気候変動による温暖化の影響で、農作物の品質確保が難しくなってきているなか、宇宙産業から生まれた技術を米作りに生かし、おいしいお米をみなさんに届けたいと考えています」と抱負を語る桜庭さん。

未来の月面での食を想像しながら食体験

12月17日の後半は、老舗洋食店「たいめいけん」店主の茂出木浩司(もでぎ・ひろし)さんが登場。月面での地産地消を目指した料理を、実験的に提供しました。

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自己紹介後に早速 料理を始める茂出木さん。洋食店らしく、チキンソテーとグラタンを作ることに。

茂出木さんが調理をするかたわら、「月面での地産地消」について、一般社団法人SPACE FOOD SPHERE理事の菊池優太(きくち・ゆうた)さんから説明がありました。「月での食事に、食材をすべて地球から持っていこうとすると、非常にコストがかかります。そこで、レタス、トマト、キュウリ、イチゴ、米、大豆、ジャガイモ、サツマイモの8つの食材を月面で栽培できるよう、国を挙げてプロジェクトが進められているのです」。

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(写真左から2番目より)月面での栽培を目指す8つの食材を紹介する菊池さん、株式会社プランテックスの代表取締役社長、山田耕資(やまだ・こうすけ)さん、株式会社ユーグレナの先端科学研究所 ・豊川知華(とよかわ・ちはな)さん。

そんな月面での地産地消を目指した料理に使用される食材は、プランテックスの人工光型植物工場で作られたレタス、ユーグレナが手がける藻の一種であるクロレラの粉末、そして、ゲノム編集技術によりGABA(ギャバ)という機能性成分の量を増やしたトマト。いずれも、月面での生産や、宇宙食での利用が見込まれている食材です。それらを茂出木さんがどう料理に活かすのか、参加者は興味と期待を募らせました。

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藻の一種で栄養豊富ながら独特の苦みがあるクロレラは、チキンソテーのソースに。「生クリームと粉チーズで苦みをやわらげ、食べやすく仕上げました」と茂出木さん。

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クロレラソースの上に、両面をこんがりとソテーした鶏肉をのせ、クレソンを添えて、「三代目!宇宙スペシャル!!クロレラソースのチキンソテー」の完成。

クロレラ粉末を提供したユーグレナの豊川さんは、チキンソテーを試食し「普段クロレラを食べていて、独特の風味や苦みをどう調理するかが悩みどころなので、クロレラソースのおいしさにびっくりしました! この味を目標にして、宇宙でシンプルな素材をどのように調理するか、考えていきたいです」と述べました。

そしてもう一品、日本橋の隣の京橋で作られた「京橋レタス」と、ゲノム編集トマトを使った牡蠣グラタンも完成しました。「生で食べられることの多いレタスを、あえて加熱しました。いつもはほうれん草を入れるのですが、レタスも相性がいいんですよ」と茂出木さん。試食したプランテックスの山田さんは、「レタスは火を通すとおいしくなると言われますし、レタスの新しい可能性を感じました」とコメントしました。

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サナテックシード株式会社が手がけるトマト「シシリアンルージュハイギャバ」と、プランテックスの「京橋レタス」を使った「三代目!宇宙スペシャル!!京橋レタスたっぷり!牡蠣グラタン」。粉チーズにクロレラ粉を混ぜてトッピングしている。

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試食する参加者のみなさん。チキンソテーのクロレラソースには「食べたことない味だけど、おいしい」、グラタンに対しては「レタスがよく合う」などの声が上がった。

「宇宙空間では火を使ったりする調理はできませんし、今は生の野菜が手に入るのは3か月に1回程度ですが、地産地消が実現したら、宇宙料理人が必要になってくるのではないでしょうか」と菊池さんが言うように、宇宙でも、新鮮な食材を使った、プロの料理人によるおいしい料理が食べられるようになるかもしれません。そんな日が来るのも、そう遠い未来ではなさそうです。月面での食事や地産地消に思いを馳せる時間となりました。

宇宙日本食をアレンジしたおいしい食体験

12月18日は、老舗割烹店「日本橋ゆかり」店主の野永喜三夫(のなが・きみお)さんが、宇宙飛行士が食べている宇宙日本食をおいしくアレンジしました。

「宇宙日本食」とは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が定める宇宙日本食認証基準を満たした食品。ISS(国際宇宙ステーション)に滞在する日本人宇宙飛行士に、日本食の味を楽しんでもらい、長期滞在の際の精神的なストレスをやわらげ、パフォーマンスの維持・向上につながることを目的として開発されたものです。現在、宇宙日本食の認証を受けているのは50品目。そのうち、ミキプルーン、名古屋コーチン味噌煮(宇宙食)、コスモバーグ、ちりめん山椒、大人のための粉ミルク「ミルク生活」の5品目がイベントに登場しました。これらの食材は、1.5年の保存試験や厳しい衛星管理基準といった、JAXAの認証基準をクリアしているもの。また、宇宙空間で食材が離散して機械が故障しないような工夫もされています。

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「調理ができない宇宙空間で、限られたものでどう楽しむか、宇宙飛行士の気持ちになって考えてみました」と話す野永さん。味の変化がわかりやすいように、もとの食品と、アレンジした料理が並べて提供された。

最初に試食するのは、ちりめん山椒そのものと、ごはんに混ぜて作ったおにぎり。「これはちりめん山椒自体がとてもおいしいのであえてシンプルなアレンジにしました。宇宙空間で日本の美味しい味を楽しみたいと思った時に是非おにぎりにして食べてもらいたいですね。」と野永さん。続いて、名古屋コーチン味噌煮とハンバーグが登場しました。まずは名古屋コーチン味噌煮そのものを味わい、次にプルーンと混ぜたものを食べます。同じように、ハンバーグそのものと、プルーンと混ぜたものを試食。「宇宙空間で味を変化させようとすると、口の中で混ぜる『口内調理』しかないなと思いました。プルーンは甘みと酸味があり、その相乗効果でうま味を感じます。口の中でプルーンと混ざることで、名古屋コーチン味噌煮やハンバーグの味わいがどのように変化するか、感じてみてください」と野永さんは話します。

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クラッカーにのっているのは、名古屋コーチン味噌煮(右)とハンバーグ(左)。小さいスプーンは名古屋コーチン味噌煮にプルーンを混ぜたもの、大きいスプーンはハンバーグにプルーンと混ぜたもの。また、キャラメルのようなものは、プルーンと粉ミルクを混ぜたデザート。

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試食を楽しむ親子。プルーンを少し加えることで味わいが変わることに驚いていた。

試食後は質問タイム。「味覚を鍛えるにはどうしたらよいでしょうか?」という参加者からの質問に、野永さんは、「食べるときには五感で味わい、舌に記憶させることが大事です」と答えました。また、「料理は科学なので、きちんと理論を理解し、自分の料理がどうしたらおいしくなるかを考えることで、腕が上がりますよ」というアドバイスも。子どもたちに対しては、「宇宙食もそうですが、いろいろなものに興味を持ってほしいですね。和食離れが進んでいますが、和食のよさも知ってほしいと思います」と語りかけました。

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「『食』という漢字を分解すると、『人を良くする』となります。おいしい料理を作れば、人が喜び、食卓が楽しくなる。それが料理の楽しみですね」と話す野永さん。

「今、おいしい宇宙食を開発しようという話を進めています」と野永さんが言うように、伝統的な和食の料理人が宇宙に関わる、そんな時代になっているのです。宇宙料理人が登場する、さらにはAIが宇宙で調理する未来が来るかもしれません。宇宙食の進化や可能性に期待が高まるセッションとなりました。

日本橋を代表する料理人が織り成すさまざまな食体験で、宇宙を身近に感じた2日間。最先端の宇宙の食について学ぶとともに、宇宙とのつながりを体感することができました。

取材・文:小島まき子 撮影:岡村大輔

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