Interview
2023.05.24

人形町に新ギャラリー誕生。アート作品と出会い、アーティストと街をつなぐ場に。

人形町に新ギャラリー誕生。アート作品と出会い、アーティストと街をつなぐ場に。

アジア最大級のオンラインギャラリーを運営し、現代アートを中心に31,000点以上の作品を取り扱う株式会社タグボート。近年は、作品と出会う機会を増やすため、ギャラリーやアートイベントなどリアルにも力を入れており、2023年2月、東京・人形町に新しいギャラリーをオープンしました。新ギャラリーは街でどのような場になっているのか? アートの世界でタグボートが目指すこととは? 「人形町をアートの街にしたい」という、株式会社タグボートの代表取締役、徳光健治さんに話を聞きました。

アーティストが住んで活動できる人形町を、「アートの街」にしたい。

―タグボートは、設立時から人形町にオフィスを構えたんですよね。人形町を選んだ理由を教えてください。

最初のオフィスは今から13年前、日本橋小学校の近くの小さなビルでした。そこが手狭になったため、人形町3丁目に移転し、さらに現在のオフィスに移ったので、人形町界隈を転々としていることになります。人形町の魅力は、老舗と新しいお店が共存していて、おいしいお店が多いことですね。立地・アクセスがよく、それでいて家賃はそこまで高くないですし。そして、おしゃれな若者があんまりいない(笑)。かつてのニューヨーク・ソーホー地区のような要素がある、発展性のある街だと思います。

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株式会社タグボートの代表取締役、徳光健治さん。「アーティストの価値を上げる」というミッションのもと、2008年に株式会社エムアウトの子会社としてタグボートを設立。2010年にマネジメント・バイアウトにより独立した。

―その人形町に新たにギャラリーをオープンされました。その経緯について教えてください。

2019年に、有楽町の「阪急メンズ東京」7階に常設ギャラリーを設けたのですが、オフィスとギャラリーが離れていたので、コミュニケーションに時間がかかるという難点がありました。また、オフィスにいてはお客さんの顔が直に見えないという問題もあったため、いつかはギャラリーとオフィスを一緒にしたいと考えていました。空間重視で、大きな作品をはじめ、インスタレーションや映像作品など、アーティストが思いっきり表現できるように天井高のあるギャラリーを探していたところ、この場所を見つけ、一目で「ここしかない!」と決めました。

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タグボートの新ギャラリーは、天井高約5メートルという開放的な空間。もともとは倉庫だった

―新ギャラリーのオープンから数か月が経ちますが、どのような手ごたえを感じていますか?

当初は、有楽町から移転したことでお客さんの数が減るのではないかと心配していましたが、意外と大丈夫でした。と言うのも、人形町に住む人々は文化度・教養が高く教育熱心で、アートにも関心があるので、多くの人に足を運んでもらえているんです。親子連れが来てくれるなど、客層の幅も広がりました。塾帰りの小学生がお母さんと一緒に来て、「この展示、おもしろかったよ」と、週末にお父さんを連れて再び来てくれたことも。ギャラリーが1階にあって通りに面しているので、ふらっと通りかかった人が「何だろう?」と入ってきてくれるのもうれしいですね。日本では1階にあるギャラリーが少ないため、たまたま入って作品に出会うということが起こりづらい。作品を見てもらわなければ意味がないので、この場所にギャラリーを開くことができてよかったです。

―アートの観点から、人形町はどのような街だと思われますか?

人形町は、ニューヨークのソーホーやチェルシーのように、アーティストがそこに住んで、ギャラリーができ、人が集まる感性が育っていく可能性を秘めた場所です。ギャラリーが集まる天王洲アイルでも、おしゃれな六本木や原宿でもなく、私が人形町にこだわっているのは、アーティストが実際に住める街だから。アーティストがアトリエを構え、ギャラリーができて、そこに人が集まってくる。人形町を、そんな「アートの街」にしたいと考えています。人形町を含む東京イーストサイドを盛り上げていくには、アートの力が必要です。あと7年、2030年までに「アートの街」の完成に近づけたいと考えています。

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人形町の近くには繊維問屋街がある。それもニューヨーク・ソーホー地区と似ている点だという

食べていけるアーティストを増やすため、「アート作品を買う」ことを身近に。

―オンラインギャラリーから始まったタグボートですが、新ギャラリー開設を含め、アートイベントなどリアルの場を強化されていますね。

オンラインギャラリーを運営してもう19年になりますが、ネットだけでは作品のよさはなかなか伝わりません。ギャラリーやアートイベントなどで、実際に作品を見て、感じて、それからオンラインギャラリーで購入してもらえたらと思っています。オンラインで見てもらうことには、アート作品の相場を知ってもらいたいという意図もあります。実は、コロナ禍の中でもリアルでのイベントを拡大したのですが、予想以上に多くの人が来てくれて売り上げもアップしました。皆さんリアルの場を求めていたんだなと思いましたね。タグボートでは160人ものアーティストの作品を取り扱っているので、彼らの作品を見せるリアルの場をいかにつくっていくかを、日々考えています。

2023会場写真1

画像提供:tagboat

―タグボートでは、アーティストをどのように発掘・選考されているのでしょうか?

美大・芸大の卒業制作展に足を運ぶほか、若手アーティストが自身の作品を展示販売できるタグボート主催のアートイベント「Independent Tokyo」などで、アーティストと直接話をしてスカウトしています。そのときの作品よりも、アーティスト本人のキャラクターや、これからどんなおもしろい作品をつくりそうかという将来性を重視しています。技術的なことよりも、アーティストの世界観が大事ですね。いかに世の中にインパクトを残せるかどうか。作品は発明品のようなものなので。また、話下手でもよいのですが、きちんと表現・発信ができるかというコミュニケーション能力や、あきらめない忍耐力なども、アーティスト選びのポイントです。

Independent Tokyo

画像提供:tagboat

―作品だけでなく、アーティスト自身をしっかり見ているのですね。アーティストへの思い入れやリスペクトを感じます。

自分の好きなことをやって、何かを形にして残すアーティストって、自由でかっこいいじゃないですか。そうやって食べていける人が増えて、アーティストが憧れの存在になる。そんな世の中ってよくないですか? タグボートでは、数人のスーパースターを輩出することも大切ですが、食べていけるアーティストの“数”を増やすことを重視しています。そのためには、作品を買ってくれる人を増やさなければいけません。ギャラリー、イベント、オンラインと、ありとあらゆるチャネルを駆使して、作品購入のお手伝い・アドバイスをするのがタグボートの役割なんです。

―アート作品を買うということは、日本ではまだ馴染みが薄いと思いますが、タグボートではどのようなアプローチや工夫をされていますか?

そうですね、日本にはアートを買う習慣があまりありません。日本のマーケットは世界の1%未満であり、アメリカや中国は数十倍の規模です。現代アートを買うのは、柔軟な考えを持ち、かつ経済的に余裕のある人です。そして、アートを買うには、感覚だけではなく合理性が大事なんです。アートは単なるインテリアではなく、資産になります。アートを買うということは、作家の持つ世界観や付加価値、作家の将来性、作品の資産性などに投資すること。アーティストの価値を上げることで、作品の資産価値を上げていくことも、タグボートの仕事です。資産としてアート作品を買ってもらうためには、コミュニケーションが大事。ギャラリーに何度も足を運んでもらって、作品を見て、感じてもらって、コミュニケーションを重ねながら、気に入った作品を買ってもらいたいと思っています。

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「人形町の住人は合理的な人が多いので、アート作品を購入する層とマッチする可能性がある」と話す徳光さん

―今後の目標や、チャレンジしたいことを教えてください。

繰り返しになりますが、「アートで食べていける」アーティストの数を少しでも増やしていきたいです。現時点での達成度は2割くらいでしょうか……。まだまだですし、タグボート1社では微力ですが、世の中の意識を変えるためのきっかけをつくりたい。大きなマーケットを動かすための曳き船、まさに「タグボート」として、先頭に立っていきたいですね。その仕掛けのひとつとして、アートコレクターを中心とするコミュニティを、オンラインではなくオフラインをメインにしてつくりたいなと考えています。

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「小さな希望の光をともすためのひとつの道具として、タグボートを使ってほしい」

―日本橋でやってみたいことや、コラボレーションしてみたいお相手がいらしたら教えてください。

アーティストを道具として利用するのではなく、リスペクトを持ってアーティストを大事にする企業と一緒に、何かやりたいですね。たとえば三井不動産とは、おもしろいことをやって東京イーストサイドを盛り上げよう!という考え方が一致して、2021・2022年と「アート解放区」というイベントを日本橋で行いました。解体前のビルでアーティストが制作・展示を行うというユニークなイベントで、アーティストにとっても貴重な経験となりました。場所と機会があれば、ぜひまたやりたいですね。作品をリアルで見せる場を、日本橋の街全体でつくっていけたらいいなと思います。日本橋にはその可能性がありますので。

アート解放区

画像提供:tagboat

取材・文:小島まき子 撮影:岡村大輔

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