Collaboration TalkInterview
2022.12.06

プレイヤー主導だからできる日本橋の本音メディア。「日本橋もの繋ぎプロジェクト」とは?

プレイヤー主導だからできる日本橋の本音メディア。「日本橋もの繋ぎプロジェクト」とは?

2021年11月にスタートしたYouTubeチャンネル「日本橋もの繋ぎプロジェクト」。日本橋の企業やお店が自分のプロダクトを相手に贈り、それをきっかけにしてトークを繰り広げる番組を配信しています。制作しているのは日本橋の老舗店「日本橋弁松総本店」樋口純一さん、「山本海苔店」の山本貴大さん、そして中央区の魅力発信に取り組むビデオグラファー「中央区民マガジン」のユキイデさん。ちょっとした暴露話「弁松砲」も飛び出す異色メディアの裏側を、3人に語っていただきました。

「働く街」「暮らす街」それぞれの顔を知る3人が集結

─まずは自己紹介をお願いします。

樋口純一さん(以下、樋口):日本橋の弁当屋、日本橋弁松総本店の8代目、樋口と申します。「日本橋もの繋ぎプロジェクト」では企画・プロデューサーを担当しています。

山本貴大さん(以下、山本):1849年創業、山本海苔店社長の山本貴大です。私は動画内に登場して皆さんにインタビューをするMCを担当させていただいております。

ユキイデさん(以下、ユキイデ):中央区民マガジンのユキイデと申します。中央区民マガジンは東京都中央区だけの情報に特化したローカルウェブメディアで、中央区民や中央区で働く人のための役立つ情報を発信しています。「日本橋もの繋ぎプロジェクト」では撮影や編集、ナレーションも担当しています。

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動画内にはイラストもふんだんに盛り込まれている(日本橋もの繋ぎプロジェクトYouTubeより)

樋口:あと動画に使う絵を描いてくれるイラスト担当の高橋陽子画伯さんや、時々手伝ってくれる方もいますが、基本的にはこの3人を中心に制作しています。これまでに日本橋の企業やお店に声をかけ“じゅう繋ぎ”のもの繋ぎに密着し、14本の動画を公開してきました。

─樋口さんには以前弁松総本店としてBridgineにご登場いただいて、日本橋への思いを語っていただいているのですが、ユキイデさんと山本さんにも、この街とご自身の関係についてお聞きできますか。

<参考記事>日本橋の広報役として周りをどんどん巻き込みたい。グッズ展開に SNS 開設、老舗の弁当屋が新しい試みを続ける理由とは?

ユキイデ:僕は大阪から上京して人形町に住み始めて、もう17年くらいになります。独身の時に住み始めて、中央区は家賃が高いので結婚を機に引っ越すことも考えたんですけど、この街が好きだし仲良くなった飲み仲間やご近所さんと別れたくないなという気持ちを優先しました。日本橋はなんといっても歴史が魅力だし、新旧の文化が上手く混ざり合った場所ですよね。住んでいる人も増えていて子育て世代も実は多いんですよ。僕は日本橋パパの会という会の事務局もやっています。日本橋に住んでいる、または勤めている未就学児のパパの集まりで、子供が寝た後に飲み会をしながら情報交換してます。

─そんな集まりもあるんですね! 山本さんにとっての日本橋は、暮らしの場だったのでしょうか?

山本:いや、山本海苔店の本店はずっとここにありますが、店舗と衣食住の空間が一緒だったのは実は曽祖父の代くらいまでの話です。2008年に入社した後はすぐ佐賀県に行って海苔の仕入れの勉強をして、海苔のシーズンは3ヵ月くらいで終わるのでその後は2年上海に行って。日本橋で仕事をするようになったのは2011年以降という感じです。なので僕自身、日本橋もの繋ぎプロジェクトを通してまだまだ日本橋の街について日々勉強中ですなんですよ。

本店外観正式

山本海苔店本店(画像提供:山本海苔店)

質問すると楽しい街“日本橋”を、自分たち自身ももっと知りたかった

─「日本橋もの繋ぎプロジェクト」はどのようなきっかけで始まったのでしょうか?

樋口:最初に、お隣の銀座で「銀座もの繋ぎプロジェクト」というものがありまして。コロナ禍をきっかけに来街促進の企画としてスタートし、Instagramで100回目の投稿をしたあたりで参加企業の展覧会も松屋銀座で開かれるほど盛り上がっていました。それについて書かれた記事を目にして、「これの日本橋版をやったら面白いんじゃないか」と思ったんです。それで銀座版を運営されている「木挽町よしや」の若旦那の斉藤大地さんに会いに行ってご挨拶し、お話を聞きました。
銀座版は斉藤さんが本当にほぼ一人でやられていたんですが、それもコロナ禍で仕事が少ないタイミングだからこそできたという面もあったようで。さすがに僕は店の営業もあるし一人ではできないなと考え、パートナーとして山本さんを誘いました。この話を持って行った時って、もう社長になってたっけ?

山本:僕が社長になったのは2021年の7月なので、まだなってないですね。

樋口:今は上の世代のご意見番がいますけれども、いずれ世代交代が起こっていった時に、彼はこの一帯を仕切る人になっていくと思うんですよ。

その時のために人脈を作っておいた方がいいだろうなというのもあって、彼を誘いました。彼、代替わりしたばかりだしこの街の人からは山本海苔店のボンボンくらいにしか思われてないでしょ、きっと(笑)。本人も結構出たがりというか、顔出しOKというのもポイントでした。

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日本橋弁松総本店の樋口さん。名物「弁松砲」で番組を盛り上げる

─山本さんとしては樋口さんから声がかかった時、どのように受け止めましたか?

山本さん:そりゃもう室町の先輩社長から声がかかったら逆らうことはできませんので(笑)、「はい、やります」と返事しました。自分にとってこのプロジェクトに参加するモチベーションは、「質問すると楽しい街・日本橋」をもっと知りたいというところにあります。日本橋という場所はもともと“粋”の文化があって、自分から自分のことを語るのは野暮とされている。だから自分たちのことをあまり発信しないんですけど、誰かに質問されると3倍も5倍も答えてくれる。しかも樋口さんが作った切れ味の鋭い質問だから、その回答も面白くて、どんどん興味がわいてくるんですよね。取材相手から話を聞くのを、僕自身楽しみながらやってます。
それともう一つのモチベーションは、日本橋の再開発を見据えて、動画を残したいということ。2023年の夏から秋にはこの山本海苔店の本店と本社が入るビルも建て替えになり、その後5年間くらいは日本橋の周辺で工事が続くと聞いています。だからこの番組を通じて再開発前のこの風景を残しておくことに意味があるんじゃないかと思っています。

─弁松さんはフォロワー3万の人気Twitterアカウントをお持ちですが、今回なぜ動画というメディアフォーマットでやってみようと思ったのですか?

樋口:銀座版はInstagramなんですよね。写真が数点と短い文章のみなので1日3回みたいなペースで更新できたのでしょうが、それだとあまり1つ1つが印象に残らないし、お店の深い部分まではわからない。やっぱり人って、顔写真を1枚見るのと動いているところを見るのとでは印象が全然違うじゃないですか。実際に会ってみたらイメージと全然違ったり、話しているところを見てこんな面白キャラなんだってわかったり。それを見せるには動画の方が圧倒的に情報量が多いし、インタビューだけじゃなくお店の中で作業しているところなんかも可能な限り見せたいと思ったので、この形になりました。
ただ、想像以上に編集は大変でした。正直、他のどこの地域(※現在は銀座・日本橋以外に浅草版や鎌倉版も存在する)より日本橋が面白いとは思っているんですけど、ユキイデさんと相談しながらこだわって作るので、どうしても頻繁にはアップできなくて。一応100回を目指してはいますが、何年かかるかな・・・。

─登場するお店や企業はどのように選定されていますか?

樋口:制作メンバーの中の誰かが知り合いの場合もありますし、第三者に紹介してもらって初めまして、という場合もあります。ただ登場してもらう順番に関してはバランスを見ながら調整は入れていますね。

動画ならではの辛口トーク炸裂、名物は「弁松砲」

─動画を編集する際にはどんなことを意識されているのでしょうか?

ユキイデ:動画の構成については基本的に僕にお任せしてくれるので、自由にやらせてもらっています。より面白くするために樋口さんからここに効果音を入れてほしいというリクエストがあったりするくらいですね。

樋口:こちらとしても譲れないネタがあるんですよ。例えば住庄ほてるの板さんが昔空手をやってたそうなので、バトルシーンを撮って「ストリートファイター2」みたいにして、というリクエストを出したりはしましたね。

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空手経験者の板さんと山本さんの対決シーン(日本橋もの繋ぎプロジェクトYouTubeより)

ユキイデ:日本橋ってどうしてもお堅いイメージがあると思うので、面白くてクスッとできるようなものにするというのは心がけていますね。僕はローカルメディアの仕事をしているのでいろんなお店に行くんですが、自分の想像を超えるお店ばかりで、毎回何かしらに感動してます。でも、お店や企業自身が作ったプロモーション映像だと、どこかきれいで表面的じゃないですか。日本橋もの繋ぎプロジェクトでは、ああいうものとは全然違う、自分が目で見たリアルな面白さを伝えたいという気持ちでやっています。

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山本海苔店の山本さん(左)と中央区民マガジンのユキイデさん(右)

樋口:あとユキイデさんはコンプライアンス面担当ですね。僕はその辺の感覚が昭和で止まっているので、本当にヤバいのはユキイデさん判断でカットです(笑)。制作は手弁当のような形で進めていて、本当ならもっと桁が違うんだろうなというような、ほぼボランティアみたいな額でみなさんにやってもらってます。本当は街のディベロッパーさんとかにも協力いただきたいんですが・・・、なかなか難しく。もし今後「日本橋もの繋ぎプロジェクト」がブレイクして誰かがスポンサーになりたいと言ってきても、もう遅いよ!って言ってやろうと思ってます(笑)。

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老舗の若旦那の過去も忖度なしに暴露!(日本橋もの繋ぎプロジェクトYouTubeより)

─(笑)樋口さんの暴露話や辛口トークは「文春砲」ならぬ「弁松砲」として、番組の名物になりつつありますね。

ユキイデ:樋口さんって取材相手のことをすごくよく調べてくるし、普通なら聞きにくい質問もポンポン口にするんですよ。それで僕、一度樋口さんになんでそんなに突っ込んだ話ができるんですかって訊いたんです。そしたら「どうせそんなに会うこともないし、そもそも僕は先が長くないから。」って(笑)。

─先が長くないって・・・どういうことですか?

山本:弁松さんは代々50代で亡くなられているんですよ。樋口さんはその血を継いでいるから「僕はもうすぐ死ぬ」っていつも言うんです。細田安兵衛さん(日本橋の菓子の老舗、榮太樓總本鋪の6代目社長。2021年に94歳で逝去)のことも「安兵衛~!」って呼んでて(笑)、普通あの大店の当主をそんな呼び方できないですよね・・・。でも「俺はすぐ死ぬから、何なら彼らより先に死ぬから強いんだ」って言ってましたね。もの繋ぎプロジェクトが始まる少し前にはガンも見つかったんですけど、現代医療のおかげで無事生き延びているので、逆に「そんなに言いたい放題で大丈夫なのか?」と僕は思っています(笑)。

今後は有名店ともコラボ予定、目指すはチャンネル登録者1000人

─チャンネルを立ち上げて1年が経過しましたが、今後はどのように日本橋もの繋ぎプロジェクトを発展させていきたいですか?

樋口:ちょうどじゅう繋ぎ目の動画がアップできたので、ここでシーズン1が終わって一区切りと考えています。シーズン2はもうちょっと大店や有名企業にも声をかけて、大小いろいろなところを織り交ぜながらチャンネル登録者数と再生回数を増やしたいですね。まずは1000人くらいまで。

ユキイデさん:大店といえば、山本山と山本海苔店の対談をやりたいですね(注:山本山と山本海苔店はいずれも日本橋の老舗海苔店だが創業者の血縁関係などは特にない)。のりさくさん(山本山のオリジナルキャラクター)に会いに行きましょうよ。社長対談実現!とか。

山本:それはとんでもない緊張感がありますね……。

─(笑)。やはりもっと人気チャンネルに育てていきたいという野心があるんですね。

ユキイデ:そうですね。最近は多くの人が知りたい情報をGoogleではなくYouTubeで検索するそうなんですが、アルゴリズムの関係でマイナーなチャンネルの動画が上位に表示されることって滅多にないんです。じゃあどうやってその順位を上げていくのかというと、すでにチャンネル登録者数が多いところとのコラボなんですよね。だから有名どころともコラボして、日本橋もの繋ぎプロジェクトとしての知名度もアップしていきたいです。

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建て替えが決定している山本海苔店本社ビル屋上にて。日本橋もの繋ぎプロジェクトには、再開発前の日本橋の景色も残る

―山本さん個人の今後の目標は?

山本:樋口さんはよく、「弁松のお弁当は約60万人いる中央区の昼間人口の数%にも届いてないんだから、まずそこに届けばいい」ってことを言ってますよね。日本橋もの繋ぎプロジェクトも、まずは日本全国とは言わず、中央区や日本橋のことを知りたい人のところに確実に届けていきたいです。あと個人的には、最近僕のしゃべりがおもしろくなくなってきたと樋口プロデューサーに言われていて・・・。だんだん収録にも慣れてきて、最初の頃の初々しさや言葉を選んでない感じがないよねと言われたので、そこが今後の個人的な課題なのかなあって思っています(笑)。

─日本橋もの繋ぎプロジェクトを今後、どのように発展させていきたいですか?

山本: 未来に繋がっていくようなプロジェクトにしていきたいですね。最初にご登場いただいた老舗寿司店「蛇の市」店主の寶井さんが「YouTubeは子供たちが見る媒体だから、このチャンネルが次の世代に向けて浸透していって『日本橋の子供たちは食にうるさいぞ』みたいな子たちが育つといいね」と言ってて、僕はそれにすごく感動したんです。実際にそうなっていってほしいですね。

ユキイデ:僕は「動画見たよ!」って皆から言ってもらいたいですね。日本橋もの繋ぎプロジェクトの動画をきっかけに、会話が生まれたらいいなと思います。そのためにもぜひ、この記事を見ていただいた方はチャンネル登録よろしくお願いします。

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