Interview
2024.12.19

走って、ととのい、呑む。「ととけん」が隅田川のほとりで編み出すランニングカルチャー

走って、ととのい、呑む。「ととけん」が隅田川のほとりで編み出すランニングカルチャー

隅田川沿いを心地よく走ったあと、サウナでリフレッシュし、締めにビールをいただく。ランナーやサウナーが集う新名所が、浜町エリアにあるランニングステーション「ととのい研究所(以降、ととけん)」です。

手がけるのは、ファッションを中心としたカルチャー系WEBメディア「HOUYHNHNM(フイナム)」で知られる「ライノ」。エディトリアルを得意とする同企業が「ととけん」を立ち上げたきっかけはなんでしょうか。また、オープンから1年経った今、隅田川のランニングシーンをどう見据えるのでしょうか。運営に携わる柴山英樹さん、山本博史さん、小田秦次郎さんに話を伺いました。

浜町を再編集。「ととけん」誕生の裏側

―まずは自己紹介をお願いします。

柴山さん(以降、柴山):「フイナム」編集部の柴山英樹です。「ととけん」にはオープン前からさまざまな領域で携わっています。「フイナム」でこの施設をテーマにした記事を制作することも多いですね。

山本さん(以降、山本):「フイナム」副編集長の山本博史です。「ととけん」ではディレクターのような役割で、世界観づくりを担っていますね。もともと趣味でランニングをしていて、2014年には「フイナム ランニング クラブ♡」という有志のランニングプロジェクトも立ち上げました。「ととけん」はその延長といえる立ち位置です。

小田さん(以降、小田):今年の3月に「ライノ」に入社して「ととけん」の店長になりました。それまではセレクトショップに所属していましたね。

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(左から)小田秦次郎さん、山本博史さん、柴山英樹さん

―「ととけん」がオープンしたのは2023年の9月ですね。プロジェクトが始まったきっかけはなんですか?

柴山:2022年の「フイナム」が18年目を迎えたタイミングで「20周年に向けて何か新しいことをやろう」という話になったんです。キャンプ場を立てるなど様々なアイデアが出た中で、ある時に建築会社の方が浜町の物件をおすすめしてくれて。実際に内見をしたとき、ここでランニングステーションとサウナをやりたいなと思ったのがきっかけです。

―どのような点に魅力を感じましたか?

山本:隅田川が近いことですね。遊歩道の「隅田川テラス」は自転車が通れないから走りやすいんです。ランナーの聖地「皇居ラン」は1周5キロで信号も無く、ドラマチックな東京の街並みを楽しめるのが魅力ですが、このエリアなら浅草や清澄白河、築地方面など、浜町を出発点に色々なエリアにアクセスできる。買い物をしたり、飲みに行ったりと、ランニング以外の楽しみ方もできるんです。「皇居ラン」ほどストイックすぎず、カルチャーとの親和性が高いところも「フイナム」らしいなと。

柴山:サウナをつくる視点で言うと、当時このエリアには競合がほとんどなかったんです。あと、カゴメなどの食品メーカーが多いことから、“健康でこの街を盛り上げよう”というムードが高まっていたのも大きいですね。

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ランナーと“サウナー”から注目を集める「ととけん」のこだわり

―そもそも、WEBや雑誌の制作が中心の「フイナム」がなぜ「ととけん」という“場所”を作ったのでしょうか?

山本:僕からすると、違うことをやっているつもりはないんです。編集する対象がメディアから物理的な“場所”へとひろがっただけなんです。

―編集者ならではのこだわりもあったかと思います。

山本:ランニングステーションというフォーマット自体は既存のものですが、サウナやイベントなどを掛け合わせることで新しい体験を生み出すことがこだわりですね。空間づくりでいうと、エントランスの装飾に使われているランニングシューズやスケボーデッキはほとんど僕の私物です。

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小田:サウナもオーバースペックなくらいリッチな仕様になっています。サウナーにお馴染みの「メトス」社のストーブを、他では考えられないほどコンパクトな空間に設置していて。サウナによく足を運んでいる方ほど、贅沢さを感じてもらえると思いますね。その分、日々の気候に合わせて同じ体感温度に設定するのには高い技術が求められます。

柴山:サウナ室の設計は骨が折れました。当然ですが、僕ら編集者は設計のノウハウはありませんから。コンサルタントの方や建設会社の方と何度もやりとりを重ねて、設計図は冗談抜きに20回は出し戻ししました(笑)。その分、コンパクトながらも無駄のない導線を作れたりと、達成感はひとしおでしたね。ユーザー目線でも満足度は高いと思っていて、完成時に関係者だけでサウナに入った時は「これは流行るぞ!」と顔を合わせました。

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小田:定期的に開催するイベントも特徴だと思います。アディダスが「ととけん」を1ヶ月ジャックして試し履きのシューズの貸し出しを無料で行うなど、他ではあまりできない催しを行っています。

山本:媒体の読者にとってはアイコニックな存在である、現代アーティストの加賀美健さんに装飾をお願いしたことも特徴の1つですね。エレベーターやロッカールームなどの至る所に手書きの文字が書いてもらいました。コンクリートを基調としたスタイリッシュな空間に適度なマイルドさをプラスできたと思います。

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『adidas SUPERNOVA ここちよ~いらんすて』の様子

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『adidas SUPERNOVA ここちよ~いらんすて』の様子

―エントランスにあるクラフトビールが並んだ冷蔵庫も目を引きます。

柴山:オープンしてから半年ほどは幡ヶ谷のクラフトビール・コーヒースタンドの『Laundry(ランドリー)』さんに監修してもらいました。今は奥多摩のブルワリー『Vertere(バテレ)』のものをはじめ、数種類を用意しています。

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走って、話して、ととのう、ここでしかできないコミュニケーション。

―「ととけん」という施設の魅力はどのような点にあると思いますか?

柴山:イベントを通して街の人と一緒に走って、その後にサウナに入って、最後にビールを飲むという一連の流れを提供している点ですね。だからこそ、コミュニケーションが生まれやすい。実際に「ととけん」で知り合った常連同士が高尾山で走るようになったり、トレイルランニングのレースに出場するようになったケースもあります。

小田:イベントに参加する方々から「楽しかった」と言っていただけます。僕は前職がアパレルの販売職だったのですが、その頃よりお客さまと深く関われるようになりました。接客をするだけでなく、一緒に走って、お風呂にも入るなんて経験、他ではなかなかできませんからね(笑)。

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取材当日には「浜町ランニング俱楽部」が実施。「ととけん」の常連さんから、浜町のランナーまで、様々な参加理由を持つ方が一同に。「ととけん」は集合からサウナまで、参加者をつなぐ架け橋となっていた。

山本:「フイナム ランニング クラブ♡」を立ち上げた時から感じていたことですが、ランニングを通じて色々な業界の人が交流できること、そのものが魅力です。

ランニングって学生時代のマラソン大会などの影響で、どうしても辛い印象がつきものですよね。でも、本来走るって楽しい行為だと思うんです。公園で苦しそうに走る子供を見たことないじゃないですか。「ととけん」は人間本来が持っている走ることの楽しさを思い出せるような場所でありたいなと思うんです。

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山本さんはランニング歴約10年。取材の前日も100キロメートルのトレイルランニングを完走していた。「フイナム ランニング クラブ♡」の副部長としてマラソン大会に出場するほか、不定期でグループランにも主催。同じく「フイナム ランニング クラブ♡」の部員である小田さんは1年ほど前から本格的にランニングをスタート。

―日本橋という街との交流はありますか?

小田:一例を挙げると、日本橋が主催するグループランに参加しています。商店街の方々と交流する中で「老舗の手拭い屋をやっている」といった他では聞けない話を教えてもらえるのが楽しいですね。最近ではお祭りに参加したり、町内会の会合にも出ていますよ。

山本:いわゆる“都市型”とは異なるローカルなコミュニケーションが、最近は逆に新鮮だと思いますね。

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―浜町のお店とはどのような繋がりがありますか?

柴山:まだ実現できていないのですが、「ととけん」の近隣の浜町3丁目エリアにはカルチャースポットがいくつかあるんです。例えば、「ニューバランス」のコンセプトストアや、『Single O(シングル オー)』というシドニー発のコーヒースタンドなどと交流していきたいですね。

―今後の展望を教えてください。

山本:たまたまビールを飲みにきた地元の方々が5キロから走り始めて、ハーフマラソンに出るようになるまでのめりこんだケースがあって。そういった形で、浜町の人がランニングを始めるきっかけづくりをしていきたいなと。「ととけん」は“入り口”でありたいなと思います。

小田:まだまだ隅田川は地元の人が走る場所という認識が強いので、より大きなコミュニティを作って、このエリアで走る楽しさを発信していきたいです。あとはオールナイトのパーティのようなイベントも開催したいですね。

柴山:隅田川のプチレースを開催してみたいですね。あとはオリジナルのクラフトビールをリリースしたいです。それとお祭りですね。下町ではハレの日に酒屋や銭湯が盛り上がるので、ととけんを起点にそう言った流れが作れたら嬉しいですね。

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取材・文:山梨幸輝 撮影:寺内暁

ギンビス

浜町には大きな会社の本社ビルが多いので、いつかはコラボレーションしたいなと。ギンビスさんと一緒に手がけたオリジナルパッケージのおつまみを提供できたら面白そうですよね。(山本)

清洲橋通りから見る隅田川

ランニングしている時に見えると癒されますし、休憩中にぼーっと行き交う船を眺めるのも落ち着きます。夜は川の向こうに高層ビル群が見えたり、ライトアップしたスカイツリーが望めたりと、一日中飽きが来ないスポットですね(柴山)。

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