Interview
2025.08.22

日本橋を楽しんでもらうために、ホテルの枠を超える。ご近所文化を紡ぐSOIL Nihonbashi Hotelの挑戦

日本橋を楽しんでもらうために、ホテルの枠を超える。ご近所文化を紡ぐSOIL Nihonbashi Hotelの挑戦

 

徒歩圏内の「ご近所」を舞台にした場づくりを行うStaple。日本橋・人形町で、2021年からコワーキングスペース「Soil work」やベーカリーカフェ「Parklet Bakery」、ワインショップ「timsum」等から構成される、分散型ローカル複合施設「SOIL Nihonbashi」の開発や運営を行っていますが、そこに9月から、より充実した滞在ができるよう、宿泊施設「SOIL Nihonbashi Hotel」が加わることになりました。今回は、このホテルのジェネラルマネージャーを務める永原大奨さんと、ホテル内のピッツェリアの開発を担当した沼田恵梨子さんに、ホテルの特徴や目指している役割について、お話を伺いました。

「SOIL」が目指す、地域との関わり方とは

ー2021年からSOIL Nihonbashiを構成する店舗を複数開業されてきましたが、日本橋エリアでのSOILについてまずはお聞かせいただけますか?

永原:「ローカルのルーツは土壌(SOIL)から見つかる」をコンセプトに展開する、分散型ローカル複合施設「SOIL」ですが、日本橋にはまずカフェベーカリー「Parklet Bakery」とコーポラティブオフィス「Soil work Nihonbashi 1st」で構成された施設をオープンしました。その後2023年11月に日本橋大伝馬町にワインと檸檬焼売のお店「timsum」と「Soil work Nihonbashi 2nd」を開業。そしてこの9月に「SOIL Nihonbashi Hotel」が加わり、日本橋において街を巡りながら楽しめる、「ご近所」づくりを進めています。ホテルの宿泊者が周辺店舗の優待を受けられるなど、相互サービスも充実させていく予定です。

(参考 https://www.bridgine.com/2024/04/10/soil_2/ )

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ホテルと周辺の「SOIL Nihonbashi」店舗マップ(画像提供:Staple)

―「ご近所」を舞台にした場づくりを進めるにあたり、近隣の方達とはどのようなコミュニケーションをとっているのでしょうか?

永原:SOILは日本橋以外にも、瀬戸田(広島県)や長門湯本(山口県)に拠点があるのですが、それぞれの場所にエリアマネージャーがおり、彼らが主体となって街のコミュニティに入り、その土地の人との関係性を築いています。まず地域のことをよく知る人たちから街のことを伺い、自分たちがどんなことに役立てるのか考えるきっかけにするためです。

―日本橋では具体的にどんなコミュニティに入っているのでしょう?

永原:日本橋では町会に参加し、街で困っていることや、やってみたいことなどを伺い、それに対して一緒に企画を考えることもしています。今年は堀留児童公園で開催しているマルシェイベントの事務局も担わせていただきました。日本橋の魅力でもある老舗と、僕らのような新しい事業者、そして住民が世代を超えて関わり合う機会を一緒に作れたのは良い経験で、学びも多かったです。この夏も、堀留児童公園で行われる盆踊り大会に携わっています。

―ご近所とすてきな関係性を築かれているのですね。

永原:「継続的にこの街に関わりたい」という意思を持っていますし、もっと街の人たちとの対話を増やしながら一緒にこの街の景色を作っていきたいと思っているので、9月に創業する「SOIL Nihonbashi Hotel」は、ご近所の方と積極的に交われる場所にしていけたらいいなと思っています。

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「SOIL Nihonbashi Hotel」のGMを務める永原さん。沖縄で長くホテルのサービススタッフを経験後、沖縄や東京でホテルの開業に携わり、「魅力ある街に、人が集まり心が動く場を作りたい」という思いでStapleに参画

旅行者と、地域住民や通勤者が交流できるピッツェリア「Pizza Tane」

―「SOIL Nihonbashi Hotel」にはそのための機能や工夫も多くありそうですね。

沼田:私がもともと働いていた、SOILがスタートした場所でもある広島・瀬戸田では、SOILをつくったことで、毎朝ご飯を食べに来てくれる近隣の方や、週に何度も利用してくれる常連さんがたくさんいて。「SOIL Setoda」を利用する旅行者が、地域の人たちと交わることで、その土地の魅力の虜になって何度も足を運んでくれたり、旅行で訪れてくれた人が移住してくるということもありました。

このように、旅行者と地元の人のゆるやかな交流がここ日本橋・人形町でも生まれ、街を好きになってくれるきっかけになったら、という思いから、ホテルの1Fに「Pizza Tane」というホテルダイニングが生まれました。道路に面し、どなたでもお店の雰囲気をのぞけるような開放的な作りになっているので、旅行者の食事場所としてはもちろん、近隣に住む方、働く方には朝ごはんやランチで通ってもらえたらうれしいですね。近隣のオフィスの方にはテイクアウトもおすすめです。

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フランスで料理人を務め、東京でのコーヒーショップ開業プロジェクトを経験後、旅先として訪れた広島県・生口島に魅せられて「Azumi Setoda」のサービススタッフに。現在は、Staple飲食部門マネージャーの沼田さん

―外から覗いてふらっと入れそうな雰囲気ですし、カウンターとカジュアルなテーブル席で構成されているのでお客さま同士やスタッフとの距離も近そうで良いですね。

沼田:カウンターキッチンにピザ窯があるので、ここを訪れるさまざまな方にスタッフとのカウンター越しの会話を楽しんでいただきたいですね!近所の人と旅行者が繋がる場所になれるよう、ホテルスタッフも媒介する役割ができたらいいなと思っています。

提供するピザには、すぐそばの「Parklet Bakery」で長年かけて大切に育てられてきた酵母(スターター)を種分けしてもらい、その“種”を育てて旨みがぎゅっと詰まったサワードウ(自然発酵の天然酵母)生地を使っているんです。いずれは近所の人や常連さんが持ってきた野菜などを具材にしたピザなどもその時々で作れたら面白いだろうな、と想像が膨らみます。その場にいる人みんなで食べて感想を言い合うなど、ピザがコミュニケーションの“タネ”になれたら素敵ですよね。

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写真提供:SOIL Nihonbashi Hotel(photo: Hayate Tanaka )

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ピザは近くの公園で違和感なく食べられるようなサイズにこだわり、テイクアウトにもぴったり(写真提供:SOIL Nihonbashi Hotel photo: Hayate Tanaka )

日本橋・人形町ならではのコミュニケーションの仕掛けがあるホテルデザイン

―永原さんはこのホテルの街との接点はどんなところにあると思いますか?

永原:実は建物そのものにも地域との交流を意識した部分があります。

一つは、このエリアに多い住宅や建築物の色味に合わせていること。昨今のホテルデザインはグレーなどのダークトーンも多い中、日本橋人形町の住宅で多く使われている色味に合わせて、レンガ色にしています。暖色であたたかさのある色の建物は、街の人の生活空間に私たちも馴染んでいきたいという思いも込められています。

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写真提供:SOIL Nihonbashi Hotel(photo: Kyouhei Yamamoto)

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二つ目は、建物の空間に“路地裏園芸”を取り入れていること。もともとは植栽にスタイリッシュな西洋植物を考えていたのですが、建物の色も街に馴染むようにしたことから、この近りで多く見る種類の植物を植栽にしようというアイデアが出ました。それを実現するために、実際に専門家と街を歩いてみると、都心なのでプランターでの栽培が多く、だからこそ株分けという作業を要し、その株分けをご近所で行うという独特のコミュニーションが存在していることがわかったんです。植物が媒介するご近所との交流に魅力を感じ、人形町エリアで育てられている約100種類の植物の中から植栽をデザインし、中には実際にご近所の方から株分けしてもらったものも取り入れています。

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取材当日もたくさんの路地裏園芸が運び込まれていた

サービスやデザインに、自分たちが経験してきた「旅人」目線を

―地域との結びつきや、旅行者が街に溶け込める要素が、ホテルに多く散りばめられているんですね。

沼田:私も永原も移住の経験がありますし、今回携わっているスタッフは旅が好きな人たちが集まっているんです。だから自分たちが経験してきた街に飛び込んでいく旅行者側の気持ちも、ホテルのサービスやデザインに活かしていきたくて。

例えば、自分たちが心地よかったホテルダイニングでのほどよい距離感のサービスや、街の人と自然に繋げてくれるような会話。あとは、部屋に入ったときのリラックスできる雰囲気も大事ですよね。先ほど永原がお話した路地裏園芸のグリーンもその一つですし、各部屋のアートはアンドレアス・サミュエルソンというスウェーデンのアーティストに、このホテルのコンセプトや目指す姿を理解してもらった上で、空間に馴染みつつも彼なりの遊び心を交えてオリジナルで描いてもらいました。ただかっこいいだけではなく、ホテルで滞在する人がしっくりくるようなものになっています。

SOILが日本橋・人形町の方たちにあたたかく迎えてもらえたように、この街のアットホームさやウェルカムな姿勢をホテル全体で体現していきたいですね。

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「建築を手がけた「武田清昭建築設計事務所」はホテル以外の建築を多く多く手掛けているからこそ、ホテルの枠にとらわれないユニークな建築デザインが新鮮でした」(永原さん)(写真提供:SOIL Nihonbashi Hotel(photo: Kyouhei Yamamoto))

日本橋を起点に、日本中の魅力ある街の発信を

―最後に「SOIL Nihonbashi Hotel」を今後どのように育てていきたいか、どんな存在にしていきたいか教えてください。

永原:旅行で訪れた土地を好きになり、何度も訪れたり、移住したり、その魅力を人に伝えてくれるなど、ゆるやかにその場所と繋がり続けてくれる人を私たちは「ニューローカル」と呼んでいますが、このホテルから多くのニューローカルが生まれたらいいなと思っています。「Tane」や「路地裏園芸」など、このホテルならではのコミュニケーションツールで、ニューローカルと地域の方々とのハブになる役割を担っていきたいですね。

沼田:日本橋という街は、かつて五街道の起点としての役割がありましたよね。「SOIL」では広島・瀬戸田や山口・長門湯本のほかに、今後、北海道・函館などにも展開していく予定なので、日本橋を起点に、それらの街に人を送り込める、ほかの街にも興味を持ってもらえるようなコミュニケーションがとれたら理想だなと思っています。日本橋を玄関口にして、ほかの「SOIL」のある街に足を伸ばし、またここに帰ってきて、その人が経験してきた旅の話を近所の方やほかの旅行者にシェアしてもらい、興味を持ってもらう。そうやってさまざまな街への関係人口を増やし続けていく役割が担えたらと考えています。

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日本橋には、老舗の事業者や飲食店が多く存在しているので、そこで働く先輩方を招き「Pizza Tane」でトークショーをしてみたいですね!
旅行者にこの街の魅力を知ってもらうきっかけの一つにもなりそうです。(沼田さん)

取材・文: 古田啓 撮影: 岡村大輔

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