Interview
2025.01.31

世界と地域をつなぐハブに。人と人をつなげるコミュニティデザイン、LINNAS Design手がける「S-TOKYO」

世界と地域をつなぐハブに。人と人をつなげるコミュニティデザイン、LINNAS Design手がける「S-TOKYO」

北陸・金沢を拠点に、ホテルやまちづくりを通じて「場」をデザインする株式会社 LINNAS Design。2023年11月には、東京・日本橋に新たな拠点「S-TOKYO」の運営を開始しました。「越境と共創」を掲げ、デジタルノマドや地域のプレーヤーが行き交うこの場は、どのように生まれ、何を目指しているのでしょうか。LINNAS Designのマネージャーであり、ホテル専門の共創採用をテーマにしたウェブメディア「STUDIO STAY」編集長・伊藤千夏さんにお話を伺いました。

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人と人をつなげる、金沢発のライフスタイルホテル「LINNAS Kanazawa」

ーLINNAS Design は、北陸・金沢発の“ホスピタリティカンパニー”として、コロナ禍に設立されたそうですね。社会情勢の面ではビハインドなスタートだったと思うのですが、設立の経緯を教えていただけますか?

LINNAS Design代表の松下秋裕は、学生時代に世界を旅した経験から、ホテル運営や不動産開発に興味を持ち、ホテルベンチャーでマネージャーを務めてきた人です。そんな松下が2020年、金沢のホテルを引き継ぐお話をいただきました。ホテル運営と観光業を軸に、地域内外の人がフラットにつながる、居心地の良い場を作るためにLINNAS Designを立ち上げたのがはじまりです。

現在私たちは、金沢でコミュニティ型ホテル「LINNAS Kanazawa」、アパートメントホテル「INOVA Kanazawa」、日本橋小伝馬町にコワーキングスペースを携えた文化複合施設 「S-TOKYO」、​その1階に併設するカフェ「Pertica Coffee」など“場”のプロデュースを行うほか、ホテル専門の共創採用webメディア「Studio STAY」や、イベント開催などを通じて街づくりを行っています。

ーアウトプットの豊富さが特徴的と感じるのですが、メンバーはどのような方が在籍されているのでしょうか?

私と代表はホテル業界出身ですが、その他のメンバーはアミューズメントパークやアパレルなど、バックグラウンドはさまざまです。代表を含め社員全体で5名という少数精鋭のメンバー構成もあって、「ふつう、ホテルってこうだよね」という固定観念にとらわれず、幅広く展開できているかもしれません。ただ、「人と人をつなげるコミュニティデザイン」に関心があるところは、みんな共通していると思います。

私は前職で大手リゾート企業に勤務していて、そこから金沢でLINNAS Kanazawaの開業準備に携わり、マネージャーとして3年間を過ごしました。多彩なホテルを取材してきた私からみてもLINNAS Kanazawaは、ただ泊まる場所を提供するだけのところとは全く違って、ゲストとの距離の近さが魅力だと思います。

ーコンセプトとして、北欧文化の“ヒュッゲ”を謳っていますよね

冬が寒くて日照時間が短いからこそ、さまざまな文化や工芸が発達した北欧と金沢を重ね合わせたことから、このホテルのコンセプトはデンマーク語で「満ち足りた」や「居心地のよい」を意味する“ヒュッゲ”になっています。

それもあって、走りながらゴミ拾いをする北欧発祥の新感覚スポーツ「Plogging (プロギング)」や、デンマークの“色んな仲間と共に食事をする文化”に触発された「fællesspisning(フェッレスピースニン)」といったイベントも定期開催しています。特に後者は、私たちホテルスタッフも含めて観光ゲストや地域の人が混ぜこぜになりながら、一緒に食事の準備をして、食卓を囲むスタイルが、LINNASらしい取り組みと好評ですね。

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LINNAS Kanazawa

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S-TOKYO

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Pertica Coffee

S-TOKYOが生み出す「世界と地域のつながり」とは?

ーそんな北陸・金沢発のLINNAS Designが、​​東京日本橋・小伝馬町で、コワーキング、ギャラリー、カフェが併設する文化複合施設「S-TOKYO」の運営を始めたのはなぜなのでしょうか?

代表の松下が日本橋近くの出身で、実は学生時代もこのエリアで過ごしていました。日本橋には強い思い入れがある中、2023年にご縁あって「S-TOKYO」の運営がスタートしています。もともとここは、北九州でバルブ製造を手がける岡野バルブ製造株式会社の東京営業所が運営されていたインキュベーション施設で、「越境と共創」というコンセプトを掲げていたんです。この理念に共感したLINNAS Designが2023年11月、運営を引き継ぐと同時に、新たにリブランディングを行いました。

私たちは「越境と共創」というコンセプトに、最も合致するのが、世界中を旅しながら、デジタルデバイスひとつで働く“デジタルノマド”の人たちだと考えました。彼らはオープンマインドでボーダーを超え、旅をしながら居合わせた方たちと、クリエイティブで楽しい交流を生み出す力を持っていると。ですから、S-TOKYOは、そうした方たちが心地よく過ごせる「場」になるよう、24時間利用可能なデジタルノマドフレンドリーなコワーキングスペースを擁した複合文化施設として運営しています。

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ー日本橋という立地で施設運営を始められて、どのような感触をもたれていますか?

日本橋は“日本の玄関口”だと思います。成田空港や羽田空港、東京駅にも近く、海外から来たデジタルノマドにとってアクセス抜群です。さらに東京・日本橋を起点にすることで、デジタルノマドが次に地域の魅力的なエリアへと旅立つこともできます。LINNAS Designの理念でもある「ハブ」の役割を果たせる場所として、日本橋というロケーションは完璧だと感じましたね。

S-TOKYOの1階併設の「Pertica Coffee」というカフェには、日本橋の方々もふらっと訪れ、デジタルノマドたちとの交流が自然に生まれています。海外のノマドはよく、都心部の喧騒とは違って「日本橋は落ち着いていて居心地が良いね」と言ってくれますね。

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ー実際にS-TOKYOでは、どのような方が利用されているのでしょうか?

利用者の9割は、エンジニアやプログラマー、デジタルマーケターといったデジタルノマドで、特にヨーロッパやアメリカからの方が多いですね。ドロップイン利用が主体ですが、1週間や1ヶ月単位で利用される方もいて、リピーターの方も増えてきました。例えば「1ヶ月ここに滞在して、本国の時間で仕事をして、次は別の国へ」という働き方をしている方が、また日本に来るときにS-TOKYOに帰ってくるーー。1年運営をしてみて、徐々にそんな存在になってきたと思います。

また、コミュニティオフィスの入居者としては、日本の地域を拠点にするプレーヤーが多いです。例えば、京都にも拠点を持つ「まいまい東京」さんは、各地でマニアックなツアーをプロデュースする企業ですが、東京での活動拠点としてS-TOKYOを活用されています。日本橋をいわば“出島”のように捉え、ここから地域の魅力を発信していく取り組みが広がっています。

今の時代、二拠点や多拠点生活が一般的になりつつありますが、やはり日本では東京に色んなものが集まりますし、用事があることも多いですよね。S-TOKYOは、そうした地域のプレイヤーにとって東京の活動拠点であり、デジタルノマドにとっては、世界と地域をつなぐハブのような役割を担っていきたいと考えています。

“風の人”と“土の人”がつくる、「越境と共創」の場づくり

ーS-TOKYOでは、利用者同士が自然とつながる工夫がされていると伺いました。どのようなプランニングで場づくりをされているのでしょうか?

私たちは、自分たちを「ホスピタリティ・カンパニー」と定義しています。宿泊施設やコミュニティ企画の運営を通じて、人と人との息づいた交流を育むことを重視しているんです。S-TOKYOもビジネスマッチングのための場というより、ゲストの方を“お客様”としてではなく“ひとりの人”として迎え入れることを意識しています。ですから、場づくりというより、気の合う人々が自然と集まることを目指しているという方が近いかもしれません。

ー“気の合う人”とは、どういった方々でしょうか?

年齢、職業、国籍に関係なく、志の高さや価値観を共有できる方たちです。たとえば、金沢のLINNAS Kanazawaでは「暮らすように滞在する」というコンセプトのもと、長期滞在に適した施設を整えています。S-TOKYOも同じで、「越境と共創」の理念に共感してくれる方々を意識しながら場づくりをしています。

さらに、私たちは地域とのつながりを感じられるイベントも大切にしています。その一例が「スナックグローカル(グローバルとローカルをかけ合わせた造語)」です。このイベントでは、地域の魅力的なプレーヤーをお招きし、その街やその方のストーリーを語っていただくほか、1階のカフェが“スナック”に様変わり、ゲストが1日店長として料理やドリンクを提供する交流会を行っています。

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グローカルスナックの様子

ーそうした運営の考え方において、代表の松下さんや伊藤さんご自身の経験も影響しているのでしょうか?

そうですね。社内でもよく話すのですが、代表は“風の人”といえる存在です。エストニアに住んだり、さまざまな国を旅したりしながら、自分の居場所や心地よい空間について深く考えてきた経験を持っています。一方で、私は“土の人”なんです。旅も好きなんですが、その地域のローカルとして、土を耕すように空間のムードをつくったり、人を迎え入れたりするのが得意ですね。この”風の人”と”土の人”が組み合わさったり、社内の”土の人”が”風の人”になれる機会もあることが、LINNAS Designらしい場づくりの鍵だと思っています。

私のように拠点に根を張るメンバーや地域の方が場所を整えつつ、そこにホテルのゲストやデジタルノマドが入り混じることで、他にない磁場を作っていくと思います。

ーそうした考え方を体現した、具体的な事例はありますか?

たとえば、金沢で最近開催した「Coliving Program in Kanazawa」は、私たちにとって理想的な取り組みのひとつでした。S-TOKYOのコワーキング利用者の方々を金沢にお連れして、2週間の滞在を通じて地域の魅力を体験していただくプログラムです。多くの方が金沢について詳しく知らなかったのですが、現地での体験を通じて、食文化や工芸の素晴らしさに触れ、「また来たい」と言ってくださる方が増えました。このように、地域と世界をつなぐ活動がLINNAS Designの理念を体現していると思います。

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“世界と地域の玄関口”を目指して

ー伊藤さんが編集長を務めるホテル専門 共創採用メディアウェブメディア「Studio STAY」はどのような思いで展開されているのでしょうか? 

ホテル業界では、人材不足が今後さらに深刻化すると予測されている中、課題解決型の事業だと感じます。

「Studio STAY」は、LINNAS Designが目指す“面”としてのホスピタリティの一環です。ホテルやカフェ、クリエイティブな企画など、それぞれの“点”をつないで“面”として輝かせることを目標としています。このメディア運営を通じても、ホテル・ホスピタリティ業界の魅力を広く伝え、働きたい人や利用したい人が集まるきっかけを作りたいと考えています。

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LINNAS Designが目指す“面”としてのホスピタリティ

私は前職の頃から、ホテルマン目線で宿泊したホテルを、独断と偏見でポジティブに紹介する『ホテルみるぞー』というSNSアカウントを運営してきました。その経験がStudio STAYの立ち上げにも生かされていて、ホテルは宿泊するのも楽しいけれど、働くことも楽しいと言うことを、多くの人に伝えたいという思いがあります。課題解決型であるとともに、まさにLINNAS Designと私の“気が合って”挑戦させてもらっているプロジェクトです。

ー最後に、これから日本橋で挑戦したいことを教えてください。

S-TOKYOを、日本全国の地域と東京をつなぐ“玄関口”にしたいという思いがあります。東京以外の地域に拠点を持つ方々と出会い、共創を通じて新しい価値を生み出していきたいですね。また、金沢ではアートや工芸などクリエイティブな活動に触れる機会が多かったため、その経験を生かして、日本橋でも職人さんやアーティストとの取り組みをもっと増やしていきたいと思っています。

具体的には、S-TOKYOの2階ギャラリーでの展示でコラボレーションしたいです。最近では、福井や大阪などの地域に拠点を持つ方々が、それぞれギャラリースペースにアート作品を持ち寄り、その作品を通じて地域に思いを馳せるイベントを開催しました。

私は東京出身ですが、特にS-TOKYOがある小伝馬町には昔ながらの小さな商いが息づいていて、町内会の餅つきなど地域に根付いた固有の文化があると感じています。一方で、日本橋全体は広いエリアなので、場所ごとに違ったカラーもある。そうした多様性がこの街の大きな魅力です。そんな日本橋を舞台に気の合う人たちを自然と集めながら、これからも多様な価値を生み出し続けていきたいですね。

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取材・文:皆本類  撮影:岡村大輔

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