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2019.02.08

“未来ののれん”制作に向けて知恵を絞る!「nihonbashi β」アイデアワークショップレポート

“未来ののれん”制作に向けて知恵を絞る!「nihonbashi β」アイデアワークショップレポート

若手クリエイターと日本橋をつなぐ共創プロジェクト「nihonbashi β」が始動した。そのプロジェクトの第一弾として、「未来ののれん」というテーマのもと、日本橋の店舗に飾るのれんを若手クリエイターたちが約3か月にわたって制作していく。まずは、各業界でチャレンジを続けるクリエイターを講師に迎え、日本橋を代表する有名店とともに、新しい日本橋体験をつくるワークショッププログラムが3回にわたって開催された。前回紹介した、ローンチイベントに引き続き、今回はワークショップの過程を詳しくお伝えする。

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街の未来への標榜となる新しいのれん

今回の取り組みは、日本橋の街のイメージとして定着している“伝統”や“歴史性”に、“先進性”を加え、新たな地域発信を目指す試みでもある。今回制作した未来ののれんは、『未来ののれん展』と題して、コレド室町、にんべん日本橋本店、マンダリン オリエンタル 東京、三井ガーデンホテル日本橋プレミアの各店舗で、2018年11月1日から11月11日まで実際に飾られる。若手クリエイターとエリアの代表店舗・施設の協創によって、日本橋の街に新たな息吹を吹き込むことになる。

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11月1日から11月11日(1並び!)まで開催される『未来ののれん展』

ワークショップは、講師となる各クリエイターによる「ファッション×イノベーション」「インターフェースデザイン」といったテーマの講義からのインプット、そして若手クリエイターと各店舗の代表者で構成されたチームでの、アイデアのぶつけ合いによるグループワークで構成される。毎回、ワークショップの最後にはメンバー同士でアイデアをまとめた成果をプレゼンテーションする。一連のワークショップを通して制作されたのれんは、参加店舗・施設に実際に飾られる。店舗のブランド力を高める制作物が求められるので、ワークショップでアイデアのクオリティを高めていくという流れだ。

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第一回:日本橋をクリエイティブな街に

2018年8月4日 @Clipニホンバシ

のれんを街と店舗のインターフェースととらえ、まずは日本橋という街、そして都市とクリエティブの関係について知らなければならない。初日の講義は、世界のイノベーションをテーマに、HEART CATCH代表の西村真里子さん、株式会社JDN取締役の山崎泰が登壇した。

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西村真里子さん(HEART CATCH)

テクノロジーを用いたクリエイティブ作品に精通している西村さんは、若手クリエイターに向けて世界各国の数多くの事例を紹介。また、のれんが路面に展示されることと絡めて、最近関心を持っているストリートアートについても語った。JDNの山崎からは、イタリア・ミラノで開催される世界最大規模のデザインの祭典、「ミラノデザインウィーク」についてレクチャー。ミラノと東京の地図を重ねて比較し、都市にクリエイティブを実装した際の規模感を若手クリエイターに具体的に伝えた。

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山崎泰(JDN)

アイデアを重ね合わせてプレゼンテーションを

それぞれのアイデアを出し合うワークショップは、前述のコレド室町、にんべん日本橋本店、マンダリン オリエンタル 東京、三井ガーデンホテル日本橋プレミアの4チームに分けて進行する。公募から厳選された16名の参加者は、それぞれの分野でのこれからの活躍が期待される若手クリエイター。自分のアイデアをアウトプットするためのここぞというチャンスとなる。

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「クリエイティブな街」というテーマに、日本橋をブランディングするアイデアを出しあうワークショップが行われた。まだ初回ということもあって、コミュニケーションに少々の遠慮やたどたどしさもあるが、自分の意見を出せる場面では興味深い発想が数多く飛び出した。今回は、日本橋の街に江戸時代の参勤交代を現代に適応させたアイデアが優勝。どれも豊かな発想で講師陣を楽しませていた。

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nihonbashi β projectの代表の朴正義さん(バスキュール)


第二回:ブランド×イノベーション

2018年8月25日 @31 Builedge YAESU

2日目の講義の登壇者は、グラミー賞を受賞したヒップホップユニット、ブラック・アイド・ピーズの舞台衣装なども手がけたファッションデザイナーの中里唯馬さん。のれんという布を扱ったプロダクトという共通項もあり、素材への向き合い方への知見が披露され、ところどころ挟まれる中里さんの個人史が参加者を勇気づけた。

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中里唯馬さん(YUIMA NAKAZATO)

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今回の大きなテーマである、未来ののれんの”未来”の捉え方については以下のように語った。

「服をつくる経験から学んだことですが、これまで不可能だったことができるようになるのが、ある意味未来だと思っています。ただ、制作をする面で発生する問題のひとつが、コストです。例えば、衣服のマスカスタマイズは、コストが大きな問題となり、これまで実現が成されなかったと思います。針と糸を使った従来の製作プロセスを見直し、コストの概念を変える事が必要だという結論にたどり着きました。自分はプロダクションシステムそのものを開発することで、マスカスタマイゼーションの未来に挑戦しています」

エンターテイメントの世界でも活躍する中里さんに、「nihonbashi β」のように多様なバックグランドを持つクリエイターが集まることに価値についてコメントをいただいた。

「参加されている若手の方々は、いろいろなバックグランドを持っている。ディスカッションするだけではなく、即興のチームを組んで共通のワークショップをしていくのは、なかなか大人になってからはできない経験。日本橋は、その歴史や格式による敷居の高さから、これまで若いクリエーターには“触れにくさ”があったのではないでしょうか。だからこそ、守られて来たものがあるのかもしれませんが、これから先、よりオープンになっていくことで、歴史と新しいカルチャーが融合し、化学反応が起きるのではないでしょうか」

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視点を変えることでブランディングのヒントに

今回のワーククショップでは、日本橋の既存の老舗店を題材としてブランディングとイノベーションについて考えていく。本プロジェクトを企画するバスキュールによって、ワークショップ自体がしっかりとデザインされており、参加者の発想を補助するアイテムも登場した。アイデアとなる要素を書き加えたトランプのようなカードを、ランダムにピックアップして、わかりやすく無作為にアイデアを想像させる仕組みをつくっている。

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そして、プレゼンテーションの前に、アイコニックな仮面を使った講評が行われた。普段の自分と違ったペルソナになりきることで言いにくいことも言いやすくなり、気兼ねなく批評し合うことで作品の質も上がっていく。

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ワークショップの最後に各チームから、想像力を飛躍させた老舗の店舗を活気づけるアイデアのプレゼンテーションが行われた。この段階では実際に制作しないので、実現化に向けた制約をいったん取っぱらった予想もしないようなアイデアが数多く飛び出した。

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第三回:のれんのコンセプト設定

2018年9月8日 @Clipニホンバシ

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ワークショップ3日目は、最後に制作するのれんの大枠となるアイデアを発表する。まずは、ウェブデザイナー/インターフェースデザイナー/映像ディレクターの中村勇吾さんの講義から。のれんをつくるにあたって、視覚表現に見識のある中村さんならではの質感についての知識が共有された。

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中村勇吾さん(tha ltd.)

「直接目に見えない対象に内在している質を、目に見える現象を通じて察知している。アニメーションを含めた動画作品では動きを通じてそこに魂があることを察知する。具象的な手がかりがなくても、動きだけで『そこに霊(アニマ)が宿る』ことを察知できる。魂の質感を観ることによって、観るものとの距離感が少し縮まると思う」と語る、中村さんの講義は参加者にとって大いに刺激となり、のれんの質感をどう扱うかという思考を拡張させる内容となった。

地域とクリエイターが一緒にものづくりをしていく時に大切にすべきことはなにか?中村さんにコメントをいただいた。

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「自分だったら、まず頭を切り替える。自分がつくるというより、地域の人たちとつくったようにすることかなと。あと、生活の中でずっと目に触れるものは、すごくユニークだったりする必要はないと思います。“嫌じゃない”ということが重要で、足し算するよりは嫌なことを消していく。例えば、インタラクティブな作品でも電源やコードが見えていると嫌じゃないですか(笑)。そういう要素を消して、おさまりをきちんとしていくんです」

内と外を抱擁する柔らかさ

続いて、のれんの企画・デザイン・制作に携わる、有限会社中むらの中村新さんが登壇。のれんを専門にデザインするデザイナーは国内で中むらだけ。過去に手がけたプロジェクトでは、「コレド室町」をはじめ、「アクアイグニス 片岡温泉」「鬼怒川温泉駅のリニューアル」「日本橋大暖簾プロジェクト」など、現代の建築物にマッチさせた、日本の伝統的なデザインセンスを含んだのれんを数多く手がけている。のれんの歴史的な背景や文化的な背景に対して、プロならではの意見がうかがえた。

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中村新さん(中むら)

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「のれんはそもそも庶民の生活の中で自然に発生してきた文化。茶道などのようにしきたりがない、とても緩い存在です。のれんの定義はふたつあって、“店名の乗った屋外広告物”として。もうひとつは透けることで人の気配がわかったり、そこにあることで“壁ではない内と外を分けるもの”。この“内と外”というのは重要なキーワードで、双対性と呼ばれます。要素をミックスさせつつ独自文化を生んできました。例えば、中国で生まれた漢字と日本で生まれた平仮名が共存していく。そういった日本ならではの文化がのれん的なのです。また、のれんは海外の方からは、のれんの名前はわからなくても日本独自の文化として認識されています」

そして、中村さんにはのれんの制作についてもコメントをいただいた。

「現在ののれんの制作のプロセスの多くは、オンラインのプリントサービスで発注することがほとんどのようです。ただ、そういった制作でのコミュニケーションで改善する点はまだまだあるので、私たちは実際にお会いした上で提案したいと思っています。それもあって、生地の素材は極力、生で見てもらうようにしています。制作期間は、ケースバイケースですが、一枚のものではサンプルを含めて3週間〜1か月半くらいです。ただ、刺繍を入れたり海外展示会向けの特殊なものになると、オリエンから2〜3か月ですね。なので、今回の未来ののれんの制作期間は短いので冷や汗モノですね(笑)」

今後、中村新さんは東京を代表するブランドとしてその価値と魅力を発信するための「江戸東京きらりプロジェクト」に参加し、2020年に向けてのれんの普及に一層力を入れていくという。

日本橋らしい未来ののれんに向けて

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ワークショップ最終日となるこの日のプレゼンは、今後制作していく未来ののれんの原案を発表する。3回にわたって得られた知識と形成されたチームワークが発揮される瞬間だ。各チームが担当する店舗の資料を読み込み、まずは紐付く単語をポストイットへと大量に書き出していった。そこから「千羽鶴の日本橋もみじ」「自然・歴史の変化と一体となれるのれん」などが提案された。

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中村勇吾さん、中村新さん、朴正義さんによって講評が行われ、若手クリエイターたちの試案は、前回までのような発想の飛躍だけでなく、いかに現実に落とし込むか、アイデアの肝はなにか、のれんとしてのデザイン性はどこにあるのか、などのポイントに的確な指摘がされた。アイデアの枠を抜けきらない部分が露見され、また現実での運用という意味では困難な案が多く、アイデアの検討が必要な状況となった。

次回からはのれん制作チェックが3回にわたって行われる。プレゼンテーションしたのれんを展示できるようにブラッシュアップしていく。若手クリエイターの豊かな発想がどこまで現実に寄り添っていくのか、今後の展開が気になるところである。

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取材・文:高岡謙太郎 撮影:川谷光平(第一回・第三回)細倉真弓(第二回)
初出:JDN

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