Interview
2021.03.23

老舗と新店を繋いだ、日本橋の“本気”を詰めた宴弁当。店主たちが紡ぐ思いとは?
―日本橋宴づつみ 店主対談

老舗と新店を繋いだ、日本橋の“本気”を詰めた宴弁当。店主たちが紡ぐ思いとは?
―日本橋宴づつみ 店主対談

日本橋の名店の味と体験を、三段のお重に詰めて自宅で楽しめる「日本橋宴づつみ」。2020年末に初開催され大好評を博し、今回規模を拡大しパワーアップして戻ってきました。今回の注目ポイントは“春・お花見の宴”をイメージした季節限定のお品書きと、和洋中さまざまなジャンルのラインナップ。そして当企画の背景には、飲食店が苦戦を強いられた2020年を、人の繋がりと工夫で乗り切ってきた日本橋の店主の方たちの熱い思いがありました。Bridgineでは、今回中心となった日本橋料理飲食業組合青年部・三四四会(みよしかい)会長であり「うなぎ割烹 大江戸」店主の湧井さん、明治22年創業の鮨店「蛇の市」店主の寳井さん、そして新店のイタリアン「Da GOTO」店主の後藤さんの対談を実施。これまでの活動の振り返りと日本橋の街への思い、「日本橋宴づつみ」の楽しみ方を聞きました。知られざる裏話も飛び出した、賑やかな対談をどうぞ。

【ご取材先】
湧井浩之さん:三四四会会長・うなぎ割烹大江戸店主
寳井英晴さん:蛇の市店主
後藤大輔さん:Da GOTO店主

仲間とともに皆で歩んできた、日本橋の飲食店

―「日本橋宴づつみ」は“三段重のお弁当で日本橋の宴席を再現する”というコロナ渦で新たに生まれたコンテンツですが、本題に入る前に少し昨年(2020年)を振り返りたいと思います。皆さんにとって、昨年はどんな年でしたか?

湧井浩之さん(以下、湧井):コロナに翻弄された一年でしたね。想像もしていなかったことがいろいろ起こって・・・正直最初は落ち込み悩んだ時期もありました。でも飲食店の仲間と色々と意見交換をする中で、このままじゃいけないと思って、気持ちを切り替えたんです。お客さんに真摯に向き合って美味しいものを届け、未来のことを考えていこうと。日本橋は戦争も震災も乗り越えてきたんです。コロナなんてきっと大したことなくて、前を向くのみ。仲間やお客さんにそういう気持ちにさせてもらった、感謝感謝の一年ですね。

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「大江戸」の湧井浩之さん(右)

寳井英晴さん(以下、寶井):「蛇の市」はお店を移転した節目の年でした。そこにコロナが重なり、移転オープン(2020年3月)の直後に緊急事態宣言が発令されるという状況で。やれることを必死にやる中で一番感じたのは、人の繋がりの大切さです。もともと交流のあった三四四会のメンバーとの繋がりはもちろん、昨年は特に新しい人たちとの繋がりが増えた1年でした。蛇の市はこれまで周辺のビジネス関連のお客さんが多い店だったのですが、テイクアウトなど初めての試みをする中で周辺住人の方々との接点が生まれ、「お店の周りにこんなに多くのお客さんがいたんだ」と改めて知ったんです。僕は日本橋の一部の人としか繋がっていない“井の中の蛙”だったんだなと。この気づきはすごく大きなことでしたね。

―人の繋がりを実感されたとのことですが、日本橋のお店同士の横の繋がりがあったことで心強かった場面はありましたか?

湧井:何でも言い合える相手がいるのはそれだけでありがたいですよね。近所の飲食店舗って、本来ならライバルなんだろうけど、それよりも日本橋では同士・仲間という感じが強くて。このあたりの飲食店店主たちは、親の代からの付き合いもあって幼馴染のようなものですしね。営業が終わった後などに仲間の店に集まって、お店の様子等の情報交換をしているとすぐ時間が経ってしまうんですよ。

寶井:僕も、仲間がいたおかげで背中を押されたことは多かったですね。先ほど言った周辺住民の方々と繋がりもきっと一人だったら築けなかったと思っていて、テイクアウト企画に対してのアドバイスをもらったり、口コミで宣伝してもらったり。三四四会の先輩たちや仲間のバックアップのおかげで、新たなお客さんとの繋がりを築くことができました。

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「蛇の市」の寳井英晴さん(右)

手巻き画像(再)

昨年蛇の市でテイクアウトとして販売され好評を博した「江戸前手巻き鮨」(画像提供:蛇の市)

日本橋はまるでイタリア?新店舗からみた日本橋

―老舗のお二方に対し、「Da GOTO」はオープンから約4か月の新しいお店です。こうした状況でのオープンは大変だったのではないでしょうか…オープンまでの経緯を教えていただけますか?

後藤:僕は中学・高校と寶井の同級生で、夜な夜な遊び歩いていた仲です(笑)。昔から料理が好きで大学卒業後からずっと飲食店に勤めてきて、2年間イタリアに修行にも行きました。その後2011年〜2016年に自分のお店をやっていた頃に蛇の市が移転するという話は聞いていて、寶井から「蛇の市のビルでお店をやらないか」と誘いも受けていたんです。それから数年経ち、昨年3月に勤めていた店が閉店したことを寶井に伝えたら、その翌日に電話がかかってきて「お店出す件、どう?」と。

何度も誘ってもらって嬉しかったし、お世話になってきた寶井のオファーに応えようと思って、2020年11月に蛇の市の2階にお店をオープンしました。今までやってきたことの最終形がこのお店だと思っていて、それで「Da GOTO」という自分の名前を冠した店名にしました。

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「Da GOTO」の後藤大輔さん

―日本橋や街にはどのようなイメージを持ちましたか?

後藤:古き良き街並みと新しい施設が同居しているのが魅力的ですよね。それと、街の人たちの横の繋がりがとても強い。僕は日本橋の街にはもともと縁はないのですが、それにも関わらず街のコミュニティに招き入れてもらいました。寶井はオープン前から「2階にイタリアンができるよ!」とすごく宣伝してくれていたのでちょっとプレッシャーもあったんですが・・・(笑)。コロナ渦でのオープンではありましたが、街の人たちの口コミのおかげもあって、コンスタントにお客さんがいらしてくれるのは助かっています。このご時世なので混雑するほどではないのですが、そのぶん一組一組丁寧に対応できるので逆に良かったくらいです。

―寶井さんはじめ三四四会の人たちもたくさんいらしたと聞きました。

後藤:そうなんです。もうね、この人たちはなんて仲が良いんだろう!って思うほど(笑)、誘い合って顔を出してくれて。自分は東京生まれ東京育ちでドライなご近所付き合いが当たり前でしたが、ここはそんな東京のイメージとは全然違う、むしろイタリアの街みたいなんです。イタリアではすれ違う人にチャオ!と挨拶するような豊かなコミュニケーションがありますが、日本橋は通りを歩くだけで「お疲れ〜!」と声がかかる。そんなところに似た雰囲気を感じています。

―なんと、日本橋=イタリア説が出ました(笑)。寶井さん、「Da GOTO」がオープンしていかがですか?

寶井:後藤は料理の腕も間違いないのでずっと誘致を狙ってましたからね、オープンはとても嬉しいです。彼を街の皆と引き合わせたいと思ったのは、今の日本橋の雰囲気ならきっと後藤も馴染めるし、Da GOTOの未来のためにプラスになると思ったから。これまでのイベントや三四四会の活動を通して、この街は繋がりが一層強くなり活気も増していて、これなら自信をもって友人を迎えられると。僕が湧井さんや三四四会の人たちに居場所を作ってもらったように、新しく誰かが入ってきた時には僕がその役割を果たしたかったんですよね。

老舗と新店が競演する「日本橋宴づつみ」

―「日本橋宴づつみ」は2014年から毎年春に開催されてきた「SAKUARA FES NIHONBASHI」のメインコンテンツである「桜屋台」に代わるイベントでもあります(桜屋台は2020年・2021年は新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け未実施)。この桜屋台は三四四会や日本橋の街にとってどのような存在だったのでしょうか? 

湧井:当時は地元で屋台のようなイベントやること自体が初めてでしたから、試行錯誤しながらいろいろな形式でやってきましたよね。回を重ねるごとに街にもイベントにも集客が増えて、あっという間に完売したりして。屋台だとお客さんと直接コミュニケーションが取れるから、純粋に僕たち自身が楽しめるイベントだったんです。準備も運営も大変だけど、それを上回る楽しさがある。思えば桜屋台以前は三四四会の会合などで集まることはあっても、皆で一緒に何かを作り上げるという経験はあまりなかったんです。でもイベントの成功という共通の目標があるとそれを皆で乗り越えるから、今まで以上に一体感も生まれた。この企画で得たものは多いですよ。

桜屋台(再)

2019年のSAKUARA FES NIHONBASHI の様子。桜屋台は毎年多くの人が訪れる人気コンテンツ(画像提供:SAKUARA FES NIHONBASHI)

寶井:僕の場合は三四四会での活動を始めたきっかけが桜屋台。“大人の文化祭”みたいな雰囲気で、その輪に入れてもらってから日本橋に自分の居場所ができたんです。そして次第にその居場所をもっと心地よく、より良いものにしたいと思うようになって、積極的に三四四会や街に関わるようになった。桜屋台があったからこそ今に繋がっているので、思い入れは深いです。

湧井:ひで(寶井さん)のところ、20年くらい三四四会の幽霊部員だったもんね(笑)。「桜屋台」をやるからと当時の会長から声かけてもらって、それが今では中心メンバーだけど。

寶井:幽霊部員とか言わないでくださいよ(笑)。でも本当に感謝してるんです。コロナ渦に立ち向かえたのも三四四会のおかげ。だから三四四会や街のためになる活動にはこれからも全力で取り組むことに決めました。

―さて今回の「日本橋宴づつみ」は、昨年末に初めて実施した同企画の第二弾です。湧井さん寶井さんは二度目の参加ですが、初回はどうでしたか?

湧井:どこまで売れるのかなと、正直はじめは不安でしたが、年末からグッと伸びて結果的に大好評。お客様の満足度も高い企画になりました。全種類制覇したという方も数名いらしたそうですね。日本橋の名店の美味しい料理をこの値段で楽しめるのはお得ですし、このお弁当をきっかけにお店を知ってもらえるのはすごく意味があると思っています。だから単発で終わらせてしまうのではなく、文化のように根付いていったら良いなと思いますね。

寶井:最初は期間中に30個販売だと勘違いしていたんですが(笑)、実際は1日30個作ることになって、生産ラインが混乱するほど大変でした。でも工夫を凝らして考えたメニューだし、作っていて楽しかったです。

湧井:それはわかる。料理人としてもイマジネーションがわいてきて楽しいんだよね。他のお店が出してくるメニューも多彩で勉強になるし。

―今回、春の「日本橋宴づつみ」は参加店舗が一気に増え、24の新旧さまざまなお店のお弁当が揃いました。この中で気になるお弁当はありますか?

寶井:「伊勢定」さん、すごいよね。三の重のお鮨なんて作るのがすごく大変なはず。凝ってるなぁ。

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「伊勢定」の“鰻の名店の手仕事が光るお花見弁当宴”

湧井:「舟寿し」さんも相当なものだよ。細かい仕事が必要な品目が多い。それに君のところもかなり無茶してるじゃない。前回大変だったから今回はオペレーションを意識した内容になると思いきや、さらに手の込んだ料理をいろいろと(笑)。

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「舟寿し」の“和食と桜ばらちらしの彩宴”

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「蛇の市」の“百花花開く新江戸前鮨のばらちらし宴”(3/23現在:予約完売)

寶井:いやぁなんだか楽しくなっちゃって、何も考えず思いきり手のかかる物を作ってしまいました。いったい何個手毬鮨を作ることになるんだろう・・・(笑)。湧井さんのところはお店の名物を揃えてきましたね。このお弁当で大江戸の世界を堪能できそう。

大江戸 軽

「大江戸」の“鰻の名店の手仕事が光るお花見弁当宴”

後藤:僕は今回初参加ですが、日本橋ってすごい!と改めて圧倒されましたね。そんな中に出すのは身が引き締まる思いでしたが、イタリアンはうちだけだったので、あえてパスタに挑戦しました。これをお弁当にした時にどう美味しくするか研究を重ねています。温め方の動画を作ろうかなぁ。

Da GOTO

「Da GOTO」の“お重で味わうイタリアンのフルコース宴”

湧井:今回は後藤さんはじめ洋食店がたくさん参加していることも見どころです。フレンチの名店「LA BONNNE TABLE」さんも気になりますよね。「ラペ」さんも、1日限定だしすぐ完売しそう(※実際ラペのお弁当は予約初日に完売)。僕はこれ買います。

後藤:僕はもともと同店の松本シェフに面識があったので、寶井に紹介したんですが、それをきっかけに交流がどんどん深まって。こんな形で宴づつみでご一緒できるなんて嬉しい限りです。僕も他の洋食系のお店はどれも気になりますが、やっぱりラペさんは一度食べてみたいですね。

寶井:僕も買いますよ。どうしよう、購入者リストが仲間内で埋まっちゃうかも。ラペさん「一般発売した意味ないじゃん!」ってなっちゃったりして(笑)。

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「ラペ」の“和のエッセンスを感じるフレンチの宴”(3/23現在:予約完売)

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「LA BONNNE TABLE」の“春華やぐフレンチと和の饗宴”

湧井:しかしメニューが出揃ってびっくりしましたよ。みんなすごい気合がはいっていて。でもお客さんにとっては最高ですよね。値段も統一していることでわかりやすくて、料理の内容で比較して選べるし。それに今回は“春”というテーマがあるから本当に華やかになりましたね。

後藤:こうやって眺めているのもすごく楽しいですね。僕らは提供側なのに、完全にお客さん目線で選んでしまいます。

(※すべてのお弁当ラインナップはこちらから:https://nihonbashi-utage.jp/

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―「日本橋宴づつみ」を楽しむシーンや、食べ方のアイディアなどがあれば教えて下さい。

湧井:ご家族で召し上がるなら和と洋と中とか、何種類か頼んでシェアするのがおすすめです。行ったことがないお店でも、このお弁当をきっかけにお店にもいらしてほしいですね。

寶井:お弁当を包むオリジナルの風呂敷もかわいいですよね。お弁当だけでなく、こうした演出やお品書きなども含めて日本橋の春を感じていただけたら。

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―日本橋では三四四会のような飲食店組合が主体的に活動していますが、後藤さんは今後どのように街と関わっていかれたいですか?

後藤:僕は寶井との縁をきっかけにこの街の仲間に入れてもらって、本当に感謝しています。このご恩は僕が次に繋ぐことでお返ししていきたいと思っていて、ラペの松本シェフを紹介したのもその気持ちがあったからです。“自分では当たり前のことでも日本橋にとっては新鮮なこと”を提供して、この街の豊かな繋がりの1ピースとして、さらに輪を膨らませていきたいです。

(※上下トリミング)ラペメンバー
ラペ店内

後藤さんと松本シェフとの繋がりをきっかけに、日本橋の飲食店との交流を深めている「ラペ」のメンバー(写真上)。今年蛇の市ビルの地下に新業態店舗「おでん屋平ちゃん(イメージ:写真下)」がオープン予定(画像提供:ラペ)

寶井:今回の宴づつみでは三四四会以外のお店がたくさん関わってくれているのが画期的だと思っています。三四四会は代々守っていきたい組織ですが、それを超えるチームでできたことは、今後日本橋の飲食店が変わっていくことを予感させますね。“宴づつみ会”みたいな多様なチームになった気がします。

湧井:その会良いね。「日本橋宴づつみ会」作っちゃう?僕らも三四四会に拘らずもっと広く交流していきたいから、今回の企画がその皮切りになるなら嬉しいです。

―最後に、今後力を入れていきたいことを教えてください。

湧井:飲食店にとっては本当に厳しい状況が続いていますが、あまりネガティブなことばかり考えていてもしょうがないので、少しでも前を向いて進んでいきたいと思います。もしかすると、飲食店が淘汰されてしまうことはあるかもしれないけれど、決してなくなりはしません。仲間やお客さんに助けていただきながら、人と人との繋がりを大切に50年100年先まで残っていけるようなお店にしたいです。日本橋のお店は、どのお店も本当に料理のクオリティが高いので、「日本橋に来れば美味しいものが食べられる」ということを、日本のみならず世界に向けて発信していきたいです。

寶井:宴づつみのお弁当のラインナップを見たら、きっと世界中の人が食べたくなるはず。ぜひ“日本橋の味”をお試しください。

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取材:坂本彩 文:丑田美奈子(Konel)  撮影:岡村大輔

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