Interview
2021.04.07

コミュニティを巻き込みながら、アートとの新たな関わりを生む場。アートホテル「BnA_WALL」とは。

コミュニティを巻き込みながら、アートとの新たな関わりを生む場。アートホテル「BnA_WALL」とは。

アート作品の中に泊まるというユニークなホテルを展開する「BnA HOTEL」が、202142日、日本橋エリアに「BnA_WALL」を開業しました。BnAによるアートホテルは高円寺、秋葉原、京都河原町に続く4拠点目。エントランスを入ると目に入る巨大壁画(WALL)をはじめ、アーティストスタジオやレジデンス、ラウンジなどを併設した、ホテルにとどまらない総合クリエイティブ施設として、日本橋に新たな風を吹かせています。BnA_WALLが生まれた背景や、目指している未来について、BnA株式会社の代表を務める田澤悠さんに話を聞きました。

アートとの接点を最大化し、アーティストを支援するプラットフォームとしてのホテル

―まず、「BnA HOTEL」のコンセプトや特徴について教えていただけますか。

コンセプトは「泊まれるアート」です。ただ部屋にアート作品が飾られているというわけではなく、アート作品そのものの中に泊まれるのが「BnA HOTEL」です。ホテルづくりの最初の段階からアーティストに入ってもらい、部屋の形や素材、その部屋でゲストにどういう体験をしてもらいたいかなどを建築家と一緒に考えながら部屋をつくっていきます。部屋の内装、家具、照明も作品の一部。そしてそこに泊まることでアートが完成するため、ゲストも作品づくりに関われることが最大の特徴ですね。

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「BnA_WALL」には、23組のアーティスト・アートディレクターと共同制作した全26室の“泊まれるアート作品”がある。写真は、渡辺真子 a.k.a. Mako Principalが手がけた「SUSHI WARS」。寿司と宇宙が融合したカラフルな作品とホログラフィックの壁紙で彩られた、ポップで楽しい空間だ

また、宿泊費の一部がアーティストに還元されるのも「BnA HOTEL」ならではのしくみ。泊まることでそのアーティストを支援することができるのです。この宿泊費還元システムは世界初といえる新しい取り組みで、アートを持続可能なものにする一助になればと考えています。作品を制作して終わりではなく、知的財産としてアーティストに継続的な収入をもたらせたらと…。ビジネスの構造や、人々のアートとの接し方を変えることで、アートの新たな価値づけができればと思っています。

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ビジネスコンサルタントとしてキャリアを積んで独立し、新規事業開発コンサルティングや民泊事業などを国内外で幅広く手がけてきた田澤さん。2015年に仲間とBnA株式会社を立ち上げた

―泊まることで作品づくりに参加したり、アーティストの支援ができたりと、アートとの新しい関わり方を提案されていますが、そのためにホテルという業態を選んだのはなぜでしょうか。

ホテルなら自動的に外から人(=宿泊者)を連れてくることができ、出会いの場をつくれるからです。新しい土地に行ったときに、おもしろいことをやっているアーティストと出会いたくても、どこに行けばよいのかわかりません。一方、各地にアーティストのコミュニティがありますが、彼らはなかなか外部との接点がなく活躍の場が得られにくいという状況があります。そこで、ホテルというプラットフォームを使って、出会いを求めて旅をしている人とローカルのアーティストをつなぐことを考えました。一般的なギャラリーでもアートには触れられますが、ギャラリーでの滞在時間は短くアートとの接点が限られるため、アーティストに出会える確率も低い。でもホテルなら過ごす時間が長いので、出会いの確率が高まるんです。

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杉山純と宮澤謙一によるアーティストユニット、magmaが制作した「HARDCORE GAME ROOM」。壁はオセロになっており、ベッドの上にはバスケットボールのフープが。巨大な鼻の穴からティッシュや照明のスイッチが出ているなど、遊び心にあふれている

―アートホテル事業において実現したいのはどのようなことでしょうか。

“日常生活の中でアートを当たり前のものにすること”と、そのために“アーティストの活躍の場を増やすこと”です。僕はアメリカで育ったのですが、そこではアートはカルチャーの一部として生活の中に当たり前のように存在していました。でも日本では「アートはアート」として、生活から切り離されたところにある…。そこで、日本でもアートを生活に近いところに引き寄せ、アーティストコミュニティとの接点をつくりたいとずっと考えてきました。その接点づくりを「BnA Hotel」を通していろいろと検討する中でたどりついた一つの方法が“壁画”。ゲストが身近にアートに触れる機会になるとともに、若手アーティストにとっては鍛錬の場となる巨大壁画「WALL」は、そういう流れで生まれました。

―それでホテル名にも「WALL」を冠したのですね。WALLの魅力や設置した意図について、もう少し聞かせてください。

もともと僕は壁画が好きなのですが、壁画はアーティストの作品がいちばん目につく形態であることが一番の魅力ですね。通りかかる人の人生に何らかの影響を与えるかもしれませんし、社会に対して影響力をもつパブリックアートとして、街の顔にもなりうるものです。しかし日本では大きな壁画を描くような仕事は限られているので、一部のアーティストに依頼が集中してしまい、なかなか若手のアーティストにチャンスが回ってきません。そこで、大きな壁画を描いたことがない若手アーティストに機会を提供しようと、WALLを設けました。世界に出ていけるアーティストを輩出し、彼らと社会との接点をつくっていくことを目指しています。

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BnA_WALLの顔ともいえる巨大壁画、WALL。毎月変わるアーティストの制作風景を1階のラウンジから眺めることができる

エントランス

ホテルのエントランスから見たラウンジの様子

―そもそも、田澤さんはなぜアートを重視されるのでしょうか? 田澤さんにとってアートとは何か、お聞かせください。

うーん、何なんでしょうね…(笑)。アート=社会に必要なものだという思いが強いのかもしれません。僕自身はコンサル出身でもあり割とロジカルな人間なのですが、実用的なものにお金が集まるなか、実用性やロジックから離れた別軸を立てて“問いかけ”をしていかないと、社会は先細りしていくのではないかとも思っていて。そのような社会の中で問いを立て、未来を妄想するのがアーティスト。彼らを社会全体でサポートし、価値を見出していくことが、特にこれから貧しくなっていく日本においては重要だと思うのです。感情に直接働きかけるアートは、社会変革の力になります。

たとえばフランス革命は、政治家や思想家がいたから起こったわけではなくて、それを言語化する詩人やビジュアル化して感情に訴えかけるアーティストがいたから、大衆を巻き込み、大きなムーブメントになって社会変革が起こったはず。アートがないと、ネガティブなものを正す問題解決に終始してしまい、新しいものは生まれません。近年は日本のビジネス界においても、イノベーションを生む要素としてアートを重視する傾向が見られますしね。

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「人生に影響を与え社会を変革する力をもつアートを、サステナブルなものにしたい」と話す田澤さん

エリアの特性を生かし、ローカルコミュニティとともに街を盛り上げていく

―高円寺、秋葉原、京都河原町、日本橋と、それぞれ街の雰囲気が違いますが、立地はホテルづくりにどのように影響しますか。また、街によってアーティストコミュニティに違いはあるのでしょうか。

立地は物件ありきなのですが、その街の特性に合わせてホテルのコンセプトや要素を決めていきます。たとえば高円寺はアーティストがそこに住んで遊んでいる街なので、パーティースペースのような場になるよう意識しました。また京都の河原町は観光地の中心部なので、世界中の人が“文化”を見に来る場所として“ミュージアム”という形に。そして日本橋はオフィスやギャラリーが多くアーティストが働く街なので、仕事ができるワークスペースを設けています。ちなみに、街によってアーティストコミュニティの雰囲気が異なるのも面白くて、東京のアーティストはカルチャー色の強い個性的なコミュニティに、京都のアーティストは静かで落ち着いたコミュニティになる傾向がある気がしますね。

―日本橋の魅力や、日本橋における「BnA_WALL」の役割をどのようにとらえていますか。

日本橋の魅力のひとつは、アートにおける“空白”があることです。いい意味であまり色がついていないので、ゼロからいろいろつくっていけますし、爪痕を残すことができます。物件的な観点で言うと、ほどよい規模の中古ビルが多いこともメリットですね。また、日本橋は商業街で周りに企業が多いので、地元の企業からアートワークを請け負うなど、ビジネスにおけるコラボレーションを大事にしていきたいと考えています。企業というアーティストとは別のアクターが加わることで、アート制作の可能性が広がりそうなのも楽しみですね。BnA_WALLとしては、制作から納品までのプロセスを一貫してサポートするなど、コラボレーションのハブとなって街を盛り上げていきたいと思っています。

外観
Konel 部屋

日本橋のクリエイティブチームKonelによる「VISIBLE AMBIENCE 」―見える世界は、見えない世界から構成されているー。研究室を想起させる天井には一枚の絵画が取り付けられ、その表面を縦横に走る特殊マイクロスコープが、肉眼では捉えられないミクロの視野でみた絵画をモニタに映し出す。地元のアーティストとコラボした一例。(写真:Tomooki Kengaku)

―コミュニティのハブとして街を盛り上げていくために、「BnA_WALL」ではどのようにアーティストにアプローチしているのでしょうか。

ホテルづくりを一緒に行うアーティストの選定は、アートディレクターとしてのコミュニティリーダーにお願いしています。たとえば、馬喰町の「DDD HOTEL」に入るアートギャラリー「PARCEL」のギャラリーディレクターを務める佐藤拓さん(※)や、同じく馬喰町にあるギャラリースペース「BAF STUDIO TOKYO」のディレクターである細野晃太朗さん(※)たちにはとてもお世話になっています。彼らにアーティストを連れて来てもらうのには理由があって、単純にその人脈によってアーティストへのリーチの幅が広がるし、アーティストの特性や働き方がわかっている彼らを通した方が、アーティスト自身もやりやすいはずだから。特に難易度が高く2~3年の長期プロジェクトとなったホテルの部屋づくりにおいては、彼らにアーティストとの間に立ってもらうことができ安心して進めることができました。コミュニティリーダーはアーティストと社会をつなげる存在なので、彼らを巻き込んでホテルをつくる過程そのものが、コミュニティを進化させ街を盛り上げていくと考えています。

※過去の関連インタビューはこちら

「PARCEL」https://www.bridgine.com/2020/05/20/parcel/

「BAF STUDIO TOKYO」https://www.bridgine.com/2020/06/24/baf-studio/

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Youta Matsuoka (JONJON GREEN)による「The World After Five Minutes」では、こちらの世界と鏡の関係にある別世界が巨大な写真作品の中に映り、日常と隣合わせにある非日常を味わうことができる

新たな価値を生む実験と、視点が変わるようなアート体験を「BnA_WALL」で

―4月2日にオープンを迎えた「BnA_WALL」ですが、今後チャレンジしたいことを教えていただけますか。

おもに2つあります。まず、新型コロナウイルス感染症が落ち着いたら、海外アーティストとの交換留学を実現したい。BnA_WALLの地下にはレジデンスルームがあり、アーティストインレジデンスという形態で制作しやすい環境を提供していきたいですね。もうひとつは、プロダクト開発や新規事業開発を行えるスペース「Factory」の活用です。Factoryは幅広い活用方法があるラボ的な場なので、デザイナーや企業の方も交えて、アーティストと社会の接点をつくり新しい価値を生むような実験をしていきたいです。

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アーティストが工房として利用できる「Factory」では、アートが生まれる瞬間に立ち会うことができる。イベントやワークショップも不定期で開催

―最後に、「BnA_WALL」のゲストへのメッセージをお願いします。

BnA_WALLは単なる宿泊施設ではないので、さまざまな気づき・発見によって宿泊前と視点が変わるような体験をしていただきたいです。そのような体験を深めていただくために、アーティストがどうやってその部屋をつくったのかを解説したり、アートのなかで一晩過ごすことの意味や、そこから得られるものをゲストに問いかけたりするオーディオガイドも用意しています。普段アートに接点のない方たちにこそ体験していただきたいので、ぜひ気軽に遊びに来てください。

取材・文:小島まき子 撮影:岡村大輔

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