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2019.02.08

日本橋に“未来ののれん”を掲げ、新しい体験をつくる!「nihonbashi β」制作レポート

日本橋に“未来ののれん”を掲げ、新しい体験をつくる!「nihonbashi β」制作レポート

日本橋の街と若手クリエイターをつなぐことを目的にスタートした共創プロジェクト「nihonbashiβ」。「未来の日本橋をデザインしよう」というコンセプトのもとに、第一弾となる今回は歴史ある街と馴染みの深い「のれん」を題材に、「未来ののれん」をつくることがテーマとなった。 プロジェクトがスタートした6月から、ここまでの取り組みをレポートをしてきたが、若手クリエイターたちが考える「未来ののれん」がついに展示される。11月1日から11月11日まで、『未来ののれん展』と題して、コレド室町、にんべん日本橋本店、マンダリン オリエンタル 東京、三井ガーデンホテル日本橋プレミアの各店舗に完成作品が展示されるので、ぜひ足を運んでもらいたい。今回の記事では、各チームが試行錯誤して制作してきた「未来ののれん」の完成直前までをレポートしたい。

第一回:制作チェック

2018年9月22日 @Clipニホンバシ

若手クリエイターの受講生は、デザイナーやディレクター、プログラマーと職種もさまざまな、公募から厳選された16名。彼らと各店舗の代表者で構成されたチームでアイデアをぶつけ合い、そのアイデアをまとめた成果をプレゼンテーションする、計3回のワークショッププログラムは前回までで終了。

後半戦となる制作チェックは、こちらも2週間おきに計3回行われる。それぞれの分野での活躍が期待される彼らが、店舗のブランド力を高めるような「未来ののれん」という難しいテーマにチャレンジしていく。

今回からは、各ジャンルで活躍する先輩クリエイターの講義のあとに、各チームのアイデアや進捗状況に対して、講師陣から的確かつ厳しい制作チェックがはじまる。

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まずは、メディアアーティストとしても活動する後藤映則さんによる講義からスタート。フルタイムで働きながら休日に制作しているそうで、仕事の合間にのれんを制作する受講生たちと近い心境だ。

「3次元で考える」というテーマで、2次元のアイデアを3次元にどうアウトプットするのかについて説明した。風になびく動きのあるのれんは時間の要素も無関係ではない。動くものに惹かれるという後藤さん、動画編集ソフトにもタイムラインがあることからもわかるように、動きを構成している重要な要素は時間なのでは考えるようになった。制作に関する意気込みについてもこう語った。「自分が見たい。そうじゃないと頑張り抜けない。世の中の人を驚かせたい。感動させたい」

「nihonbashi β」を企画するバスキュールとPARTYによる、次世代クリエイターの育成する学校「BaPA」の卒業生でもある後藤さん。「死んでもつまらないものはつくりたくない」という強い信念にも似た言葉に、刺激を受けた受講生も多いだろう。

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後藤映則さん

続いて、各チームのプレゼンに対して、バスキュール代表の朴正義さん、後藤さん、中むらの中村新さん、SIXのアートディレクター矢後直規さんからの講評が行われた。

各チームからは、前回アイデア出しをした作品を再検討して、「人の暖かさで色が灯るのれん」「QRコードのついたのれんをトラックに乗せて走らせる」「けずりぶしでできたのれん」など、自由度の高いユニークなアイデアが発表された。それに対して、講師陣は的確なディレクションをして方向修正をしていく。この段階では、飾られる店舗のブランディングとの兼ね合いや、技術的な問題点などが露見して、まだまだ改善が必要な案が多かった。

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講評の後も、チームごとに別室へと招いて講師陣との面談。厳しい意見が飛び交うが、これも良いプロダクトを完成させるための大切な過程だ。チームによっては、耳が痛いというような表情がこぼれ落ちる。

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チームワークを形成させるために必要なこと

今回の制作では、そのほとんどが初対面同士でチームを組むことになった。そこで、バックグラウンドの異なるメンバーが集まったときに、どのように共通のゴールを設定していくのか?後藤さんと矢後さんのそれぞれの経験から知見を共有していただいた

「最初は、どうしても表現方法に関心が行ってしまいがちですが、そうするとまとまらなくなってしまうんですよね。まずは、与えられたテーマに対してどういう意見を持つかが重要です、そのためにはリサーチにも時間をかけるべきですね。そうして全員がわかる筋が通った言葉があれば、そこにアイデアを集約していける」(矢後直規さん)

「とにかく話すようにしますね。メッセンジャーなどでのコミュニケーションではなく『会うこと』が重要です。僕も以前に参加していたたBaPAでは、あまり言葉では語らないメンバーと組んだので反応見つつでしたが、そういう人でも熱い想いを持っていたりします。そもそも自分もあまり喋る人間ではないので(笑)、つくったものやアイデアでコミュニケーションを取ることでお互いを知ることになりますね」(後藤映則さん)

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日本橋の美味しいものをいただく「もぐもぐタイム」は、受講生がほっとするひと時


第二回:制作チェック

2018年10月6日 @Clipニホンバシ

制作のために持ち込まれた機材やモックアップも増えて、締切が迫ることへの慌ただしさが室内の空気から伝わってくる。まずは朴正義さんによる「未来の歩き方」についての講義から始まった。

「◯◯◯と言えば自分」という旗を立てられると、よい未来を迎えやすくなる。朴さん自身、「デジタルクリエイティブ業界で野球や宇宙といえば朴さん」という評判から、2020年の東京オリンピックで野球を正式種目にする広報活動や、最近では株式会社ZOZO代表の前澤友作さんが手がけるプロジェクト「#dearMoon」に関わることができたという。最高のクリエイションを発揮すべきは自らの生きがいづくりで、「ライフワークバランスの取れた人生」よりも「ライフワークを見つけた人生」にシフトしたほうが良いと語る。そのためには「自らが情熱を注げるテーマのそばで、自分なりの未来を描き、より良いスタンスで未来を迎えよう」と、これからの時代のクリエイションを担う受講生に伝えた。

最近、朴さんが制作において気にかけていることは、世の中で起こっている入力側の技術革新。それによって、従来のテキスト・画像・音声・映像に加えて、データという新しいソースをクリエイティブに取り入れることが可能となった。データを効率化のためだけに利用するのではなく、データを人々や自然の営みを映す息吹ととらえ、データ×テクノロジー×デザインをダイナミックにかけ合わせることで、新しい気づきや体験を提供する「DATA-TAINMENT」という新しいクリエイションを提唱している。

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朴正義さん

アイデアが二転三転…制作を続ける中で見えてきたコンセプト

各チームとも、本業が終わったあとに毎日のように連絡を取り合い、頻繁に集合して制作に取り組んでいたという。どのような話し合いを重ねて、どのようにチームビルディングをしてきたのか?各チームの制作過程での偽らざる思いをうかがった。

Aチーム:日本橋からくり大暖簾(10月6日時点)

暖簾を「めくる」行為をアップデート。のれんをめくればからくりが動き出して、通る人を華やかな気持ちにしてくれる。

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―前回から今回にいたるまでアイデアの変化は?

「なんとなくまとまりきらないまま進んでしまって、なかなかスケジュールも合わず、資料もバラバラにつくりはじめたので、企画もどれにするかという決め手もなく…。講評ではチームとしてのまとまりがないと指摘されてしまい……。そこから講師の方からアドバイスをいただいて、いちから参加する気持ちで望みました。私たちのなかではおもしろいと思って臨んだ企画ですが、ブランドのコンセプトとずれていたのもあって、コレド室町は日本で一番大きなのれんが吊るされるので、大きいのれんでしか体験できないストレートなものにしようとしました。そこでようやく明確になりました」

―展示に向けた課題は?

「安全に設置できるかというのと、体験の満足度が高められるかですね。テクニカル面もそうですし、ビジュアル面も突き詰めたいですね」

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Bチーム:REVERB(10月6日時点)

再開発されたきらびやかな風景と脈々と続く老舗たち。さまざまな要素が絡み合う様子をモアレに見立てて、変化と伝統が混じり合う日本橋を表現。日本橋に掛かっている橋の形のカーブを切り取ってモアレに。

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―いまのアイデアに辿り着いた経緯は?

「布でおもしろい現象がないかなと調べていたところモアレに気づきました。オーガンジーという透けた素材にいろいろなデザインを印刷すれば、モアレが起こせそうだなという話になりました。そこからは制作予算に合わせて、布の大きさや色などを調整しました。そこにいたるまでに、ほぼ毎日都内のファミレスでミーティングをしました。仕事を21時で終わらせて終電頃まで……という生活ですね」

―展示に向けた課題は?

「いっぱいありすぎて(笑)。モアレを起こすための運動は前後ではなく、上下や左右に平行移動するのがベターで。布をいくつか用意した場合に密着していないといけない。それをどう動かすかが今後の課題ですね」

Cチーム:日本橋 音の場(10月6日時点)

にんべんがこだわり続ける本枯鰹節。味覚以外の感覚から美しさや美味しさを想起させる。食に関するオノマトペ(視覚)を使ったのれんと、超指向性スピーカーを使って文字とリンクした音(聴覚)を鳴らすのれん。

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―前回から今回にいたるまでアイデアの変化は?

「いろいろな案出しをしていましたが、のれんをどう体験するかよりも、見たことのないものをつくろうということに注力しすぎて、それがにんべんらしさだったり企業の良さと結びつけるのが着地点として難しくなりました。そこからいままで構築してきたものをビジュアライズする方向にシフトしようと移行しました」

―チームワークの形成はいかがでしたか?

「ケンカはかなりしましたね(笑)。みんながみんな意見が強いから、カフェで立ち上がってしまったり。最近になってにんべんさんのブランドイメージの軸がようやく見えてきて、そこで初めて役割分担ができるようになってきました」

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Dチーム:マンダリンオリエンタル東京の風(10月6日時点)

「森と水」をデザインコンセプトとするマンダリン オリエンタル 東京の空間にあわせて、透け感のある白いオーガンジー素材を用い、「風」を表現するのれん。最新テクノロジーで風を制御する。

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―前回からブラッシュアップした部分は?

「デザインはある程度決まっていたんですが、どういう形でお客様を迎え入れるか、体験の設計の部分が詰めきれていなかったので、体験の設計をどのようにハード面に落とし込んでいくかブラッシュアップしました。布を動かすための動力源がモーターなのかファンなのか決まっていなかったのですが、ここに置けばのれんがゆれるという解は導きました」

―チーム内の意思疎通で気を使った点は?

「各々のスキルがわりとはっきりしているので、イメージのビジュアルの共有がうまく行けば、お互いに意見が出し合いやすくなる、そういう雰囲気づくりが重要だと思いました。京都から参加しているメンバーもいるので、対面したときはお互いの時間を大切にして協力しあいました」

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第三回:制作チェック

2018年10月20日 @Clipニホンバシ

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最終回となる今回のプログラムを終えると、完成まで自分たちでつくるしかない。まずは、アートディレクター矢後直規さんによる講義「デザインの試行錯誤」 からはじまった。仕事のターニングポイントとなった『LAFORET HARAJUKU』のビジュアルイメージ。このグラフィックを制作したことから、自分のつくりたいデザインを優先するのではなく、大勢に届かせるためにコンセプトをきちんと意識するようになっていったという。過去に手がけた作品のプレゼンテーションにはじまり、周りを巻き込んでいく仕事の広げ方に話がおよんだ。

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矢後直規さん

続いて、フルサイズのモックでのデザインや動作の最終チェックが行われた。この日の講師は、朴さん、バスキュールの馬場鑑平さん、中村さん、後藤さん、矢後さん。この日に完成イメージに近い状態にこぎつけないと、イベント当日に間に合わない可能性も出てしまうので、制作物へのチェックも力が入る。この日のために泊りがけで制作をしたチームもいたほどで講師も若手クリエイターも真剣だ。そして、鋭い指摘に弱音を吐く受講生もちらほらと……。

Aチーム:のれんさま

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日本一大きいのれんがかかるコレド室町。そのロゴをさかさまにして目と眉を加えた老人のキャラクター「のれんさま」が描かれる。のれんに内蔵された加速度センサーによって、揺れの大きさと連動してスピーカーからのれんさまのとぼけた合成音声が流れる。それに加えて、ツイッターとも連動してボヤキが投稿される。のれんさまが老人のような声で「肩凝るなあ、肩ないけどな」「暇で忙しいなあ」などの冗談を喋るたびに、講師陣やスタッフから笑いが湧きでた。ファミリー層の利用も多く、街に賑わいを生むコレドの役割を表現するのれんとなった。

Bチーム:響きあう、今と昔と

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三井ガーデンホテル日本橋プレミアに飾られるのは、モアレを使ったのれん。伝統と文化が交わる日本橋の地域性をモアレに例え、日本橋の橋のアーチを抽象化した縞状の柄にデザインしている。自動的にモアレを発生させるために、動力として熱を与えると収縮するバイオメタルのコイルを使っている。最小限の基板と電源だけでコイルの収縮を発生させて、2枚ののれんをスライドさせる。それによってモアレによる視覚効果が発生する仕組みというもの。あとは、実際にのれんをくぐったときに、モアレそのものにどのような影響を及ぼすのかで調整が必要となりそうだ。

Cチーム:日本橋 音ノ場

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鰹節専門店、にんべん日本橋本店の店内に掛けられるのれん。食事の際に発生する音のオノマトペ(擬音)を視覚化したデザインののれんと、指向性スピーカーによって店内の限られた場所にオノマトペのもととなる音が聞こえるという制作物。講師陣からは、スピーカーとのれんの関連性の弱さや、音に囚われすぎていてブランディングと紐付かないことを指摘され、再検討を促された。展示に向けてアイデアを詰め直さなければいけない。

Dチーム:マンダリン オリエンタル 東京の風

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「森と水」がデザインコンセプトというマンダリン オリエンタル 東京に設置されるのれんは、人が通ると風が起きて、5枚の薄いのれんがなびく。仕組みはセンサーが感知し、鑑賞者から見て奥側に設置されたファンが起こす風によるものだ。また、スピーカーから森の音や水の音、鳥の鳴き声を用いることも検討。場が持っている雰囲気を読み取り、五感に訴える体験に重きを置いたのれんとなった。

展示までにどこまでクオリティを高められるか

チームごとのプレゼンテーションとチェックが完了。講師陣に指摘された作品の修正すべき点をクリアして、会期までに作品を完成させなければいけない。ここからが正念場だ。

約3か月にわたって実施されてきた今回のプロジェクト。街と若者をつなげる枠組みづくりに尽力した、nihonbashi β projectの代表の朴正義さんに、プロジェクトのここまでとこれからについて改めてコメントをいただいた。

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「「未来ののれんをつくる」という誰も考えたことがないお題に、どんなクリエイターや店舗が集まってくれるのか、どんなワークショップをすればいいのか、と期待と不安が入り混じるプロジェクトでしたが、空間デザイン、建設、大手メーカー、広告企画、ロボット開発、ソフトウェア開発……さまざまな業界の若手クリエイターと日本橋の店舗が一緒になって、未来ののれんづくりに挑んでくれました。「共創」「イノベーション」という言葉はある意味バズワードになっていますが、デザインやテクノロジーといった手段だけにとらわれることなく、各チームともに「日本橋だからこそ」「未来ののれんとはなんなのか」と本質に向きあい、ときにはぶつかり合いながら、BaPAに勝るとも劣らない熱量で、創作活動を進めてくれています。日本橋を訪れてくれたみなさんにどんな体験を提供できるのか、ボクも本番が楽しみです。新しいnihonbashiβ企画の発表も近いので、クリエイターのみなさん、是非、日本橋にお越しください!」(朴正義さん)

展示は11月1日から11月11日まで各店舗で開催される。ゼロから制作したのれんは、日本橋の街を行く人からどのような反響を得られるだろうか?試行錯誤と悪戦苦闘の末に完成させた「未来ののれん」、ぜひ実際にくぐってみて体験してほしい。これまで日本橋と縁のなかった若手クリエイターたちが、街の物語と景色に真剣に向かい合ってつくった作品が掲げられることで、日本橋の街がいままでと少し違って見えてくるはずだ。


取材・文:高岡謙太郎 撮影:川谷光平
初出:JDN

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