Interview
2020.04.22

人々が支え合うローカルコミュニティを作る、“地域SNS”の挑戦。

人々が支え合うローカルコミュニティを作る、“地域SNS”の挑戦。

都市化が進み“ご近所づきあい”が希薄になった現代、オンラインコミュニティが注目されています。住民同士をWEB上でつなぎ、活発なコミュニケーションを生み、リアルな交流に発展させるーそんな取り組みをさまざまな街で成功させているのが、日本橋に拠点を置く「PIAZZA株式会社」です。不安定な社会情勢で自宅に籠りがちな今こそ、地域の助け合いが必要だと語る代表の矢野晃平さんに、同社のサービスに込めた想いを聞きました。

今の時代に必要なのは“広場”だと思った。

―はじめに、矢野さんのご経歴を教えて下さい。

学生時代はカナダの大学で都市設計・土木工学を専攻していました。街づくりに携わるのがずっと夢で、都市開発関連の会社を就職先として考えていたのですが、なかなかご縁がなくて…。結果的には証券会社に入りM&Aや投資の仕事をしたのち、グローバル規模のオンラインゲーム会社に移り、投資案件を中心に担当していました。主にオンラインコミュニティをテーマにしたゲーム企業を担当したのですが、その中でオンラインとコミュニケーションとの掛け合わせに大きな可能性を感じていました。

03

PIAZZA株式会社代表の矢野晃平さん

―PIAZZAの構想はもともとお持ちだったのでしょうか?

都市設計を学んでいた頃から、街に“広場(=イタリア語でPIAZZA(ピアッザ))”を作りたいとは思っていました。そこから実際に事業として立ち上げることになったきっかけの一つは、「街並みの美学」という本に出会ったことです。その中にあったイタリアの広場の事例が素晴らしく、“都市化が進むほど広場の重要性が増す”という内容にとても共感して、日本にもそんな場所を設けられないかと、ずっと考えていました。また実体験では、二人目の子供が事故に遭ってしまい不安な気持ちだった時に、同じマンションの名前も知らない方に優しい声をかけられてすごく嬉しかった経験がありまして。それで、住民がそれぞれ孤立しがちな今の時代にこそ、このような温かい交流を生む機会を作ることがやはり重要だと強く思いました。

こうした思いのもと、2015年に立ち上げたのがPIAZZA株式会社です。よく某宅配ピザ会社に間違えられますが(笑)、「街の広場を作ろう」というコンセプトなのでPIAZZAをそのまま社名にし、「ピアッザ」というアプリを開発しました。

街並みの美学2

矢野さんが感銘を受けた本「街並みの美学」(画像提供:PIAZZA)

既存サービスの逆の戦略を。狭く・深く・リアルを内包。

―「ピアッザ」の具体的な機能について教えてください。

簡単に言うと、Facebookの地域版のような機能をスマートフォンアプリに内包しています。同じ地域に住んでいるけれど面識のない人たちが、たとえば「近所で良い病院知りませんか?」というような情報交換や、「○○をお譲りします」という物品交換など、昔なら井戸端会議されていたような交流をしています。利用者は30〜40代の方が一番多いのですが、これは結婚や出産をきっかけに“地域”というコミュニティに目が向けられやすいことが影響していると考えられます。最初に立ち上げた中央区のコミュニティでは、おかげさまで30〜40代の住民の約3割の方にご利用頂いています。この中央区を皮切りに、今では約30の地域でサービスを展開中です。

―「ピアッザ」の個性はどういった点にあるのでしょうか?

地域に特化したオンラインコミュニティのサービスは数多くありますが、「ピアッザ」も含め、まだ際立って成功と言えるものがないんですよね。なので、今まで先行他社がやってきたことと真逆の戦略を取るようにしています。たとえば、今まではオンラインコミュニティの仕組みを先に作って、それを広く展開し「どうぞ皆さん使ってください」と提示するケースが多かったのですが、これではなかなか盛り上がりません。デジタルツールが一つあったくらいで、すぐにローカルなコミュニティが活性化するほど甘くはないんです。だからアプローチを変えないといけないと考えました。

図1

ピアッザでの投稿の一例。地元の情報交換が活発に行われている(画像提供:PIAZZA )

―なるほど。具体的にはどんな独自戦略を取っているでしょうか?

私たちも2年ほどデジタルツールのみの運営をしていたのですが、やはり “リアルな接点”があることが大事だと気付いたんですね。そのためデジタルサービスでありながら”リアルな接点“づくりに力を入れることにしたんです。具体的には、コミュニティデザイナーという“人”の配置と、昨年日本橋本町にオープンした「Flatto」のような“場所”づくりに取り組みました。この”人“と”場所”の展開で、コミュニティがより活性化するということが実際に運用する中で実証されています。

06
05

「日本橋にくらす、はたらく、すごす人々が集うコミュニティスペース」として2019年日本橋本町にオープンした「Flatto」。ラウンジやスタジオを完備し、さまざまな用途で利用できるほか、地域の広場アプリ「ピアッザ」と連携している

“人”の部分に関しては、コミュニティを立ち上げる時や、新規メンバーが入る時に特に重要になります。たとえば初めてディスコに一人で行くのはかなりハードルが高いと思いますが(笑)、ガイドしてくれる人がいれば背中を押されてうまく入っていけるのと同じです。

“場所”は、デジタルの世界から出て、いかにFACE to FACEの機会を作るかという観点で運営しています。Flattoのような施設があることで、デジタルとリアルの対流が起きて、どちらも活性化することもわかってきました。

またFlattoでは、日々投稿されるさまざまな投稿の中からユーザーの声を読み取り、その地域の特性に合ったリアルイベントを企画するようにもしています。人と場所を駆使しながら、 “狭く・深く・リアルを内包する”ということを意識して、個々のコミュニティに合わせてきめ細やかに対応するよう心がけていますね。

飲み会

Flattoでのイベントの一例。ビジネスマンらの交流の場が生まれている(画像提供:PIAZZA)

―リアルとデジタルの相乗効果が生まれているんですね。

そうですね。「ピアッザ」はあくまでコミュニティの入り口で、そこでの交流をリアルにつなげるということが重要です。なので実際に集まる場所があれば、デジタルの交流自体も生み出されやすくなり、スピーディーにコミュニティが活性化していくわけです。「ピアッザ」のデータを見ると、アプリを見てリアルイベントに参加した人は、翌月のログイン日数が3倍になっていることがわかったんです。これは言い換えると、その人たちは次にリアルにつながるチャンスを3倍得ているということです。こうしたリアルとデジタルの好循環が生まれると、コミュニティはどんどん成熟していきます。

フラットWS
フラットWS2

幅広い世代、さまざまなシーンで活用されているFlatto(画像提供:PIAZZA)

コミュニティバリューという新指標

―ユーザーの行動データからコミュニティの活性具合を見ているとのことですが、「ピアッザ」にはコミュニティの活性度を測る指標があるのですよね?

はい。“コミュニティは客観的に評価しにくい”というのが、これまでの大きな課題でした。街づくりにおいてコミュニティの良し悪しは重要なポイントなのに、「なんとなく活気がある」とか「以前より住民の交流が増えた気がする」という曖昧な評価しかできなかったのです。評価ができないと、そこにビジネスの市場は生まれません。だからコミュニティを大事にするビジネスが生まれる街を目指すためにも、「コミュニティバリュー」という、住民間での「つながりの数」「活動(参加・貢献)の量」などを元にコミュニティの活性度合いを評価する独自の定量指標を作りました。

グラフ2

画像提供:PIAZZA

―都市によるコミュニティバリューの傾向はあるのでしょうか?

大きな差ではありませんが、都心部の新興都市は低めに、近郊のベッドタウンは若干高めに出る傾向があります。これはおそらく、新興都市は利便性が高すぎて大都市と同じものが手に入るので、「どうしてもこの街でないといけない」という感覚がもしかしたら薄いからなのではないかと思っています。どのような都市であれ、豊かなコミュニティを生むためには、私たちの活動を通して貢献できる部分が多いと感じています。

―こちらの指標は具体にどのように活用されているのですか?

コミュニティバリューがあることによって、他の街と比較したり、その街の特性を定量的に可視化することができます。そのため、街づくりを包括的に分析するニーズがある方々、つまり行政やデベロッパーの方々などに活用していただくことが多いです。

たとえば今行政が困っているのは主に三つです。一つ目は自治会が衰退していく中で、若年層に対する情報提供の場が不足していること。二つ目は行政が住民の質問対応等に追われないために、住民同士の自治を強化する必要があるのに、そのためのツールが乏しいこと。三つ目は行政主導のコミュニティの活性化には限界があることです。もはや街づくりはハードの時代からソフトの時代に移っています。ビルやマンションを建てて終わりではなく、住民の目に見えない満足度が街の価値を左右するんです。だから行政もソフトの重要性を強く感じていますね。

そんな中で「ピアッザ」が果たせる役割は大きいと思いますし、コミュニティバリューを分析して必要な改善ポイントを導き出し、たとえば日本橋でやった成功事例を武蔵小杉で応用展開するということも可能です。また「ピアッザ」全体で住民アンケートを取ってその回答を街ごとに比較し、行政が街づくり施策に生かす事例も出てきています。

行政

行政のチームと一丸となって街づくりに取り組む(画像提供:PIAZZA)

―街づくりの事例が、他の街に水平展開されていくというのは新鮮です。

スペインのサンセバスチャンという都市で、現地のバスク料理の発展のために各レストランのレシピがオープンソース化されているという事例がありますよね?私たちがやりたいのもまさに、街づくりの支援のノウハウをオープンにすることです。都市同士が競い合うのではなく、日本の街全体が体系的に良くなっていくために、ある都市の成功例を他にも広げていく手助けができればと思います。

―それは素敵なお考えですね。街づくり以外でも、マーケティング等でも活用できそうです。

そうですね。たとえばローカル広告での活用があります。ローカル広告市場は約1兆円あると言われているのですが、紙の販促物、たとえば折込チラシ等が多く、精度の高いマーケティングがまだまだ難しいと言われています。そこに、コミュニティバリューで定量分析ができニーズや属性のはっきりしている「ピアッザ」をマッチングできれば、必要な情報を必要としている人に届けられるのではと考えています。

今こそ必要とされるローカルコミュニティ

―今、コミュニティのあり方が改めて見直されていると思います。その中でオンライン上のコミュニケーションも重宝されているかと思いますが、矢野さんは何か変化を感じられていますか?

コミュニティ内で大きく何かが変わっているという感覚はありません。でもユーザーさんと話していると、コミュニティの重要性が増しているのは感じますね。外出自粛の影響もあって、皆の行動範囲が一気に生活圏に呼び戻されてきているなと思います。地元に目が向くようになったのか、男性ユーザーが増えてきているのも興味深いです。全体でも新規登録も増えていますし、活性度も上がってきています。

―他のSNSだと、マスクや食料品の買い占めに対するやりとりで炎上するなど、ちょっとギスギスした雰囲気になることもありますが、「ピアッザ」内では「コロナが終わったら」というお題のもとポジティブなやりとりがなされていたりして、前向きな空気を感じました。

この中でも他のSNS同様、「トイレットペーパーがなくなってるよ」とか「このお店にはあるよ」といったコミュニケーションが増えています。でも「ピアッザ」内は意外なほど荒れないんですよ。たまにピリピリしてしまうこともありますが、一悶着あったあとに前より仲良くなっていくみたいな感じで(笑)。それは「ピアッザ」が完全な匿名ではなく、近所の知っている人がここにもいるかもしれないという感覚があるから、皆さん配慮しながら丁寧にコミュニケーションされているんじゃないかと思います。

PIAZZA画面

4/22現在、特設グループとして「災害時助け合い」が開設されている(画像提供:PIAZZA)

―有事の時に地元のリアルな情報が集まる場所があって、そこが良い雰囲気であれば安心ですよね。

最近は行政の担当者でコミュニティでのやりとりを熱心にチェックされている方も多いです。住民に今こんなニーズがあるんだとか、こんなことを考えているんだということをリアルタイムに知る情報源になっているようです。

街づくりは私たちでだけではできず、実際に施策を実行する方々と一緒にやって初めて形になっていきます。行政・ディベロッパー含めワンチームで取り組んでいきたいので、こうした動きは嬉しいですね。住民のニーズに即した迅速な対応が求められる今のような状況では特に、「ピアッザ」のコミュニティが貢献できることは多いと思います。

日本橋発の街づくりを、世界へ

―次にやろうと思っていることはありますか?

そもそもなのですが、私たちは地域SNSがやりたいと思ってこの事業を始めたわけではありません。だから今は言わば第一フェーズだと思っていて。地域SNSの次は、“地域のサービスプラットフォーム”になっていきたいです。

今日本にはあらゆるサービスがありますが、ローカルマッチングできているものはとても少ないです。たとえばベビーシッター。日本だと仲介業者などに依頼して派遣してもらうのが一般的ですが、アメリカでは近所の学生が行うのが普通です。実際に私が通っていたアメリカの高校では、クラスメイトのほぼ100%が地元でのベビーシッター経験者でした。しかもそこに仲介者がいることは稀で、街の掲示板や口コミで「あそこのお母さんが困ってるみたいだから行って来よう」という気軽な感覚で、地元のCtoCビジネスが成立していたんです。

こうした取り組みはぜひ日本でも取り入れていくべきだと思いますし、さらに言うと誰もがサービスを受ける側でもあり提供する側になる、互助の形になるのが理想だと思っています。地域での支え合いが経済価値として流通していく世界を作っていきたいですね。だから今の「ピアッザ」をサービスプラットフォームとして昇華させていくことが、私たちの考える第二フェーズです。

04

―たしかに、地域性を高めることで見えてくるビジネスチャンスがたくさんありそうですね。第三フェーズも考えていらっしゃるのでしょうか?

不動産開発の中での貢献をしたいです。先ほど街づくりはハードからソフトの時代に変わったと言いましたが、新しく街を開発する時に始めからコミュニティが担保されていると、街自体の価値がすごく上がると思うんです。今までは地価や人口など限られたKPIしかなかったところに、コミュニティバリューのような街のソフト面を定量的に示す指標が加われば、時代に即した街づくりができると考えています。

そして、ゆくゆくはこの次世代の街づくりモデルを海外展開したいとも思っています。世界最大級の成熟した都市である東京で成功すれば、きっと世界の他の都市にも応用できるので、そこを見据えて活動していきたいですね。

人は優しい。もっとコミュニティに頼ろう。

―コミュニティの重要性が増す今、読者に伝えたいメッセージがあれば教えて下さい。

私、「人って意外に優しい」と思うんです。正直このサービスを作った当初は、今「ピアッザ」の中で行われているような優しいやりとりを想定していませんでした。でも、誰かが助けを求めると別の誰かが助けてくれるし、それが同じ地域に住んでいる人ならなおさらで、何も報酬がなくても助け合いが起こるということがよくわかりました。自粛ムードで物理的な人との距離は遠くなるかもしれませんが、人は本来優しいもので、何かを求めれば手を差し伸べてくれる人はきっといます。だから、地域・職場・家族などコミュニティは何でも良いので、困った時はぜひ“人を頼る”ということをしてほしいなと思います。決して一人ではないということを忘れずに、助け合っていけたら良いですね。

取材・文 丑田美奈子(Konel)撮影:岡村大輔

Facebookでシェア Twitterでシェア

TAGS

Related
Collaboration Magazine Bridgine