Interview
2020.05.15

老舗の店主が教える、江戸前鮨の楽しみ方。
―特集:おうちで日本橋ごはん#2

老舗の店主が教える、江戸前鮨の楽しみ方。
―特集:おうちで日本橋ごはん#2

「おうちで日本橋ごはん」との特別連携企画、第二回のテーマは「江戸前鮨」。その手軽さで“江戸のファーストフード”として親しまれ、現代では東京を代表する日本食となった江戸前鮨は、かつて魚河岸のあった日本橋に多くの名店が集まります。今回は日本橋の老舗鮨店店主の皆さまに、その歴史や各店舗の特徴、自宅での楽しみ方まで、江戸前鮨の世界を教えていただきました。高級なイメージの強い“お鮨屋さん”がきっと身近に感じる、江戸っ子店主たちの対談です。

【ご取材先】
繁乃鮨:三代目 佐久間一郎さん
𠮷野鮨本店:五代目 𠮷野正敏さん
蛇の市本店:五代目 寳井英晴さん
【ファシリテーター】
フリーアナウンサー:新宮志歩さん

Q.お店のご紹介をお願いします。

𠮷野正敏さん(以下、𠮷野):「𠮷野鮨本店」は明治12年創業で私で五代目になります。現在お店は日本橋高島屋の裏手にありますが、もともとは日本橋の魚河岸の屋台からスタートしています。伝統を受け継ぎながら時代に合わせアレンジも加え、その時もっとも美味しいものを提供するよう心がけています。

寳井英晴さん(以下、寶井):「蛇の市本店」は明治22年創業で、うちも吉野さんと同じく屋台から始まりました。文豪の志賀直哉さんにもご贔屓にしていただいていたようで、店名の名付け親でもあります。メニューとしてはにぎり鮨ももちろんですが、「ばらちらし」が名物と言っていただくことが多く人気ですね。

佐久間一郎さん(以下、佐久間):うちは高根屋という魚屋にルーツがありまして、魚河岸が日本橋から築地に移った昭和24年に鮨屋として「繁乃鮨」を創業しました。魚屋の頃から宮内庁の神事の魚を納めていまして、「宮中賢所御用達」の店として営業させていただいております。今も毎朝お届けしてから店を開けているんです。

しげのずし内観

繁乃鮨の内観(画像提供:繁乃鮨)

吉野鮨内観

𠮷野鮨本店の内観(画像提供:𠮷野鮨本店)

蛇の市内観

蛇の市本店の内観(画像提供:蛇の市本店)

Q. お互いのお店の「他己紹介」をしていただけますか?

<繁乃鮨→𠮷野鮨本店>

佐久間:先代同士の仲が良くて、まーちゃん(𠮷野鮨𠮷野さんの愛称)とは子供の頃から交流があります。切磋琢磨しながら鮨のことも一緒に勉強してきました。𠮷野鮨本店でまず有名なのはトロの話で、彼の店で“トロ”の名が生まれたんですよ。この前久々に食べに行ったらやっぱり美味しかったです。人気店で忙しいからその時はまーちゃんに握ってもらえなかったんだよね。今度はぜひお願いしたいなぁ。

𠮷野:次は握るからぜひまた来てね。トロに関しては、昔は冷蔵保存の技術がなく、傷みやすい脂の多い部位は敬遠されていて、鮨と言えば赤身がメインだったんですよね。けど、赤身の値段が高騰して買えなくなってしまった時があったらしいんです。その時に、仕方なくお客様にまだ食べられる脂身の部分を出してみたらこれが喜ばれたそうで。初めは「アブ」とか「だんだら」と呼んでいたんだけど、なんだか美味しくなさそうだから(笑)、どんな名前にしようかと二代目とお客様が話し合って、“トロッと口でとろけるから”と「トロ」という名になったとのことです。

よしのずしトロ

𠮷野鮨本店のトロ(画像提供:𠮷野鮨本店)

<𠮷野鮨本店→蛇の市>

𠮷野:蛇の市さんは何度も通いたくなるような、本当に美味しいお鮨を出してくれるお店です。それに、ヒデ(蛇の市寳井さんの愛称)はとっても勉強家。お客様に喜ばれるお鮨を提供するために日々探求していて、蛇の市名物のばらちらしもヒデの代で考案された人気メニューなんですよ。また、土曜日も夜まで開いているっていうのも良いですね。日本橋は90年代の景気低迷の頃の名残で、土日に営業していないお店が多いんですよ。そんな中で、土曜日の営業の後、夜にも食べに行けるから嬉しいんですよね。このタイミングではいち早くテイクアウトも始められて、いつもチャレンジを続けているお店です。

ばらちらし

名物の「ばらちらし」が今ならテイクアウトでいただくことができる。(画像提供:蛇の市本店)

<蛇の市→繁乃鮨>

寶井(たからい):僕にとっては繁乃鮨と言えば一郎さん(繁乃鮨佐久間さんの愛称)です。​三四四会(みよしかい。日本橋料理飲食業組合の青年部)の一員として、一郎さんに憧れて活動してきたから、今があるんだと思っています。明るく前向きに皆を引っ張っていく姿は見習いたいですね。もちろん繁乃鮨はお鮨も絶品。先日お昼に伺ったのですが、自分や𠮷野さんのところと同じ系統のお鮨なのもあり安心して食べられるし、いつ行っても変わらない安定の美味しさでした。

佐久間:ありがとうございます、改めてそんな風に言ってもらったら照れちゃうけど(笑)、嬉しいです。

Q.江戸前鮨の歴史とは?

新宮志歩さん(以下、新宮):皆さん“同じ系統のお鮨”とのことですが、何か共通点があるんでしょうか?

𠮷野:味つけが近くて、酢飯の作り方も似ていますね。うちでは砂糖を入れず赤酢と塩のみでしゃりを作っていますが、皆のところのしゃりも比較的あっさりしていて似ていると感じます。

佐久間:あと昔ながらの食べ方も共通点かな。コースもやっているけど、好きなものを好きな順番で頼むのが江戸前鮨の原点のスタイル。それこそ2,3艦だけ食べて帰っても良いんです。気軽に食べるファーストフード的な感覚がもともと江戸前鮨にはあったんですよね。

しげのすし鮨

目にも鮮やかな江戸前鮨(画像提供:繁乃鮨)

新宮:そもそもですが、江戸前鮨の定義とは何でしょうか?

𠮷野はっきりした定義をするのは難しいのですが、江戸前鮨の意味は時代とともに変化して、今はにぎり鮨=江戸前鮨とされることが多いように思います。200年ほどの歴史がありますが、関西の方で食べられていた箱寿司などと比べると比較的新しい方です。

 “江戸前”という言葉はもともと鰻屋さんが使っていたもので、東京湾に流れ込む、つまり“江戸の前”を流れる川から取れた鰻という意味でした。それを寿司屋が使うようになって「江戸前鮨」と呼ばれるようになったのですが、その大きな特徴はネタが傷むのを防ぐために“仕事”と呼ばれる加工を施すことでした。冷蔵技術がない中で、いかに美味しく食べるかという工夫から生まれたのが、酢や塩で締めたり、煮たりという技です。そうした“仕事”を施したネタが、今も江戸前のネタとして親しまれていますね。

新宮:江戸前ならではのネタにはどんなものがありますか?

寶井やっぱりコハダかなぁ。あと、その稚魚であるシンコなんかも美味しいですね。他の地方ではあまり食べられない魚だけど、鮨で美味しく食べられるようにした、江戸前らしいネタだと思います。

佐久間:あとはアナゴね。近海で獲れたものを甘辛く煮るというのは江戸前流の食べ方です。

よしのずしコハダ

𠮷野鮨本店のコハダ(画像提供:𠮷野鮨本店)

蛇の市 アナゴ

蛇の市本店のアナゴ(画像提供:蛇の市本店)

Q.自宅で江戸前鮨を楽しむためのコツは?

新宮:今だと家でもお鮨を作ってみたい!」という方も多くいらっしゃいそうです。手巻き寿司とかも楽しいですよね。そうした際、何かポイントはありますか?まずシャリをうまく作るのも難しそうですが…

寶井:そう、家で作るのはなかなか難しいんですよ(笑)。お店だと酢と塩だけで味をつけているんですが、家でやるとべちょべちょになったりしてうまくできないんですよね。そこでおすすめなのは市販の“すしのこ”を使ってしまうこと。粉状のすし酢を炊きたてのご飯に混ぜるだけなので手軽だし、けっこう美味しくできます。冷ます時は混ぜながらうちわで扇ぎます。最後にさらしや湿らせたキッチンペーパーをかぶせてしばらく置くと、味が馴染んでちょうど良い固さになります。

それと酢飯ではありませんが、このあいだ外国の方から「マヨネーズをご飯に混ぜてシャリにしたら美味しい」と言われて食べてみたんですが、意外に美味しかったです(笑)。

𠮷野いやぁそれはちょっと…、マヨラーとしては気になるなぁ…。

新宮:だめですよ𠮷野さん!ダイエットする予定なんですよね(笑)?

𠮷野:ああそうでした、我慢します(笑)。

スクショ合成更新

オンラインで行われたインタビューは、終始和気あいあいとした雰囲気(画像:Bridgine編集部)

新宮:続いてネタの選び方ですが、スーパーで買えるようなものでも美味しくいただけるのでしょうか?

寶井:江戸前風にするなら、マグロを漬けにするのはいかがでしょう?気分を盛り上げたければマグロをサクの状態でまな板に乗せ、さらしで巻いた上からお湯をかけ、氷水につける。それからお好みで切りつけにしたマグロを、30分以上醤油に漬けるとちょっと本格的な漬けになります。ちなみに普通の醤油に入れてしまうと濃くなってしまうので、薄口で甘めの醤油にするのがポイントです。あとは江戸前ではありませんが、海老・マヨネーズ・アボカドの手巻きなんかも自宅でやるのに向いているし、お子さんにも喜ばれると思いますよ。

Q.今の日本橋、どのような状況でしょうか。

新宮:外出自粛の影響もあり、なかなか通常通りの営業も難しいと思いますが、街の今の状況をどう見ていらっしゃいますか?

佐久間:僕は日本橋育ちだけど、今までこれだけ長い間百貨店や飲食店が閉まっている状況というのは経験したことがないんですよ。90年代のバブル崩壊で街が活気を失ったときだって、百貨店は開いていて、街の核になっていた。けど今はその百貨店も閉まってしまっていて…不思議な感じですよ。最近運動不足にならないよう、早朝ランニングを始めたのですが、この間の日曜なんて、皇居まで走る間にたった二人としかすれ違わなかった。それくらい今街に人がいない状態なんです。でもこれは、日本橋の人たちが真剣にこの状況を捉え、自粛を守って、皆で街に元気を取り戻そうとしている証拠であるとも思いました。上品な街ですからね、皆さん大人な行動をなさるんです。

一方で日本橋はオフィスが多いから、中にはどうしても出社しないといけない方々がいるのですが、彼らがランチできるところが減って困っているようです。だからテイクアウトをやるお店はきっとありがたい存在だと思いますし、うちも含め地元の飲食店は皆今できることをやろうと、それぞれのやり方で工夫しているところです。働く方々あっての日本橋。支え合っていきたいですね。

Q.今の店舗の営業状況について教えていただけますか?

(※詳細は記事下部をご確認下さい。)

新宮:皆さんのお店の、現在の営業状況を教えていただけますでしょうか?

𠮷野:うちは現在休業中ですが、平日のテイクアウト販売のみ承っています。にぎりやばらちらしなど、ぜひご利用いただければと思います。

よしのずしばらちらしテイクアウト

𠮷野鮨本店のテイクアウトメニューの一例(画像提供:𠮷野鮨本店)

佐久間:うちも5月7日までは休業していましたが、この期間を利用して、もともと予定していたお店の改装を前倒しでやっていました。現在は予約入店と、テイクアウトの展開で営業を再開しています。

しげのずし弁当

繁乃鮨のテイクアウトメニューの一例(画像提供:繁乃鮨)

寶井:蛇の市は店内は休業中ですが、テイクアウトのみ提供しています。にぎり、ばらちらし、巻ものなどいろいろやっていて、お昼はリーズナブルな特別メニューもあります。新しく店舗を使用してくださるようになった近隣にお住いのお客様の声も聞きながら、「手巻き鮨セット」も作ってみました。(※手巻き鮨セットは5/30までの予定)

手巻き画像

蛇の市のテイクアウト「江戸前手巻き鮨」(画像提供:蛇の市)

佐久間:いいね手巻きセット!まーちゃん、買いに行こうよこれ。一緒に手巻き鮨やろう(一同笑)。6人前くらい頼んで豪勢にやりたいなぁ。

𠮷野:笑。でもこの手巻きセットを見て、やっぱりお寿司って人を楽しい気分にさせるものなんだなぁって思いましたね。皆を元気にする食べ物を扱っていることを誇りに思います。

Q.最後に一言ずつメッセージをお願いします。

寶井:安全・健康を第一に考え今はテイクアウトだけですが、できることをできる範囲でやっていきたいですね。こんな時だからこそ、SNS等も活用しながらお客様に寄り添って、喜んでいただける取り組みにチャレンジできたらと思います。

佐久間:皆同じ気持ちだと思いますが、我々にとって美味しいものを出すのは当たり前のこと。いらっしゃいませと言ってから最後お帰りになる時まで、楽しく心安らぐ時間を過ごしていただくことを一番に考えて店作りをしています。だから今の状況が落ち着いたらぜひお店にお越し頂いて、楽しい時間を過ごしていただきたいですね。

𠮷野思うように営業できない歯がゆさはもちろんありますが、このめったにない機会を利用して勉強を重ね、再開した時により一層美味しいものを提供できるように努力しています。我々に限らず大変な思いをして方はたくさんいると思います。一致団結して頑張って、以前の日常に戻るのを祈りましょう。そしてその時が来たら、ぜひこの江戸前鮨を楽しんでいただき、いつか3軒を制覇してくださいね!

文:丑田美奈子(Konel) イラスト:マメイケダ

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