Interview
2022.02.24

クラフトマンシップが息づく日本橋で、おいしいコーヒーを提供したい。オーストラリアから上陸したカフェ、SINGLE Oの挑戦。

クラフトマンシップが息づく日本橋で、おいしいコーヒーを提供したい。オーストラリアから上陸したカフェ、SINGLE Oの挑戦。

近年、日本橋エリアではコーヒーショップの新規開店が相次いでいます。2021年10月、浜町にオープンしたSINGLE O(シングル・オー)もその一つ。オーストラリアに本店を置く人気店は、なぜ日本での旗艦店の場所に日本橋を選んだのか?ユニークな提供スタイルや日本橋周辺に気鋭のカフェが集まる理由を、広報の安村大甫さん、店舗マネージャーの三浦泰子さんにお聞きしました。

皿洗いで飛び込んだお店の味にほれ込み、日本に紹介することを決意

―まずはSINGLE Oとはどんなお店なのか教えてください。

安村:もともとはオーストラリアのシドニー・サリーヒルズというエリアにあるカフェで、ここは日本で言うと表参道のような、カフェが多く若者が遊びに行く街です。今回オープンした日本橋浜町のカフェは日本における旗艦店という位置づけになります。
弊社代表の山本はもともとシドニーのSINGLE Oで皿洗いをしていたのですが、そこで飲んだまかないのコーヒーがすごく美味しくて、これを日本にも紹介したいと思ったそうなんです。それで現地でバリスタや焙煎のトレーニングを受けて日本に戻り、本国オーストラリアでもSingle Oのコーヒーを長年使用してもらっているパンケーキで有名なbillsさんが日本に既に上陸していたこともあって、billsさんへの卸を主軸として事業がスタートしました。

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オーストラリアの店舗の様子(画像提供:SINGLE O)

―ここ浜町でカフェをオープンするより先に、卸としてスタートされていたんですね。

安村:そうなんです。墨田区・両国にシドニーのお店と全く同じ焙煎機をセットアップし、2014年に焙煎所をスタートしました。そのうち、「焙煎機を動かしていない土日に、近所の方やお取引先の方に私たちのコーヒーを飲んでいただきたいよね」という話になり、主に週末限定でテイスティングバーを始めました。その試みも軌道に乗り、もっとお客様の生活に溶け込んだ形の業態をスタートさせたいと考え、2021年10月28日に浜町のカフェをオープンするに至りました。両国は土日限定でコーヒーのみの提供ですが、浜町のカフェではいつでもコーヒーとそれに合う焼き菓子をお楽しみいただけます。

三浦:焼き菓子はお店で作っていて、オーストラリアと日本のお客様の好みを合わせた味になっています。

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コーヒーに合うオリジナルの焼き菓子。イチオシはバナナブレッドだそう

安村:フードのレシピは、SINGLE O本店と同じエリアにあるカフェ「cafe Cre Asion」でシェフをされている佐々木優さんとの共同開発です。佐々木さんは弊社代表の山本とも仲が良く、一緒にレシピ開発をしていただいています。

日本で唯一の提供スタイルで、おいしいコーヒーをスピーディに味わえる

―SINGLE O浜町のユニークな点、こだわりについてお聞かせください。

安村:コーヒー豆については両国の焙煎所で焼いたものを浜町でも使用しているので、どちらに来ていただいても同じクオリティのものを提供しています。一番の違いは、浜町のお店にはCoffee On Tapというマシンがあることです。

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日本でここにしかないCoffee On Tap。わずか6秒で美味しいコーヒーをサーブしてくれる

―このCoffee On Tapとはどういうものなのですか?

安村:シドニーのSINGLE O本社とオーストラリアのベンダーが共同開発したコーヒー提供の専用マシンです。日本ではSINGLE O浜町にしかありません。ご自身でカップを置けば自動でコーヒーが出てくるので、美味しいコーヒーが素早く楽しめるというという点を売りにしています。最大6種類のコーヒーをこちらのマシンから提供しています。もちろんマシンに入っていない種類のものをご希望でしたら、ハンドドリップでの提供も可能です。浜町のカフェではこのCoffee On Tapとエスプレッソベースのコーヒー、そしてハンドドリップと3つのタイプのコーヒーを提供しています

―お店によっては「オーダーを受けてから一杯ずつ淹れる」という丁寧さを売りにしているところも多いですよね。SINGLE O浜町の「美味しいコーヒーを素早く」という考え方はどこから生まれたのでしょうか?

安村:確かに、両国のテイスティングバーの方ではお客様とバリスタが会話を楽しみながら丁寧にハンドドリップで提供する形を取っていて、それが一つの強みでもありました。一方で浜町にCoffee On Tapを導入することに決めた理由の一つは、美味しいスペシャルティコーヒーはもっと素早く提供できるし、日常化できるということを広めたかったからなんです。浜町周辺はオフィスも多いので、休憩時間に自分の席で楽しむコーヒーを素早く買えるメリットは大きいと思うんです。ハンドドリップはどうしても提供まで4~5分かかってしまうけれど、Coffee On Tapなら10秒ですから。もちろんハンドドリップとは違ったニュアンスのコーヒーにはなりますが、その違いも楽しんでみていただきたいですね。時間があれば店内でゆっくり、お急ぎの時はテイクアウトでサッと。SINGLE O浜町はその両立をコンセプトとしています。店内でコーヒーをお楽しみいただく場合は、当店オリジナルの有田焼のカップで提供しているので、ぜひこれにも注目してみてください。

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両国のテイスティングバー(画像提供:SINGLE O)

三浦:機械は一定以上のクオリティのものが安定して出てくる。それをうまく利用して美味しいコーヒーが提供できるのがCoffee On Tapです。本店があるオーストラリアはコーヒー文化がかなり根づいている国であると同時に、彼らはすごく効率的で無駄を嫌うんですね。このマシンはそんな彼らの考え方を反映したものでもあると感じます。

あと、私自身もそうだったのですが、ハンドドリップやシングルオリジンコーヒーって、コーヒーにあまり詳しくない人にとってはハードルが高いかなって思っていて。店頭で注文時するときに迷ってしまって、それがなんだか恥ずかしい気がしていたんです。でもCoffee On Tapならもっと気軽にコーヒーを楽しめるし、お店に通っていろいろな種類を試すことで自分の好きなコーヒーの傾向がだんだんわかってくる。それもこのお店の良さだと思っています。

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普段は両国勤務だけれど、お店が好きすぎて休みの日でも浜町のカフェに来るという安村さん

―リピーターにはどんな方が多いですか?

三浦:近所にお住まいの方や近隣のオフィスで働いている方が多いです。価格的にも毎日来ていただけるよう、サブスクリプションも導入しています。1ヵ月5000円で、1日1杯毎日飲めるとサービスなんですが、こちらも好評です。

安村:コーヒー好きの方でカフェ巡りをされている方や、この業界で一緒に頑張っている他のコーヒーロースターさんもちらほらいらっしゃいますね。東京でコーヒー関係の大規模な展示会があると地方のロースターやメーカーさんもこちらにいらっしゃるので、展示会に出てその足でお店に寄っていかれるんです。「展示会参加よりむしろお店巡りの方がメインですよ」なんて言ってる方もいるくらいで(笑)、業界からも注目いただいているのを感じます。

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スピード重視のCoffee On Tapは路面側に設置。店内奥のカウンターやテーブル席ではゆっくりとコーヒーを味わえる

―みんなそれぞれの個性を持ちつつも、コーヒー業界は横のつながりが強いんですね。

安村:そうですね。兜町K5のスウィッチ・コーヒーでバリスタをされてる方も、オーストラリアのシドニーで修業されていた人で。他のお店の方がうちにコーヒーを飲みに来ることもあれば、僕たちも勉強のために他のお店に行くことも。同じ業界、同じエリアの仲間としてどこもがんばっています。

日本橋周辺にコーヒーショップが増えてきた理由は「軒高」にあり?

―数ある街の中から日本橋浜町という場所を出店場所に選んだ理由をお聞かせください。

安村:最初の旗艦店を構えるにあたっては、本当に幅広くいろんな場所を探していました。その過程で、こちらの物件を扱っている安田不動産さんから、このエリアが再開発中のエリアであること、そして特に手仕事にフォーカスしたクリエイターや企業が入るプロジェクトをやっていると聞いて、その姿勢に強く共感したというのが日本橋浜町に決まった大きなきっかけです。

―SINGLE Oさんも、ご自身のコーヒーに関する事業が「手仕事」と関係するとお考えなんですね。

安村:はい。クラフトマンシップは僕たちも大切にしている精神です。SINGLE Oの商品になるコーヒー豆を栽培している農園の人たちとの関係性や、大量生産はせずにクオリティを見ながら一つずつ作るという姿勢、そしてお客様にしっかりしたホスピタリティで届けること。そういったものを企業としても大切にしているので、「手仕事」というキーワードにはとても共感しました。

―なるほど。客層はどんなところを想定されていたんでしょうか?

安村:浜町はデモグラフィック的にも魅力的な場所でした。少し行けば住宅街があるので地域にお住まいの方もいるし、お店の周りにはオフィス街があって働く人のニーズもある。東京駅にもアクセスが良いので、コロナ禍前は外国人観光客も多かったと聞いています。いろいろなレイヤーのお客様がいる街で、日常的にスペシャルティコーヒーを楽しんでいただける場所としてピッタリでした。

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清洲橋通りに面した店舗外観。12時になるとランチついでにコーヒーを買い求める人たちでにぎわう

―それにしても日本橋、蔵前、清澄白河などこの一帯は近年コーヒーショップが増えているなと感じます。このエリアへ出店が相次ぐ理由とは何なのでしょうか?

三浦:一つは焙煎所に関係していると思いますね。

安村:そうなんです。SINGLE Oも最初に焙煎所を作らないといけないと考えた時に、必要なのは「焙煎機が入れられる物件」でした。両国の焙煎所がある墨田区もそうですが、東京の東側はもともと工場が多いエリアなので、軒高が高い物件が多いんです。業務用の焙煎機は排気ダクトなどもあわせて設置しないといけないので、必然的にそういう物件がある街にコーヒー関連業が集まりやすいんだと思います。

それからモノづくりが根づいている街だと、近隣住民の方にもご理解があってサポーティブなんですよね。そんな風に両国でSINGLE Oを支えてくださった方々にも引き続きお店に来ていただきたいので、浜町のカフェは両国エリアから足を延ばせる範囲内に構えたという経緯もあります。

―なるほど。2022年に入ってからも注目ショップの開店は続いていますし、日本橋とその周辺のコーヒー文化はまだまだ成長途中と言えそうですね。

安村:そうですね。1月にはソイル日本橋にコーヒーに力を入れたベーカリーカフェの「Parklet(パークレット)」さんがオープンしたばかりです。表参道で既に大人気のコーヒー豆専門店のKOFFEE MAMEYAさんの新業態である「KOFFEE MAMEYA -Kakeru-」も清澄白河にオープンしたんですよ。ここはU字型のカウンターからコーヒーをコースのように提供するというスタイルで、コーヒーの贅沢な楽しみ方を提案しているんですが、東側エリアの方がお店の空間を広く持てるので、今後西側で人気のプレイヤーが東側に進出してくる流れもより進むのではないでしょうか。

―近隣のコーヒー店で気になるところは?

安村:蔵前の方になりますが、うちのお取引先でもあるダンデライオンチョコレートさんや、兜町のKABUTO ONEの中に入っている「KNAG(ナグ)」さんも気になっています。カフェとコワーキングスペースの融合みたいな業態がユニークなんですよね。またParkletさんは「Overview Coffee」というサステナビリティを意識したロースターのコーヒーを使っていて、親近感を持っています。なぜなら僕らもサステナビリティは重視していて、例えば店舗で使用しているテーブルや店内の装飾にリユースや廃材を再利用するなど、さまざまな取り組みをしているので。

SINGLE Oブランドの豆、そしてマシンを通してもっと街と繋がりたい

―まだオープンから半年足らずのSINGLE Oですが、今後街の中ではどんな場所になっていきたいとお考えですか?

三浦:最初の3か月はまず順調に営業することに注力してきましたが、今後は浜町のコミュニティや地域イベントに私たちも積極的に参加していきたいと思っています。何か催しがある時に「じゃあSINGLE Oさんにコーヒーを頼みたいね」って言っていただけるように、浜町コミュニティの中で「コーヒーと言えばSINGLE O」という立ち位置を確立していけたらと思っています。

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「コーヒー初心者の方でも気軽に入れるお店で、自分の好きな味に出会ってほしい」と三浦さん

安村:今は新型コロナで難しいですが、みんなが集まれる場所にしていきたいですね。店内でのコーヒーの飲み比べイベントとして、例えばいろんな抽出方法で作ったコーヒーを飲んでみるとか、スペシャルなコーヒー豆が出てきたらそれをプレゼンするような会とか、そんなことをやってみたいです。お客さん同士で交流するだけじゃなく、お店のバリスタとの会話も楽しんでいただけるようなお店になっていけるといいですね。

―SINGLE Oとしては今後ブランド、お店をどのように発展させていきたいと考えていますか。

安村:浜町のフードメニューはこれまで焼き菓子がメインでしたが、2022年2月より週末限定でブランチメニューを始めました。本国オーストラリアで人気の味をお楽しみいただけます。会社としては環境問題について考え、サステイナブルにコーヒーを提供するためのプロジェクト(No Death To Coffeeなど)に取り組んでいます。このようなプロジェクトを、SINGLE Oのコーヒーを通して引き続きみなさんに紹介していきたいです。また、この周辺では浅草橋のDDDホテルさんにうちの豆を使っていただいていますが、もっと卸としてのプロモーション施策も強化していきたいですね。
Coffee On Tapのマシンは今後SINGLE O JAPANが日本の正規代理店となる予定なので、ホテルさんやコワーキングスペースさんに導入をご提案していきたいと考えています。SINGLE Oのカフェについても、機会があれば2店舗目、3店舗目と増やしていきたいので、ぜひいい物件があれば教えてください(笑)。

安村さんスクエア

コーヒー豆のパッケージや、シーズナル商品に添えるカードをデザインしてくれるクリエイターさん

SINGLE Oはサステナビリティを大切にしているのでそういう意識が高いクリエイターさんと一緒に商品開発などをやりたいですね。(安村さん)

三浦さんスクエア

ブーランジェリー・ジャンゴ

SINGLE Oの道路を挟んで向かいにあるパン屋さん。スタッフみんな大好きなお店ですし、あちらのシェフもよくお店に来てくださいます。ジャンゴさんにパンを買いに来たついでにとうちに寄ってくださるお客様も多いんですよ。(三浦さん)

取材・文:中嶋友理 撮影:岡村大輔

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