Interview
2021.09.08

お店でも家でもそのおいしさに触れてほしいから。 バズレシピを生んだシェフが日本橋から発信する四川料理の魅力。

お店でも家でもそのおいしさに触れてほしいから。 バズレシピを生んだシェフが日本橋から発信する四川料理の魅力。

2019年1月、グルメサイトの連載企画で紹介されバズを巻き起こした「麻婆豆腐の作り方」。レシピを提供したのは日本橋・室町にある四川チャイニーズレストラン「リバヨン アタック」の料理長、人長良次さんです。2021年7月には自身初となるレシピ本『四川料理のスゴい人 自宅でつくる本格中華レシピ』も出版した人長さんに、四川料理の魅力やお店の味を家でも楽しむための発信活動についてお聞きしました。

花椒というスパイスの魅力を知り、四川料理の道へ


―まずは人長さんのご経歴から教えてください。料理の道を志したのはいつ頃でしたか?

僕の家は親が共働きで、小学生の頃から僕がご飯を作ることが多かったんです。年の離れた兄弟も部活でなかなか帰ってこないので、作れるのは僕しかいなくて。でも僕がご飯を作ると、親や兄弟は「おいしいね!」ってちやほやしてくれるんですよ(笑)。それで僕もその気になって、将来は料理をやろうと思っていました。中学の時には料理人になろうと決めていたので、高校は卒業と同時に調理師免許が取れる私立駒場学園に進学しました。

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今回お話を聞いた人長良次さん

―四川料理との出会いのきっかけはどんなことだったのでしょう?

もともと僕、料理人=コックさんという漠然としたイメージがあって、最初は洋食を目指そうと思っていました。ところが、駒場学園で橋本暁一氏の授業を受けている時に、四川料理の代表的な食材である花椒を食べる機会があって。当時は花椒なんて知らなかったので、食べた時の痺れに「何だこれ!?」と衝撃を受けました。同時に「これは面白いな」と思い、どんどんと四川料理にのめりこんでいきました。それで当時、シェラトン都ホテルの「四川」というお店で料理長をされていた橋本氏にお願いし、9年間そこに入って修行させてもらいました。だから僕の師匠は四川料理の面白さを教えてくださった橋本氏なんです。その後は虎ノ門にある頤和園というレストランで7年ほど働き、そこから現在所属するバルニバービという会社に入社し、リバヨン アタックの料理長になりました。

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店内2

リバヨン アタックの店内。個室やカウンターもあり、さまざまな用途で利用できる(画像提供:リバヨン アタック)

―四川料理で「リバヨン アタック」という店名はなかなか個性的だなと思いました。

もともと弊社が運営しているレストランの中に「リバヨン」というお店がありまして、リバヨン アタックはその2号店です。「リバヨン」は台東区の蔵前にあるんですが、隅田川沿いの四階にあるお店なので「川=リバー」と「四階=ヨン」でリバヨンとうちの社長が名付けました。リバヨンは近隣の方はもちろん国内外問わずいろんな人の交流の場として機能しているので、何かそういうお店を日本橋でもできたらという思いでリバヨン アタックは始まっています。なのでリバヨン アタックにも卓球台やカラオケがあるんです。店名の「アタック」は、卓球の攻撃の「アタック」と、このお店が弊社初の中華料理店だったので、前に突き進んでいくぞという思いをこめてつけられた名前です。

卓球

蔵前の店舗同様、リバヨン アタックでも卓球が楽しめる(画像提供:リバヨン アタック)

―どんなお客さんが多いですか?

お客様の6~7割は女性です。ランチは比較的ボリュームのあるメニューをご用意していますが、女性でもみなさん結構ペロッと完食していかれますね。ディナーはこれまで二次会利用などでのご利用も多かったのですが、最近はお酒類の提供ができない期間も多いため、お一人様での利用が増えました。ディナータイムのコースはお一人からご注文いただけますし、お一人でも来店しやすい雰囲気ですので、ぜひお気軽にお立ち寄りいただければと思います。

―人長さんは毎年、本場の四川にも足を運ばれているそうですね。

最近は新型コロナウイルスの影響で行けなくなってしまいましたが、基本的には毎年スパイスの買い付けに行きます。だいたい4日~5日ぐらいお休みをいただいて、その間にひたすら調味料を買い、あとは食べ歩きをしています。以前行った時は5日間で150品食べ歩いて、帰ってくるまでに5kg太ってましたね(笑)。それぐらい、もうひたすら食べます。

YouTubeでは中国の市場探訪の動画も公開中(Shibireru TV 公式チャンネルより)

―現地で吸収したものは、どんなふうにお店の料理に反映されているのでしょうか?

僕が四川省で食べた料理をそのまま日本に持ってきても、辛すぎたり、油っぽすぎたりで、たぶん日本の方には合わないと思うんですね。なので少し甘めにしたり、使う油を変えたり、形状も食べやすいようにアレンジを加えています。例えばうちの看板メニューの一つに辣子鸡(ラーズーチー)という、たくさんの唐辛子の中に手羽先が入っている料理があります。本場だと爪の先ぐらい小さく切った鶏肉を使うのですが、正直すごく食べづらいんですよ。なのでリバヨン アタックでは日本人にもなじみがある手羽先に変えてお出ししています。そんな風に、僕のフィルターを通して、「こんな四川料理もあるんだよ」ということを日本の皆さんに伝えられたらいいなと思っています。

家庭で作れるレシピの発信と、お店の集客は両立する

―人長さんと言えば、2018年にスタートしたYouTubeチャンネル「Shibireru TV」が好評です。どうして動画配信を始めようと思ったのですか?

お店をオープンした当初は本当に無名でしたし、日本橋の中でも新参者だったので、何か自分たちから何か発信した方がいいよねという話になって。最初は「YouTubeでもやってみれば?」くらいのノリから始まったんですよ。僕も動画制作なんてやったことない素人でしたが、お店のことだけでなく四川料理のことをもっと知ってほしいという思いは強くて、それらを伝えるためにはやっぱり動画が良いなと感じていたんですよね。日本では四川料理というと麻婆豆腐とかエビチリとか、要は市販の時短調味料セットにあるようなメニューが一般的なので、それだけではなく「四川料理にはこんなメニューもあるんだよ」ということを広めたかったんです。それで最終的には僕の方から会社にやらせてくださいって言って、YouTubeチャンネルをスタートしました。

―Youtubeチャンネルでは本格的な四川料理の作り方を配信していますよね。レストランの料理人がおうちで簡単に作れる方法をあそこまで教えてしまっても大丈夫なのでしょうか?

四川料理は広めたいけど、レシピを教えたくないというのはすごく矛盾していると思うんですよ。四川料理は難しそうなイメージがあるかもしれませんが、意外にも家庭のフライパンとカセットコンロだけで本格的な四川料理を作れる方法があるんです。だったらそれを伝えてもっと身近に感じてもらうことも、四川料理を広めるということになるんじゃないかと思います。実際に、「YouTubeを見て作ってみたらすごくおいしくできたので、今度はお店の味と食べ比べて答え合わせをしたい」と言ってお店に来てくださる方も多いです。だからレシピを公開することは最終的に集客にも繋がるんだなと思いました。

一番人気は麻婆豆腐のレシピ動画(Shibireru TV 公式チャンネルより)

―レシピの中でも、食のウェブマガジン「メシ通」さんに掲載された麻婆豆腐のレシピは話題になりましたね。同レシピの動画はShibireru TVの動画の中でも1位の再生回数を誇っています。

最初はメシ通さんからオファーをいただき、自宅で作れる麻婆豆腐のレシピ記事をアップしたところ、これがありがたいことにすごくバズったんですよ。それでレシピを連載企画にしましょうということになり、これも好評をいただいて。今年6月にはこれまでに公開してきたメニューをまとめたレシピ本としての書籍化に繋がりました。

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レシピ集には家庭で作りやすい22品のレシピを掲載(画像提供:リバヨン アタック)

―レシピ本に載せたメニューはどういった基準で選ばれたんですか?

メシ通で上げていた記事のレシピだけでは足りないので、新しく10品ほど追加しています。スーパーやコンビニで買える食材であることと、家庭用のフライパンとカセットコンロで作れる料理であることという条件は常に念頭に置いているので、実際にスーパーに買い物に行って「これなら簡単に手に入るから家でも作れるな」ということを確かめながらレシピを選んでいます。

―今回のレシピ本はどんな人に届いてほしいとお考えですか。

まず幅広くいろんな方に四川料理を知っていただきたいですね。あと、このレシピ本を通して四川料理が好きな方とももっと繋がっていきたいなと思っています。先日、レシピの出版記念としてオンラインのリモート料理教室をやらせていただいたのですが、そういうことをやるとすごくいろんな方と繋がれるんですよね。僕は今まで料理教室って、どこか場所を借りてやらなければできないことだと思っていたんですが、リモートでやってみたら全然問題なくできることがわかった。なので今後はお店に来られないような距離にいる全国の方々へ、こんな四川料理があるんですよ、こんなに身近な家庭料理なんですよってことを伝えていきたいです。

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情報発信はとにかく毎日、継続することが大事

―この1年半ほど、飲食業界は新型コロナの影響で苦境が続いています。人長さんにとってコロナ禍に突入してからの時間はどんなものでしたか?

飲食業界だけじゃなく、多くの業界が本当に大変な思いをしている時代ですよね。僕がこの仕事で一番幸せだと感じるのは、お客様が食事をされて笑顔になっているのを見る時なんですが、今はお客様の数自体が減ったことで笑顔を見る機会も減っているのがつらいところです。そんな中でも来てくださったお客様は、僕ら料理人もホールスタッフも明るくお迎えして、「今日ここでご飯を食べてよかったな」と思っていただけるように、元気良くやるよう意識しています。

―多くの方が集客に苦心されていると思いますが、ネットを通した情報発信を得意とされている人長さんから、何かアドバイスがあればお願いします。

いやいや、僕のような新参者に言えることなんてないですよ!僕はたまたま人前に出てしゃべることが好きなので、YouTubeにも向いていたのかなと思いますけど・・・。キッチンなのにお料理のサービスに出てお客様とおしゃべりで盛り上がってしまって、ホールスタッフに「そろそろ戻って料理作ってください」と怒られてしまうくらいなので(笑)。

ただYouTubeという手法は、正直1人で始めるのはなかなか難しいと思いますね。僕は企業に属していますし、Shibireru TVもいろんな方に助けてもらえるからやれているのだと感じます。だから挑戦するなら1人でやろうとせずに周りの協力を仰ぐことは大事かもしれませんね。また、僕はInstagramを毎日更新してるんですが、こちらは動画よりももっと手軽です。SNSは常に発信し続けないと、1~2回やっただけではすぐに埋もれてしまうので、日常的なものとして小さなことでもいいからとにかく続けることがポイントだと思います。例えば日替わりランチの写真を毎日上げて紹介したり、ECサイトで販売している冷凍食品の調理の様子を公開したりしています。InstagramもFacebookもTwitterも一番簡単かつお金をかけずにできることなので、最低限この3つを活用していくといいのではないでしょうか。大きな労力をかけずにできるSNSを、継続してやっていくのがまず一歩かと。

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四川中華の辛さと旨さが人気の4品セット「シビれるアタックBOX」(画像提供:リバヨン アタック)

―今お話に出た、お料理の通販について詳しく教えてください。

弊社が運営するECサイトの「CANDLE TABLE」で、リバヨン アタックの麻婆豆腐やエビチリを販売しています。辛くない料理やセット販売など幅広いラインナップをすべてお店で手作りし、真空パックにして冷凍・箱詰めしています。手作業なので大量生産はできないのですが、「なかなかお店には行けないけどリバヨン アタックの味を試してみたい」という方に好評です。また、8月からは「シビ辛調味料セット」も販売しています。自家製辣油、食べる辣油、四川万能ダレ、花椒粉の4点をセットにしています。辛いもの好きな方はぜひ!

食と理容を組み合わせて日本橋を盛り上げるようなコラボイベントがやりたい

―日本橋界隈で交流のあるお店や企業さんはありますか?

リバヨン アタックの近くに「ヘアサロン大野 iki日本橋本店」という理容室があって、このお店とは仲良くさせていただいています。ヘアサロン大野はシェラトン都ホテルさんにも入っていて、僕の師匠はいつもそこで髪を切っていたんですよ。たまたま日本橋本店の方がリバヨン アタックに来てくださって雑談していた時にその繋がりがあることがわかり、そこからぐっと距離が縮まりました。ヘアサロン大野さんとは日本橋を盛り上げるような試みを一緒にやっていきたいねと話していて、異業種でコラボできたらなと思っています。ただ理容と食をくっつけるのではなくて、“美”に繋がる食という意味で四川料理ならではの発汗して代謝を促すようなメニューとか、和漢をイメージしたものを組み合わせていけたらと思っています。例えば大野さんでフットマッサージやネイルケアを受けてリラックスした後、リバヨン アタックに来ていただいてお食事を楽しむというのは、流れとして繋がるかなと思って。お料理の内容も美容を意識した薬膳とか、フカヒレを使ったコラーゲンメニューとか、そういったものを考案中です。

―日本橋で気になっているスポットはありますか?

三井二号館に出店した「スペイン料理 aca」さんにはぜひ一度食べに行きたいなと思っています。予約が取れないくらいの超人気店なので、なかなか難しそうなんですが・・・。僕、中華料理はあんまり食べに行かないんです。基本的には懐石とかフレンチ、イタリアン、スペイン料理などの他ジャンルの料理を食べに行くことが多いですね。というのも、中華料理を食べるとどうしても無意識のうちにそのお店に寄っていってしまって、自分の独創性が損なわれてしまう気がして。でも違うジャンルの料理人の方のお料理は勉強になるし、クリエイティブな部分を刺激されるのでぜひ伺いたいです。そのうえで四川料理の可能性を広げるヒントを見出せたら良いですね。

店頭

(画像提供:リバヨン アタック)

スクエア

日本橋のお店が集まるお祭りや物産展

理容と掛け合わせるような異業種コラボも興味がありますが、食分野で集まる企画も良いですよね。特設会場に日本橋のお店が集まって一品ずつ提供するようなイベントがあったらぜひ出てみたいですね。NIHONBASHI SAKURA FESにも気になります。

どら焼き

清寿軒のどら焼き

以前お世話になった方が和菓子がお好きと聞いたので、どうせなら日本橋で買いたいなと思って。予約しないと手に入らないそうで、取りに行ったら予約分以外は完売という人気でした。(画像提供:清寿軒)

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