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2022.12.23

ローカルの素材とグローバルな感性が交差する、日本橋ならではの食みやげ 【つなぎふと TEAM C】日本橋三越本店×マンダリン オリエンタル 東京 開発プロセスリポート

ローカルの素材とグローバルな感性が交差する、日本橋ならではの食みやげ 【つなぎふと TEAM C】日本橋三越本店×マンダリン オリエンタル 東京 開発プロセスリポート

日本橋の新しい食みやげをコラボレーションでつくるプロジェクト「つなぎふと」。今回ご紹介するのは、日本橋三越本店とマンダリン オリエンタル 東京によるTEAM Cです。日本橋の地にルーツを持つ日本を代表する百貨店と、日本では唯一東京・日本橋に拠点を構えるグローバルに展開するホテルグループによる大型コラボの核となるのは、日本橋産のハチミツ。日本橋三越本店が2016年から取り組んでいる屋上養蜂で収穫した地場産のハチミツを、マンダリン オリエンタル 東京が誇る料理人たちはどのようなおみやげに落とし込んでいくのでしょうか。その開発プロセスをリポートします。

養蜂から街の未来を描く

TEAM Cの起点となったのは、日本橋三越本店が2016年に始めた養蜂プロジェクト「日本橋みつばち倶楽部」。日本橋三越本店新館の屋上に巣箱を設置し、ミツバチたちが春から夏にかけて集めたハチミツを収穫しています。これらは蜂蜜専門店「L‘ABEILLE(ラベイユ)」によって「日本橋のはちみつ」として製品化され、日本橋三越本店で限定販売しているほか、人気の和洋菓子ブランドやカフェとコラボレートした限定スイーツやカフェメニューなどもつくられてきました。
三越がこのプロジェクトを始めた目的は、日本橋産ハチミツの製造・販売にとどまらず、取り組みを通じて日本橋の緑化に寄与し、一人でも多くの人に自然環境に関心を持ってもらうきっかけをつくることなのだそうです。

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日本橋三越本店新館の屋上で行われている養蜂プロジェクト「日本橋みつばち倶楽部」。現在は年間通じて150kgほどのハチミツが収穫されている(画像提供:日本橋三越本店)

「日本橋みつばち倶楽部」のミツバチは、日本橋で繁殖・活動~高尾山麓で越冬のサイクルで1年を過ごします。自然豊かな高尾山麓に比べ、日本橋はミツバチたちにとって暮らしにくい環境にも思えますが、実は田畑がないため農薬が少なく、天敵のスズメバチも少ない都心はかえって好都合とのこと。ミツバチの行動範囲である半径2キロ圏内にある皇居などの花から蜜が集められるため、都会ならではの自然の恵みを感じることができるのです。
都心にいながら自然との共生について考えるきっかけを与えてくれる「日本橋みつばち倶楽部」。この取り組みを通じて、近い将来高速道路が地下化され、青空が広がる日本橋を、人とミツバチが共生する緑多き街として未来につないでいくことが、日本橋三越本店の思いなのです。

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日本橋三越本店で限定販売されている「日本橋のはちみつ」。一匹のハチミツが一生分をかけてつくるハチミツはわずかティースプーン一杯分。自然の恵みを大切にいただきたい(画像提供:日本橋三越本店)

そんな三越の取り組みに共感し、参加を表明してくれたのがマンダリン オリエンタル 東京です。「立地する土地柄と文化に敬意を表するホテルづくり」を理念に掲げ、地域に根ざしたホテル運営を行ってきたマンダリン オリエンタル 東京と、日本橋の地で300年以上に渡って商いを続けてきた日本橋三越本店がタッグを組み、街の未来をともに描くコラボレーションが実現することになりました。

日本橋の街で商いをすること

そんな両者のキックオフミーティングが11月17日に行われ、日本橋三越本店から食品バイヤーの西牟田桂介さん、マネージャーの中村栄二さん、マンダリン オリエンタル 東京からはレストラン部門を管轄する料飲部に所属する副支配人の加藤竜太さんが参加しました。
実は、三越の西牟田さんとマンダリン オリエンタル 東京の加藤さんは周知の仲。「開業以来、三越さんとはずっとお仕事をさせて頂いており、事あるごとに相談に乗ってくださっている西牟田さんのことは、心を許せる近所の友だと勝手ながら思っています」と加藤さん。一方、加藤さんが管理するグルメショップに個人的にも足を運んでいるという西牟田さんは、「マンダリン オリエンタル 東京さんと三越のお客様は親和性が高いですし、日本橋における商業と宿泊の拠点になる場所同士が連携することで、街の活性化にもつなげていきたい」と抱負を語ります。

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TEAM Cキックオフミーティングの様子。都合によりマンダリンの加藤さんはオンラインでの参加となった。(編集部撮影)

日本橋にルーツを持ち、創業350周年を来年に控える日本初の百貨店と、日本の拠点として17年前にこの街を選んだアジア発のグローバルに展開するホテルグループ。日本橋室町・中央通りの至近距離に位置する両者ですが、そのバックグラウンドは対照的です。
加藤さんが、「歴史を重んじながら新しいものを生み出してきた日本橋の地にホテルがあることは、グループにとって非常に重要なことです。地域の皆様から日々勉強させて頂きながら、ホテルとしていかに街の活性化に貢献できるかを考えてきました」と語るように、マンダリン オリエンタル 東京はこれまでも街のイベントやプロジェクトに積極的に参加してきました。

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2020年春に開催された「SAKURA FES NIHONBASHI」では、同じく日本橋に出店している石川県金沢市の金箔専門店「箔座」とコラボした金箔のメニューを展開した(Bridgine過去記事より)

(関連記事:マンダリン オリエンタル 東京×箔座のコラボレーション。 日本の伝統の技、金箔を活かした「桜メニュー」。その制作背景に迫る

一方の三越は、西牟田さんが「この地を中心に350年近く商売をさせてもらってきた私たちは、近代百貨店の走りとしてさまざまな日本初の取り組みをしてきました。ただ、近年は他社さんも新しい挑戦をたくさんされている中、我々には『次は何をしてくれるのか?』というお客様の期待に応え続けていく使命がある」と語り、中村さんが「再開発で日本橋の街が変わり来街者が増える中で、 三越としても過去に積み上げてきた街や人とのつながりや商売の仕方を大切にしながらも、既存の概念に縛られない新しい取組みにチャレンジすることで、日々変化するお客さまのニーズへ革新的な提案をできるように進めていきたい。」と話すように、創業の地から新しい発信をしていこうとする強い意思を示してくれました。

街の期待に応えるおみやげを

日本橋産のハチミツを用いる今回のおみやげづくりに関して三越の中村さんは、「日本橋の緑化や地域の連携強化を目指して都市養蜂に取り組んできましたが、マンダリン オリエンタル 東京さんや『つなぎふと』というプロジェクトの力をお借りすることで認知度をより高めていきたいですし、来年の350周年に向けて日本橋を代表する手土産を開発したい」と思いを語ります。さらに、「ビジネス街にある日本橋では手土産というものへの期待値が高い。特に近年はオリジナリティや話題性があるものが求められる中、日本橋らしいおみやげを提供したいという思いを持っていました。今回『つなぎふと』という魅力的なプロジェクトで非常に良い機会が頂けたので、この街で採れたハチミツを使って生み出されるものをしっかり発信していきたい」と三越の西牟田さんが続けます。

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近年はミツバチが突如いなくなる『蜂群崩壊症候群』によって、ミツバチを介した受粉が正しく行われず、食のサイクルに影響が出ることも。ハチミツは、人と自然の共生について考えるきっかけを与えてくれる貴重な存在だ(画像提供:日本橋三越本店)

それを受けてマンダリン オリエンタル 東京の加藤さんは、「我々はホテルメイドにこだわり、シェフが考案し、何度も試作を重ねた商品の中から、エグゼクティブシェフによる厳しい品質チェックを通ったものだけを提供しています。こうしたこだわりをより多くの方に知って頂く良い機会だと思っていますし、これからつくる商品を通して日本橋の魅力をより多くの人に伝えていきたい」と思いを語ってくれました。
また、三越の西牟田さんからは、「館内の喫茶スペースなどで日本橋に由来するドリンクなどとのペアリングを楽しんで頂くなど、この街に足を運んで頂く動機になるようなイベント性のある施策もできるといいですね」という提案も。

マンダリン オリエンタル 東京の加藤さんは、「グループ全体でこの5年ほど、使い捨てプラスチックゼロを目指すプロジェクトに取り組み、独自の包材なども開発してきました。こうした環境に配慮した取り組みも発信していけたらと考えています」と語り、ハチミツを通じた自然との共生を掲げる三越とともに持続可能な都市の未来を描いていくことにも意欲を見せていました。
こうしたさまざまな意見交換を経て、まずはマンダリン オリエンタル 東京のベーカリー部門で「日本橋のはちみつ」を用いた試作品をつくることが決まり、この日のキックオフミーティングは終了しました。

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中央通りに面した「ザ マンダリン オリエンタル グルメショップ」。ホテルメイドにこだわったブレッドや焼き菓子、ケーキなどが並び、カフェエリアではサンドイッチやドリンクを楽しむこともできる。(画像提供:マンダリン オリエンタル 東京)

「日本橋のはちみつ」 meets イタリア伝統菓子

キックオフミーティングからおよそ2週間後、マンダリン オリエンタル 東京で最初の試食会が行われました。この日は、キックオフミーティング時のメンバーに加えて、三越の食品バイヤーで、「日本橋みつばち倶楽部」のプロジェクト提案を積極的に行い、自ら養蜂体験もしたという高田幸子さん、「日本橋のはちみつ」を製品化したラベイユの加藤弦さん、そして、マンダリン オリエンタル 東京のヘッドベーカー・中村友彦さんが参加しました。

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マンダリン オリエンタル 東京のヘッドベーカー・中村友彦さんについて紹介する加藤竜太さん。

今回中村さんが試作してくれたのは、日本橋産ハチミツを練り込んだパネットーネ。ミラノ発祥とされるこの伝統的な発酵菓子パンは、イタリアではクリスマスの4週間前、キリストの降誕を待ち望む「アドベント」の期間に焼く習慣があるそうで、近年は日本でもクリスマス前にパン屋さんやお菓子屋さんで見かけるようになりました。

フランス系ベーカリーの出身だった中村さんが本格的にパネットーネをつくるようになったのは、イタリア人であるマンダリン オリエンタル 東京のエグゼクティブシェフ、ダニエレ・カーソンさんの影響によるところが大きいそうです。視察のために現地イタリアに赴くほどの熱の入れようで、11月に開催された「パネットーネ・コンテスト in Japan」では見事ファイナリストに残ったパネットーネの名手です。

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旬の素材であるブルーベリーとホワイトチョコレートを合わせたパネットーネ。通常のブルーベリーよりも実が小さく味が凝縮したワイルドブルーベリーの酸味と、ホワイトチョコレートの甘みのバランスが絶妙で、ワインなどアルコールとの相性も良さそうだ。

通常、パネットーネにはオレンジピールやレーズンなどのドライフルーツが入りますが、今回の試作では商品の販売時期を考慮し、春に最盛期を迎えるブルーベリーを取り入れ、さらにホワイトチョコレートも使われています。あえて春の季節にパネットーネを提案することについて中村友彦さんは、「初めて本物のパネットーネを食べ、その美味しさに驚いて以来、この魅力を日本の方たちにも知っていただきたいという思いで、草の根的に普及活動をしてきました。マンダリン オリエンタル 東京でも『クラシコ』と呼ばれる伝統的なパネットーネを通年商品として提供してきました」と思いを語ってくれました。

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パネットーネについての思いを語るマンダリン オリエンタル 東京のヘッドベーカー・中村友彦さん。

試食をした三越の面々は、「ブルーベリーがかなり入っているので食べ進めるのが楽しい」(西牟田さん)、「先日のパネットーネコンテストで頂いたものも非常に美味しかったが、よりしっとり感があり、ブルーベリーの酸味も良い引き立て役になっている」(高田さん)、「今まで食べたパネットーネの中で一番美味しい。マスカルポーネなど素材を組み合わせても美味しそう」(中村栄二さん)と大絶賛でした。

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中村友彦さんがつくったパネットーネの試食をする三越の食品バイヤー、西牟田さん(左)と高田さん(右)。フォークなどは使わずに手でちぎって食べるのが現地イタリア流なのだとか。

そして、肝心の「日本橋のはちみつ」について中村友彦さんは、「砂糖の代わりに一部ハチミツを使っていますが、それによってしっとり感が持続するんです。上質なハチミツなので味もより美味しくなりました」とそのポテンシャルに驚いていた様子。

L‘ABEILLEの加藤弦さんから、「季節によって花の種類が代わるので、ハチミツは収穫時期によって味が変わるんです」と説明を受け、マンダリン オリエンタル 東京の加藤竜太さんからは、「旬の食材を用いたホテルメイドにこだわる私たちとしても、季節ごとに旬のハチミツを使ったものを継続展開ができるとより広がりが生まれるかもしれない」というアイデアも出てきました。三越の高田さんも「季節ごとに味わいが変わるハチミツと旬の素材を合わせていくのも面白そう」と賛同し、季節ごとにレシピを変えるというパネットーネの新たな可能性も見えてきました。

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「日本橋のはちみつ」の製品化を手掛けたL’ABEILLEの加藤弦さん(右)の説明を聞く、三越・中村栄二さん(中)と高田さん(右)。

ハチミツづくりを通じて街の未来を見据える日本橋三越本店の思いと、マンダリン オリエンタル 東京のグローバルな感性が出会うことで生まれる新しい食みやげ。さまざまな人たちの知恵や技術、各地の素材がつながることで、新たな文化を生み出してきた日本橋らしい食みやげの誕生に期待が高まります。
そんな日本橋らしさや、おみやげに込められた両者の思い、未来へのメッセージを伝えていくためのコミュニケーションも今後の課題。次回以降は、ネーミングやパッケージなどについての議論も深めていくことになりそうです。

ともに日本橋という地に根ざしながら、グローバルのネットワークや顧客を持つ両者がつくる日本橋発のおみやげは、国内はもとより、海外から訪れる人たちにとっても魅力的なものになるはず。そんな期待感をも抱かせてくれるTEAM Cのおみやげ開発のプロセスを、Bridgineでは引き続きレポートしていきます。今後の展開にもぜひご期待ください。

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文:原田優輝(Qonversations)/撮影:岡村大輔

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