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2023.03.03

キーワードは、「仲間づくり」。「日本橋サステナブルサミット」から考えるエリアマネジメントの可能性。

キーワードは、「仲間づくり」。「日本橋サステナブルサミット」から考えるエリアマネジメントの可能性。

昨年11月28日、食や教育、働き方、エネルギーなどの分野で革新的な取り組みを行う企業の担当者が集う「日本橋サステナブルサミット2022」が開催されました。「人的資本の好循環」をテーマに掲げた同イベントには日本橋に拠点を置く企業も多く登壇し、サステナビリティに関するさまざまな取り組みが紹介されました。イベントを主催した一般社団法人日本橋室町エリアマネジメントの事務局長を務める三井不動産ビルマネジメントの黒田誠さん、共催者という立場で関わったサステナブル・ブランドジャパンのカントリーディレクターである株式会社博展の鈴木紳介さん、そして日本橋に拠点を置く企業として登壇した中外製薬の酒井めぐみさんの3人にイベントを振り返ってもらうとともに、日本橋の企業をつなぐエリアマネジメントの役割などについて語っていただきました。

日本橋サステナブルサミットとの関わり

ーまずは、皆さんの自己紹介と、日本橋サステナブルサミットとの関わりについてお聞かせください。

黒田:私は2001年に三井不動産ビルマネジメントに入社し、2013年に千葉県の柏の葉スマートシティに関わった経験などからまちづくりに関心を持つようになりました。2020年からは日本橋の街と関わるようになり、現在は一般社団法人日本橋室町エリアマネジメントの事務局長を務めています。このエリマネは日本橋エリアの再開発が進む2014年に、日本橋らしい景観を維持し、江戸桜通り地下歩道をはじめとした公共空間などを活用した街の賑わい創出・支援を目的に立ち上がりました。これまでに地域の皆様とともにさまざまなイベントづくりを行っており、今回の日本橋サステナブルサミットも我々が主催したものになります。

※各セッションのテーマは公式サイトを参照ください。 https://muromachi-area.jp/event/nss2022/

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「日本橋サステナブルサミット」を主催する日本橋室町エリアマネジメントで事務局長を務める黒田誠さん

イベントタイトル

日本橋サステナブルサミットでは、さまざまな分野の企業・団体が集まり、22名ものスピーカーが登壇した(画像提供:日本橋サステナブルサミット)

鈴木:私はイベントマーケティングなどの事業を行う博展に所属し、日本橋サステナブルサミットを共催した「サステナブル・ブランド ジャパン」の責任者も兼任しています。サステナブル・ブランドは2006年にアメリカで生まれたグローバル・コミュニティで、サステナビリティをブランドの価値に据えて社会とつながることで持続可能な未来を切り開くことを目指しています。2015年に国連がSDGsを掲げる半年ほど前に、アメリカで行われたサステナブル・ブランドの会議に参加したことがご縁となり、博展が日本での展開を推進する形で2016年から活動を開始しました。サステナブル・ブランド国際会議の国内開催や、サステナビリティとブランドをテーマにしたメディアの運営などが現在の主な活動になっています。

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サステナブル・ブランド ジャパンのカントリーディレクターを務める鈴木紳介さん

酒井:私は2005年に中外製薬に入社し、医薬品に関する情報を医療関係者へ提供し、医薬品の適正使用を推進するMR(メディカル・レプリゼンタティブ)という仕事に従事していました。その後、当時のCSR推進部社会貢献グループ(現在は総務部社会貢献グループ)に異動となり、当社の社会貢献活動における企画運営などを担当しています。日本橋サステナブルサミットには中外製薬として2年目の参加となり、当社が取り組んできた社会貢献活動についてお話しさせて頂きました。

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日本橋サステナブルサミット2022に登壇者として参加した中外製薬の酒井めぐみさん

人的資本の循環から生まれるイノベーション

ー過去2回開催されている日本橋サステナブルサミットですが、スタートの経緯を教えて下さい。

黒田:かねてから日本橋室町エリアマネジメントでは、日本橋の企業の取り組みを発信する機会づくりを行っていきたいという思いがあり、その一環としてサステナブル・ブランドジャパンさんとイベントを開催させて頂く運びになりました。

鈴木:企業のサステナビリティ推進においては個々の取り組みも重要ですが、同じ北極星を目指し、各社の事例や課題を共有することで推進速度が高まるところがあります。我々が発信に重きを置いてメディアの運営をしている理由も、国内外のさまざまな取り組みを知ることが大切だと考えているからです。こうした発信活動のひとつとしてどこかでイベントを開催したいと考えていたところ、日本橋室町エリアマネジメントさんとのご縁があり、イベント開催をサポートさせて頂くことになりました。

黒田:イベントの主催者として、何よりもご登壇頂く皆様が楽しんで参加できる場にしたいという思いがありました。日本橋のお祭りに行くと、参加している街の人たちが最も楽しんでいると感じるのですが、それと同じようにまずは色々な取り組みをされている企業の熱意を街の人たちに伝え、その熱が自然と外にも伝わっていくような状況をつくりたいと考えていました。

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イベント当日、日本橋のお祭りの様子を紹介する黒田さん (写真提供:一般社団法人日本橋室町エリアマネジメント)

ー2回目となった今回は、「人的資本の好循環」が掲げられていましたね。

黒田:はい。日本橋は江戸時代から五街道の起点として人や情報が集まり、さまざまなイノベーションが生まれた歴史があります。多くの知見や技術、ビジョンといった人的資本を循環させ、新しいビジネスを生み出す土壌というのは現在の日本橋にも引き継がれているはずだという考えからこのテーマを設定しました。また、こうした循環のきっかけをつくることがエリアマネジメントとしてのひとつの役割だという意識もありましたね。

鈴木:今回は食や教育、働き方などさまざまなテーマのもとでセッションを行ったのですが、どのテーマにおいても日本橋というエリアの中にお話し頂ける企業がいらっしゃるんですよね。日本橋の住民ではない私からすると、「食」などはイメージできても、「教育」などはあまりピンと来ないところがあったんです。でも、まさに中外製薬さんのように登壇頂ける企業がいらっしゃって、これこそが人的資本であり、この街の特色だと感じました。サステナビリティ関連の取り組みというと環境のことがフォーカスされがちですが、実際にはさまざまな領域に関わるものです。日本橋はさまざまな領域の企業が拠点を置く街であり、同時に古くから育まれてきた街の文化やコミュニティも存在しているので、事業者が連携してサステナビリティ推進に取り組む上では理想的なエリアだと感じています。

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イベントを共催したサステナブル・ブランド ジャパンを代表して開催挨拶をする鈴木さん (写真提供:一般社団法人日本橋室町エリアマネジメント)

隣人の課題意識を共有する

ー中外製薬は今回どんなテーマで登壇されたのですか?

酒井:私が登壇したセッションのテーマは、次世代教育でした。私たちは企業の存在意義(Mission)実現に向けて、社会貢献活動においても持続可能な医療の基盤を支えると共に、健康な社会を広げていくための取り組みを進めています。そこで大切になるのはやはり人材の育成だと考えています。次世代を担う子どもたちに向けて、さまざまな体験を通した学びの機会を提供していくことが私たちにできる社会貢献活動のひとつだと考えており、その取り組みについてお話しさせて頂きました。

黒田:酒井さんが登壇されたセッションは個人的にとても満足度が高い内容でした。学校だけでは行き届かない子どもたちの教育を企業がさまざまな角度からサポートしていくことが次世代の育成につながるというお話が印象的でした。

酒井:我々が課題に感じていたことなどについて登壇者の皆様とやり取りをさせて頂く中で、今後の活動の参考になるような多くの気づきを頂くことができました。日本橋エリアでこうした活動について紹介させて頂く機会はあまりないのですが、同じエリアで同じような課題意識を持って活動されている企業が業界問わずたくさんいらっしゃることがわかりましたし、担当者の方たちの生の声を聞ける場としてもとても貴重だったと感じています。

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野村コンファレンスプラザ日本橋で行われた教育セッション「次世代育成が拓く子どもの可能性」に登壇した酒井さん (写真提供:一般社団法人日本橋室町エリアマネジメント)

鈴木:仕事柄さまざまなカンファレンスに関わるのですが、登壇者のラインナップは著名人が中心になりがちなんですね。これは集客などの面から必要なことではあるのですが、今回のイベントの特徴のひとつは、日本橋というエリアの中でがんばっている方たちの取り組みが多く紹介されたことです。単に面白い話が聞けて勉強になったということではなく、隣で戦っている人たちの取り組みを共有できるという点で身になるイベントだったのではないでしょうか。

黒田:1年目の最大の気づきは、日本橋という街への貢献について考えられている企業の方たちがこれだけたくさんいらっしゃるということだったんですね。それに対して2年目となる今回は、企業の方々がこの場に登壇されることが自社のことをより深く理解したり、自分たちの取り組みを客観視することにもつながるのではないかということを感じました。それによって社員の方々の会社へのエンゲージメントが高まるようなことも起こるかもしれないですし、その辺りにもこのイベントを開催する意義があるように感じました。

酒井:今回登壇するにあたって、我々自身の活動の意義や想いというものを改めて俯瞰的にとらえることができ、それらをグループのメンバーと共有する機会にもなったと感じています。また、日本橋で開催されたということもあり、社内の従業員に向けて当社の社会貢献活動の認知を促す良い機会にもなりました。

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イベントは室町三井ホール&カンファレンス、野村コンファレンスプラザ日本橋の2会場で開催された (写真提供:一般社団法人日本橋室町エリアマネジメント)

現代版の井戸端会議をつくる

ー企業がサステナビリティに関わる取り組みを進める上での課題はどんなところにありますか?

酒井:企業として取り組んでいる社会貢献活動が、どこまで参加者や社会へ影響を与えられているのかということを検証することの難しさを感じています。昨今は事業における社会的インパクト評価も企業に求められるようになってきていますが、社会貢献活動の効果測定というのはこれからの課題だと感じています。今回はそうした課題感を皆さんと共有できたのですが、今後も引き続き情報交換を続けながら、成功事例をつくるところにまでつなげていきたいですね。

黒田:サステナビリティに関する課題は一社だけで解決することが難しいからこそ、我々のようなエリアマネジメントが機能すると思っています。我々は「仲間づくり」という言葉を使っているのですが、これは単に会話をするだけでは難しくて、今回のように一緒に何かに取り組むことが大切だと考えています。それによって、「隣の企業が何をしているのか」「ご一緒できることがないのか」といったことが考えられるようになる。そのようにコミュニティの濃度を高めていくことがエリアマネジメントには問われていると思っています。

酒井:おっしゃる通り、1社でできることは限られていますし、色々な方々と連携していくことが社会貢献活動においてはプラスに働くと考えています。我々が取り組んでいる健康というテーマにおいても多様な視点が必要であり、業界を超えた連携の可能性を感じています。まさにそうした意味でもさまざまな方と対話できる場を提供して頂けたことに感謝していますし、引き続きエリアマネジメントに期待したい部分ですね。

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イベントの最後には登壇者、来場者が参加する交流会も開催された (写真提供:一般社団法人日本橋室町エリアマネジメント)

鈴木:サステナビリティを推進していく上では、グローバル・コモンズ(世界規模の共有資産)、ローカル・コモンズ(地域の共有資産) 双方の観点が求められると思うんですね。コニュニティという言葉に置き換えることもできるかもしれませんが、国際的な取り決めを守れない国があったり、戦争を始める国があったりとグローバル・コモンズが上手くいかない中、まずはローカル・コモンズ、ローカル・コミュニティをしっかりつくり上げていくことが重要なのではないでしょうか。そういう点からも今回のようなイベントを行う意義があると思います。

黒田:日本橋は、2004年の「COREDO日本橋」の開業を皮切りに、「残しながら、蘇らせながら、創っていく」を開発コンセプトとして、官民地域一体となった「日本橋再生計画」の中で、ミクストユースの再開発によって都市機能の多様化と賑わいづくりを推進してきました。その再開発によって色々な方たちを街にお迎えするようになりましたが、その中で隣の企業が何をしているのかということを知ることが難しくなってきたところがあります。かつては井戸端会議のような雑談を通じてお互いを知ることができていたはずで、いかに現代版の井戸端会議のような場をつくり、地域の皆さんとご一緒できるかということはエリマネとして常に意識しているところです。企業の方たちにおいても、ひとりの人間としてフラットに本音で会話ができるような機会をつくることができれば一気に距離が縮められるはずですし、そういうことができる街が日本橋なんじゃないかと思っています。

鈴木:多くのエリアマネジメントは、お祭りなどで地域に賑わいをつくって人を集めることに注力している印象がありますが、日本橋室町エリアマネジメントは、地域の将来を見据えて旗を立て、このエリアにいる人や企業を活性化していくようなチャレンジをしています。これは新しいモデルだと思いますし、このエリマネの特徴でもあると思うので、これからも大事にしていってほしいですね。

料理の写真

交流会では、「食資源と食文化の両立」をテーマにした食セッションにも登壇した日本橋のフレンチレストラン・ラペの松本一平シェフによるフードが提供された (写真提供:一般社団法人日本橋室町エリアマネジメント)

日本橋のためにできること    

ー最後に、それぞれの立場から今後どのように日本橋の街やエリアマネジメントの活動に関わっていきたいかを聞かせてください。

酒井:最近は当社でもテレワークが増えていますが、この街に来ることで色々な情報が得られるということは出社する上での大きなモチベーションにもなるはずです。そういう意味でも、エリアマネジメントさんが企画される地域のコミュニティを広げ、我々の学びにも繋がるようなイベントは大切だと思っています。このような場を通じて、この日本橋から発信できる価値提供というものをぜひ皆さんと一緒に考え、具体的な取り組みにつなげていきたいですし、自分自身も色々とアンテナを張って、この街で働いていきたいなと思っています。

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鈴木:企業としてこの街にオフィスを構える理由は多々ありますが、サステナビリティという文脈がひとつの選択肢として明確に見えてくるようなエリアになるといいなと思います。最近は多くの企業がパーパスの見直しをしていますが、これは自分たちの中心に何を据えるのかということを改めて考えることでもあります。先ほどお話に出た日本橋の再生においても、おそらく街の中心に何を置くのかということを見直す作業があったのではないかと想像します。日本橋サステナブルサミットに関しても、これからの日本橋の中心に何を置くのかということを考え、共有する場と位置づけることもできるかもしれませんし、サステナビリティというキーワードのもとで日本橋のコミュニティが広がっていくことは、イベントに関わる当初から我々が望んでいたことでもあります。今後、サステナビリティというものが日本橋のひとつのブランドになるような状況を期待したいですね。

黒田:今回はサステナビリティというテーマでしたが、我々としては社会課題の解決など大層なことを常に考えているわけではないんです。我々はあくまでも黒子で、地域の人たちあってのエリアマネジメントだと思っています。だからこそ、皆様に喜んでもらったり、何かしらの価値を感じて頂くことが何よりも大切ですし、主役である地域の人たちが発信したいことを発信できる機会を皆様と話し合いながらつくっていくことが大事だと考えています。また、決して日本橋の中に閉じるのではなく、五街道の起点の街として対外的な発信や関係づくりを見据え、将来の日本橋のファン、街の人や企業のファンをつくっていくという意識で活動を推進していきたいですね。

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写真提供:一般社団法人日本橋室町エリアマネジメント

取材・文:原田優輝(Qonversations) 撮影:Adit(Konel)

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