Interview
2022.07.06

「器」を通して日本橋と地方をつなぐ。 日本橋横山町に新オープンした「TOIビル」の全貌。

「器」を通して日本橋と地方をつなぐ。 日本橋横山町に新オープンした「TOIビル」の全貌。

00年代以降リノベーションが進むエリアとして知られるようになった日本橋・横山町。2022年6月、この街に「器」をコンセプトとした新しいビル「TOIビル」が誕生しました。 手がけるのは、事業者や自治体向けコンサルティングを提供する一方、自社事業としてうつわのサブスクリプションサービスなどを展開している株式会社Culture Generation Japan (以下、CGJ)。遊休不動産活用アイデアを募集・支援する「日本橋横山町―馬喰町エリア参画推進プログラム」、そしてクラウドファンディングを活用して作られ、7月にグランドオープンを迎えるTOIビルについて、CGJ代表取締役である堀田卓哉さんにお話を伺いました。

メキシコ奥地での「かめはめ波」に衝撃を受けた大学時代

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―TOIビルを手がけたCGJの立ち上げ経緯を教えていただけますか?

まず、実家が祖父母の代から自営業をしていたことから「僕もいつか会社を作りたい」と考えていたのが根底にあります。そしてもう一つのルーツが、大学生時代の頃の経験です。日本人が一人もいないメキシコの奥地を旅していたら、子供たちが『ドラゴンボール』の絵を描いていて、僕に「かめはめ波!」と言ってきたんですよ。そこで「こんなところにまで日本の文化が届いているのか」と感銘を受け、文化とその発信こそが日本のストロングポイントになるんじゃないかと学生ながらに感じました。

―日本の文化の力を、若くして肌で感じていたんですね。

その後はいったん普通に新卒で就職して5年間勤めたのち、ヨーロッパの大学院に留学して、帰国後にご縁があって浅草に住むことになりました。そこでお祭りに参加したいと思い、地元のお祭りを取り仕切る青年部に所属したところ、裏方が1年間かけて準備しているからこそ、祭りの2日間を楽しく迎えられることを知りました。その中で、青年部に所属する提灯屋さんの6代目の方が「自分たちの仕事は提灯をただ描くだけじゃなく、日本の文化をより良いものにして次の世代に受け継いでいくことだ」と言っているのを聞いて、再び強い感銘を受けました。そういう努力があって初めて文化や伝統は繋いでいかれるのだと実感しましたね。

ちょうどその頃、僕は大企業でグループ子会社の経営再建の仕事をしていたのですが、資本側に立つ仕事を続けるうちにすり減ってしまっていました。「もっと手触り感のある、社会に対していい仕事ができないだろうか」と考えていたタイミングだったんです。そこで、職人さんたちを手伝いたいと思うようになりました。

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(画像提供:CGJ)

―日本のマンガ/アニメの力を強く感じた学生時代から時を経て、「日本の伝統工芸を広げる仕事をしたい」と考えたわけですね。

実際「新しいことにチャレンジしたいけど、どうやっていいか分からない」「世界で勝負をしたい」というお話を伝統工芸系の方々からよく聞いていたんですよ。そこに対し「ずっとビジネスの世界で生きてきた僕だからこそ、一緒にできることがあるんじゃないか」と考え、起業しました。それが2011年です。まだ「地方創生」なんて言葉が飛び交っていない時代のことでした。

「政府の補助金ありきの仕組み」と「受注型の仕事」に感じた疑問

―CGJを立ち上げ、はじめはどんな仕事をしていたのでしょうか?

最初は本当にネットワークもノウハウも何もないので、いろんな方に電話して「こういうことやりたいんですけど、何かチャンスないですか」みたいな話をずっとしていました。そこからご縁があり、東京都美術館のミュージアムグッズを東京都内の工芸職人さんと一緒に作るなどの仕事をしていました。

―スムーズに工芸に関わるお仕事に参入できたようですね。

いえ、実際はそうでもありません。というのも、当初は工芸の職人さんに対して僕がコンサルするというのをビジネスモデルとして考えていたんです。しかし、知れば知るほど工芸の方々は皆さん資金不足だということがわかり、プラスαのお金をかけることができない状態。そもそもコンサルはビジネスモデルとして破綻していたのだと気付かされました。そこから新しいスキームを考え、僕と職人さんとで共同で政府の補助金を獲得しにいく方向にしました。

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日本各地に足を運び、工芸の職人さんたちと交流を深める(画像提供:CGJ)

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(画像提供:CGJ)

―行政からの支援金が不可欠だったということですね。

そうですね。そうして実績を積み重ねていくうちに、当時はこの分野にプレイヤーが少なかったこともあり、行政の方々からも注目していただくことができました。そこで、伝統工芸に関わる会社さんを1プロジェクト10社ほどまとめてヨーロッパやアジアに展開して売り込んでいく面的支援を提言させていただき、僕が事務局として動くかたちで複数のプロジェクトを回していくフェーズに入っていきました。

おかげさまでその仕事は好調だったのですが、僕が工芸の職人さんたちに「自分たちでブランドを作らなきゃ」と言っているわりに、僕ら自身が完全に受注型の仕事ばかり担っていることに気がつき、今度は自社事業を立ち上げていくことにしました。器のサブスクリプションサービスである「CRAFTAL」や、「Onland」というクラフトツアープラットフォームがその一環で、現在はそのフェーズを進んでいるところです。

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現在、TOIビル内「Onland Store」では山形県をフィーチャーしている

「TOIビル」は個性豊かな5フロアで構成されるコンセプトビル

―TOIビルプロジェクトを実施した経緯について教えてください。

僕はCGJ含めこれまでのキャリアを通してずっと他社のビジネスをサポートする仕事をしてきたわけですが、「CRAFTAL」という自社サービスを立ち上げたとき、初めて会社の顔を作ることができた気がしました。そして、目に見えるものや場所があると、社会に対して訴求力が増すことを実感したんです。それを発展させたのがTOIビルを作った大きな動機です。そしてもちろん「一国一城の主」みたいな、男のロマン的な憧れもありました(笑)。そんな思いを持っていたところに、知り合いがFacebookで「さんかくプログラム」(横山町馬喰町街づくり株式会社、UR都市機構、株式会社エンジョイワークスの三者による、遊休不動産活用アイデアを募集・支援する「日本橋横山町―馬喰町エリア参画推進プログラム」の略称)についての情報をシェアしているのを見かけて応募させていただいた次第です。

―そうしてできたTOIビルのコンセプトを教えてください。

「器」を全体コンセプトとしています。CGJにはいろいろなサービスがあるので、自社サービスをフロアごとに分かりやすく伝えたいというアイディアが最初にあり、それを一本貫くコンセプトとして「器」を選んだ流れですね。

1階

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CRAFTALの器を用いたスイーツ (画像提供:CGJ)

1階は「器で”食す”」というテーマで「Saison」という飲食店が入ります。昼は焼き菓子を中心としたパティスリーで、夜はワインバルとなりますが、それぞれで「CRAFTAL」の器を使って料理や飲み物を提供します。さんかくプログラムで「CRAFTAL」の器とスイーツを組み合わせる実証実験をした際、お客さまから「器が違うとこんなに料理が違ってくるんですね」と非常に好評を得られ、手応えを感じています。ぜひ器とお食事を楽しんでいただきたいですね。(1階は7月にオープン予定)

2階

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2階は「器を”買う”」というテーマのショップ「Onland Store」です。1か月半ごとにテーマとなる地域を変え、その地域を担当しているプロデューサーが集めた地域の名産、工芸品、食品などを販売します。日本橋を起点として、日本各地のローカルに繋がれるような導線を作っていきたいです。

3階

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3階は「器を”学ぶ―つくる”」というテーマで展開するギャラリー「CRAFTAL GALLERY」です。ここには「CRAFTAL」で提供する器が並んでいて、飲食店の方々はもちろん、1階の「Saison」にいらっしゃった一般のお客様もご案内できる場所となっています。

4階

4階は「器と”仕事する”」をテーマとしたオフィス「CLUB ROOM」です。部室みたいに使いたいという思いからつけた名前で、我々の事務所機能を基本としながらも、商談で上京したお客様など色々な方に使っていただいたいと思っています。各地域のプロデューサーの方々が集まって横のつながりを作ったり、知見が共有されたりする場を作りたいと考えています。

5階

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プレオープンでの一幕(画像提供:CGJ)

5階は「器を”語る”」場としてのスナック「QUESTIONS」です。クラウドファンディングで会員券を販売したのですが、会員の方はこの場を使って月2回イベントが実施できるシステムとなっています。「QUESTIONS」という名の通り、一回のイベントごとに問いを一つ立てて、その問いに対してママと参加者の皆さんで飲みながら話していただく場となります。最近、好きなことを好きなように話せる場が減っている気がするので、そういうことに使っていただければと思います。

―今回TOIビルはクラウドファンディングにて出資を募りましたが、反応はいかがでしたか?

おかげさまでリターン目標を達成することができました。今まで繋がりがあったメーカーさんとかプロデューサーの方だけでなく、まだお会いしたことのない方々からもご支援いただけたのは本当に励みになりました。みなさまとこれからご挨拶できるのを楽しみにしています。

また、プレオープンイベントには予想を超える約100名の方にお越しいただきました。プレオーブンは近隣の方に来ていただきたく、近隣にチラシを置かせていただいたのですが、全体の3〜4割ほどが近隣の方々だったと思います。他にも事業者さんも結構いらっしゃり、早速新しいプロジェクトが動き始めています。TOIビルは近隣の方々と一緒に成長していきたいと思っているので、嬉しい限りです。

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(画像提供:CGJ)

日本有数の問屋街である日本橋横山町から、新たな問屋像を提案していく

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―TOIビルがある日本橋や横山町エリアについて、どのような印象を抱かれていますか?

僕にはもともと「日本橋エリアで商売を始めたい」という思いがあり、CGJの以前の事務所もTOIビルから徒歩5分ほどの日本橋富沢町にありました。工芸を発信していくにあたり、工芸も含めた幅広いジャンルの問屋さんが集積している問屋街である日本橋が、新しい問屋像を作る場所としてふさわしいと考えていたからです。

もちろん既存の問屋を否定するものではありませんが、工芸の産地が苦戦している理由の一つとして、問屋機能が低下している点は否めません。僕らが問屋の新しいやり方を模索して発信していくことが、CGJのミッションの一つであると思っています。

―TOIビルの「TOI」は問屋の「問」でもあるし、問いかけの「問」でもあるわけですね。

そうです。器の展示会に出ると、他の問屋さんが売りに来ているなか、僕らだけ「サブスクリプションで貸します」と言っているので、まだまだ異端な存在として遠巻きに見られる感じはありますが、そうした新しいスタイルを問うていきたいです。

―今後、このエリアに対して、TOIビルが果たしていきたい役割はありますか?

まず、案内所のような機能を果たしたいと思っています。立地的にTOIビルは問屋街の入り口にあるので、TOIビルに立ち寄っていただいた方の「この辺のおもしろい場所はどこですか?」という問いに対して、さまざまなご提案ができる場所になりたいです。

そしてもう一つは、「世界と日本橋」、そして「日本橋横山町と地域」を繋げる役割を果たしたいと思っています。もともと工芸を売ってきた街ですので、今の時代ならではの切り口で各地域の工芸を紹介したいですね。直近のトピックとしてインバウンド解禁の流れもありますので、今後いろんな人に新たなご案内ができるようになると思います。

―最後に、これから日本橋で挑戦したいことを教えてください。

いつか日本橋の飲食店の方々と一緒に「どんぶりリーグ」というイベントをやりたいんですよね。我々が日本各地から丼を取り寄せて飲食店に提供し、日本橋の各店舗に「有田の丼を使うなら、九州の素材を使ってみようか」なんてアイディアを出して新しい丼を作っていただき、期間中にいろんなお店で料理と器としての丼を楽しんで回っていただく。そんなイベントに挑戦してみたいと考えています。

―この2〜3年、パンデミックによる分断が起こっていましたが、それらをつなげるような試みですね。

はい。知れば知るほどいろんな地域にいろんな魅力があるので、私たちがそれらをつなげるお手伝いができればと考えています。

取材・文:照沼健太 撮影:岡村大輔

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