Interview
2020.06.25

日本橋の老舗鮨店で「ファミリーデー」開催。
子供と江戸前鮨を楽しめるスペシャルな土曜日を。

日本橋の老舗鮨店で「ファミリーデー」開催。
子供と江戸前鮨を楽しめるスペシャルな土曜日を。

新型コロナウイルス感染対策により長い間休業を余儀なくされていた飲食店も、営業再開するところが増えてきました。食の街・日本橋でも “WITHコロナ”の時代に合った対策をしながら各店が知恵を絞って営業していますが、以前の賑わいが戻りきっていないのも実状です。そんな中、「こんな時こそ新しいお客様とつながりたい!」と新たな取り組みを始めたのが、宮内庁御用達の老舗鮨店・繁乃鮨。格式高いイメージをもたれがちな江戸前鮨を、ファミリーに向けてカジュアルに提供するというこの企画。その楽しいアイディアの数々を店主の佐久間一郎さんに伺いました。

新しいお客様との関係性づくりにチャレンジする好機に。

―はじめに自己紹介をお願いします。

昭和24年に創業した「繁乃鮨」3代目店主の佐久間です。もともとは、日本橋に魚河岸にあった頃に営業していた魚屋がルーツにあります。その頃から宮内庁の神事の魚を納めており、今も毎朝お届けしてからお店を開けています。おかげさまで長らく「宮中賢所御用達」の店として営業させていただいております。(繁乃鮨について詳しくお聞きした、前回の記事はこちら

―今回の企画の内容について教えてください。

普段は休業している土曜日にお店を開けて、ご家族連れのお客様に遠慮なくお鮨を楽しんでいただくための、いわゆる「ファミリーデー」です。お子様がいらっしゃると周りのお客さんに配慮しなきゃいけない、など気を遣ってしまうこともあると思うので、そういった方々に気兼ねせずにお鮨を楽しんでいただければと思い企画した、初めての試みです。一般の方に向けて土曜に店を開けるのは約30年ぶりなんですよ。

寿司
メニュー

今回のイベントのメニュー。大人2名・子供1名で合わせて1万円と、とてもお得な内容(画像提供:繁乃鮨)

―ファミリー向けのイベントにされたのには、どんな背景があるのでしょうか?

繁乃鮨はもともとビジネスマンの宴会や接待でのご利用が多く、大人のための店という色が強いお店で、ファミリーでのご来店は比較的少ないんです。けどやはり、子供たちや若い世代の方にも当店を知ってもらいたいという想いは以前からあったんですよね。街で子乗せ自転車が停まっているところも良く見るので、「この人たちはどうしたらうちに来てくれるんだろうなぁ」「でも、うちのあの大人の雰囲気の中には入りづらいだろうなぁ」と思いを巡らせていました。

そんな中で、今回のコロナの影響があって。ビジネスマンの方のご利用はいきなりは戻らないだろうなと思ったときに、この機会に新しいお客様との関係性づくりにチャレンジしてみたいなと思ったんです。

02

繁乃鮨店主の佐久間一郎さん

―この状況を好機ととらえたわけですね。企画はどのように考えていかれたのですか?

まずは、仲良くしている、街づくりに関わっているメンバーに相談してみたんですよ。「新しいお客さんとつながりたいんだけど、どうしたらいいかな、知恵を貸してくれない?」って。で、店のスタッフも一緒になってあれこれアイディアを出し合った結果、日本橋の東エリアに増加している住宅地のファミリーの方々に向けた「ファミリーデー」を作ろうという話になりました。それも定休日である土曜日に、ファミリーだけに限定したイベントとして。同じ境遇の方しかいなければ、きっと気兼ねなく楽しんでいただけるはずですから。

―ファミリーの方だけの日なんですね。それならお子様がいても安心です。

はい。お子様に楽しんでもらうと同時に、子育て中の親御さんにも幸せな時間が届けられたらと思いますね。コロナ渦でなかなか外食ができなかったり、在宅勤務や家事の負担が増えたりと、皆さん大変な思いをしているでしょ?そんな親御さんにも笑顔になっていただきたくて。

―お母さんたち、それを聞いたらきっと泣きますよ(笑)。お子様にとっても貴重な体験になりそうです。

そうそう、ファミリーに注目しているのには 「お子様に江戸前鮨のことを知ってほしいから」、という理由もあるんです。回転寿司も楽しくて良いですが、カウンターで好きなものを注文して出してもらうということもお子様に体験してもらえたらと思って。いろいろなお寿司の食べ方やTPOに応じた使い分けを知っていただいて、いつか大人になって何かお祝いなどの席がある時に、「昔行ったあの店、美味しかったな。今日は特別な日だからあのお店に行こう!」と思ってもらえるきっかけを作れたらと思います。“食育”というとちょっと大げさかもしれないけど、江戸前鮨の文化を次の世代につなぐ取り組みにもしたいですね。

「リクエスト、承ります。」お客様と一緒に作り上げるイベントに

―イベントでのメニューはどうやって決めたのですか?

地域SNS 「PIAZZA」と連携して事前にイベントへのリクエストを聞いて、それを参考に決めました。と言っても、はじめ僕は「PIAZZAって何?!」状態だったのですが(笑)。仲間とアイディアを出し合う中で、日本橋にファミリー層の方も多く参加するオンラインコミュニティがあると知り、これはぜひ参加したいと思い、「PIAZZA」でアカウントをつくり、情報発信をはじめました。

今回は新しいチャレンジでもあるので、“お客様と一緒に作り上げていきたい”という想いがありました。お客様の意見をメニューにも取り入れながら、なんでも試してみよう!という姿勢でやるつもりです。

PIAZZA修正

地域SNS「PIAZZA」では、当イベントに対する多くの反響があった(PIAZZAより転載)

―PIAZZAではどんなリクエストがありましたか?

やっぱりお子様がいるということで、根本的に通常のお客様とはニーズは違いますね。オムツ替えのスペースのリクエストや、簡単に食べられるような配慮、飽きないような工夫など、なるほどなぁと思う要望がいろいろありました。長い間お店をやっていると固定化しがちな“うちの店はこういうもの“という考えに、良い意味で刺激をいただいたような気がしています。

また多かったのは、「老舗がこういう機会を設けてくれること自体が嬉しい」という反応。そんな風に言っていただけるとこちらの方こそ嬉しいですよね。張り切っちゃいますよ(笑)。

―リクエストを受けて今回新たに取り入れた食材はありますか?

サーモンですね。普通、江戸前鮨にサーモンはないんですよ。でもお子様はサーモン好きでしょ?要望も多いので、イベント限定でこの日だけ出そうと思っています。

―江戸前鮨でサーモン…、言われてみれば斬新です。

けっこう勇気がいりましたよ(笑)。でも江戸前鮨は本来コース料理のようなかしこまったものではなく、好きなものを好きなだけ、気軽に選んで食べていただくものです。そういう江戸前スタイルも合わせて知ってもらうためにも、やっぱりお子様が選びそうなネタも用意しようと思って。

―今回のイベントでデビューされる若手の職人さんもいると伺いました。

そうなんです。お客様と作り上げるイベントという意味で、皆様のリクエストも受けつつ、我々からもお客様にひとつ、“若手を育てる機会をいただきたい”というリクエストをさせてもらおうと思っています。イベント当日は、初めてお客様に鮨を握る新人職人にも、お寿司を提供してもらう予定です。毎日厳しく指導されて一生懸命練習していますよ。当日に向けて今から緊張していますが(笑)、ぜひ応援してやってください。

お弟子さん

新人職人の丸山さん(通称まるちゃん・中央)(画像提供:繁乃鮨)

―いらっしゃるお客様も、お店を一緒に育てていくような感覚で嬉しいのではないかと思います。

今回はお客様にも少し甘えさせてもらって、持ちつ持たれつなイベントにできればと思っています。日本橋は昔からお店同士のつながりも強いですが、お客様との絆も強く、互助の精神が息づいています。そういう意味では日本橋らしい企画かもしれません。

こんな時こそ、新しいことをやるチャンス。

―コロナ渦で休業や営業形態の検討など、難しい舵取りを迫られてきたと思いますが、その中でも佐久間さんの姿勢はとてもポジティブですよね。

今回のことは、お店のあり方を改めて見つめ直す良い機会になりました。1ヶ月間もお店を休むなんて未だかつてなかったこと。その間、お店のため、お客様のためにいったい何ができるんだろうと、じっくり考えましたね。

今は営業を再開していますが、この時期にお店に来ていただくということは、ある意味覚悟を持って、「このお店ならきっと大丈夫」と思い切って来店されるんだと思うんです。それは本当に有難いことですし、その期待にしっかり応えて、お一人お一人に感謝の気持ちで接していきたいと思いを新たにしました。

しげのずし内観

繁乃鮨の内観(画像提供:繁乃鮨)

―飲食店のあり方は、今後どのように変わっていくと思われますか?

WITHコロナという段階に入って、お店の存在価値は大きく変わると思います。テイクアウトのお弁当では味わえない、お店に来店するからできる特別な体験を、十分に感じていただけるような工夫が求められていく気がします。だから今こそ今回の企画のようなトライアルで、さまざまな可能性を見出していければと思います。世の中が変わっていく時期は、新しいことをやるチャンスの時だと捉えたいですね。

―「ファミリーデー」の今後についても考えていらっしゃいますか?

お客様からはお鮨を握る体験やワークショップなどのアイディアもいただいているので、今回限りでなく、何度か繰り返す中で少しずつそうした内容も取り入れていく、息の長いイベントを目指したいですね。

―他の飲食店さんにも影響を与えそうな気もします。

そうだと嬉しいですね。今回のような企画が日本橋の他の飲食店にも広がっていって、今週は寿司、来週はうなぎ、その次は天ぷら…というようにどんどんイベントのバリエーションが増えたら良いなと思っています。土曜日は「ファミリーデーin日本橋」みたいに定着したら面白そうですよね。そして横のつながりが強化され、いつか街全体が“日本橋”というひとつのお店のようになっていったら嬉しいです。とは言えそこまで拡大するのには時間がかかると思うので、まずは今回のイベントで喜んでいただけるよう、一生懸命準備していきます!

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―最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。

今回はおかげさまでご予約で満席になってしまったのですが、また開催する時はご注目いただきたいですし、ぜひ普段のお店にもご来店いただけると嬉しいです。席と席の間の距離を保ったり、消毒液を設置したり、マスクを着用したり・・・と感染対策は万全に行っていますので、安心してお越しください。

お鮨屋さんはコミュニケーションの場でもあります。今回のイベントでも店内の雰囲気や職人たちとの会話を通して、お鮨屋さんの存在がグッと近くなるような1日にしたいと思っていますが、それは通常の営業でも同じこと。まずは暖簾をくぐっていただいて、気軽に話しかけてください。「佐久間さんはなんでそんなに色が黒いの?」なんてことでも、何でも答えます(笑)。そしてさらにはお客様同士の会話やつながりが生まれたらとても嬉しいですね。皆さんとお会いするのを楽しみにしています!

取材・文:丑田美奈子(Konel ) 撮影:岡村大輔

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