Collaboration TalkInterview
2022.03.30

名店の料理人たちが“次世代の食材”と出会う。 「つながる未来弁当」開発の舞台裏。

名店の料理人たちが“次世代の食材”と出会う。 「つながる未来弁当」開発の舞台裏。

近年、フードビジネスの世界でも意識されるようになった「サステナビリティ=持続可能性」。その実現のためのカギとなるのが、最新のテクノロジーを駆使することによって、まったく新しい形で食品を開発したり、調理法を発見したりする技術=フードテックです。たとえば近ごろ注目されている、地球への負荷を低らす代替食品やサーキュラーフードなどもそのひとつ。SAKURA FES NIHONBASHI 2022 には、こうした“次世代の食材”とも言える食品を用いた「つながる未来弁当」が登場。メニュー開発にあたった日本橋の名店の料理人4名に、今回のお弁当にこめた思いや開発の裏側についてうかがいました。

日本橋の食を担う老舗・名店の料理人4名が集結!

―まずは各店の自己紹介をお願いします。

高嶋家・鴛尾明さん(以下鴛尾):日本橋小舟町の高嶋家の鴛尾明と申します。日本橋には鰻屋がたくさんありますが、高嶋家は大通りからは一歩入った静かな通りにあるお店です。1875年から営業しており、昔からお客様に支えられて今までやってきました。今回のお弁当では「グリーンミート鰻のひとくち重」を担当しております。

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日本橋ゆかり・野永喜三夫さん(以下野永):日本橋ゆかり三代目、野永喜三夫です。うちは1935年創業で、東京駅と日本橋高島屋の間ぐらいにある日本料理店です。今回のお弁当では前菜として「コオロギ茶碗蒸しのグリーンミートあんかけ」を担当しました。

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蛇の市本店・寳井英晴さん(以下寳井):日本橋・蛇の市本店五代目の寳井英晴と申します。1889年に創業し、今年で132年目になりますね。日本橋に魚河岸があった頃の屋台から続く鮨屋です。うちは「グリーンミートのカリフォルニアロール」を担当しました。

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ビストロサブリエ・今野登茂彦さん(以下今野):日本橋茅場町、ビストロサブリエの今野登茂彦と申します。うちはもともと果物屋で、祖父が戦後に始めた果物屋では1階がフルーツ店、上階がフルーツパーラーだったんですけど、1984年にパーラーから業態を変更し、現在のビストロサブリエがオープンしました。季節の果物を使ってフランス料理を作ることをテーマにしており、今回はデザートの「いちごの野菜クレープ包み」を担当しています。

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左上より時計回りに「グリーンミート鰻のひとくち重 」「いちごの野菜クレープ包み」「コオロギ茶碗蒸しのグリーンミートあんかけ」「グリーンミートのカリフォルニアロール」

日本の伝統的な食と、次世代食材との親和性

―今回はそれぞれにサーキュラーフードや代替食と呼ばれる食材を使った新メニュー開発に挑んでいただきましたが、この企画について初めて聞いた時はどんな印象でしたか?

寳井:使う食材の候補について聞いた時は、コオロギのインパクトがすごかったですね。正直これはちょっと自分じゃ無理かもと思って、すぐ野永さんに相談しました(笑)。

野永:まぁたしかにコオロギという食材には驚いたけど、僕はなんか楽しそうだなと思ったよ。“未来の食をサーキュラーフードや代替食を通じて考える”というテーマも珍しいし。これからもしかしたら動物の肉ではなく植物由来の肉(今回のグリーンミートのような肉)が中心になる時代や、昆虫食の時代が来るかもという前提で未来の食を考えて、日本橋から世界に発信できたら面白いかなって。

―寳井さんは昆虫食には抵抗があるんですか?

寳井:僕ね、子供のとき荒川の土手でいっぱいバッタ採ってくると、全部ばあちゃんに佃煮にされて食わされたんだよね。それ以来ちょっと……。

鴛尾:それはそれでいい思い出じゃないですか(笑)。

野永:でもさ、ある食材をどう捉えるかってスタートの問題なのよ。ひでさん(寳井さん)の場合は違ったみたいだけど、物心つく前から食べてたらその食材には慣れるもの。長野の方では今でもよくイナゴを食べるし、アマゾンでも芋虫みたいなものを食べてるけど、あれはタンパク質の塊で、肉みたいなもの。それを子供の頃から食べて親しんでれば気持ち悪いとかおかしいと思うこともないし、日本でも今後昆虫食は当たり前になるかもしれない。

それに、そもそも日本には昔から精進料理があって肉類を違うものに代替する文化があった。豆腐だってグリーンミートと同じ大豆を加工した食材でしょ。スローフードとかグリーンミートとか、日本人って新しい横文字が好きだけど、よくよく考えると「なんだ、昔からあったものじゃないか」と。だから「つながる未来弁当」も、ある意味“ザ・日本食”の王道なんです。

発見あり、苦労ありのメニュー開発

―では今回のお料理のコンセプトや、苦労された点などを教えてください。

野永:うちはお店で名物として「モッツァレラチーズの茶碗蒸し」をお出ししているので、今回はグリーンミートとコオロギエキスで茶碗蒸しを作りました。土台の茶碗蒸しは卵とお水とコオロギエキスが1対1対3。和食の基本である酒、醤油、みりんは一切入ってません。コオロギエキスを舐めてみたらそれこれだけで味がしっかりしていてすごく美味しかったので。
上に乗っているそぼろあんで鶏肉に見えるのはグリーンミートで、こちらにもコオロギエキスを使っています。あとは隠し味でちょっと生姜汁を入れて、季節にあわせて木の芽をあしらいました。普通の茶碗蒸しだと思って食べてから説明を聞くと、きっと驚くと思うので、あえて事前説明なしで食べてみてほしいですね。

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(画像提供:株式会社グリラス)

鴛尾:「グリーンミート鰻のひとくち重」は、グリーンミートに魚のすり身と鰻を加えて鰻風味のかまぼこの蒲焼を作り、ご飯と合わせたものです。最初はグリーンミートと魚のすり身だけで作ってみたのですが、配分が難しいうえになかなか鰻らしくするのは難しくて。タレと山椒をかければある程度鰻っぽくなるだろうと思ったものの、なかなかそうはいかなくて苦労しました。最終的には少し鰻も入れることで本物らしい味に近づけることができました。

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(画像提供:グリーンカルチャー株式会社)

―なるほど。同じグリーンミートを使った寳井さんはいかがでしたか?

寳井:僕が作ったのは「グリーンミートのカリフォルニアロール」です。最初はグリーンミートを穴子のように使って、蛇の市のアナゴの太巻きみたいに仕立てようかなと思ったんだけど、食べてみたらどうも穴子寄りの味じゃなくて。でも試しにマヨネーズをかけて食べたら美味しかったんで、カリフォルニアロールにしようと考えました。

鴛尾:グリーンミート、ちょっとスパイシーに感じませんでした?

寳井:スパイシーだし、油もけっこう出たので、一度蒸して油を落としてからソーセージ状にしたものを、卵・クリームチーズ、・アボカドと一緒に裏巻きにしました。周りにはとびっこをつけて、見た目にもきれいなカリフォルニアロール風に。味も皆に美味しいと思っていただけるものに仕上がっていると思います。

―今回唯一、洋風のデザートを担当された今野さんはいかがでしたか?

今野:僕は野菜パウダーを使用したのですが、素材としてはすごく使いやすかったです。最初はこのパウダーを使ってパンを焼いたり、料理にしてみたりといろいろ検討したんですけど、最終的にスイーツがいいだろうという話になり、“野菜嫌いの人でも食べられるデザート”を目指しました。緑の野菜クレープの中にカボチャのババロアとトマトのカスタード、真ん中にいちごが入れてあります。最初に3種類クレープを焼いてみたんですけど、一番発色がきれいに出たのは緑でした。緑のパウダーは抹茶のようで、ソースにしてもおいしかったですね。

試作

対談の場で4人の料理が組み合わさり、ひとつのお弁当になった

寳井:あ、クレープの皮だけじゃなくてこのクリームにもいろいろ入ってるんだ。これ、一番食べたい! 

今野:野菜パウダーは粒子が細かくてすぐ溶けるから使い勝手もよくて、すごく可能性を感じる材料でしたね。ほうれん草なんかは少し苦みもありますけど、甘みも感じるんですよ。果物のパウダーもあったらいいなと思います。

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(画像提供:株式会社グリーンエース)

今回の試みで、フードテック=取っ付きにくいというイメージを払拭したい

―今回の企画を通して感じたことや、サーキュラーフードや代替食をはじめとする「フードテック」に関して印象が変わったことや学びはありましたか?

寳井:グリーンミートを使ってみたことで、「もし今当たり前に使ってる食材が使えなくなったらどうする?」ということを考える機会になりましたね。

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野永:今、悲しいことに外国では戦争がおきてしまっていて、それによってさまざまな食への影響も出てきているじゃないですか。動物の餌になる穀物が入ってこなくなることもありえるし、サーキュラーフードや代替食品が必要になる事態は実際にそのうち起きうるかもしれない。

寳井:トンガの大噴火もありましたし国内でも災害が多い。けっこう現実的な話にもなってきていますよね。

鴛尾:僕は普段グリーンミートを使う機会も全くないし、メニュー開発みたいなこともあまりしないので、まっさらな状態からの挑戦でした。まず食べてみて、作ってエラーして、また作ってエラーして……そんな感じでしたね。

野永:でも鰻屋は一番この分野に真剣に取り組まなきゃいけない業種じゃない? マグロがいなくなっても鮨屋はできるけど、鰻がなくなったら鰻屋はできないでしょ。

鴛尾:そうですね、専門職なので。

野永:日本の地方で、茄子を使ったなんちゃって鰻丼を作ってるところがあるよね。日本人ってどんな危機が来ても工夫で立ち向かって解決するっていうのが得意な気がする。

―確かにこれまでも日本は食材のピンチを工夫で乗り切ってきたり、歴史的にも江戸時代は循環型社会のお手本のようだったと聞きます。今回のような取り組みを日本橋の街でやる意義はどんなところにあると思いますか?

野永:例えば日本橋には鰹節で有名なにんべんさんがあるし、乾物屋も多いじゃないですか。鰹節は常温で長期保存できる食材ですよね。今回僕が使ったコオロギも、粉末にすると常温でもつんです。冷蔵庫に入れなくていいから電気も必要なくて、高たんぱくな食材。その点でコオロギと鰹節って似てますよね。それに、大豆を粉末にして乾燥させたきな粉などは、今回使った野菜パウダーに近い発想な気がします。日本で食べ物を日持ちさせるために施されてきた調理法は、干すか、甘くするか、しょっぱくするか。その中でも干したものって一番エコなんです。コオロギとか野菜パウダーはその最新型って言っていい。

つまり、もともと江戸時代から日本橋に根付いていた文化や知恵が、技術の進歩とともにアップデートされて「フードテック」になっていると思うんですよね。日本橋とフードテックには親和性があるということも、今回発信できたら良いなと思います。

―これから「未来の食」について、日本橋でやってみたいことはありますか?

野永:宇宙食!僕、コオロギの研究で有名な徳島大学とつながりがあるんですが、徳島大学では宇宙食の開発もやってるんですよ。そのアドバイザーに入れてもらいたくてずっと交渉を続けてるくらい(笑)、気になってますね。宇宙食ってフリーズドライにしないといけないでしょ?だからさっきの乾燥粉末の話とも繋がるなと思って。

鴛尾:そういえば僕、一回宇宙食の缶詰にするので鰻を分けてほしいって言われたことがあります。そんなこともできるのかと思って驚きましたが、宇宙食こそフードテックの延長上にある話なんですよね。

―日本橋の食が世界どころか宇宙に羽ばたいてしまうかもしれないですね。

野永:次の仕事は宇宙だな(笑)!

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今回の対談の会場となった蛇の市本店

―最後に、今回の「つながる未来弁当」をどんな人に食べてもらいたいか、どんなメッセージを伝えていきたいか教えてください。

寳井:サーキュラーフードとか代替食って、聞いた瞬間に「美味しそう!」というイメージは持たれにくいものだと思うんですよね。だから今回は『あ、こんなに美味しく食べられるものなんだ』って思ってもらうことを目標に作りました。大人だけじゃなく、お子さんにも食べてみてほしいです。子供の頃からこういうものに親しんでいれば、コオロギが食べられる大人になるかもしれないし。

野永:その通り。素直に「わあ綺麗、美味しそう」と思ってもらいたいです。料理ってまず五感から入るじゃないですか。それで食べてみて「これは何だろう?』と思ったら興味を持ってもらいたい。お弁当という身近な形にしたことも、サーキュラーフードや代替食について知ってもらうにはいいアプローチかな、と。あとはフードテックに興味がある飲食店業界の人や、食品業者の人にぜひとも食べてほしい。僕ら専門職が考えた新しい可能性を味わってもらって、ぜひとも一緒に未来の食を切り拓くお仕事をしましょう!

<「つながる未来弁当」はSAKURA FES NIHONBASHI 2022にて4/2(土)・3(日)、コレド室町テラス大屋根広場にて数量限定販売します!詳しくはウェブサイトをご確認ください。>

https://www.nihonbashi-sakurafes.art/

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