Interview
2023.10.13

特産品を売るだけじゃない。アンテナショップ「離島百貨店」が伝える島々の魅力と、課題へのアイデア

特産品を売るだけじゃない。アンテナショップ「離島百貨店」が伝える島々の魅力と、課題へのアイデア

JR新日本橋駅/東京メトロ三越前駅の地下通路から直結するアンテナショップ「離島百貨店」。ガラス張りの店内には、日本各地の離島から集められた特産品が並び、観光のPRポスターや伝統工芸品が所狭しと飾られています。ただ特産品を売るだけでなく、地方創生の大切な足がかりとしても機能しているこのお店。ショップ運営を中心とした活動の内容や、向き合っている課題について、一般社団法人 離島百貨店の島シェア事業部部長・小池岬さんにお話を伺いました。

お店が目指すのは「関係人口」を増やすこと

ーまずは離島百貨店がどういうお店なのかの紹介をお願いします。

全国の離島の商品を扱うアンテナショップです。店内は5つのゾーンに分かれており、離島の特産品を販売しているところが離島マーケット、飲食を提供する場所が離島キッチン(現在はセルフカフェとして営業)。島の食材を使ったメニューや加工商品を開発していく時のテストキッチンとして機能する離島ラボ。そして各地のパンフレットやテーブル席がある場所は離島サロンとして、各地自体や観光協会のPRに使っていただいたり、離島出身の方と都市部の人が交流できるイベントなどに使用しています。また、店外の空間は離島テラスと呼んでいて、不定期で即売会を開催したり、プロジェクターを備えているので離島と生中継を繋いで交流するイベントなども実施しています。
お店の目的は、離島に関する”関係人口”を増やすこと。定住人口(移住)や交流人口(観光)ではない、第三の関わり方をしてくれる人と交流する場所として機能することを目指しています。

ー離島の食材を使った離島キッチン(現在一時休止中)については、どんなことを狙いにしているのでしょうか?

離島キッチンは元々島根県の海士町が2009年に始めたプロジェクトでした。当初は店舗は持たず、キッチンカーであちこちを回り、地元産の食材を使ったフードを通して海士町を知ってもらおうという活動でした。離島で採れた海産物や農産物を島外で売るにあたって、最初は食材の状態で送ってもらってこちらで調理・加工した方が生産者にとってもハードルが低いんです。あと、パッケージされた商品よりも飲食として提供した方が価格に納得感が出やすいし、付加価値がつきやすい。なので離島百貨店という店舗ができてからも、飲食を併設した形でやっています。

今後の目標としては、ここで提供したメニューにお客様から一定の評価が得られたら、今度はそれを島の方にフィードバックして、加工商品の開発に活かせればと思っています。調理加工の部分も島でやってもらえればこちらとしても商品をより高く買い取ることができるし、島に雇用が創出できるというメリットもあります。例えば離島キッチンで提供していた漬け丼は、島で獲れた魚を漬けにして冷凍するところまで加工し、送られてきたものをこちらで解凍・調理して提供するという形をとっていたので、そういう事例が増やせると良いです。離島キッチンは現在新メニューの開発や調整を行なっているところで、近日中に再開予定です。

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乾物やお茶、調味料、お菓子、冷蔵のスイーツなどが揃うマーケット。購入したものは店内外に設置されたセルフカフェですぐ味わうことができる

ー小池さんご自身も離島出身とのことですが、このお仕事をするに至ったきっかけをお聞きできますか?

僕は保育園〜中学校時代まで伊豆大島で過ごしました。小さな島なので、通っていた中学は部活動が野球部、バレー部、文化部の3つしかなく、僕はバスケがやりたかったんですができなかったんですよね。そういう選択肢の少ない環境がちょっと嫌だなという気持ちを持ち始めていた時に、先輩が島外の高専に進学するという話を聞き、そういう選択肢があることが初めて知って、高校に上がる時に島を出て進学する道を選びました。

その後大学生になり、就活をしている時に祖父が亡くなったので、葬式のために島に戻ったんです。祖父は観光協会の役職や議員をやっていたのもあって、すごくたくさんの人が来てくれて。祖父が地元のために精力的に活動していたことを感じ、またいろんな方に『お前もがんばれよ』と期待の言葉をかけられて、それが島=自分の地元について考えるきっかけになりました。

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小池さんの伊豆大島での少年時代

その後、新卒で企業の福利厚生サービスを提供する会社に就職しました。福利厚生としてホテルなどにユーザーを集客する役割があるので、島に人を呼び込む導線や、観光客を増やす方法の勉強になるだろうと思ったんです。でもある時、居酒屋チェーンの社長とお話しする機会があって。その居酒屋チェーンでは契約農家からその年に出荷できる鶏を全て買い取るそうなんですね。だから店舗が増えると農場が増えて、農場が増えると雇用も増え、その地域の産業として成長していく。その話を聞いて、島のものを外に出すことの重要性が理解できました。外に出せばより多くの人に目に触れる機会があって、食を通して島のことを知ってもらい、「こんなものがあるんだったら行ってみたいな」と思ってもらえる。直接的に誘客するよりも、まず島の魅力を上げていくには島の産物を外に出すことが有効なのかな、と考えるようになりました。それで伊豆大島の産物のPRをやっているところがないかなと思ったら、離島百貨店がすでに全国規模でやっていたので、お話を聞きたいですと伝えたら「一緒にやりませんか」と声をかけてもらい、転職して今に至ります。

ーなるほど。一度は離れた島ですが、地元のために何かしたいという気持ちで活動を続けてきたのですね。

ただ、自分は島にいたのが中学生までで、島で働いたこともないし住んでいるわけでもないので、今の実情というのは全然わからない。なので最初は島のためにという気持ちもちょっとあったんですけど、現在は離島や日本の地方のための仕組みを整えて、やり方を再構築していくのがすごく面白いなと思いながら仕事をしているという感じです。実家に帰ろうかな、とかちょっと迷ったりもしますけど。

全国各地のアンテナショップが集まる街、日本橋

ー離島百貨店が日本橋にオープンすることになった経緯を教えてください。

ご縁があって紹介いただいたのがきっかけです。日本橋といえば日本の真ん中で、網目状に全国へ広がる道の出発点なので、情報を発信するには一番いい土地柄だと思い、すぐにここに決めました。

ー来店されるお客さんはどんな方が多いですか?

三越前駅からすぐということで、三越の紙袋を手に立ち寄っていかれる方は多いですね。また、日本橋は他の都道府県のアンテナショップも多い街ですし、他県のアンテナショップと合わせて2つ、3つとお店巡りをされている方もいます。たまに離島出身の方もいらっしゃいますよ。

ー食品からコスメ、雑貨までいろいろありますが、どんな商品が人気ですか?

他のアンテナショップではお菓子などが売れ筋というデータがあるのですが、離島百貨店は調味料や乾物がよく売れています。離島から個人で取り寄せるとなると送料がかかってしまいますが、離島百貨店で買うと送料の節約になるので、お気に入りの商品をまとめ買いしていかれるお客様もいますよ。

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サロンにはそれぞれの離島の魅力や見どころを伝えるパンフレットが数十種類並べられており、各地の情報を一度に集められる

ー店内に置かれている各島のパンフレットもすごい種類がありますよね。

旅行代理店に行ってもこれだけ離島のパンフレットが揃っているところはないと思います。もし興味がある、行ってみたいと思う島があれば、パンフレットをもらうだけでもお気軽に立ち寄っていただければと思います。

コロナ禍で働き方が多様化した今、離島への注目度は上がっている

ーワクワクするお店ですが、離島百貨店ではモノを売る以外にも離島を活性化させるためのさまざまな活動をされているとのこと。小池さんから見て、現在の離島が抱える課題とはどんなことが挙げられますか?

人手不足ですね。例えば塩を生産している方からは、もっと生産量を増やして欲しいと言われるけれども、人手不足でこれ以上は作れないという話を聞いています。また、これは僕も実際に行って見てきたのですが、鹿児島県の十島村という離島があって、果樹の収穫の人手が足りていない。島には琵琶の木や柑橘類の畑があって、収穫すれば商品にできるレベルの実がなっているのに、人手不足のためほったらかしになっているんです。もちろんそれらを離島から都市部に運んで売るというハードルや販路の問題もあるんですけど、それ以前に収穫できる人がいないという問題がまずあります。

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雄大で美しい風景が広がる離島。写真は新潟県・粟島。(画像提供:離島百貨店)

ーそうなると観光客ではなく、働き手の確保が必要になってきますね。

ただ、島の仕事って季節労働が多いんです。春と秋だけ忙しく、冬は仕事がないとか。僕の実家も民宿をやっているのですが、忙しくなる夏の間だけ働きに来てくれる方を雇ったり、逆に閑散期には母親が温泉の清掃の仕事に行ったりもしていました。1年通して働ける仕事には公務員や医療、教育系もありますが、そちらの方も人手は足りてない。ただ、さまざまな課題があるからこそ、遠隔医療とか最新技術を導入して解決するという試みの場にもなれるし、何十年か先の日本の未来が島で起きているというのは逆に先進的というか、結構面白いなとも思っています。

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自身も伊豆大島ご出身の小池さん。背後の棚には全国各地の離島のPRパンフレットがずらりと並ぶ

ーコロナ禍を経てリモートワーク化が進み、地方移住や二拠点化というライフスタイルの変化も起きています。これに伴って離島への注目度も上がったのでは?

コロナ禍以前からワーケーションや複業への関心の高まりは感じていました。一度パートナーさんと「離島×旅×複業」というイベントをやった時はかなりの反響があったんですよ。さらにここ数年でリモートワークや二拠点化というワードも出てきて、全体的な関心の高まりは感じます。
ただ、仕事で訪れていただくのはとても嬉しいのですが、こちらとしては離島に行って良い景色の中でパソコンを使って仕事をする、というだけでは終わってほしくないという思いもあって。それだと仕事する場所を変えただけだし、離島側にとっては観光客と同じなんです。さっきも言った通り離島はどこも人手不足で、季節によって繁忙期/閑散期があります。せっかく場所や時間に囚われない働き方ができる方が島に来てくれたのなら、ぜひ離島の足りない部分を補うような仕事もしてもらえると、都会ではなかなかできない体験も提供できますし、お互いのニーズが補完できるのかなと思います。

ー具体的にはどんな事例があるのでしょうか?

たとえば島根県・隠岐諸島のうち、隠岐島前地域(海士町、西ノ島町、知夫村)では、 「大人の島留学プロジェクト」と称して、全国各地の若者たちが島に滞在しながら働くことができる機会を提供しています。形としてはワーキングホリデーに似ていて、島に滞在しながら島の仕事をしてもらい、それ以外の時間は観光やリモートワークに充てられるという働き方です。

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漁業が盛んな離島では、日々新鮮な魚が手に入るのも魅力(画像提供:離島百貨店)

離島を企業の「第二のふるさと」にしてほしい

ー今後、日本橋を舞台にこんなことがしてみたい、こんなお店/企業とコラボしたいというヴィジョンはありますか?

販路の拡大という点では、小売先のお店や物産展への参加ですね。生産者の方々は物産展に出る気はすごくあるんですけど、それぞれの島だけでは集客が難しいので、その島がある県の物産展に出たり、または離島物産展として開催しています。もしも離島の特産品に興味がある百貨店さんや小売店さんがいたらぜひお声がけください。

ー離島マーケットにはお酒の品揃えも日本酒からクラフトビールまで豊富ですし、ドリンクメニューに加えたいという日本橋の飲食店もありそうですね。

離島の食材やお酒などをお店で使いたいという場合もぜひご相談ください。離島サロンでのサンプル試食・試飲や商談もできます。離島百貨店は独自の倉庫を持っているのでロット数関係なく注文できますし、現地の生産者との橋渡しまで対応いたします。

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各地の離島で造られたレアなお酒がずらり。個性豊かなラベルデザインは眺めているだけで楽しくなる

ー特産品はもちろん、先ほどお話しいただいたワーケーションという側面からもコラボの可能性はありそうです。

そうですね。離島百貨店としては、離島を企業にとって第二のふるさとにしませんか、というご提案も続けています。先ほど隠岐島前地域の「大人の島留学」についてお話ししましたが、興味のある企業様にはモニターツアーとして参加してもらい、地域と交流が可能です。交流が深まれば、福利厚生や研修、チーム合宿だけでなく新規事業の開発のチャンスも生まれてくると思います。

東京のオフィスでずっと一つのことだけやっていると視野も狭くなりがちですから、環境を変えて、島の人と交流しながら新しい視点を広げられるような研修場所として来てもらって、島に対する愛着を持ってもらえたらいいですね。そのための提案やお手伝いをしますので、興味がある企業様はぜひご連絡ください。

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離島百貨店では法人用のギフト開発もおこなっている。特産品の詰め合わせをカスタムすることも可能で、BtoB用のギフトとして提案中。

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