目指したのは「肉もどき」ではなく「新しい食材」。フードテックベンチャーTastableが挑むプラントベースミートと食の未来。
目指したのは「肉もどき」ではなく「新しい食材」。フードテックベンチャーTastableが挑むプラントベースミートと食の未来。
日本橋は多くの飲食店や食材店、そしてフードテックのベンチャー企業が集まる「食の街」です。中でも環境問題への意識や健康志向の高まりでますます注目される代替肉の分野に、技術と美味しさで挑むのが2021年創業のTastable(テイスタブル)です。日本の食文化を変えていく可能性を秘めたプラントベースミートの課題と未来について、代表取締役社長の山中昭浩さんにお話を伺いました。
世の中の「代替肉=おいしくない」というイメージを覆したい
ーTastableとはどんな事業をしている会社なのか、自己紹介をお願いします。
Tastableは2021年9月に創業したフードテックの会社で、動物性の原料を使わないプラントベースミートを作っている会社です。親会社であるユニテックフーズの関連会社としてスタートしました。ユニテックフーズは食品添加物の中でもゼラチンやペクチンといった増粘剤を扱う会社です。増粘剤とは食品の食感を作る添加物で、とろみをつけたり固めたりするもの。プリンやグミの食感を決めるものと思っていただくとイメージしやすいかと思います。この増粘剤はプラントベース食品の食感作りに非常に大きく寄与するものなので、これらの技術を使って今までにない、より新しいコンセプトを持った商品を作っていこうということで、Tastableを立ち上げました。
ー会社の一部門として設立したのではなく、別会社として始動されたんですね。
はい。ユニテックフーズはB to Bで食品の原料の会社であるのに対し、Tastableの商品はB to Cで一般の方にも手にとっていただけます。また、増粘剤の技術を使った全く新しい最終商品を何としても世に広めるという思いも込めて別会社としたという経緯もあります。TastableはSDGsの方針をしっかりと掲げながら、プラントベース食品を“美味しい食品”としてこれからの世の中に提供し続けていくことを目標にしているんです。
「NIKUVEGEを食べていただければ、プラントベースミートはこんなに進化しているとわかっていただけると思います」と語る山中さん
ー主力商品であるプラントベースミート「NIKUVEGE(ニクベジ)」はどんなことにこだわって開発されたのでしょうか?
香り、風味、食感。この3つが我々の商品と他社の商品を差別化するポイントだと考えています。新しい商品というのは、美味しくなければやはり消費者が食べ続けられません。NIKUVEGEはとにかく美味しさにこだわり、他にはない品質を追求しました。まず香りは皆さんが食品を口にする時、最初に気にするところかと思います。醤油の香ばしい香りやBBQの食材が焼ける香りって、嗅ぐだけで美味しさを連想しますよね。なので少し炭火の香りをつけて、美味しいイメージを演出しています。それから風味については、やっぱり人間は食べ慣れた味を美味しく感じるんですね。NIKUVEGEは日本製のプラントベース食品ということで昆布やきのこの旨み、出汁の味を使って仕上げています。プラントベースミートってハンバーグなどの洋食に使われることが多いんですけど、NIKUVEGEは和食にも使える味です。そして食感には、親会社であるユニテックフーズの増粘剤の技術を活かしました。プラントベースミートはパサパサした食感になりがちですが、NIKUVEGEは様々な増粘剤を組み合わせることでジューシーな食感を実現しています。
ー私も実際にNIKUVEGEブランドのハンバーグをいただきましたが、想像以上に美味しくて、これは日常的に取り入れられる味だと感じました。
プラントベースミートってなんとなく美味しくない、満足感がないというイメージを持っている方がまだまだ多いのですが、それって実は代替肉が注目され始めた頃のあまりクオリティの高くない大豆ミートが主流だった頃の話。でもNIKUVEGEはそのイメージを払拭できる自信作です。出始めの頃の大豆ミートとは違う、もっと美味しいものだということを知っていただきたいですね。
ネットからも購入できるNIKUVEGEの冷凍ハンバーグ。60g×2個入りで(税込み)398円と、価格感も手頃
ー動物肉に近づくように再現性を研究されているのでしょうか?
実は完全再現を目指しているわけではありません。もちろんお肉が好きな人も食べられる味にはしていますが、動物肉と戦うのではなく、新しいジャンルの食材になれたらと思っています。理想とするのはカニカマのような存在です。カニカマって本物の蟹の身ではないとみんな知っているけれど、今や広く受け入れられている食材ですよね。そのまま食べるのはもちろん天ぷらやサラダといった料理にも使われるし、進化したものがたくさん売られている。我々が狙っている市場はあのイメージに近いです。
一般の消費者が楽しみながら、継続して食べられることを目指して
ープラントベースミートを手がける会社は他にも多数存在しますが、業界の現状と課題についてはどのように感じていますか?
業界そのものはまだ黎明期にあります。トレンドとしてスタートしてしまったために、消費者がプラントベースミートを食べる意義の周知というのがまだまだできていないのが現状じゃないでしょうか。これはメーカー側の責任でもあると思っていまして、出始めの頃に各社が代替肉のソーセージやナゲットを発売したものの、パサパサであまり美味しくない上に値段も本当のお肉とあまり変わらなかった。もっとヴィーガンの人口が増えたり、需要に対して動物性のタンパク質の供給が追いつかなくなれば話は変わってくると思いますが、まだ普通にお肉は買えますよね。そんな状況で、皆さんプラントベースミートを食べる楽しさや意義を見つけきれていないのです。
なので今一番の課題は、消費者の関心作り。ヴィーガンの方はこちらが宣伝しなくても見つけて食べてくれると思いますが、お肉も好む一般の消費者に手に取ってもらうには、食べる時の楽しさやワクワク感を作っていく必要があると思います。
ー山中さんご自身はプラントベースミートをどのように食生活に取り入れていらっしゃいますか?
前の日にちょっと食べ過ぎてしまった時や、休日の食事で一品作るのが面倒な時に食べています。NIKUVEGEの基本商品はレンジ調理OKなので手軽に食べられますし、胃もたれしにくいんです。また、植物性というところから食物繊維の豊富さや低カロリーを期待するニーズもありそうなので、現在そういった商品も開発中です。
ーTastableは親会社であるユニテックフーズの本社が日本橋にある関係で日本橋にオフィスを構えていますが、山中さんが思う日本橋の魅力とは?
私にとって一番の魅力は、都心のど真ん中ってことですね。東京駅からもすぐですし、あらゆる場所からのアクセスが非常に良いので、お客さんにも足を運んでいただきやすい。弊社オフィスの中にはプラントベースミートを開発するラボもあるのですが、都心の真ん中でこういう施設を持ち、お客さんにすぐ試食もしていただける環境を持っているというのは一番大きなメリットだと思います。
日本橋本町にあるラボ。ここで新商品の研究開発が行われている
ー日本橋にはTastable以外にもフードテック企業が多く集まっていますが、横の繋がりはあるのでしょうか?
日本橋のフードテック企業とは残念ながらまだコラボできていませんが、SnapDishという料理レシピのアプリがあって、Tastableも「NIKUVEGE」として公式アカウントを開設し、NIKUVEGEを使ったレシピを公開しています。こちらのアプリでは「2030年までに大豆ミートを食べたことがある人を100%にしよう」というイベントも開催していて、プラントベースミートを販売している企業が参加し一緒に普及活動をしています。ただ、開発面での協業などはまだ道半ばといった状況です。
また我々はこれまでB to Bという側面が強かったんですが、企業同士の繋がりだけでなく、これからはもっとB to Cにも参画していかないとと考えているので、一般消費者の方々と繋がる機会を求めています。
snapdishより
ーこれまでにも日本橋ではプラントベースミートやサーキュラーフードの普及を目的としたイベントが多数開催されているので、一般の消費者にアピールする機会もありそうですね。
(関連記事:名店の料理人たちが“次世代の食材”と出会う。 「つながる未来弁当」開発の舞台裏。 https://www.bridgine.com/2022/03/30/mirai-bento/)
そうしたイベントには積極的に参加したいですね。一般の方が日常的に買える場所を確保していくのは非常に大事だと思っています。興味はあるけどどこで買えるのかを知らない方もまだまだ多いし、「ここに行けば買える、食べられる」という常設の場を持つことが普及には欠かせません。
ー今回、この記事を読んでNIKUVEGEを食べてみたいと思った方はどうすれば体験することができますか?
Tastableの公式サイトからオンラインショップ経由で一般の方でも購入いただけます。また、レストランチェーンのロイヤルホストでレギュラーメニューになっている「NIKUVEGE タイ風スパイシーライスプレート」は、TastableのNIKUVEGEのひき肉タイプを使用していますので、お近くにお店がある方はぜひお試しください。12月からは不定期ではありますが、ラボの前でお弁当の販売も予定しています。
日本だけでなく東南アジアのマーケットにも広がる代替肉の可能性
ー今後、NIKUVEGEというブランドをさらにどのように発展させていきたいと考えていますか?
今はまだ過渡期にある食材で、劇的に安く加工できるものでもないので、安く売ることを目的とした「お肉もどき」ではなく、お肉と同じくらいの価値を持った新しい食材として打ち出していく方がいいと思っています。最終的にはスーパーにまで届けたいと思っていますが、いきなりスーパーに置いてもなかなか消費は伸びていかないだろうということで、まずは外食産業やホテルなどでの展開を通じて一般消費者に認知いただいた後、スーパー等の身近な小売店に切り込んでいけたらと思います。
NIKUVEGEのキャラクター・。美味しそうに何かを頬張っていて、頭にはステーキにも大豆にも見える帽子を被っている。(画像提供:Tastable)
ー2023年は海外にも進出しています。
今、東南アジアに足場を作っていて、タイ、シンガポールで事業に取り組んでいます。タイでは現地でNIKUVEGEの原料の調達から生産までをできる体制を整えています。またシンガポールは人口が少なく食料自給率も低いので、新しい食に対する心理的障壁が低いというか、受け入れられやすいという土壌がありますね。なのでそういった国で最初にNIKUVEGEを普及し周辺国へ広げていくというやり方を考えています。
ー日本橋でコラボしたい相手や協業したい企業などはありますか?
日本橋の飲食店の方にお店でNIKUVEGEを使った料理を提供してもらったり、メニュー開発をしていただくというのはまさにやりたいことの一つですね。また、デパートの食品フロアに日本橋のフードテック企業が手がけた商品が買える常設の売り場があったらいいな、と思います。これまで期間限定のイベントでは販売されたことはありますが、常時買える状態を作るというのは、プラントベースフードが定着するためにはとても重要なことだと思うので。
ー日本橋はインバウンド客も増加していますし、ベジタリアンやヴィーガンメニューのニーズもありそうですよね。
海外の方がイメージする和食というとやはりお寿司なので、NIKUVEGEを使った高級感のあるお寿司なんかを出せたら面白いですね。それから、インバウンド向けにレストランメニューにプラントベースミートを導入したいと考えているホテルが多いというのは我々も把握していますが、多様な選択肢をメニューに盛り込むという意味では社食のメニューに導入していただくのも良いと思います。ぜひお気軽にご相談いただきたいですね。
Soup Stock Tokyo
日本橋のフードテックを推進する試みとして、Soup Stock Tokyoさんとのコラボが実現したら良いなと思っています。Soup Stock Tokyoさんはベジタリアンメニューも提供していますし、食材に対する意識も高いイメージがあります。タンパク源としてNIKUVEGEのそぼろをトッピングしたスープなんかを提供できたら良いですね。
鰻専門店・近三
ユニテックフーズの近くにある鰻専門店の近三さんは、お客さんをお連れするといつも喜ばれます。ほかにもコレド日本橋に入っているフレンチのポンドール イノさんや、もう少しカジュアルに楽しむならビストロ ラ プッペさん。人形町は他にもシェ・アンドレ・ドゥ・サクレクールなど、手頃で美味しいお店がたくさんあるイメージです。(画像:近三 公式サイトより)
Tastable
2021年に日本橋にて創業したフードテック企業。100%植物性原料を使ったプラントベースミート「NIKUVEGE」を主力商品とし、そぼろやハンバーグ、パティ、プチバーグ入りココナッツカレーなどの食品を展開している。NIKUVEGEの商品は一般の消費者でも通信販売で購入可能。